特集

昭和、平成、令和でこんなに違う! 異なる「価値観」のすり合わせ術

 2020年4月より、中小企業に対しても義務づけられる範囲が拡大した「働き方改革関連法」。【長時間労働の是正】、【柔軟な働き方の導入】、【非正規雇用者の待遇改善】を大きな3つの柱とし、多様化したワークライフバランスに対応した労働環境の改革が求められています。「働き方改革」では、労務管理の面ばかりが注目されがちですが、労働施策総合推進法の改正により、これまでのセクシャルハラスメント、マタニティハラスメントに加え、パワーハラスメント対策が各企業に義務づけられることにもなっています(大企業は2020年6月、中小企業は2022年4月を目処に適用スタート)。このシリーズでは、ハラスメントを生んでしまう「意識」と、それをどうすれば回避できるのかという「行動」に着目し、解説していきます。

 第1回目となる今回は、思わぬハラスメント事態を発生させてしまう大きな原因の1つ(=世代間コミュニケーション)をピックアップします。はるか古代エジプトの文書にも、「今どきの若い連中は…」といった記述があったそうですが、異なる文化に属し、異なる価値観や自己実現イメージを持つ者同士が、スムーズな交流を保つことは、大げさに言えば人類永遠のテーマかも。異なる世代間で、お互いができるだけストレスフリーなコミュニケーションを維持するヒントは、どのようなものなのでしょうか。 (取材・文/及川望)

アドバイザー

石井由里さん(人財開発コンサルタント)

<プロフィール>
いしい・ゆり●東芝EMI、ユニバーサルミュージックにて洋邦レーベル業務に携わった後、人事部門を自ら志望。メンタルヘルス対策、キャリア開発、研修企画などを幅広く担当。2016年に独立、主に音楽・エンタメ業界に特化した働き方改革支援やコンサルティングを行う。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定のアンガーマネジメントコンサルタント TMでもある。

1.一方通行の「喋り倒し」が得意な人は、非常に危ない!

――数多くの企業研修やコンサルティングを手がけておられると思いますが、石井さんからご覧になって、特に組織内での世代間ギャップが問題になっているな、と感じる場面は多いのでしょうか。
石井 よくあります。特に役職が上の世代ほど、自分はコミュニケーション能力が高いと思い込んでしまっている傾向が強い印象です。私自身もそうでしたが、昭和から平成の初めの世代の方々は、それこそ先輩の背中を見ながら「沈黙を作るな」、「熱意を込めて言いたいことを全部伝えろ」という方法論で育ってきた方が多い。とにかく、畳みかけるようにプレゼンし続けることは得意なのですが、それは一方的に話しているという状態ですよね。ところが組織の中でのマネジメントというのは、あくまでも日常。そこに双方向性がないと、コミュニケーションは決して成立していないということになります。

 いわゆるバブル世代は、それこそ24時間、深夜だろうが明け方だろうが呼ばれたらどこにでも行って、そこで貴重なチャンスをつかんだり、という成功体験がベースになっています。ですが、バブル崩壊以降の若手たちは、ほとんどそういった体験を積むことなく働いています。まず、そこから違うことを認識することが大事。そこに気づかずに、「死ぬ気でやれ」とか「本気出せ」とか発言すると、激励のつもりであっても大変な事態にもつながりかねません。一方通行の「喋り倒し」が得意な人こそ、非常に危ういと思います。

――前提として、価値観がまったく違うということを理解しておかなければいけないということですね。

石井 はい、自分に大事な価値観があるように、相手にも大事にしている価値観があるはずで、それを頭ごなしに否定されて嬉しい人はいませんよね。どんな職場にも共通することですが、自分が伝えたことを相手がどう受け止めたか、きちんと確認する手間を惜しんではいけません。これまでそれでうまくやっていたから「言わなくてもわかるはず」や、毎日一緒に働いているのだから「言わなくてもわかってほしい」というのは、単なる願望、思いこみでしかありません。そこを面倒に思っておざなりにしていると、後々より深刻なトラブルとして噴出しかねない。自分では「伝えたつもり」でいても、相手に伝わっていないといったケースを避けるためには、言わなければ伝わらない相手もいるのだ、ということを理解する必要があります。

 特にゆとり世代の方々は、言われたことはきちんと指示通りにこなす力は当然あります。ですが、それ以外のことは、「その仕事の意味がわからない」「指示が無いと出来ない」「勝手にやると逆に迷惑になるのでは…」などと考えて、率先してやらない傾向があります。つまり、こちらが伝えたことを、彼らなりの範囲で理解している。それに対して、「それくらい察して言われなくてもやれ」と否定してしまうのではなく、彼らなりの美点もあるのだと肯定的に捉え、その仕事の目的や意味、曖昧な表現を避けてより具体的に指示を伝え、コミュニケーションすることで、齟齬(そご)は減っていくのではないでしょうか。