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afterコロナは「心の時代」に? 別所哲也×宮本亞門×小橋賢児が考える“これから”のエンタメ

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 新型コロナウイルスの世界的な流行により、私たちの生活は突如新たなフェーズを迎えた。今回のパンデミックは、生活様式はもちろん人々の意識や価値観にまで変化をもたらしているが、これからの時代のリーダーにはどういった心がけが必要だろうか。俳優で国際短編映画祭代表を務める別所哲也氏、演出家・宮本亞門氏、クリエイティブディレクター・小橋賢児氏の3名が、エンターテインメントの未来とともに、withコロナ・afterコロナ時代に求められる考え方やアプローチ方法などについて語り合った。

「新しい時代のエンターテインメント」と題したこのトークセッションは、『J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2020 supported by CHINTAI』(以下、イノフェス)内で行われたもの。J-WAVEらが主催する日本最大級のデジタル・クリエイティブフェスティバルで、5回目となる今年は、コニカミノルタプラネタリア TOKYO(東京・千代田区)をハブ会場として、10月17日、18日と2日間にわたり無観客でオンライン開催された。

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 宮本氏は演出家として数々の作品を手がけ、現在は黒澤明監督の名画『生きる』のミュージカル公演の真っ最中。The Human Miracle代表を務める小橋氏は、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)フェス『ULTRA JAPAN』や未来型花火エンターテインメント『STAR ISLAND』など、国内外で数々のイベントをプロデュースする。別所氏は、俳優として活動する傍ら、国際短編映画祭『ショートショート フィルムフェスティバル & アジア』を主宰するなど、登壇した3人は三者三様にエンターテインメント業界の第一線で活躍し、また未来へとつなぐ役割を担っている。そんな彼らの会話には、業種を問わずビジネスパーソンにとって役立つヒントがあふれていた(※トークセッションから一部を抜すいしてレポート)。

社会が不安定なときにこそイノベーションが起こる

演出家の宮本亞門氏 photo by アンザイミキ

演出家の宮本亞門氏

世界的な新型コロナの感染拡大によって、大きな打撃を受けたエンターテインメント業界。各分野で活躍するプロフェッショナルたちは、コロナ禍にどのような経験をし、何を思ったのだろうか?

別所 僕たち自身が生きている時代に、戦争とはまた違う形で、しかも一部の地域だけの災害ではなく、全世界共通でこういうことが起きるとは思ってもみませんでしたよね。

宮本 ミュージカル『ベスト・キッド』に参加してくれた俳優のニック・コルデロさんやファッションデザイナーの高田賢三さんがコロナで亡くなるなど、あまりにも生々しいことが身近でいろいろ起きたので、精神的にやられてしまいました。でも、本当にひどい話だと思う一方で、こんなに貴重な時期はないとも思っています。

 (コロナ禍って)価値観であるとか、仕事や家族の存在についてなど、自分自身と向き合うじゃないですか。そのなかで始めたのが「上を向いてプロジェクト」(医療従事者や生活を支えるために働く人々、未来に不安を抱える人々を応援する企画。坂本九さんの「上を向いて歩こう」をモチーフに、さまざまな表現方法でプロジェクトを展開)でした。第1弾では、著名人から一般の方まで、無償で集まってくれた約600人が歌う「上を向いて歩こう」を編集してYou Tubeに配信するということをやったんですが、全員が同じ思いで同じ方向を目指すことってすごく熱いことだなと改めて感じました。反響も非常に大きかったです。

別所 人の思いが先にあって、それが現象になって、それがひょっとしたらビジネスにもなっていく。それが本来のエンターテインメントの姿なのかもしれませんよね。

小橋 お2人がおっしゃる通りだと思います。今は人の思いよりもビジネスが先行しているというか、どこか利己的になってしまっているんじゃないかと思います。それはエンターテインメントをはじめ、いろんな分野においても言えること。今回のパンデミックは利己的から利他主義へ、“本来の人間の姿”に戻っていく1つのきっかけになるんじゃないかなと思っています。

 歴史を振り返れば、社会が不安定だったりうまくいっていなかったりするときに必ずイノベーションって生まれてきていて。そう考えると、きっとこれから新しい文化、本質的なエンターテインメントが生まれていくんじゃないかと思います。自分自身もそうですけど、これまでは先人の方たちが作ってきてくれた恩恵にちょっと甘えすぎていたんじゃないのかなって。とくに日本はそうかもしれませんが、それなりに普通に生活ができているなかでは、正直、何かを変えようというエネルギーって出にくいですよね?

別所 確かに、僕も同じように感じます。20世紀の偉大なる先輩たちが作ったエンターテインメントであれ何であれ、それらが偉大すぎて。心の中では新しい何かを生み出さなきゃと感じていながらも、変えきれない状況のなかで今回、コロナと一緒に未来が先に来てしまったように思います。

afterコロナは、心に響くエンターテインメントの時代に?

