「車買取会社」の2012年度オリコン顧客満足度ランキングで圏外となり、危機感から社内改革を敢行。「同ランキングで1位になること」をKPI化し、3年かけて総合1位を果たす。1位獲得後は商標を大々的に利用。新規顧客は前年比を上回り、フランチャイズも増加。さらに、働く従業員の意識や意欲にも大きな変化が生まれた。
「2015年度オリコン顧客満足度」の『車買取会社ランキング』で総合1位に輝いたアップルオートネットワーク。車買取の草分け的な存在であり、早くから顧客満足向上を意識して実践してきた同社であったが、2012年度の同ランキングでは圏外。その結果を受けて一念発起した長谷川浩嗣社長は、「オリコン顧客満足度総合1位獲得」を社の目標に掲げて、サービスの向上に専心してきた。それからわずか3年で目標達成し、総合1位を獲得した。達成できた背景には、同社の顧客満足に対する意識の高さやKPIを設定し、成功事例を全店舗に水平展開するための仕組みづくりがあった。
昨年、創業25周年を迎えた車買取の老舗チェーン「アップルオートネットワーク」。1989年に、愛知県で3店舗からスタートした同社だが、今や全国に200数十店舗を構えるまでに成長した。中古車を適正価格で流通させ、消費者の中古車に対する不透明感を払拭するという、顧客目線のサービスを心掛けてきた同社だが、「2012年オリコン顧客満足度調査」の『車買取会社ランキング』では圏外という結果に終わった。
それを糧に、顧客の満足向上を成長戦略の柱に据え、「オリコン顧客満足度総合1位」を合言葉にサービス全般を見直し、「勉強会」「表彰制度」などさまざまな施策を打ち出し、わずか3年で見事目標を達成した。
1.中古車買取業界の現状/危機感からのスタート
損益分岐点が低くて利益が出やすいという車買取業のビジネスモデルに対して危機感を持っていた長谷川氏は、社長就任以降、「顧客満足の向上」に取り組んできた。 ところが、「2012年度オリコン顧客満足度ランキング」ではまさかの圏外。この結果を受け、社内改革に本格的に乗り出した。
中古車買取業界の現状とアップルの危機感
日本の自動車業界の最盛期は1990年で、当時の新車販売台数は777万5000台あった。それをピークに下落傾向となり、昨年は少し持ち直したものの、今では550万台まで落ち込んでいます。新車が売れないと中古車台数も増えませんから、そういう意味で、新車の販売台数にとても影響を受ける業界です。そのため、当社も以前は300数十店舗ありましたが、一時期は200店舗を割り込むような状況まで追い込まれた時期もありました。それでもやってこられたのは、損益分岐点が低くて利益が出やすいという、この業界のビジネスモデルの強みがあったからだと思います。とはいえ、参入障壁が低いこともあり、マーケットは縮小しても競合店は増えているといった厳しい状況です。
私が社長に就任したのは2008年で、将来を考えた時に、これからは顧客の満足を上げる努力が必要であると感じていました。そこで、最初に行ったのは、「お客様に感動を与えて、喜んでいただくこと」。それを企業理念に掲げて、全加盟店のオーナーに呼びかけることでした。今は車の需要よりも供給のほうが勝っていますから、単に車を売り買いするだけでは、生き残れない時代です。とくに、我々が行っている車買取は、価格で差別化しても一時的なものであって、それ以外のサービスの部分でお客様に訴求していく必要があります。
そういう思いで顧客満足向上に取り組んできたわけですが、2012年にオリコンから顧客満足度の高い「車買取会社ランキング」が発表されました。驚いたのは、そこには当社の名前はなかったこと。問い合わせると圏外の9位であることがわかりました。この業界の大手チェーンは10社ほどしかなく、当社は顧客満足向上の重要性を早くから認識し、「それなりにやっている」という自負はあっただけに、結果を知って愕然としました。まさに、我々のビジネスに大きな危機感を抱いた瞬間でした。
2.社内改革/顧客満足度ランキングをKPI化
圏外という結果を受けて、社内改革を推進。「オリコンで総合1位を獲る」という明確な目標を会社のKPIに設定し、それを社内外に大々的に発信した長谷川社長は、外部に委託して各店舗のサービスレベルを調査した。その結果を加盟店で共有し合い、改善箇所のための勉強会を定期的に開催したほか、表彰制度を設けて、店舗のモチベーションアップに繋げた。その成果は、数年かけて「顧客満足度ランキング1位」という結果となって表れた。
ランキングが生んだ「明確な目標」
圏外となった翌年の2013年に、社内で行う『ベストスタッフコンベンション』の場で、オリコン総合1位を獲ることを大々的に発信し、「お客様の満足度が1番高いチェーンを目指す」という大きな目標を改めて会社のKPIとして掲げました。それまでも顧客満足向上に努めてきたわけですが、指標となるものはありませんでした。ですが、「オリコン顧客満足度ランキング」が発表されたことで、当社のポジショニングや課題がわかり、社員に我々が目指すべき「明確な目標」を示すことができました。そういう意味では、オリコンのランキングで“圏外”だったのは良かったのかもしれません。中途半端な順位であれば、あまり燃えなかったかもしれませんからね(笑)。
