トップの理由

住宅ローン残高が昨対比20%超え コロナ禍でも好調のソニー銀行の姿勢/南啓二社長インタビュー【後編】

ソニー銀行 代表取締役社長・南啓二氏

「オリコン顧客満足度調査」の各種ランキングで1位を獲得した企業のトップへのインタビュー企画【トップの理由】。今回は、「住宅ローン」ランキングで顧客満足度11年連続総合1位、「外貨預金」ランキングで2年連続総合1位をキープする、ソニー銀行・南啓二社長のご登場です。南さんは、この6月に社長に就任されたばかり。前編では、開業から20周年を迎えた「ソニーによる銀行」の独自の企業文化について。後編では、新型コロナへの対応や今後の展開イメージなどについて語っていただきました。
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 ソニー銀行の住宅ローン残高は、2020年6月末に2兆円を突破しており、21年3月末の時点では前年度末に比べて4320億円(約22%)増加の2兆3668億円を計上しています。コロナ禍にあったにもかかわらず、年間増加額としては過去最高。その背景にはどのような取り組みがあったのでしょうか。そして、働き方・ライフスタイルが大きく変化しつつある現在から未来へ、同行はどのように進化しようとしているのでしょうか。

コロナ禍での縮退は2割程度に抑え、業務体制を8割以上は維持

ソニー銀行 代表取締役社長・南啓二さん

ソニー銀行 代表取締役社長・南啓二さん

――住宅ローンに求められるニーズは、時代性や状況によって刻々と変化するものだと思います。とくに昨年来の新型コロナウイルスによるパンデミックは、どのような影響をもたらしているのでしょうか。
南さん 2020年度というのは、新型コロナウイルスの感染拡大によって、世の中の働き方もライフスタイルも見直しが進んだ時期だったと捉えています。リモートワーク推奨や外出自粛要請などにより在宅時間が増えたことで、改めて住環境の大切さを考える機会になった方も多いのではないでしょうか。そういった流れから、来店が不要で、自宅にいながら各種の手続きが可能である私たちのようなネット銀行に注目していただくことも増えたのではないかと思っています。

 そういったなか、ソニー銀行では、オンライン相談や専任のローンアドバイザーによるサポートの充実、団体信用生命保険も含めたトータルコストなどの商品性を評価していただけたことが、今回の過去最高の住宅ローン年間増加額達成につながったということなのかと考えています。

ソニー銀行の住宅ローン残高の推移

ソニー銀行の住宅ローン残高の推移

――UIターンや郊外に移って「自分の家を持つ」という選択をする人が増えてきたのでは、との分析もあります。そうしたニーズに向けての取り組みは、どのようなものがあったのでしょうか。
南さん コロナ禍のタイミングだからと、ビジネスをあえて拡大したとか、特別なことをやったとかいうわけではありません。ただ、機能を部分的に一時停止させるいわゆる縮退については2割ほどで済ませ、業務の稼働を8割以上は維持できました。これは大きかったのだろうと思います。

 もちろん、感染リスクがあるので出社をどうするのかという問題は当然ながら真剣に議論しましたが、実は現場の事務などを担当する社員の側から「お客さまにとっては一生に一度、人生最大の買物なのに、それを新型コロナのせいで遅れさせたり諦めさせることは避けたい」といった声が強くありました。出社が必要な仕事についてはちゃんと進めたい、ここでしっかり対応しないと存在価値がない、やりきりましょうという非常に前向きな意見です。

 そこで、管理・営業部門は極力在宅に切り替えることで、フロアに十分なスペースとディスタンスを確保し、事務ラインを稼働させて対応にあたりました。縮退した領域については、社員を感染リスクから守るためです、という説明を外部の取引先などに行い、ご理解をいただきました。

――そうした取り組みがあったからこそ、住宅ローン残高で年間増加額としては過去最高の約22%アップを達成できたということですね。
南さん そうした社員の思いや姿勢はありがたいことにお客さまだけでなくデベロッパーさんにも伝わり、評価していただけたようです。期待に応えたい、そういうスピリッツが伝わったのだと思います。

