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【コラムシリーズ】 意識と行動で取り組む「働き方改革」

 2020年4月より、中小企業に対しても義務づけられる範囲が拡大した「働き方改革関連法」。【長時間労働の是正】、【柔軟な働き方の導入】、【非正規雇用者の待遇改善】を大きな3つの柱とし、多様化したワークライフバランスに対応した労働環境の改革が求められています。「働き方改革」では、労務管理の面ばかりが注目されがちですが、労働施策総合推進法の改正により、これまでのセクシャルハラスメント、マタニティハラスメントに加え、パワーハラスメント対策が各企業に義務づけられることにもなっています(大企業は2020年6月、中小企業は2022年4月を目処に適用スタート)。このシリーズでは、ハラスメントを生んでしまう「意識」と、それをどうすれば回避できるのかという「行動」に着目し、解説していきます。

アドバイザー

石井由里さん(人財開発コンサルタント)

<プロフィール>
いしい・ゆり●東芝EMI、ユニバーサルミュージックにて洋邦レーベル業務に携わった後、人事部門を自ら志望。メンタルヘルス対策、キャリア開発、研修企画などを幅広く担当。2016年に独立、主に音楽・エンタメ業界に特化した働き方改革支援やコンサルティングを行う。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定のアンガーマネジメントコンサルタント?でもある。

「働き方改革関連法」で義務化されたこと

1)年次有給休暇の取得義務化
2)時間外労働の上限規制
3)中小企業の60時間超の割増残業代を50%以上に
4)労働時間の適正把握の義務化
5)同一労働同一賃金
6)勤務間インターバル制度の導入促進(努力義務)
7)フレックスタイム制の拡充(努力義務)

解説
 2019年4月からの大企業への義務化に続き、国内雇用の7割ほどを占める中小企業・小規模事業者にも「働き方改革関連法」は適用される。過労死という日本語がそのまま“Karoshi”として英語の辞書にも掲載される昨今、個人の働き方の選択をより尊重できるよう、労働環境の速やかな改善があらゆる業界に求められている。

36協定で延長できる限度労働時間

(原則は月45時間、年360時間=改正前と同じ)
特別条項
1)年720時間以内(月平均60時間)
2)2〜6ヶ月平均80時間以内(休日労働含む)
3)単月100時間未満(休日労働含む)
4)月45時間超は年6回まで

解説
 これまで告示にとどまっていた時間外労働の上限が、罰則付きで法的に規定された。「特別条項の臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも」上回ることのできない上限が設定されることになる。罰則は、6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金。時間外労働+休日労働の合算での上限規定となることに注意。

36協定の様式変更

1)一般条項と特別条項部分を分離した2枚組に
2)延長時間の期間を「1日」「1ヶ月」「1年」で特定
3)「時間外労働と休日労働を合算した時間数」の規制に対するチェックボックスを新設
4)特別条項の必須協定項目に「健康福祉確保措置」を追加
罰則:違反した場合、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金

解説
 改正により「1日」「1ヶ月」「1年」それぞれにおいて、時間外労働の限度を定めることになった。36協定は、労働組合などがない場合でも、労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)を選任して締結する必要がある。その際、会社によって指名された者や、管理監督者は代表として選任することができない

職場におけるパワハラの定義(以下の3要素をすべて満たすもの)

1)優越的な関係を背景とした、
2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、
3)就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)
※ 適正な範囲の業務指示や指導については、パワハラにあたらない

解説
2019年6月に公布された「労働施策総合推進法」改正によるパワーハラスメントの定義。同時に、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法においても職場のハラスメント(セクハラ、マタハラ含む)に関する部分が改正されている。

パワハラの主な6つの類型

1)身体的な攻撃
2)精神的な攻撃
3)人間関係からの切り離し
4)過大な要求
5)過小な要求
6)個の侵害

解説
 罰則そのものは無いが、今回の義務化により、悪質と判断されれば社名などが公表されることに。特に労災認定まで事態が進行してしまう場合は、企業側によってのダメージは甚大なものになる。

パワハラ予防・解決のためにできる7つのこと

1)組織のトップがパワハラ根絶の明確なメッセージを出す
2)就業規則にパワハラ防止・処分のルールを設ける
3)社内アンケートなどで実態を把握する
4)管理職研修、従業員研修で教育する
5)社内でのルールや相談窓口の周知・啓蒙
6)相談窓口(社内・外)を設置し、対応責任者を決める
7)再発防止策(行為者への再発防止研修など)の提示

解説
 まずは実態把握と、ハラスメントに対する共通認識の醸成のための教育・啓蒙が重要。相談窓口の設置では、相談者の秘密を守りながら、相談による不利益が発生しない体制を構築することも必要だ。