実際に取り組むにあたり、今の我々がどういう状態にあるのかをさらに理解するため、外部に委託して全220店舗にミステリーショッパーを派遣し、各店舗のサービスレベルを調査しました。その結果を加盟店のオーナー会議で発表し、それぞれの課題点を認識してもらいました。さらに、「アップルアカデミー」と称する勉強会をFC加盟店向けに定期的に実施することにしました。そこでは具体的な事例を交えて、顧客満足度向上のために必要な心構え、スキル、必要条件などについて話し、重点的改善箇所についてのディスカッションなどを行っています。
1位獲得のための施策
改善点はいくつもありますが、複数のことを一度に行わせるのは無理なので、アカデミーでは分かりやすくポイントを2つに絞っています。1つは、店頭でお客様が席に着くまでに「ありがとう」を5回言ってもらうこと。そのためにどんな接客をすればいいかを考えます。丁寧な対応、わかりやすい説明、元気の良さ、提案力があれば、お客様は店舗に対して好感を持っていただけます。そうすれば、成約にもつながりやすくなります。だからこそ、お客様が来店された際の我々の行動は重要だととらえています。
もう1つは、当社を利用するメリットをお客様にしっかり伝えること。当社と競合店とを比較すると、「うちのメリットをしっかり伝えること」ができていなかった。そこで、商談する際に、これまで当社では当たり前と思っているようなことも、言葉にしてきちんとお客様に伝えることにしたのです。実際、この2つに絞って改善していくだけでも効果がありました。加えて、評価のアップした店舗に対しては表彰を行い、モチベーションのアップに繋げた結果、「オリコン顧客満足度ランキング」の順位は、2014年度で3位、2015年度ではついに総合1位になることができました。
3.商標活用/副次効果
アップルでは、「オリコン顧客満足度1位」の商標を店頭のチラシやのぼり、公式サイトなど、さまざまなものに活用。その効果は、新規顧客の増加、加盟店の増加など、目に見える形となって表れているという。また、顧客満足度1位であることが従業員の意識の変化に繋がったことが何よりも大きな成果であったという。
目に見える形で現れた「オリコン1位」の効果
顧客満足度ランキングをKPI化して改善に取り組んだことで、初めて車買取を利用したという新規顧客の割合が前年と比較して、2.4%もアップしました。広告出稿量を増やしたわけではないので、新規層の伸びは「オリコン顧客満足度1位」の効果が表れていると感じています。また、買取り店の利用経験があり、アップルの利用が初めてというお客様も3.3%アップしました。
そのほかにも、「オリコン顧客満足度1位」の商標を店頭のチラシやのぼり、地域新聞などに利用して我々の魅力を広くアピールしていますが、その効果も実感しています。その一例として挙げられるのが、「加盟したい」というフランチャイズの申し込みの増加です。我々から積極的に店募集は行っていないのですが、申し込みは増えており、今年に入ってすでに10店舗ほど新規オープンしています。
もう1つ、1位になれたことで、従業員の意識にも大きな影響を与えていると思います。自分は日本で一番顧客満足度の高い車買取チェーンのスタッフであると誇りを持って働くことができますから、それが自然と立ち居振る舞いにも表れてきます。雇用やリクルートなどの面でも、プラスに働いていると感じます。
4.ランキングを重視する意味/業界のマーケット拡大とイメージアップを目指して
事あるごとに長谷川社長は、アップルが「オリコン顧客満足度1位」を目指していることを業界内外に積極的に発信してきた。その真意は、車買取業界全体のサービスの質の向上が業界のイメージをアップさせ、それがマーケットの発展、ひいては自社の事業拡大に繋がると考えているからである。
業界全体で顧客満足向上に関心を持つことが重要
我々は「オリコン顧客満足度1位」を目指しているということを業界内外に積極的に発信している。理由は、そうすることで、同業他社も顧客満足への関心が高まるはずだと認識しているから。そうなれば、車買取業界全体のサービスの質が向上し、誰もが安心して利用できるようになり、結果として集客増に繋がります。
全体のパイが広がれば、当社へのお客様も増えますし、フランチャイズも拡大していく。そういう発想のもと、当社は顧客満足向上に力を入れ、オリコンのランキングにこだわり、教育システムも立ち上げているわけです。とはいえ、業界全体で見ると、まだまだ当社のような考え方のチェーンは少ないように思います。業界の発展のためにも、当社は「オリコン顧客満足度」の指標を活用して、いっそう顧客満足向上を追及していきたいと考えています。
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