契約期間などの縛りがない手軽さと安さで人気が広がる格安SIM。2016年10月よりサービス開始と業界的には後発にも関わらず、実際に使った人たちから高評価を得ているLINEモバイル代表取締役社長・嘉戸彩乃氏に、支持される理由や、業界としての課題への取り組みなどについて、お話を伺いました。
「ユーザーの声が何よりも貴重」という姿勢
──LINEモバイルが、2017年オリコン顧客満足度格安SIMランキング総合1位を獲得しました。まずは嘉戸社長から、率直なご感想をお聞かせいただけますか。
嘉戸 純粋にうれしく、ホッとしています。LINEモバイルはお客様の満足が全てですので、上位に入らなくなったらものすごく焦ると思います。
──つまり顧客満足度をとことん追求してきたことに、自信がおありだということですね。
嘉戸 そうですね。LINEモバイルでは3ヶ月に1回、独自でユーザー調査を行っておりまして、そこで上がった声をもとにサービスの拡充を進めています。また、LINE上でオペレーターに質問できるカスタマーサポートも提供しています。ユーザーは不満があっても、なかなか声をあげてくれないものです。だけど私たちにとっては、ユーザーの声が何よりも貴重なので、どんな小さな声でも拾えるようにしておきたいんです。
──確かにこの業界として一般的に、カスタマーサポートに電話をかけてもなかなか繋がらない、店頭まで聞きに行くのは面倒くさい、という不満はあると思います。
嘉戸 LINEモバイルの公式アカウントなら1分もお待たせせず、オペレーターが回答します。何よりLINEなら気軽に質問できますよね。そうしたLINE本体と連携したオリジナルのサービスが提供できるのもLINEモバイルの強みだと思っていますし、ニーズのあるここを強化すべきと考えています。まだ実現はしていませんが、LINEから簡単にLINEモバイルに申し込めるサービスも検討しています。
──申し込みのハードルを下げるという意図なのでしょうか。
嘉戸 ええ。LINEモバイルは格安SIMとしては後発なので、既存の事業者さんから勉強させていただいた面はとても大きく、その中で店舗での申し込みに時間がかかったり、説明された用語を理解できなかったりといった状況を多く目にしてきました。それこそ「1ヶ月に何GBくらい使いますか?」と聞かれても、ピンと来る方ばかりではないと思うんですよ。さらに、オプションが多くて、果たして自分はどれを選べばいいのか、と迷ってしまう。そうしたスマホ申し込みの煩雑さを感じていた方は多かったのでは、と思います。
シンプルに見せる工夫で顧客が感じる“壁”をなくす
──特に格安SIMとなると、今なおハードルを感じる人も少なくありません。
嘉戸 そこは業界としての大きな課題で、クリアしていかなくてはいけないと思いますが──。まずはそのハードルを乗り越えてきてくださった方に対して、申し込みのフローにしろ、プランにしろ、単純明快にわかりやすくシンプルに見せる工夫が重要だと考えました。料金プランのネーミングもそのひとつですね。主にLINEを利用される方は「LINEフリープラン」、LINE以外にもSNSを多く利用する方は「コミュニケーションフリープラン」、SNSも音楽も利用される方は「MUSIC+プラン」をお選びいただければ、データ容量を気にせず快適にスマホが利用できますよ、というふうに、たくさん用語を並べるのではなく、感覚的にプランを選んでいただける提示の仕方を意識しています。
──昨年3月からは家電量販店でのリアル店舗での契約も可能になりました。今後もリアル店舗は充実させていく意向はおありですか?
嘉戸 もちろんお客様との接点としてリアル店舗の必要性は感じています。ただ、勢いよく店舗数を増やしていきたいかというと、それもちょっと違うかなと考えています。私たちはもともとWEBの会社ですので、たとえ店舗がなくても成立するのが本来のあり方なんです。そもそもモバイル通信というのは、野菜と違って、目で見て選ぶ商材ではないですよね。いわば、モバイル通信というのは、どこにいても同じものを手に入れられるとも言い切れます。オンラインで、スピーディかつ簡単に申し込めれば、身の丈以上に店舗数を増やす必要もないですし、その分、今いる顧客に還元できるんです。同様に新規加入を煽るキャンペーンも、それほど頻繁にはしていません。資本力を度外視したキャンペーンは、必ずどこかに影響が出るし、それが顧客であってはいけないというのが弊社のポリシーです。
理想は「顧客満足度が新規顧客を呼ぶサイクル」
──女優・のんさんのCMもとても印象的でしたが、新規顧客へのアピールについてはどのようにお考えですか?
嘉戸 あのCMはLINEモバイルのシンプルなサービス精神を表現したものでした。通信会社のCMというと賑やかなものが多いなかで、逆に新鮮に映ったのではないかと思います。あのCMでLINEモバイルを知ってくださった方も多いですが、正直、広告宣伝費は主要格安SIMの事業者さんの中でも多いほうではなく、このたびのソフトバンクさんとの業務提携で、もう少し広報活動も充実できるかなと考えています。ただ、基本的には"顧客満足度が新規顧客を呼ぶ"といったサイクルを生むのが理想ですね。そうすれば広告費はゼロ円なので(笑)。そういう意味ではユーザーさんの満足度を口コミとして広げていく工夫や取り組みは、今後も注力していきたいと思っています。
──ではサービス面では、今後どのような拡充が考えられるのでしょうか?
嘉戸 LINEとの連携はさらに強めたいですね。現在もLINE Payでの支払いが可能ですが、たとえばLINEポイントで月額利用料をお支払いできる仕組みなども検討中です。LINEポイントは動画の視聴やクーポンの利用などでも貯まるので、実現すれば通信料が実質0円になる人もけっこういると思うんですよ。またソフトバンクさんとの提携も、端末ラインナップの充実をはじめ、ユーザーに還元できることがたくさんあると期待しています。何より重要なのは、自社にも顧客にも負担のないヘルシーな企業経営。その上で、最高のモバイル通信サービスを提供する会社でありたいと考えています。
(文:児玉澄子)
プロフィール
LINEモバイル株式会社 代表取締役社長 嘉戸 彩乃
大学卒業後、2008年4月にUBS証券会社(現UBS証券株式会社)に入社。投資銀行本部にてテクノロジー及びテレコム業界のM&A案件の執行、資金調達アドバイザリー業務に従事。2012年12月、モバイル通信のインフラシェアリング・ソリューション事業を展開する株式会社JTOWERの立ち上げを経て、2015年2月、LINE株式会社入社。事業戦略室にて新規事業の立ち上げに携わり、2016年2月よりLINEモバイル株式会社 代表取締役社長に就任、現職。