 コロナ禍というのはお客さまとの接点づくりに苦戦する時代でもありますが、先ほど申し上げた「テレプレゼンスシステム」を活用したリモート相談のトライアルなど(詳細は、前編「ソニー銀行、高い満足度の原動力は「総合力」で生まれるシナジーとソニーのDNA」を参照)、グループの知恵と技術を動員しての取り組みが功を奏したという面ももちろん大きくあります。

 そうやって、ある意味では愚直に仕事を続けることで評価されれば、業績はきちんと伸びる。業績が伸びる、売上が上がるということは、つまりお客さまにご支持いただいているということです。これは、社員にとっての明確なモチベーション向上につながります。

 どうやったらみんなに喜んでもらえるか真剣に考え、しんどい時もあるかもしれないけれど懸命に仕事をして期待に応える。そうすることで充足感が得られ、結果として報酬にも反映するという好循環にもなり得ます。もちろん、それを実現するために評価などの人事制度を整える取り組みも行っています。つまり、顧客満足度が上がれば、従業員満足度も上がる仕組みですね。

※テレプレゼンスシステム…4K超解像技術やテレプレゼンス環境に最適化した視認性制御技術、および4K映像の縦型配置に関するノウハウを活用することで、離れた場所同士であっても“同じ空間にいるような自然なコミュニケーション”を実現するシステム。

2.商品性だけでなく、人を経由してプラスされる感動を大切に

――顧客からの声を反映し、良質な商品・サービスへの改善につなげていくために、何か特別な取り組みなどはされているのでしょうか。
南さん 特別な取り組みは行っていませんが、お客さまの声、VOC(Voice of Customer)をきちんと業務に活用するということ自体は、それこそ開業当初から意識して積極的に取り組んできています。結果としてすでに業務の一部として仕組み化され、むしろルーティンな当たり前の作業になっています。

 住宅ローンの借入後や途中でキャンセルされたお客さまにアンケートにお答えいただく、クレームやお叱りは共有する、不動産業者さんや銀行代理業の方などと日々の営業活動で接する現場からの声にも真剣に向き合う、といった作業は常に行っています。やりましょう、といって取り組むのではなく、当然のこととして日々やる。そういう状況です。

ソニー銀行では、定期的に社内勉強会も行われている

ソニー銀行では、定期的に社内勉強会も行われている

――お話をうかがっていると、仕事に対して非常に真摯かつポジティブな社員の方が揃っているのだな、という印象です。2021年 オリコン顧客満足度 住宅ローンランキングでは、評価項目別「担当者の対応」の項目で第2位となりましたが、これはネット銀行としてはトップの評価です。
南さん たとえば住宅ローン関係でいえば、デベロッパーさんなどから話を聞いてみると、「ソニー銀行の営業さんはとてもイキイキと仕事をしていますね」といった評価が多いんです。これは実は、最大の武器だと考えています。

 チャットでも電話でも、イキイキと働いているかどうかは伝わるもの。ソニー銀行では、お客さまのことを真剣に考え、お客さまの期待に真摯に応えたいという思いを持って、社員が対応しています。商品力だけでなく、そこに人を経由してプラスされる感動やワクワクする喜びのような部分を大事にしていきたい。住宅ローンを借りていただくお客さまには、必ず担当を1対1で付けて、コミュニケーションしています。もしそこの人件費をバサっと削って金利を下げたら、おそらく収益性はアップすると思うのですが。

ソニー銀行では、ネット銀行でありながら経験豊富な住宅ローンアドバイザーが個別ブースで相談に応じる「ソニー銀行 CONSULTING PLAZA」というスペースも用意している

ソニー銀行では、ネット銀行でありながら経験豊富な住宅ローンアドバイザーが個別ブースで相談に応じる「ソニー銀行 CONSULTING PLAZA」というスペースも用意している

――とはいえ、そうした目先の利潤のためのドライな選択はしないのが、「ソニーの銀行」であると。
南さん そう、ソニーの銀行は絶対それをやらない。やっちゃダメなんです(笑)。持続的なサービスのためには、手をつけてはいけない領域というのをしっかり持っている。そうやって時間をかけて育んできたお客さまに接するマインドや、人に寄り添う基本的なスタンスというものが、コロナ禍ではプラスに働いたということなのだろうと思います。

