特集

「来店離れ」「テイクアウト需要」…飲食店がコロナ禍に取り組むべき顧客接点づくりとは?【武田哲男のCSお悩み相談室 #3】

連載「武田哲男のCSお悩み相談室」第3回

CS(顧客満足)やES(従業員満足)に関する疑問・お悩みを解決していく連載コラム「武田哲男のCSお悩み相談室」。著書100冊以上、40年以上にわたり現場重視のCS(顧客満足)経営コンサルティングを手がけてきた武田哲男氏が、みなさんから寄せられた質問に答えていきます。
>連載「武田哲男のCSお悩み相談室」記事まとめ(全6回)

第3回目のお悩み
飲食店を経営しています。新型コロナウイルス感染拡大の影響でお客さまの来店数自体は減少してしまったのですが、フードデリバリーサービスのおかげで出前需要が増え助かっています。

出前のオーダーをいただけるのはとてもありがたいことですが、これがいつまで続くのか。また、今まで来店してくださっていたお客さまが戻ってきてくださるのか、不安は尽きません。

今はまだ、コロナ終息の見通しが立っていない状況です。出前をくださるお客さま、足が遠のいてしまっているお客さま、それぞれに対してどのようなコミュニケーションをはかっていけば良いでしょうか。

投稿者データ

年齢

40代

業種

飲食業

職場での立場

主任(リーダーなど)

主な仕事内容

飲食店(洋食レストラン)の店長 兼 経営者として、配膳や接客をしています。

職場のおおよその人数

5人

コロナ禍以前からさまざまな問題に直面している飲食業界

飲食店で働く人

 こんにちは、武田哲男です。第3回目となる今回は、飲食業の方からのご相談です。そもそも飲食業界は近年、供給過多、少子高齢化、増税、中小企業の収入減、支出増による市場規模縮小などにより、熾烈な競争が続いている業種です。

 そうした折に、さらに追い討ちをかけたのが新型コロナウイルス感染症の拡大です。現在のところ、コロナ問題がある日突然に収束するという状況は想定をしにくいことから、大なり小なり今の環境が続くと想定しておかなければなりません。

 だから「仕方ない」と手をこまねいていては、衰退のみならず消滅してしまうため、顧客の思いを想定したのが、テイクアウトや家庭へのデリバリーサービス。最近は、「Go To Eat」や「Go To トラベル」、「東京を、もっと楽しもう」キャンペーンなど飲食を伴う各種キャンペーンが展開され、いずれも功を奏し業績に結びついています。

 しかし、多くの同業者が次第に同質化競争(ライバルが差別化戦略を行った際に、それと同じ手を行うことで相手の差別化を無効にする戦略)となってきました。特定の地域内においてはすでに競争が進み、「値引き合戦」が発生しています。一時的ならまだ良いかもしれませんが、現状の利益率のままで価格を下げれば早晩、資金力のある企業に負けてしまう“百害あって一理なし”の取り組みです。とくに事業規模が小さい飲食店は、そのようにならない「顧客づくり」「顧客つなぎ」「顧客つづき」の取り組みが必要です。

緊急事態時も顧客との関係を深めることができる、「顧客情報管理」の重要性

顧客情報を管理する人

「顧客づくり」「顧客つなぎ」「顧客つづき」の取り組みを行ううえでは、顧客の情報が非常に大切な資産になります。

 なぜ大切かと言うと、今回のコロナ禍のように顧客が来店しない、行動を起こしにくい、そしてそれが習慣となってしまう環境に直面したとき、顧客の基本データや顧客情報(インフォーメーション)があれば個々の顧客に対する情報の提供や企画・提案のアプローチを検討し、行動を起こすことができるからです。

 ところが現在、顧客の代金の支払い方法は、カードやスマホ決済などキャッシュレス化が進み、大抵の場合、料理の種類や金額、年齢、顧客氏名、電話番号などのデータはカード会社やスマホ会社が保有。顧客の趣味・嗜好などの情報は接客担当者などの属人的な記憶に依存し、店舗側・企業サイドには残りにくい状況になっています。

 しかしながら、こうした場合でも、現在は店舗で持っている顧客データの範囲で顧客のためになる企画・提案のアプローチはできます。そして、これをきっかけに顧客の新たな反応・新しい情報を集めることもできます。「顧客情報管理システム」の構築活動は、大きな役割を果たすことができるのです。

 高付加価値創造には、お客さまの声を収集するアンケート調査のデータも参考になります。

 そこで、大切になってくるのが「現在も良いが、さらに良くする」活動です。私はこの活動を「改良」と称しています。しっかりと実行できている店舗は、「改良」の先をいく「改革・革新」を実現しています。これは、自店舗ならではの新たな魅力を付加するだけでなく、加えて他の魅力あるサービスを組み合わせることで、同質化競争にはならない新たな価値を生み出す取り組みです。

