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学術向けにデータを無償提供、研究者が提案するオリコン顧客満足度調査データの活用アイデアとは〜JASMAC「データ解析コンペティション」レポート

学術向けにデータを無償提供、研究者が提案するオリコン顧客満足度調査データの活用アイデアとは〜JASMAC「データ解析コンペティション」レポート

 oricon MEが展開するオリコン顧客満足度調査は、2006年8月のサービス開始から今年で15周年を迎えます。当社では、第三者の立場で各種サービスの利用者にアンケートを実施。回答をもとに「顧客満足度ランキング」の発表および、法人向けに「調査データ・分析レポート」の提供を行うことで、社会における暮らしの満足度を高めたいと考えてきました。2019年6月からは、学術利用を目的とした調査データの無償提供を開始。延べ261万人に調査した(2021年3月時点)膨大な消費者データをご活用いただくことで、新たな技術やビジネスの創出、文化・技術の発展のアシストが少しでもできればという思いです。

>オリコン顧客満足度調査の理念・目的について、詳しくはこちら

 そうしたなか、今回新たな取り組みとして、経営科学ならびにマーケティング・サイエンス研究の興隆を目指した団体・経営科学系研究部会連合協議会(以下、JASMAC)(外部リンク)が主催する『令和2年度 データ解析コンペティション』にデータ提供で参画させていただきました。昨年8月に応募参加者たちによって研究がスタートし、約半年を経て、3月15日に選抜された研究チームによる成果報告会がオンライン形式で執り行われました。オリコン顧客満足度の調査データを基にどのような研究が行われ、どのような気づきが得られたのか? ここでは、報告会の様子をレポートしていきます。

民間企業がデータを提供、開催は今回で27度目

学術研究のイメージ画像

 JASMACは、国内の学会・学術団体のうち、経営科学およびマーケティングに関する11の学術団体から構成された組織。それぞれの研究者やチームの交流の場、産学連携のプラットフォームとして振興に寄与しています。JASMACの活動のなかでも一大イベントとなるのが、この『データ解析コンペティション』。「共通の実データを元に、参加者が分析を競う」ことを目的に、1994年にスタートした歴史あるデータコンペです。

 提供されるデータは、主に民間企業協力によるもので、POSデータのような取引データや生活者の意識調査結果など、毎年さまざま。たとえば、令和元年度はみずほ情報総研から都内タクシープローブに関するデータ、平成30年度はビデオリサーチからテレビ視聴・メディア接触に関する調査データが提供されています。今回当社からは、国立情報学研究所(外部リンク)のデータセット共同利用事業「情報学研究データリポジトリ」(外部リンク)を通して無償提供している全11ジャンル88業種の調査データに加え、「テーマパーク」「映画館」「家電量販店」など、昨年初めて行った調査をプラスした全210のデータセットを提供しました。

 27度目の開催となる今回は、約550名、81チームが参加。そのうち、選抜された12チームが3月15日の成果報告会でプレゼンテーションを行いました。当日は、JASMAC代表の早稲田大学教授 守口剛氏をはじめ各研究部会の幹事を務めるメンバーに、当社オリコン顧客満足度調査 事業本部長の庄司知も加わり、全13名が研究結果について審査し、「最優秀賞」1チーム、「優秀賞」2チーム、加えて、共催の日本ソーシャルデータサイエンス学会による「研究奨励賞」1チームが選ばれ、表彰されました。なお、評価は学術・ビジネスでの新規性、学術・ビジネス視点での有効性の有無、プレゼンテーションの質の観点から行われています。

例年は対面式で行っている成果報告会ですが、今年は新型コロナウイルス感染拡大予防のためオンラインでの開催となりました(写真は、オンライン開催の様子)

例年は対面式で行っている成果報告会ですが、今年は新型コロナウイルス感染拡大予防のためオンラインでの開催となりました(写真は、オンライン開催の様子)

表彰された4チームの研究内容を紹介

 さて、ここからは、具体的に研究成果について見ていくことにしましょう。今回は、12チームの研究発表の中から、表彰された4チームの研究について、ご紹介したいと思います。専門的な話のため、親しみがない方にとってはチンプンカンプンな内容かと思いますので、ここでは主に研究テーマや目的に焦点を当てて解説したいと思います。オリコン顧客満足度の調査データを基に、どのような創造ができそうなのか?を少しでもご理解いただけると幸いです。

