トップの理由

やる気スイッチ、躍進のカギは「協働」 同業他社との連携でさらなる市場活性へ/高橋直司社長インタビュー【後編】

やる気スイッチグループ 代表取締役社長・高橋直司さん

オリコン顧客満足度(R)調査の各種ランキングで1位を獲得した企業のトップへのインタビュー企画【トップの理由】。今回は2021年のオリコン顧客満足度(R)調査において、個別指導塾で唯一の4冠(スクールIEが「大学受験 個別指導塾 現役 首都圏」「高校受験 個別指導塾 東北」「高校受験 個別指導塾 東海」「高校受験 個別指導塾 甲信越・北陸」ランキングで総合1位)を獲得された、やる気スイッチグループ・高橋直司社長のご登場です。前編では、質の高いサービスを形成するカギの1つとなる同社流のコミュニケーションについて。後編では、“第二創業”で力を注ぐ「協働」など、今後の展望について伺いました。
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 世界的な新型コロナウイルス感染症の流行という過去に類を見ない有事においても、売上・満足度ともに業界をリードするやる気スイッチグループ。その背景には、既存事業のブラッシュアップとともに、未来を創るための種まきをし続けてきたことが大きく影響しているようです。グループの“第二創業”を掲げ、2018年に代表取締役社長に就任した高橋直司さんに、教育産業に懸ける思い、今後の展望について伺いました。

1.「覇気」のない子どもがあまりにも多いと感じ、入社時から奔走

やる気スイッチグループの企業CM(2021年)より

やる気スイッチグループの企業CM(2021年)より

──高橋社長は2018年に代表に就任。グループの“第二創業”を標榜し、既存事業のブラッシュアップとともに、新規事業の開発・展開、組織改革に取り組んでこられた、その思いについてお聞かせいただけますか。
高橋さん 私が「やる気スイッチグループ」に入社したのは1998年のことです。個別指導塾「スクールIE」を軸にフランチャイズ(以下、FC)教室の展開を始めた頃で、私も新規開校のため全国を飛び回り、生徒さんや保護者の方々と触れ合ってきました。その時にとても気になったのが、「覇気」のない子どもがあまりにも多いことでした。

 学習塾が学力向上や受験突破を求められるのは当然です。しかし、その前段階として、生き生きと未来への夢を描ける子どもたちを育てることが重要なのではないか。そうした仮説のもと、2001年に立ち上げたのが幼児教室「チャイルド・アイズ」でした。

──その後もキッズスポーツ教室「忍者ナイン」や、英語で預かる学童保育「Kids Duo」など、高橋社長を中心に次々と幼児教育ブランドを開発してこられました。
高橋さん 「スクールIE」から始まったやる気スイッチグループですが、現在、直営教室では生徒数が幼児・小学生のほうが多くなっています。もちろん、「生徒・保護者とのコミュニケーションに重点を置いた個別指導塾」というオペレーティングシステム(以下、OS)があったからこそ、新規事業を展開してこられたところは大いにありました。

──幼児教育の充実によって、やる気スイッチグループ全体にどのようなシナジーが生まれていますか?
高橋さん 個別指導塾というと、どうしても「学校教育や集団授業についていけない子が通う塾」といったイメージを持たれることもありますが、私はそれを変えたいのです。フルオーダーメイドのカリキュラムによって、子どもたちの才能がさらに伸びるのが「個別指導塾」であるという発想に、ですね。事実、やる気スイッチグループのOSを活用した幼児教室では、子どもたちがぐんぐんと可能性を花開かせています。

「チャイルド・アイズ」ではIQが上がり、バイリンガル幼児園の「Kids Duo International(KDI)」に通う未就学児の1割程度が英検準2級、4割位のお子さんが3級に合格。またKDIのカリキュラムには「忍者ナイン」のスポーツバイオメカニクスにもとづいた運動指導が含まれており、卒園生は小学校でリレーの選手に選抜されることが多いといった話をよく聞きます。幼児教育部門への信頼感は確実にやる気スイッチグループ全体、ひいては中学生、高校生が通う「スクールIE」のブランド力向上につながっています。

2.志の高いみなさんとともに、日本の学習サービス業界を底上げしたい

──2021年は、御社にとって大きな飛躍の年だったと伺いました。その背景には、2020年に立ち上げた新規事業や同業他社との協業が進んだことが大きかったとのこと。塾業界も大きな打撃を受けたコロナ禍において、攻めの姿勢でいられたのはなぜだったのでしょうか。
高橋さん 新規事業の多くはコロナ前から準備を進めており、もう少し先のリリースを予定していたのですが、このタイミングにスピードアップをしました。その根底にあったのが、「子どもの学びを止めない」という思いです。将来、子どもたちが2020年〜21年を振り返った時に「嫌な年だったな」と思うであろう、その記憶をすり替えたかったのです。

 たとえば10数年後、「あの年に『プログラミング教育HALLO』に出会ったから」プログラマーとして活躍できている」とか、あるいは「『グローバルLIVE英会話』で英語が面白くなって、海外で仕事をしている」とか、子どもたちにとって新たな学びと自分の可能性に出会った思い出の年になっていたら、こんなにうれしいことはありません。

