ケーススタディ

丸亀製麺、16ヶ月連続マイナスを回復させた舞台裏 新戦略「トリドールメソッド」とは?

丸亀製麺の店内

 成熟した外食産業において、伸び悩んでいた丸亀製麺の集客を上向きに変えた立役者が、トリドールホールディングス 国内事業本部 マーケティング部 部長 コミュニケーションディレクターの南雲克明氏だ。そこで取り組んだのは、「五感マーケティング」とデータを駆使した「数学マーケティング」を顧客体験とミックスさせた“トリドールメソッド”と名付ける新たなマーケティング戦略。それを活用しながら、店舗と一体で進めるブランドコミュニケーションの取り組みについて語った『第12回 Japan マーケティング Week【夏】』の講演の模様をレポートする。

マーケティングドリブンへの変換でコミュニケーション戦略を革新

 南雲氏は、コナミスポーツやサザビーリーグでブランディングと統合プロモーションの再構築を手がけてきたスペシャリスト。2018年8月から現職に就き、丸亀製麺のブランドおよびコミュニケーション戦略の革新に取り組んでいる。

 当時、2018年の1月から続く客数のマイナス傾向が止まらないなか、南雲氏が取り組んだのが、マーケティングドリブン(データ活用に重点を置くマーケティング手法)への変換だ。その柱は3つあり、まず1つがブランドを強くしていかに消費者に選ばれる確率を上げるか。そのためのドライバーを見極めて経営資源を集中投下する。売上を決定するドライバーを制する7つの要素(認知率、利用率、出店数、購入率、再購入率、客単価、購入頻度)を徹底的にデータ分析し、ブランドエクイティ(ブランドの資産価値)をどう消費者に植え付けていくかを見極めていった。

トリドールホールディングス 国内事業本部 マーケティング部 部長 コミュニケーションディレクターの南雲克明氏  (C)oricon ME inc.

トリドールホールディングス 国内事業本部 マーケティング部 部長 コミュニケーションディレクターの南雲克明氏  (C)oricon ME inc.

 2つ目は、徹底的な消費者理解。ターゲットをどこに設定するか(WHO)、丸亀製麺が売っている価値(WHAT)、それを伝える戦術(HOW)というブランドエクイティ・ピラミッドを作り、消費者理解を高めるための仮説を立てて実行、検証していく。たとえば、マーケティングから「うどんを食べる人:95%」となったが、そのうち「うどんを外で食べる人:10%」。その主な理由は「家で食べるうどんで十分においしいと思っていたこと」だったことから、「丸亀製麺は食べに行く価値がある」という認知を広げるための施策を作り上げ、実施した。

 そして、3つ目が各種マーケティングの組み合わせによる精度の高い最適なプランニングと意思決定を行うこと。あらゆる意思決定において、数字的な裏付けをもって、もっとも高い確率の手段を取った。これはスポーツとも共通するが、各店舗と協力しながらさまざまな顧客データを活用して戦うのが、外食産業における丸亀製麺の数学マーケティング戦略となる。

 同社では、過去5年間のマクロ・ミクロデータからKPIをすべて時系列で確認し、高い精度のモデルを作って運用。マーケティングでは、テレビCMからSNS、アプリ、Web宣伝など各種の活動からの客数の伸び率を把握し、その貢献度を可視化している。ちなみに、同社のTwitterは現在80万フォロワーを超えているが、フォロワーが増えるほど売上が伸びることが明らかになっていることから、フォロワー数もKPIの1つになっているという。

消費者ベネフィット=来店意向の明確化でブランド戦略を再構築

  • 丸亀製麺では、すべての店で粉から麺を製造

    丸亀製麺では、すべての店で粉から麺を製造

  • そこから生まれる「もちもちした食感=丸亀食感」をCM等で全面に打ち出した

    そこから生まれる「もちもちした食感=丸亀食感」をCM等で全面に打ち出した

 かつての丸亀製麺は、季節ごとの従来商品のフェアに頼ったマーケティングが中心で、5年前からTVCMでの訴求を開始し2年前まではそれで約10%ほど売上を伸ばしていたものの徐々に低下し、ついにはマイナスに陥った。それだけでは客数獲得が不十分であり、中長期的にブランドを育てる戦略にも欠けていた。そこから前述のようなマーケティング戦略を用いたトリドールメソッドの導入により、16ヶ月連続でマイナスだった客数を回復させている。

