オリコン顧客満足度(R)調査の各種ランキングで1位を獲得した企業のトップへのインタビュー企画【トップの理由】。今回は2021年のオリコン顧客満足度(R)調査において、個別指導塾で唯一の4冠(スクールIEが「大学受験 個別指導塾 現役 首都圏」「高校受験 個別指導塾 東北」「高校受験 個別指導塾 東海」「高校受験 個別指導塾 甲信越・北陸」ランキングで総合1位)を獲得された、やる気スイッチグループ・高橋直司社長のご登場です。前編では、質の高いサービスを形成するカギの1つとなる同社流のコミュニケーションについて。後編では、“第二創業”で力を注ぐ「協働」など、今後の展望について伺いました。
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新型コロナウイルスの感染拡大によって、問題視されたことの1つが「子どもたちの学び」への影響。過去に類を見ない世界的有事に学校はもちろん、教育産業も緊急対応を余儀なくされるなか、好調の波に乗っているのが総合教育サービス企業・やる気スイッチグループです。2021年、同社は「第39回 日経MJサービス業調査 学習塾・予備校部門」の売上高ランキングで第1位に。また、創業時からの主力事業「スクールIE」は、オリコン顧客満足度(R)ランキングにおいて「個別指導塾」で唯一の4冠を獲得するなど、売上高・満足度ともに業界トップの評価を得ています。さまざまな場面で“新たな様式”が求められるなか、どのような取り組みを行うことで成長曲線を描けているのでしょうか。
1.才能や可能性を輝かせるためには、モチベーションをエネルギーに変えることが重要
──2021年は、やる気スイッチグループ全体の躍進の年だったとのことですが、「スクールIE」については調査開始以来、一貫して高い評価を得ています。「個別指導塾」のサービスを提供するうえで大切になさっているポリシーをお聞かせいただけますか。
高橋さん 私たちは、1人ひとりが持つ才能や可能性を「宝石」と呼んでいます。その宝石を輝かせるためには、それぞれの中にあるモチベーションをエネルギーに変えることが重要です。学力向上は大切ですが、その大前提としてお子さま自身が「自分のやる気スイッチをONにする」。講師のみなさんには、コーチングの要素に重点を置いた指導を心がけてもらっています。結果として、お子さまが自ら考え、行動し、能動的に学ぶ姿勢を養えている、それが顧客満足度にも表れているのだと思います。保護者との面談でも、「家ではまったく勉強しなかった子が、自主的に机に向かうようになった」といった声を非常に多くいただきます。
──一般に学習塾は、「学校教育の補完的役割」「試験・受験に合格するためのテクニックを教えてもらうところ」といったイメージがありますが、高橋社長は「学習塾の役割」をどのようにお考えでしょうか。
高橋さん 受験対策の側面はたしかにありますし、手応えを感じていただけているからこそ評価にもつながったのだとは思います。しかし、子ども自身が自らの将来像を描いたり、夢を持ったりすることができなければ「合格」で手にした進学がゴールになってしまいます。
私たちが提供したいのは学力の向上だけではなく、「子どもたちが自分の人生を自分でデザインする力=自分力」を社会に出る前に身につけられるよう伴走をすることです。またそうした指導は、大人が子ども1人ひとりに寄り添い、ペーシング(それぞれの相手にペースを合わせコミュニケーションすること)し、サポートする個別指導塾だからこそ実現できるものだと考えています。
2.調査データのほか、保護者や生徒たちの「生の声や姿」を組織として共有
──堅調に成長してきた教育産業ですが、コロナ禍の影響などにより2020年度はマイナスに転じました。一方で、御社は順調に業績を伸ばしています。この間にとくに強化した取り組みをお聞かせいただけますか。
高橋さん 2020年3月に「子どもの学びを止めないプロジェクト」を立ち上げ、休校要請の期間中には小学1年生から高校3年生までの全学年・全教科、未就学児向けの知育や英語などの映像授業を無償提供しました。また、従来行ってきたバックアップシステムもより密に、本来は来塾するはずだった時間に必ず保護者の方々や生徒さんへ電話連絡を行いました。コロナ禍という誰もが不安な時期に既存顧客にしっかりと寄り添い、信頼を得てきたことが、ひいては紹介による新規入会の増加にもつながっているのではないかと思います。
──2021年は7つのスクールブランドのほとんどで入会者数が過去最高を記録。現在、やる気スイッチグループ全体の国内外の生徒数は11万人を超えました。
高橋さん 2021年は教育業界の老舗・学研グループ(学研塾ホールディングス)さんとの提携による合弁会社・YGCを設立したほか、LIVE中継で世界とつなぐ英会話レッスン「グローバルLIVE英会話」のコンテンツを他塾に提供、本格的なプログラミングが学べる「プログラミング教育HALLO」のフランチャイズ加盟募集など、同業他社との協業が進んだ年でもありました。
ブランドの展開がさらに多角的になる一方で、ブランド間の連携を強化し、相互での送客を推進しています。各ブランド・学習サービスに愛着を持って取り組んでくれた社員たちのおかげで、新規事業も順調に伸びています。ちなみに、先ほど申し上げた「バックアップシステム」の強化は、もともと現場から上がってきたアイデアでした。スタッフも感染対策などを含めて大変ななか、歩みを止めず頑張ってくれたことに感謝しています。
──新規事業を立ち上げるにあたって、消費者ニーズはどのように掴んでいるのでしょうか。
