特集

“ハラスメント恐怖症”で職場崩壊? 上手に「叱る」ためのコツ

3.話し方を少し意識するだけで、相手からの印象はガラリと変わる

たとえば、相手を注意をするのにも、“話し方”次第で相手に与える印象は大きく異る(FineGraphicsさんによる写真ACからの写真)

たとえば、相手を注意をするのにも、“話し方”次第で相手に与える印象は大きく異る(FineGraphicsさんによる写真ACからの写真)

――以前は、プロジェクトなどのチーム内に、いわゆる“怒られ役”を設定して、その人をあえて集中的に叱ることでチーム全体をひきしめる、といった方法論もありました。現代ではそれは通用しなくなっているのでしょうか。
石井 その方法論は、今やかなりハイリスクです。ハラスメントはそもそも、自分がされていなくても、同僚がされているのを見せられたり聞かされたりするだけでも成立します。そういう意味で、仮にその“怒られ役”との間で入念な事前・事後の打ち合わせや了解ができていたとしても、周囲が不快になって職場環境が悪化してしまうのではNG。意思疎通がないのはもちろん問題外ですが、あったとしても、了解を得る際に「優越的な地位」が発動してしまっている可能性も考えられますよね。

――そこでも、「信頼関係を構築できている」と思い込むのは危ないということですね。
石井 はい、思い込みは非常に危険です。ただ、とても多いのも確かです。これは職場に限りませんが、よく「コミュニケーションがスキルやテクニック優先になるのは嫌だ」といった意見も聞きます。その感覚もとてもよくわかります。ですが、技術でどうにかなる部分というのも確実にあるとしたら、それを自分なりに活用したほうがスマートだと思います。あくまでテクニック的な部分は入口であって、そこから先はやはりその人の人間性、相手との関係をどう築いていくかが重要になってくるわけですから。

――あのー、たとえばもう、なんなら今日から使える、そういう簡単なテクニックのようなものは存在するのでしょうか。
石井 魔法のテクニックですか(笑)。もしそんなものがあって、会社員時代に私も知っていたらもっと良い管理職だったでしょうね。そこまでではないにしろ、今こういう仕事をするようになって知るようになったことですが、コツと言うかちょっと意識するだけで、印象が変わる話し方というのはあると言われています。たとえば、「ダ行」の言い回しを避ける。「ダメだ」「ですから」「どうして」「だいたい」「だって」「でも」「どうせ」といった、否定的な響きのある「ダ行」の言葉で、「D言葉」とも呼ばれていますね。否定するほうが、肯定したり承認したりするより簡単なので、つい使ってしまいがちなのですが、相手が不快になるだけでなく、自分もどこかネガティブになってしまう。ちょっと考えて、否定形ではなく肯定形で言うとか、ほかの表現に置き換えるよう意識し、それを習慣づけることで、コミュニケーションは変わっていくのではないでしょうか。

4.否定的な印象を与える「ダ行」言葉、気持ち良くさせる“魔法”の「サ行」言葉

――ほかの表現というのは、たとえば?
石井 決して万能ではないですし、時と場合を選びますが、よく言われるのは、気持ち良くなる「さしすせそ」言葉の会話における有用性。「さすがですね」「知らなかった」「すごいですね」「センス良いですね」「そうなんですね」というもので、諸説あるのですが、銀座のクラブの接客業の方々から発祥したとされる、いわば必殺の相槌集です。これのすごいところは、会話の内容についてはほぼ何も言及していないのに、「さしすせそ」を繰り返しているだけで、相手はかなり気分が良くなるというところ(苦笑)。ただし、職場であまり連発するのはお勧めできませんが、こうしたプロのテクニックをうまくアレンジして、いきなり本題に切り込まず、ワンクッション置くためのつなぎに使ったりすることで、スムーズな会話が成立しやすくなります。ほかにも、悪いことと良いことの2つを伝えたい場合、良いことを先に伝える、といったテクニックもあります。

――上司にしろ部下にしろ、質問力・雑談力・傾聴力を常に意識し、磨いておくべきということでしょうか。
石井 難しく考えることはありません。質問力で言えば、忙しい上司を相手に「今、よろしいですか?」といった枕詞をきちんと置きつつ、自分が本当に聞きたいことをあらかじめ整理しておくという当たり前のことができた上で質問しているか。相手への敬意、基本的なマナーですよね。雑談力なら、観察する習慣が大切です。上司・部下の関係になったら、互いを観察して、どんなことで喜び、どんな状況で気分を害するのかなどを把握しておきたいもの。そのためには、互いに関心を持つことが大事です。会話をポジティブに展開するために相手の良いところを探すにしても、その相手のことを普段からちゃんと見ていないと、そもそも探せるはずもありませんから。前回もお話ししたように関心を持っていることが伝わることで承認欲求が満たされ、モチベーションが上がることにもつながります。

 傾聴力については、コミュニケーションの基本とも言えます。まず相手の話を熱心に、しっかり聴く。うなずく、相槌をする等のスキルもありますが、上司の立場なら、ゆったりとリラックスした態度で、「ダ行」言葉を使わずに相手の話を受けとめる。完璧に共感できなくても良い、わかろうと努力する姿勢を見せることが大切なんです。部下の立場なら、過去の成功体験を聞いてもらうことが上司の承認欲求なんだな、と理解しながら、時にはその欲求を満たすことができるよう意識しておけば良いのではないかと思います。この話をすると、「相手が調子に乗るから嫌だ」と言われることも多いです。でも、双方が“調子に乗って”どんどん仕事をしてくれるなら、それが一番じゃないですか(笑)。ただし、当然のことですが、過剰な干渉は避けながら、適度な距離感を持った関係性を維持していくことを心がけたいですね。