 具体的にそこで行われたブランド戦略の1つは、消費者ベネフィット=来店意向の明確化と最大化だ。消費者が丸亀製麺を選ぶ理由を「すべての店で粉から麺を作っている」という事実と、そこから生まれる「もちもち」した丸亀食感に定め、その新ブランド戦略に経営資源を投下。その結果、コンセプト調査では消費者の来店意向が1.7倍に上がったという。

 そうしたこれまでの取り組みを総括して南雲氏は、「五感(感性)マーケティング」「数学マーケティング」「顧客体験」を掛け合わせた、右脳と左脳を駆使する新たなマーケティングにより、ブランドが選ばれる理由を解き明かして、ブランド戦略を再構築。そして、その選ばれる確率を上げるドライバーへ経営資源を集中投下させることで、業績回復のエンジンとしてきたと語る。

withコロナ時代のブランド戦略の見直し「いかに信頼を得ていくか」

  • 2000年、兵庫県加古川市にオープンした丸亀製麺1号店

    2000年、兵庫県加古川市にオープンした丸亀製麺1号店

  • 2011年、海外1号店としてハワイに出店したワイキキ店

    2011年、海外1号店としてハワイに出店したワイキキ店

  • 書道家・武田双雲氏が手がけた、丸亀製麺20周年の感謝を伝える記念アート

    書道家・武田双雲氏が手がけた、丸亀製麺20周年の感謝を伝える記念アート

 今年は丸亀製麺にとって創業20年目の記念イヤーだが、世の中は新型コロナウイルス感染症の流行という非常事態を迎えている。講演会で南雲氏は、コロナ禍による戦略の見直しにも言及した。今までは「いかに強みを打ち出していくか」というマーケティングだったが、withコロナの時代においては「いかに信頼を得ていくか」に転換している。

 そこで設定するのは次の4つ。

1.(相対的な)安心認知をいち早く獲得
2.テイクアウトへの参入
3.「すべての店舗で粉からつくる」のさらなる認知拡大
4.徹底的に丸亀体験の強化

  • コロナ禍を受け、この5月からはテイクアウトにも参入

    コロナ禍を受け、この5月からはテイクアウトにも参入

  • コロナ禍を受け、この5月からはテイクアウトにも参入

    コロナ禍を受け、この5月からはテイクアウトにも参入

  • コロナ禍を受け、この5月からはテイクアウトにも参入

    コロナ禍を受け、この5月からはテイクアウトにも参入

 コロナ禍において、消費者の意識の上位に安全、安心というキーワードが上がってくるなか、他社に先駆けてテレビCMで安心感をアピール。外食市場の多くの店のなかで丸亀製麺は新型コロナウイルス対策をちゃんと実施していて相対的に安心であるという認知の獲得に動いた。また、ブランドの味を損なわない専用容器を使ったテイクアウトもスタート。その認知も想定より早いペースで上がっている。その結果、主力のロードサイド店舗では、すでに前年同程度にまで売上が回復しているという。

 先の見えないwithコロナの時代を生き抜くために、同社では社会情勢によって「通常」「ポジティブ」「ネガティブ」「自粛要請(短期)」「自粛要請(長期)」を想定して、常にあらゆる事態に対応できるようにしている。消費者の安心と信頼を得るための努力を惜しまず、次なる時代におけるさらなる丸亀製麺の拡大を見据えている。

(文/武井保之)

見るだけでお腹が減る…写真で見る丸亀製麺

  • 丸亀製麺の「かけ」

    丸亀製麺の「かけ」

  • 丸亀製麺の「とろ玉」

    丸亀製麺の「とろ玉」

  • 丸亀製麺の「肉うどん」

    丸亀製麺の「肉うどん」

  • 丸亀製麺の「おろし」

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  • 丸亀製麺の「釜玉」

    丸亀製麺の「釜玉」

  • 丸亀製麺の「釜揚げうどん」

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  • 丸亀製麺の「ぶっかけ」

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  • 丸亀製麺の「明太釜玉」

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