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“ハラスメント恐怖症”で職場崩壊? 上手に「叱る」ためのコツ

5.オンライン会議でのコミュニケーションに違和感を覚えるワケ

――距離感ということで言えば、「ソーシャル・ディスタンシング」という公衆衛生上の概念が一般化するなど、新型コロナウイルスの影響が現在、さまざまなところに表れています。
石井 テレワーク、リモートワークの導入も、思いがけずに前倒しとなっている企業も増えてきていますね。そのことによって、本当に顔を突き合わせて話す必要のあることと、遠隔でのテレワークで済むことの整理が進みつつあります。メリット、デメリットが浮き彫りになって来ているように思います。業種にもよりますが、たとえばムダな会議や、そのための煩雑な資料作成などがそもそも必要なのか、といった問題が浮かび上がってきているところもあるようです。もちろん対面コミュニケーションは重要なのですが、決してすべてではない。そう改めて実感しているところなのではないでしょうか。

――オンライン上での会議だと、普段のような会議室に集合してのやりとりとは空気感のようなものが異なりすぎて、どうもやりづらいといった声も聞こえてきます。
石井 みなさん顔の表情を含めた上半身は映っているにしても、画面の中ではある種の記号化が起こり、情報量が制限されてしまっているせいかもしれません。印象形成のメカニズムに関して、「メラビアンの法則」という心理学実験の結果に基づく有名な説があるのですが、それによるとコミュニケーションの9割以上は、非言語コミュニケーションの情報が占めているそうです(下図参照)。見た目やしぐさ、表情といった「視覚情報」が55%、声のトーンや大きさ、話す速度などの「聴覚情報」が38%で、これらが非言語コミュニケーション的な情報。残りの7%が、言葉の意味や会話の内容そのものの「言語情報」という分布です。

6.上手に叱る合言葉は「人は見た目が9割」? 視覚・聴覚・言語の情報一致を心がけると伝わりやすくなる

――すると、話の中身は7%くらいしか伝わっていないということですか? 衝撃的な数字です。
石井 いいえ、7%しか伝わらないのではなく、93%は言語以外の印象で伝わる、ということです。好意や反感など、ある感情を伝えるコミュニケーションにおいて、視覚・聴覚・言語それぞれ矛盾した情報発信が仮に行われた場合、ヒトはどの情報を優先させるのか。それを検証したものなのです。ですから、以前話題になった「人は見た目が9割」というのは、見た目が良い方が得だということではなく、コミュニケーション上は言語以外の印象がそれほど大きいのだという話です。そういう意味では「メラビアンの法則」をあえて拡大解釈したものだと捉えておいたほうが良いでしょう。とはいえ、視覚・聴覚・言語の情報を一致させておくことを心がけると、相手により正確に意図が伝わりやすくなる、ということでもあります。オンライン会議など、視覚・聴覚情報の量が制限されがちな場面では、その点を意識することが大切。ゆっくり、はっきり話すとか、強調したいことは何回か繰り返すとか、身振り手振りや、表情なども意識する必要があるのではないでしょうか。また、たとえば部下のミスを注意する際など、要所要所では口角を上げ、敵意や攻撃の意図はないという非言語のメッセージを発信することなどにも応用できます。

――上手にミスなどを「叱る」ためには、非言語コミュニケーションも重要なポイントになると。
石井 あくまでポイントの1つです。まず大切なのは、頭ごなしに感情的に怒鳴ったりするのではなく、相手の言い分をしっかり聞くことから。言い訳も含めて。その上で、ご自分の主観や感情を交えることなく、客観的な事実のみに焦点を絞って注意していく。よくあるパターンなのですが、相手が過去に起こした類似した失敗例まで引き合いに出し、重ねて叱ってしまうと、ご自身も相手も感情的になってしまいかねません。感情的になると、声に怒りのトーンが混じってしまい、本当に伝えたい言語的なメッセージが誤って伝わってしまう、といった結果にもつながります。「怒らずに叱る」と聞くと、実践はなかなかハードルが高そうに思えるかもしれませんが、そんなことはありません。次回以降の「アンガーマネジメント」編で、そのための具体的なメソッドやヒントをいくつか紹介していきますね。

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