クリエイティブディレクターの小橋賢児氏 photo by アンザイミキ

クリエイティブディレクターの小橋賢児氏

人々の意識や価値観にまで変化をもたらしていると言われる、今回のパンデミック。社会のパラダイムシフトとともに、人々を熱狂させるコンテンツやサービスも変わっていくのだろうか。

小橋 少し話は変わるんですが、僕は最近、「SBNR層(スピリチュアル・バッド・ノット・レリジョン)」っていうものに関心を持っていまして。たとえば、SDGsや瞑想、ヨガなど、自然とか大切なこととかに関心を示す無宗派スピリチュアル層で、米国の18歳以下の83%がその層だと言われているんですけど、僕、これって次のうねりだと思っているんです。

 20世紀っていうのは、物質とか金銭とか、わりと目に見えるものに価値があったと思うんですけど、21世紀っていうのは、「心の時代」だと思っていて。今回のパンデミックは、(心の時代への)変換期だと思っているんです。心もそうだし、相手のことを思う利他もそうですけど、見えないものがちゃんと帰ってくる。もちろん自然もそうですよね。ちゃんと自然のことを考えていれば、自分にも還元されて返ってくるっていうサステナブルな循環があるわけじゃないですか。そういうところがこれからすごく大事になってくるし、若者たちも自然にそういうことに関心を持っているっていう。心に響くエンターテインメントみたいなものが、これから来るんじゃないかと思っています。

宮本 僕、小橋くんと考えていることが本当に似ていて(笑)。まさにそういう精神こそが今必要だと思います。そして、今回のコロナをきっかけに、本当に何かが変わっていくんだと思います。

顧客との関係性も変化?「共感」「体験」がより重要度を増す

俳優で国際短編映画祭代表を務める別所哲也氏 photo by アンザイミキ

俳優で国際短編映画祭代表を務める別所哲也氏

別所 僕は今、天動説から地動説に変わるくらい変化のときで、エンタメも大きく変わっていくと思っていて。そのなかで、クラウドファンディングなどを見ていてもそうですが、どうやら人々は完成物だけを見たいというより、その手前のプロセスを見たい傾向にあると感じます。一緒に制作したり、思いが一緒だったから応援するために投げ銭したり。そして、最後に出来上がった作品をゴールとしてみんなで分かち合うみたいな、これからはそういう感覚を大事にしないといけないのかなって。

宮本 うんうん、共感性というか本音を見聞きしたいんですよね。

小橋 エンタメから少し外れてしまうかもしれないんですけど、僕、今年の頭にインドネシアにある「ニヒ・スンバ」っていうホテルに行ったんです。バリ島から飛行機で約60分、そこから車で90分ぐらい離れた田舎にもかかわらず、米国の『Travel + Leisure』誌の「No. 1 Hotel in the World」(世界一のホテル)に2年連続で選ばれて、アップル社がそこで合宿したりしているんですね。

 そのホテルは、「トリーバーチ」という米国のラグジュアリー・ライフスタイル・ブランドの一族の方がオーナーを務めていて。いわゆるこれまでのラグジュアリーは、「なんでもやってくれる」っていうものだったと思うんですけど、これからの時代のラグジュアリーは「偶発的に起こる各々の体験」と言ってサービスを展開しているんですね。たとえば、空港から約90分のプロセス(道中)も、ジープみたいなオープンエアの車を用意してアクティビティにしたり、スパに行くのも「スパサファリ」っていうふうにして2時間トレッキングさせたりするんですよ。なんでもやりますよ!っていうサービスでは、人はもう満足しないということなのかなと。

別所 僕も映画祭を運営するなかで感じていることがあって。お客さんは、あらかじめ用意されたプログラム(映画)を観ることよりも、その日、映画祭に行ったときに、何かわからない(突然提供される)映画を観ることにワクワクを感じているみたいなんですよ。行った先で何が体験できるか。それは、オンラインでもそうですけど、僕が大好きな出たとこ勝負というか(笑)。ただ、演劇だと緻密に準備しないといけないから難しいですよね。

宮本 そうなんだよね。そこのところ、コロナ禍ですごく思ったのは、“演出家・宮本亞門”って(肩書きを)本当に消したいなと思いましたよ(笑)。つまり、そのガチッと固めたものが邪魔なんだよね。僕が言っちゃ変だけど、みんなが好きなことをやって出来上がったものこそが良いというふうに、判断基準が変わってくるかもしれないですよね。

業種を問わず「かけ算」をすることで、新しいものが生まれる

photo by アンザイミキ

冒頭の小橋氏の言葉にもあったように、イノベーションは社会が不安定なときにこそ生まれる。世の中はまだまだ心配事だらけな状況ではあるが、トップランナーたちの心は上を向いている。

小橋 僕はエンターテインメントの前に、世の中に1つ言いたいことがあって。世の中って一見すると不完全なこと、うまくいかないことがいっぱいあるじゃないですか。今回のコロナもそうだと思うんですよね。予定していたものが崩れて、でも不完全なんですけど僕らが住んでいる宇宙っていうのは完全なんですよね。これまで定義していたエンターテインメントは一旦おあずけですけど、僕は未来のエンターテインメントは明るいと思っています。

宮本 どんどん化学反応は起きていくべきで、「エンタメ×農業」「エンタメ×医療」みたいに、いろいろなことがかけ算でよくなってきた。縦割り社会ではなく並列に、いろんなものが混ざり合ったときに新しいものが生まれる時期に入ったので、僕はこれから面白くなるぞと思っています。

photo by アンザイミキ

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