 これを繰り返していくことで、ほかが簡単にマネをすることができない店舗となり、発展を続けていくことができるのです。実際に数々の業界で成功を生んできたこの取り組みを、私は「融合マネジメント(=相乗効果・高付加価値創造)」と表現しています。

現存する商品・サービスの組み合わせ次第でも、新たな価値創造は可能

ひらめきのイメージ

 ここまで、取り組み方の概念や仕組みについてお話ししてきましたが、飲食業の場合、どのような具体的な取り組み、活動が考えられるでしょうか。参考までに、飲食関連とそれとは異なったモノ・サービスの組み合わせ例を挙げてみます。

(1)飲食×健康管理
顧客ごとに糖分・塩分控えめ、アレルギー対応、量の調整(増量・減量)等を行うサービスとデリバリーを提供する。

(2)飲食×異色素材
地元農家の農作物(路地もの・ハウスもの)、近海の海産物(商品になりにくい小魚、雑魚/小魚類)、畜産物(ばらつきある肉類)などの素材を使った料理を提供する。

(3)飲食×料理教室
ホームパーティやお誕生日会などで、お店の味が再現できるような料理教室をリモート形式で実施する。作り方の伝授だけでなく、時に地域の演奏家による演奏会などのコンテンツも交渉・アレンジし提供。

(4)飲食×日本文化・マナー研修(講師とのコラボレーション)
和食、フレンチなど、料理を味わっていただきながら、日本や外国の文化ならびに食べ方やパーティ等のマナーを学んでいただく。
                                                      
(5)飲食×介護施設
施設のご利用者に、マジック等のエンターテインメントなどと共に、高齢者用の料理を提供する。

【例】withコロナ(COVID-19)、ニューノーマル環境時の飲食(洋食)店の「融合マネジメント」

 上記の「融合マネジメント」の例も参考にしていただきながら、お客さまの満足・幸せ創造のための企画・提案を取り組んでみたらいかがでしょうか。

 改革・革新とはいっても、今までに世の中に存在しないまったく新しい商品・サービスの開発は、そう簡単なことではありません。しかし、すでに存在する業種・サービスの組み合わせにより、新たな魅力的メニュー・プログラムを生み出すことは可能です。

 サービスの伴った商品(たとえば料理)、システム、設備、人的サービス、機能など、顧客の目には新鮮に写り、また役立ち、喜ばれ、満足されます。この活動が、とくに地域社会では「プラスの口コミ」として評判を呼びます。顧客の潜在需要、たとえば「楽しさ」「面白さ」「喜び」「便利」「安心」などを感じる体験は感謝され、地域社会で良い口コミを生むのです。

 顧客の不満・不安など「不」が付く要素は、新サービスを生むヒントであり、またそれらの個々の課題の組み合わせがさらなる新鮮さを生み、新サービス創造となり感謝されるのです。ジャンルや業種にとらわれることなく、さまざまな組み合わせによる相乗効果・高付加価値創造がチャンスを生み、成長・発展を促すのです。

顧客満足創造は業績向上に貢献する! 地方の新聞販売店の事例

配達をする人

 ご参考までに、最後に市場規模縮小、業種衰退に直面している業種が、成長・発展を生み出した好例をご紹介しましょう。

 取り上げるのは、地方の新聞販売Y店の例。ご存知のとおり、新聞社は新聞購読者・広告収入等の減少が顕著のため、新聞販売店(個別配達)の廃業が進行中です。そのため、働く人たちはガソリンスタンドと同様にパート・アルバイトの多い業界ですが、急ピッチに採用がなされない環境が進行しています。

 そこで、新聞販売店としてなんとか生き残り、勝ち残るためにどうしたら良いか?と、自社の持つ能力(配達機能など)を再評価し、以下の活動を開始したのがY店でした。

 そこで、新聞販売店としてなんとか生き残り、勝ち残るためにどうしたら良いか?と、自社の持つ能力(配達機能など)を再評価し、以下の活動を開始したのがY店でした。

(1)高齢者同士の生活・1人暮らしをサポートするサービスを開始
 高齢者同士の生活・1人暮らしが増えていることから、以下のような高齢のご家庭をサポートする各種サービスを開始した。

●生活を見守る「合鍵」お預かりサービス
 新聞配達時に、昨日の新聞がポストに残っている場合、ドアをノック。応答がない場合は、配達終了後に再度訪問。それでも応答がない場合、警察官、大家さんと共に合鍵で入室するようにした。本来なら助からない命を何人もお助けした。残念ながらすでにお亡くなりになっていたケースもあったが、真夏でも放置したままにならなかったためにご親族ならびにご近所から感謝され、また今後も地域に貢献してほしいと期待され、高齢者の新聞申し込みが増えた。

