ケーススタディ

60周年『ホームランバー』長寿の理由 「傾聴力」と「アイデア力」で苦難乗り越えロングセラー商品へ

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 当たりが出たらもう1本!――日本初の当たりくじ付きアイスバーとして1960年に誕生した『メイトーホームランバー』(以下、ホームランバー)が今年60周年を迎えた。消費の通年化が進み、アイス市場は2011年度以降、拡大基調にあるが(19年度は、天候や新型コロナウイルス感染症の影響等で微減)、顧客ニーズの変化や熾烈な企業間競争をくぐり抜け、これほどまでロングセラーとなっているアイスは稀。記念イヤーの今年は、前年比120%の売上を積み上げているという。協同乳業 営業企画部・副部長の成毛真人さんにお話を伺い、意外な裏話とともに『ホームランバー』が愛され続ける秘密を探った。

ミスター起用も追い風に、前身商品の“危機”から生まれたヒット

1955年、『ホームランバー』の前身となるアイスクリームバーを製造していたマシーン

1955年、『ホームランバー』の前身となるアイスクリームバーを製造していたマシーン

 協同乳業が日本初となるアイスクリームバーの製造販売をスタートしたのは1955年のこと。アイスクリームがまだまだ高級品だった当時、1本10円で買えるアイスクリームバーはたちまち大ヒットとなった。

 ところが、やがて他社も追随した類似品を発売し、同商品も一強ではなくなってしまう。もっと子どもたちをワクワクさせるには? そこで持ち上がったのが、「野球と商品(アイスクリームバー)を掛け合わせる」というアイデアだった。日本では、1953年に民放テレビ局でプロ野球中継が開始。1958年には長嶋茂雄氏が読売ジャイアンツに入団し、その頃の世情はまさに野球ブーム真っ只中だった。

キャンペーンに長嶋茂雄氏を起用した当時のポスター

キャンペーンに長嶋茂雄氏を起用した当時のポスター

「商品の新展開にあたって、PRキャラクターとして国民的スターだった長嶋さんの起用が実現しました。さらに当時、子どもたちの間で『当たりが出たらもう1個』というくじ付きの駄菓子がウケていたことから、木のバーに焼印で当たりくじを付ける仕掛けを考案。野球→当たり→ホームランという連想から、『ホームランバー』という商品名が誕生したんです」(成毛さん)

協同乳業 営業企画部・副部長の成毛真人さん

協同乳業 営業企画部・副部長の成毛真人さん

「当たりが出たらもう1本」というラッキーなサプライズで一気に子どもたちの心を掴んだ『ホームランバー』は、やがて紆余曲折はありながらも60年にわたって愛され続けるロングセラー商品となっていく。

野球少年のキャラクター「ホームラン坊や」、初代デザインは和田誠氏

1960年の“発売当時”の『ホームランバー』。初代・ホームラン坊やのイラストは、イラストレーターの和田誠氏が手掛けた

1960年の“発売当時”の『ホームランバー』。初代・ホームラン坊やのイラストは、イラストレーターの和田誠氏が手掛けた

『ホームランバー』のパッケージには、野球少年の絵柄を採用した。「ホームラン坊や」と名付けられているこのキャラクター、初代をデザインしたのは『週刊文春』(文藝春秋)の表紙や作家・星新一の挿絵でも知られるイラストレーターの和田誠氏(料理愛好家・平野レミさんの旦那さんとして認識している方も多いのでは?)である。

 当時の和田氏は広告制作会社の社員であり、「デザイナーとしてご指名したわけではなかったと思われます」(成毛さん)というが、これもまた60年の歴史の成せる味わい深いエピソードだ。なお、現在のホームラン坊やは13代目。時代ごとに微妙に様相は異なるが、「笑顔」「ユニフォーム姿」など基本形は踏襲されている。

>【写真で見る】初代〜13代目(現役)まで!ホームラン坊やの変遷

 このように長きにわたって親しまれている『ホームランバー』だが、その道のりは決して平坦ではなかった。

時代の波に呑まれ……坊やのイラスト・当たりくじを廃止した時期も

「とくに売上が苦戦したのが、1980年代後半〜90年代初頭でした。考えられる要因の1つは、『ホームランバー』の主販路だった駄菓子屋さんが町から姿を消していったこと。また、その頃からアイスの高級志向が高まり、『ホームランバー』も一時期はリッチな味わいを追求した商品展開を試みたこともありました」(成毛さん)

 “本格路線”にシフトした時期には、当たりくじを廃止したことも。また高級感あふれるパッケージからは、「ホームラン坊や」の姿も消えた。アイスクリームの味わいについては、乳業メーカーだけに自信があった。しかし、そうした数々の試行錯誤も空振りに終わる。

1994年当時の『ホームランバーバニラ&チョコ』パッケージに“ホームラン坊や”の姿はない

1994年当時の『ホームランバーバニラ&チョコ』パッケージに“ホームラン坊や”の姿はない

「むしろ、ユーザーのみなさんが『ホームランバー』に求めているものと乖離していたのかもしれません。その頃は、高級路線に振り切るあまり、商品の原点である“ドキドキ、ワクワク感”がお客さまに提供できていませんでしたから──」(成毛さん)

