2020年東京五輪の開催を前にして、英話学習を取り巻く環境は劇的に変化している。これまで日本の英語学習は、中学高校で英語を学んでいるにも関わらず、実際に話すことができない人が多いことが問題視されてきたが、世界に通用する英語を習得するには、どのように学んでいけばよいのだろうか。オリコン顧客満足度ランキング「英会話スクール」1位を獲得した英会話イーオン(以下、イーオン)の代表取締役社長・三宅義和氏に話を聞いた。
英語が話せないのはトレーニング不足が原因
日本人に英語を話せない人が多い現状について、三宅氏は「英語というのは、単語力や文法力をしっかり身につける学習課目の面と、楽器やスポーツと同じようにトレーニングが重要な実技課目の両方の面を持った極めて特殊な教科です。文法力や単語力に加えて、実際に話すという練習をたくさん行うことが必要です」(英会話イーオン代表取締役社長・三宅義和氏/以下同)と分析。これまでの学習法では実技となるトレーニング、つまり話す練習の時間が足りなかったということを指摘している。
官民ともに“使える英語”に重点を置くように
イーオンでは、スクール内のレッスンで英語を聞く、話すという練習はもちろんあるが、実践学習として、観光客役の外国人教師とガイド役の生徒さんが英語で観光地を巡るバスツアーや、英語でランチを楽しみながらテーブルマナーを学ぶクリスマスランチなどのイベントを開催している。
さらに、2015年より外国人観光客とのコミュニケーション力と英語力を身につける講座「ボランティア通訳ガイド養成講座」をスタート。幅広い年齢層に高い人気を得ているという。「外国人観光客の増加に加え、東京五輪・パラ五輪開催を控えた今、日本で英語を使う場面が増え、自分が習得した英会話が非常に意義のある使い方ができ、国際親善にも役立つということで、皆さん、大変熱心に通われています」。
都や県も積極的に英語力の向上に力を入れている。東京都や千葉県では、この1〜2年で更なる増加が予想される外国人観光客に話しかけたり道案内ができるようになるための育成講座「外国人おもてなし語学ボランティア」を開講。ほかにも、神奈川県や宮崎県なども外国人観光客を案内するための語学講座を開いている。
学校教育に関しても、2020年より小学校では5、6年生の正式教科に英語が加わり、大学入試センター試験では「聞く」「読む」以外に「話す」「書く」もあわせた4技能による試験が行われることが決定した。今、日本の英語教育は大きく変わろうとしている。
三宅氏の指摘通り、現在行われているさまざまな改革により、日本の英語教育は今後、机上の学習から話す練習に重点を置いた“使える英語”になることが予想される。
英語教育の変革期においてのAI
そんな変革期にある英語教育は、IT化も進んでいる。教育市場において、Education(教育)とTechnology(技術)を組み合わせたEdTech(エドテック)が進むなか、昨今注目されているのはAIの活用だ。翻訳サイトやスマートフォンアプリも日々進化を遂げている。
AIを活用した自動翻訳機なども出ており、これらは人間が英語を学ばずともAIの力を借りてコミュニケーションをとろうという考えがほとんどだが、三宅氏はこの考えに異論を唱える。
「自動翻訳機はとても便利です。完璧なものができれば、将来、英語を勉強する必要はなくなるのではないか、という議論もありますが、私は機械に頼るのか、自分の言葉で自ら話すのかという選択肢が増えるだけだと思います。
たとえば、イーオンの生徒さんのほとんどは、人と人とのヒューマンタッチの良さを求めて当校に通われています。ビジネスマンに関しては、会議や仕事の交渉の場で白熱した議論が展開するなか、いちいち翻訳機を使えないのではないか、と考える人は多いと思います。自分の言葉でなければ、思いやパッション、エネルギーは伝わりませんからね。人と人とがコミュニケーションをとる上では、自分の言葉で話すことは非常に大事なのです。それに言葉というのは日々、変化しています。その意味でも、AI翻訳が活躍する分野はまだまだ限定的だと考えています」。
イーオンが考えるAIは“英語を身に付けるため”
同じAIの活用でも、イーオンでは発音をAIで解析し評価する「日本人英語話者向け発音自動評価システム」を昨年、KDDI総合研究所と共同で開発した。発音の正確さやリズム、イントネーションなどをAIが判断し評価することで、自宅学習での発音練習をサポートする。
「ネイティブと同じように話せなくてもいいけれど、国際社会で通用するレベルの英語でなければいけませんので、イーオンでは教室で学ぶ生徒に、自宅でも英語の発音を練習するよう推奨しています。今回開発したシステムによって、家でも発音を直すことができ、納得いくまで繰り返し練習できます」。あくまでも英語を身に付けるための学習にAIの力を借りるという活用法だ。
官民両方の新たな取り組みによって、日本の英語学習は“本当に使える英語力”を身につけられるよう、さらに変化し続けるだろう。
(文・河上いつ子)
プロフィール
株式会社イーオン 代表取締役社長 三宅義和
1985年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人 全国外国語教育振興協会元理事、NPO小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、心身統一合氣道。