●ちょっとした会話や相談もできる、筆談用ノートの提供
 1人暮らしの高齢者が早朝、新聞配達を玄関先で待っている様子が散見された。理由を調べると、「ひと言でも会話がしたい」と会話に飢えていることがわかった。ただし、配達途中は時間が限られており会話をすることが難しいため、高齢者のご家庭に筆談用ノートをプレゼント。すると、「蛍光灯が切れかかっている」「家具を移動したい」などの悩みが記されていたため、そうしたお宅には昼間に訪問し、その作業の際に十分に会話をすることもでき、喜ばれるようになった。

●ゴミ捨てのお手伝いを実施
 1人暮らしの高齢者の方から「生ゴミ・一般ゴミ、缶・ビン・古新聞など、ゴミ捨てが大変」との声が寄せられ、定期的にゴミ捨てのお手伝いを実施することにしたために非常に感謝されるようになった。

●お弁当の配達を開始
 高齢者の方からは、「歩いて買い物にいくことが億劫」、「食事の支度が大変」といった声も寄せられるようになり買い物の代行を実施。また、“弁当宅配業者”と提携し、毎日のお弁当の配達事業も開始した。2020年現在、約2000軒に配達中。

(2)要望を聞き、契約者(家庭)ごとに最適な形で新聞を届ける
 玄関のドアに郵便受けがついているご家庭の方から、「新聞を入れるとき、下(ポストの底)に落とさないようポストに挟んでおいてほしい」との要望があった。それは、「早朝、新聞が下に落ちる音に驚いた乳幼児が目を覚まし泣いてしまうから…」という理由からだった。

 そこで、玄関のドアに郵便受けが付いている同様の条件のご家庭へ配達する際、ポストに新聞を挟むようにしたところ、今度は「隙間から虫が入ってきて困るから、きちんと入れてほしい」という要望が寄せられた。現在は配達先のすべてのご家庭から要望を聞き、それぞれ異なった新聞の入れ方をしている(雨で新聞が濡れやすいお宅、小さなポストの場合など)。

(3)地域活性化にも貢献、有機野菜の通信販売を開始                
 地域の有機野菜の各農家が売れないで困っていることを知って、購読者に配達つき販売のお手伝いを開始。すると、そのサービスを利用した方々のほとんどが有機野菜を購入してくれるようになった。また、「離れて暮らしている子どもに送りたい、親戚、友人・知人に贈りたい」などの要望が寄せられるようになり、本格的な通信販売をスタートさせた。

 こうして、さまざまなサービス提供に取り組んだところ、徐々に口コミが増え、それに伴って顧客が増えていき、全国的に新聞購読者数が減少していくなか「新聞は読まなくとも、各種サービスがありがたいので」と、新規の新聞購読者が増えた(新聞購読が諸サービスを受ける条件のため)。また、それぞれの新価値の組み合わせによる相乗効果・付加価値創造により、業績向上を続けています。あくまでも本業を中核にしながら、顧客が潜在的に求めていることを汲み取り、各種サービスとして提供する。顧客満足創造が業績向上に貢献するのだということです。

今回の武田式アドバイスのおさらい

●「値引き合戦」は“百害あって一理なし”の取り組み。自店舗ならではの「顧客づくり」が重要。

●自店舗ならではの商品・サービスを創造するにあたっては、顧客アンケートのデータが参考になる。

●お客さまを知り、関係性を深めるために大切なことの1つに「顧客情報管理」がある。

●現存する商品・サービスの組み合わせによっても、新たな価値創造はできる。

●ジャンルや業種にとらわれることなかれ! さまざまな組み合わせによる相乗効果・高付加価値創造が成長・発展を促す。

プロフィール

  • 武田哲男氏

武田哲男(たけだ・てつお)
武田マネジメントシステムス 代表取締役

 服部時計店(現・SEIKOホールディングス)入社後、銀座・和光で小売部門を経験。以来、サービス・CS分野のパイオニアとして、企業規模・業種・業態を問わず、多くの企業活動の実務に参加している。日本初のCS・CSM(CS Management)実務書『CS推進ここがポイント』(日本能率協会)をはじめ、『なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか? あなたがサービス・製品を選ぶ本当の理由』、『顧客「不満足」度のつかみ方・活かし方』(ともにPHP研究所)など、著書は100冊以上。CS・顧客サービス研究所、武田マネジメントシステムス代表取締役のほか、豊富なキャリアから一般社団法人エチケット・サービス向上協会 代表理事や、クレーム関係のセミナー・講師なども務める。

>武田マネジメントシステムス 公式ホームページ(外部リンク)