45周年を機にリブランディング、社内公募で“全社ごと”に

現在活躍中の“13代目”ホームラン坊やは、3D化したイラストが特徴

現在活躍中の“13代目”ホームラン坊やは、3D化したイラストが特徴

 その後、試行錯誤を繰り返し持ちこたえたものの、売上が芳しくない状況が続けば、いずれは商品の存続が危ぶまれる。危機意識を胸に45周年を迎えた2005年、「親・子・孫の3世代への橋渡し」をテーマに『ホームランバー』のリブランディングが行われた。コンセプトは、原点回帰の「ラッキー&サプライズ」。またその際に、12代目となるホームラン坊やが誕生。横にかぶった帽子や丸顔、笑顔など初代を踏襲したデザインで、現役の13代目ホームラン坊やはそれを3D化したものである。

 ちなみに、リブランディングを行った後、2010年には社内公募でホームラン坊やの本名を「あたるくん」に決定。幅広い商品を展開する協同乳業だが、社内公募は『ホームランバー』というシンボリックな商品への参加意識と愛着をすべての社員に抱かせる仕掛けともなっただろう。

現在、発売している1本売り『ホームランバー』

現在、発売している1本売り『ホームランバー』

 また、一時期は販売を中止していた1本売りも再開。さすがに初代と同じ10円とはいかないが、今でも1本70円と小さい子のお小遣いで買えるお手頃価格だ。さらに、「当たりが出たらもう1本」のコンセプトも復活した。

「とは言っても、現在の販売主力商品はやはり10本入りマルチパック。銀紙パッケージの1本売りは歴史を語る象徴的な意味合いもあります」(成毛さん)

定期的に味を改良、「1本売り」と「マルチパック」とで微妙に味が異なる

 ちなみに、定番のバニラ味については「昔から変わらない」というイメージがあるが、実はユーザーの味覚の志向をリサーチしつつ、2年に1回程度のペースで改良を重ねている。また「1本売り」と「マルチパック」では、同じバニラ味でも味が異なるのだという。

  • 現在の販売主力商品は10本入りマルチパック

    現在の販売主力商品は10本入りマルチパック

  • 現在の販売主力商品は10本入りマルチパック

    現在の販売主力商品は10本入りマルチパック

「食べるシーンによって、微妙に味わいを変えているんです。食べ歩きが想定される1本売りのほうは、溶けにくく味もさっぱり。一方、マルチパックのほうは、ご家庭に常備していただくことを想定して、ややコクのある王道のバニラ味となっています」(成毛さん)

 リブランディングの効果はもとより、こうした真摯な商品開発によって売上も徐々に回復。今や『ホームランバー』は大人にはなつかしく、子どもには楽しい。そんな世代を超えて思い出を語ることのできる“不朽のコンテンツ”となっている。

ロングセラーであり続けるためには、「諦めずにトライアンドエラーを繰り返すこと」

60周年を迎えた今年発売されたのは、チョコとバニラの見た目と味が入れ替わった『逆転ホームランバー』(上)と、食べている途中から味が変化する『ホームランバー変化球味』(下)

60周年を迎えた今年発売されたのは、チョコとバニラの見た目と味が入れ替わった『逆転ホームランバー』(上)と、食べている途中から味が変化する『ホームランバー変化球味』(下)

 定番のほかにも、さまざまな商品を展開してきたホームランバー。60周年の今年は、チョコとバニラの見た目と味が入れ替わった『逆転ホームランバー』と、食べている途中から味が変化する『ホームランバー変化球味』が新発売された。いずれも『ホームランバー』らしい「楽しさと驚き」にあふれた商品だ。

「今は話題性がないと、コンビニで扱っていただくのがなかなか難しい時代です。この2商品についてはSNSにアップしてくださる方も多く、商品PRの面でもありがたかったです」(成毛さん)

 いかにロングセラーと言えど、生き残りが厳しい昨今である。明治『カール』(1968年〜/2017年以降は全国販売から関西地域以西での地域限定販売に)、森永製菓『森永チョコフレーク』(1967年〜2019年/※今年、次世代チョコフレークとして新商品『ゴリゴリチョコフレーク』を発売)、森永乳業『ダブルソーダ』(1983年〜2017年)などが販売終了(縮小)した際の衝撃も記憶に新しい。成毛さんは、「『ホームランバー』も“最近食べていないけれど、なくなったら寂しい”、そんな商品にしてはならない」と身を引き締める。

引き続き、キャンペーンにも工夫を凝らす。現在、マルチパックのプレゼント商品は、親子や恋人、友だちなどと“ペアルック”で楽しめるTシャツになっている。

引き続き、キャンペーンにも工夫を凝らす。現在、マルチパックのプレゼント商品は、親子や恋人、友だちなどと“ペアルック”で楽しめるTシャツになっている。

 全世代の認知度72%(協同乳業調べ)で、他社有名アイスブランドと比較しても遜色ない圧倒的な定番商品でありながら、今なおホームラン坊やの着ぐるみが稼働するサンプリングなどで消費者の「声」と「意識」に向き合い、味やプレゼントキャンペーンなどをアップデートさせてきた。ロングヒッターに奢らない、そうした“コツコツ野球”とも言うべき地道な取り組みこそが、『ホームランバー』が愛され続ける要因なのだろうか。

「シンプルではありますが、何よりも企業が諦めないことだと思いますね。低迷に陥っても投げ出さず、時代のニーズを見据えながら常に新たな仕掛けを打ち出し続けること。それがすべて当たらずとも、諦めずにトライ&エラーを繰り返すことが、これからもロングセラー商品であり続けるためのカギだと思います」(成毛さん)

(インタビュー・文/児玉澄子)