顧客満足度を「予測」することで、オリコン顧客満足度のコンサルティング事業を支援する

最優秀賞に選ばれたチーム・中田総研 (Jacobian)の発表資料より

最優秀賞に選ばれたチーム・中田総研 (Jacobian)の発表資料より

最優秀賞
●チーム名:中田総研 (Jacobian)
●研究メンバー:中田和秀、馬嶋海斗、清原明加(以上、東京工業大学)、岩田真奈、倉又迪哉、近藤謙将、渡邊彰久(以上、東京工業大学大学院)
●研究テーマ:CGA2M+を用いた顧客満足度予測によるコンサルティング支援
●使用データ:オリコン顧客満足度「カフェ」の調査データ

●研究背景・目的:
 オリコン顧客満足度調査では、顧客満足度ランキングの作成のほか、アンケート・マーケティングデータを活用し、BtoB向けにコンサルティング事業(調査データ・分析レポートの提供)を展開している。現状の分析レポートでは、「企業の市場における立ち位置」や「各企業の改善ポイント」等を提示しているが、今回の研究ではこれらの分析を「補助・高度化するモデル」を構築。調査によって得た企業情報と顧客情報から、満足度を予測するモデルを提案・用いることで、オリコンのコンサルティング事業を支援する。

●予測モデルを活用することでできるようになること:
(1)企業の評価向上のためのアドバイス
 →たとえば…店舗の清潔感を向上させることが顧客満足の向上に効果的です…といったアドバイスができる。

(2)企業がターゲットとすべき顧客の提示
 →たとえば…店舗の雰囲気を重視する30代女性が御社を高評価する傾向にあります…といったアドバイスができる。

●研究の手法/ポイント:
 提案するモデルは、企業情報と顧客情報の関数として、ある顧客が特定の企業を利用する際の総合満足度を予測するもの。(1)(2)のような活用を行うためには、解釈性と予測精度が両立した予測モデルが必要であり、そのために解釈性、予測精度ともに高水準であるGA2Mをベースに構築した「CGA2M+」という予測モデルを提案する。

調査データを活用し「適切なアンケート集計を行うため」の新しいアンケート分析手法を提案する

優秀賞に選ばれたチーム・ブラックサンド+の発表資料より

優秀賞に選ばれたチーム・ブラックサンド+の発表資料より

優秀賞
●チーム名:ブラックサンド+
●研究メンバー:白井康之(大東文化大学)、森田裕之(大阪府立大学)、後藤裕介(岩手県立大学)、河合亜矢子(学習院大学)
●研究テーマ:Satisficeの発生を考慮した信頼性評価に基づくアンケート分析手法の提案
●使用データ:オリコン顧客満足度「カフェ」「エステ」「フィットネスクラブ」「カラオケ」の調査データ

●研究背景・目的:
 アンケートやランク評価の問題点として、意図的に評価をゆがめる回答者や明確な根拠を持たない回答者が存在することが指摘されている。このようなノイズの含まれるデータから、信頼性の大小をどのようにして考慮し、適切な集計を行うべきか? そこで、回答者に対する定量的な信頼度、評価項目に対する定量的な信頼度を求め、それに基づいて信頼度に応じた「新しいアンケート分析手法」を提案する。

●研究の手法/ポイント:
 回答者と質問項目の両方の信頼度について、信頼できない回答をしている(=Satisficeが発生している)回答者をもとに数値化。そして、「カフェ」「エステ」「フィットネスクラブ」「カラオケ」の4つのサービスを対象として信用度評価を行い、得られた信頼度に基づいてアンケート項目を再評価する。

オリコン顧客満足度の調査データを活用し、最適な“企業間コラボ”を提案する

優秀賞に選ばれたチーム・中田総研 (Hessian)の発表資料より

優秀賞に選ばれたチーム・中田総研 (Hessian)の発表資料より

優秀賞
●チーム名:中田総研 (Hessian)
●研究メンバー:中田和秀、星野雄毅、梅津大雅(以上、東京工業大学)、松井諒生、石塚湖太、石川洸矢(以上、東京工業大学大学院)
●研究テーマ:業種横断的な断層ベイズを用いた企業間コラボレーションの推薦
●使用データ:オリコン顧客満足度「テーマパーク」「カフェ」「映画館」などの調査データ

●研究背景・目的:
 オリコン顧客満足度調査は、収集したアンケートデータを活かし、対象企業へ分析レポートを提供し、コンサルティングを行うビジネスにも力を入れている。ただし、オリコン顧客満足度調査のデータは、業種単体、個別での活用に留まっており、まだデータの価値を十分に発揮しきれていないのではないかと考えている。複数の業種のデータを組み合わせることで価値を創出することができれば、2次、3次とより大きな事業効果が得られるポテンシャルを秘めている。