3.新たな商品・サービスでも存在感を出すのが今後のミッション

――今後の展望についてお聞かせください。開業から20周年という節目にあたって、さらなる飛躍・成長にとってカギとなるのは、どんな要素だとお考えですか。
南さん 社内でよく話しているのは、「光り輝くソニー銀行をもう一度」ということですね。開業当時から、画期的なことをいくつもやってきた。かなりの手続きがネットで可能で、人と会わずに住宅ローンの契約ができる。外貨預金も、海外で外貨預金が引き出せるVisaデビット付きキャッシュカード Sony Bank WALLETと連携していますし、お客さまからもきちんと選んでいただけています。

 ですが、このところ、なかなか新しいサービスや商品で世の中的にも銀行業界内でも、「すごいな、ソニー銀行」と言われるようなものを出せていないのかな、という思いはあります。ですから、代表取締役社長としての私のミッションは、前任者たる諸先輩方が構築してきた信頼と実績をきちんと引き継ぎつつ、今の金融機関が消極的になっているような分野でも存在感を出せるようなチャレンジをしていきたいと考えています。

ソニー銀行 代表取締役社長・南啓二さん

――それは現状、どのような方面での挑戦になりそうでしょうか。
南さん 金融領域全体で考えると、たとえばNFT(非代替性トークン)や暗号資産など取り組めることはあるかもしれません。ですが、そこでも判断の際に大前提となるのは、あくまでお客さまのニーズに応えられるものかどうか、という点。

 そういう意味では、テレプレゼンスシステムをさらに進化させたような、非対面というより疑似対面的なシステムはお客さまとのインターフェースとして有効でしょうし、ホログラムなど先端テクノロジーを使って空間に3D映像が投影されるようなシステムなども活用していきたいですね。

――住宅ローンの世界では、どのような展望をお持ちですか。
南さん 実はいわば、「ダイナミック住宅ローン」とでも呼べるようなサービスに挑戦したいと考えていて、以前からアイデアを温めています。現状の住宅ローンでは、お客さまご自身が金利は固定と変動を選べますし変更もできますが、返済額についてはそうもいきません。

 ですが、たとえば結婚してお子さんが生まれたら、幼稚園から中学、高校、大学と成長に応じて支出もどんどん変わる。家を買うのも大きな出来事ですが、貯蓄も保険も資産運用も大事。そうしたライフステージの変化に応じた対応ができないか、リサーチと研究を続けているところです。

――そこでもやはり、発想の起点は「お客さまの気持ちで考える」ということに尽きるわけですね。
南さん お客さまに寄り添って動く、そこだけはブレずにやっていこうと思います。お客さまが求められているもの、より良いものを真面目に愚直に作り続け、選んでいただくために努力する。そういう意味では、住宅ローンではこれまで借りていただいているお客さまのことを最重視してきましたが、住宅に関係するのは住宅を売る人、建てる人なども含まれます。

 不動産業者さんや代理店さん、あるいは司法書士さんなども巻き込んで、広く住宅にまつわるエコシステム全体をお客さまと捉え、丸ごとの満足度を上げていくという方向でも、サービスを考えていけたらと思っています。
(インタビュー・文/及川望)

【インタビュー前編】
>ソニー銀行、高い満足度の原動力は「総合力」で生まれるシナジーとソニーのDNA
>「トップの理由」インタビュー 一覧

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プロフィール

南啓二(ソニー銀行株式会社 代表取締役社長)

南啓二(ソニー銀行株式会社 代表取締役社長)
みなみ・けいじ●徳島県出身。1990年、早稲田大学大学院を修了、三和銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。2008年よりヤフー株式会社へ。10年、ソニー銀行株式会社へ入社。マーケティング部長を経て株式会社スマートリンクネットワーク(現・ソニーペイメントサービス株式会社)取締役執行役員常務、取締役専務執行役員。19年よりソニー銀行で執行役員・執行役員常務を歴任、21年6月より代表取締役社長に就任。趣味はランニングで、フルマラソン経験もある。