高橋さん 弊社では年2回、全会員(在籍生徒)に向けたお客さま満足度調査を実施しており、毎回1万人以上から回答をいただいています。また、会員組織「やる気スイッチプレミアムクラブ」でもアンケート等を実施し、さまざまな項目を定点観測・分析しています。弊社の強みは、各教室が定期的に行っている面談も含めて、保護者や生徒たちの「生の声や姿」をたくさん収集できること。そうした膨大なデータを組織として共有することで、サービスの改善や質の向上はもちろん、新規事業の構想や構築にも活用しています。
3.「子どもの可能性を広げるすばらしい仕事」という本質と向き合うためにも、適正な評価と達成感を
──御社のスクール事業は、主に「フランチャイズ(以下、FC)」で全国展開されています。それゆえに「高品質なサービスを均一」に提供する難しさもあるかと思うのですが、どのように実現されているのでしょうか。
高橋さん 私が代表に就任した2018年より意識的に取り組んできたことの1つが、「本部とFCの良好な関係の構築」と「FCオーナーの本部に対するロイヤルティの強化」です。その成果として、「それぞれの教室の収益拡大」と「(FCオーナーの)複数開校による規模拡大」の好循環を生むことを目指してきました。
2019年からは全ブランドのFCオーナーが一堂に会する「やる気スイッチグループ オーナー総会」を年1回開催しています。それ以前もブランド単位の「オーナー会議」は定期的に実施していたのですが、全ブランドに通底する「やる気スイッチグループ」としての理念を改めて共有し、ブランド同士の良き連携が生まれることを期待して、新たに合同開催の場を設けました。また同年には、「やる気スイッチオーナーズクラブ(YOC)」を発足。FC加盟社としての実績が高いオーナーに、年1回の研さん会やトライアル施策への優先参加などの特典を提供しています。
──全国のスクールIEの教室に在籍する講師全員を対象に授業スキルを競う「やる気スイッチ先生コンテスト」(年1回開催)は、本部ではなくFC側から発案された企画だったとか。FCが能動的に「やる気スイッチグループ」全体の質の向上に取り組んでいることがうかがえるエピソードです。
高橋さん 私も現場が長かったのでよくわかるのですが、個別指導塾の講師が提供するのは教育という目に見えないものですから、「自分がしているのは子どもの人生の可能性を広げる素晴らしい仕事である」という本質もつい忘れがちになります。コンテストには、講師たちが常に本質と向き合うためにも適正な評価と達成感を得て成長してもらいたいという、FCオーナーたちの願いが込められているのだと感じました。
──そのほか、現在はFCに対してどのようなサポートに注力されていますか。
高橋さん 直営教室とFC教室の合同で教室長研修を行っているほか、FC教室に対して直営教室の「クオリティサポート」を導入。運営・経営指導の担当者である、スーパーバイザーのスキル向上にも取り組んでいます。また私が代表に就任して掲げた“第二創業”において、FC教室に対しても本部・直営教室と同じコア・コンピテシーを軸とした人事評価制度を導入し始めており、引き続き力を入れてまいります。
4.成長し続けていくためには「インプット」がとても大切
──本部のお話も聞かせてください。一般に顧客満足度の高い組織は従業員満足度も高いと言われますが、御社ではいかがでしょうか。
高橋さん 従業員エンゲージメント調査を年2回行い、さまざまな項目において従業員の期待値と満足度の推移やそのギャップやなどを分析しています。寄せられる声もさまざま。決して良いものばかりではありませんが、離職率については減少傾向にあり、2018年以降は現在までに半減しています。
──スキルやノウハウを蓄積したベテラン社員が増えているのですね。
高橋さん はい。そのこと自体は良いのですが、一方で若手の活躍が目立ちにくいという声もありました。そこで立ち上げたのが、入社1〜2年目の若手社員を対象とした「ナレッジ&ソウル コンテスト」。それぞれの職場で学んだことや創意工夫したことを社員の前で発表し、優秀者を評価する表彰制度です。また、定量・定性評価をもとにした年1回の「YARUKI SWITCH AWARD」のほか、社員自身がMVP社員を選出する恒例のアワード「あなたが選ぶやる気スイッチグループ 年間MVP」も実施しており、社員の意欲向上につながっていることを感じます。
──評価のほか、社員の成長を促す取り組みをお聞かせいただけますか。
高橋さん 仕事というのはアウトプットの連続ですが、それだけでは疲弊してしまいます。成長のためにはインプットすることがとても重要であり、そのために設けたのが9日間連続のリフレッシュ休暇制度です。制度利用者には報奨金も支給しています。用途は自由ですが、何かしら自己研さんにつながることに使ってもらえることを期待しています。
当社の研修プログラムは見学に来られた他塾さんからも評価されるほど内容が充実していると自負していますが、今後はさらに社内大学「やる気スイッチみらいカレッジ」を設け、研修の体系化を進めていきます。子どもたちの成長を促す立場である自分たち自身も学び、成長することがこの仕事には大切です。今後もさまざまな形で社員に学ぶ機会を提供していきます。
(インタビュー・文/児玉澄子)
【インタビュー後編】
>やる気スイッチ、躍進のカギは「協働」 同業他社との連携でさらなる市場活性へ
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プロフィール
高橋直司(株式会社やる気スイッチグループ 代表取締役社長)
たかはし・なおし●1969年生まれ、静岡県出身。横浜国立大学経営学部を卒業後、1998年に前身の株式会社拓人へ入社。個別指導塾「スクールIE」の生徒・教室数の増加をはじめ、英語で預かる学童保育「Kids Duo」など新規事業の立ち上げに貢献。2013年に拓人こども未来代表取締役社長、2015年にやる気スイッチグループホールディングス専務取締役を兼務。2018年2月に、やる気スイッチグループホールディングス(現・やる気スイッチグループ)の代表取締役社長に就任。