 一方、世間ではさまざまなビジネスにおいて、「ビックカメラ×ユニクロ」「くら寿司×鬼滅の刃」など、異業種企業間におけるコラボレーションが活発。そこで、オリコン顧客満足度調査が保有する多種多様なデータを用いて、業種を超えた企業同士の相性を定量化し、コラボレーションを推薦する。

●研究の手法/ポイント:
 各企業について任意の顧客層を入力した場合のスコアリングモデルを構築することで、コラボレーションの効果を測定し、その企業にとって有意義なコラボレーションができると考えられる別の企業を推薦する。方針としては、オリコンの調査データを基にして「顧客の属性項・業種を含む階層付き」の階層ベイズモデルを作成。各企業の顧客層の親和性をモデルよりスコアリングして、似た顧客層を持つ他業種企業を推薦することで、他業種間コラボの最大化をサポートする。

「再利用意向」「他者推奨意向」に目を向けた戦略策定の重要性を提示

研究奨励賞に選ばれたチーム・ADSL-R2の発表資料より

研究奨励賞に選ばれたチーム・ADSL-R2の発表資料より

研究奨励賞 ※共催の日本ソーシャルデータサイエンス学会から授与
●チーム名:ADSL-R2
●研究メンバー:南弘征、水田正弘、石本翔真、我田健介(すべて北海道大学)
●研究テーマ:適応的指標モデルによる顧客満足度要因の分析
●使用データ:オリコン顧客満足度「ホテル」「カフェ」「カラオケボックス」「家電量販店」「ドラッグストア」の調査データ

●研究背景・目的:
 顧客満足度とそこから派生する再利用意向、他社推奨意向はマーケティング施策を打ち出すうえで非常に重要な指標になる。そこで、3つの指標の関連性とそれにつながる要因を適応的指標モデルと構造方程式モデリングによって導き、解釈性の高い結果を示す。

●研究の手法/ポイント:
「適用的指標モデル」を使い、どのようなサービスが何点以上であれば満足度が高いといったルールを発見。加えて「構造方程式モデル」を利用することで、各種サービスと顧客満足度、再利用意向、他者推奨意向の関係性をわかりやすい「パス図」の形で表現した。この手法を基にして、「ホテル」「カフェ」「カラオケボックス」「家電量販店」「ドラッグストア」の5つの業界でのサービスや満足度の関係性の違い、共通性を分析した。

講評では「分析手法で工夫が見られた」「多方からのアプローチがあった」との声が

オンライン上で行われた表彰式の様子

オンライン上で行われた表彰式の様子

 今回の全体的な研究の方向性については、「回答者の選択のバイアスや回答の質、アンケートの信頼性に着目したもの」「調査データから企業やユーザーに対して、レコメンドやコンサルティングを行うための提案」と、大きく2つの方向性がありました。

 講評では、審査員の先生から「生活に関する多業種のアンケート調査データで、扱いやすいぶん、どんな手法で研究するかという部分に工夫があったのではないかと思います。興味深い発表が多く、感心しました」(青山学院大学 経営学部 マーケティング学科 准教授・横山暁氏)、「コロナ禍の状況でも、このように研究・成果報告ができて良かったと思う一方、なかなか対面できず、一歩踏み込んだ研究・その先の提案というのがうまくできなかった部分もあるのかなと感じています。こういった状況がいつまで続くかわかりませんが、我々としては一歩踏み込んだ分析ができるようにサポートしていきたいと思います」(多摩大学 経営情報学部 准教授・久保田貴文氏)といったコメントが寄せられました。

 オリコン顧客満足度調査 事業本部長の庄司も、今回のデータコンペについて振り返り、「本当にさまざまな角度からのアプローチがあり、興味深く拝聴するとともに、大変楽しませていただきました。当社の課題を捉えていただいた研究・分析も多く、なかには本格的に活用を考えたいと思えるような提案がありました。また、私たちが日々、既存オペレーションのなかで改善をしていくサイクルにおいては思いつかないような意外な発想もあり、大変勉強になりました」と語らせていただきました。

 当社では、少しでも新たな技術やビジネスの創出、文化・技術の発展につなげていくべく、引き続き学術向けにデータの無償提供を行ってまいります。なお、ビジネス向けには調査データの販売を行っております。一般企業でご興味をお持ちの方は、当社まで直接お問い合わせください。