──2020年には、小学生向けの21世紀型スキル育成スクール「思考力ラボ」も立ち上げ。2021年夏休みには生徒たちが春日井製菓の『スイッチONタブレット』のリニューアルプロジェクトに参画し、いよいよこの3月に商品が発売されます。これも子どもたちにとって思い出深い体験になったことでしょう。

  • 2020年に立ち上げた、小学生向けの21世紀型スキル育成スクール「思考力ラボ」のロゴマーク

  • 「思考力ラボ」に通う小学生と春日井製菓が共同企画した、ラムネ商品『スイッチONタブレット』(2022年3月発売))

    「思考力ラボ」に通う小学生と春日井製菓が共同企画した、ラムネ商品『スイッチONタブレット』(2022年3月発売))

高橋さん 現代の子どもたちにとって、実社会はどんどんバーチャルなものになっています。コロナ禍においては買い物もオンラインが盛んに。物品がどのようにして作られ、消費者の手元に届くかがますます曖昧になっています。そうでなくても、「子どもの将来なりたい職業ランキング」には、メディアに出てくるような職業ばかりが上位に挙がります。そんな子どもたちが20歳前後で社会に出て行ったとしたら──という危惧は常々ありました。

 弊社では、たとえば「スクールIE」で個性診断テスト(ETS)を職業と紐付けするなど、すべてのブランドにおいて「子どもと実社会の地続きのつながり」を意識しています。一方、現在は社会貢献活動の一環として、子どもたちとの関わりを持ちたいと考えている企業さんもたくさんあります。教室を飛び出した実社会とのコラボの機会は、これからさらに広げていきたいと考えています。

──他社とのコラボレーションでは、同業他社との協業がとくに際立っていた印象です。学研塾ホールディングスとの合弁会社・YGCを設立、「グローバルLIVE英会話」のコンテンツを他塾に提供するなど、これらの動きにはどのような狙いがあるのでしょうか。
高橋さん 一番にあるのは志の高いみなさんとともに日本の学習サービス業界を底上げしたいという思いです。幼児〜小学校低学年は「学ぶ姿勢」や「生きる力」を養うとても大切な時期ですが、そもそもこの世代を対象とした教育コンテンツはそれほど多くありません。

 そうしたなかで弊社は20年あまりをかけて幼児教育を追求し、優れたコンテンツを生み出してきた自負があります。それらを他塾さんに活用していただくのはもちろん、運用・開発コストを同業他社さんとシェアすることで、今後はこの分野のさらなる充実が図れるであろうとも考えています。

3.時代とともに、学習塾は「地域コミュニティ」としても機能するように

やる気スイッチグループ 代表取締役社長・高橋直司さん

やる気スイッチグループ 代表取締役社長・高橋直司さん

──コロナ禍の打撃はあったものの、教育サービス業界は少子化においても堅調に成長してきました。この業界に対する社会の期待をどのように受け止めていますか。
高橋さん 何よりも、日本の将来を担う子どもたちへの不安が、逆に民間の教育サービス業界への期待につながっているのだと思います。もっとミニマムなところで言えば、学習塾は今や地域コミュニティとしても機能するようになったのではないかと感じます。

 現代では地域で子どもを育てるような文化はすっかりなくなり、子どもが家族や学校の先生以外の大人と交流する機会はほとんどありません。そんな子どもが就職して、いきなり他世代と渡り合っていくのは、ある意味とても酷なことです。塾という安全な場で、「近所のちょっと年上のお兄さん、お姉さん」のような塾講師と触れ合うことは、子どもたちの社会性の形成にも役立っているのではないかと思います。

──最後に、afterコロナも見据えた今後の展望をお聞かせください。
高橋さん まず、同業他社との協業は、今後さらに強化していきたいと考えています。新たな事業としては、小学校低学年を対象にした中学校受験準備講座「中受脳育成講座・アストルム」がスタートします。また、やる気スイッチグループのお子さまの成長や、そのために行ったサポートを振り返り表彰する「やる気スイッチ大賞」を新設。一方で、既存事業も現場のスタッフたちが非常に意欲的に取り組んでくれていて、まだまだ伸びる可能性を感じています。

 コロナ禍においては、既存顧客とのコミュニケーションを大切にしてきたことが、業績の伸長にもつながりました。今後も日々の業務を丁寧に粛々と積み重ねていくことを何よりもの基本に活動してまいります。

(インタビュー・文/児玉澄子)

プロフィール

やる気スイッチグループ 代表取締役社長・高橋直司さん

高橋直司(株式会社やる気スイッチグループ 代表取締役社長)
たかはし・なおし●1969年生まれ、静岡県出身。横浜国立大学経営学部を卒業後、1998年に前身の株式会社拓人へ入社。個別指導塾「スクールIE」の生徒・教室数の増加をはじめ、英語で預かる学童保育「Kids Duo」など新規事業の立ち上げに貢献。2013年に拓人こども未来代表取締役社長、2015年にやる気スイッチグループホールディングス専務取締役を兼務。2018年2月に、やる気スイッチグループホールディングス(現・やる気スイッチグループ)の代表取締役社長に就任。