キーワード解説

CRM(顧客関係管理)とは? 優良顧客の維持・拡大を目指す3つの実践ポイント

 企業が顧客と強固な関係性を築いていくことは、いつの時代でも求められるアクションであり、経営目的の1つです。これをCRM(顧客関係管理)と言いますが、あなたの企業ではしっかりと実践できているでしょうか? 前述で不変的なアクションと記しましたが、時代とともにそのアプローチ方法は微かに変化してきています。CRMの考え方や実践する際のポイントなどについて、解説します。

今回のキーワード CRM(顧客関係管理)
解説 日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

1.CRM(=顧客関係管理)が目指すことと実践例

 CRMとは、Customer Relationship Managementの頭文字をとったもので、「顧客関係管理」と訳されます。CRMが目指すのは、「既存顧客との関係を強化し、収益性を高めること」にあります。簡単に言えば、顧客のことをよく理解した個別対応で顧客の心を掴み、継続利用をしてもらうなかで収益性を高めようという考え方です。これは決して新しい理念ではなく、日本にも古くからあるアプローチです。たとえば、商店街のような小規模店の店員が常連客の顔や名前、好みや利用履歴まで踏まえた対応をすることが該当します。

 以下のようなやりとりがあったと仮定して考えてみましょう。

店員 いつもありがとうございます。一昨日の刺身、ご主人の口に合いましたか?
顧客 とってもおいしかったです。いつも魚屋さんのオススメは好みに合うし、おいしいなって主人も言っていました。
店員 ありがとうございます。今日はお子さん向けにサーモンはどうですか? ムニエル好きでしたよね?
顧客 そうそう、そうなのよ。じゃー、今日はサーモンもらいます。
店員 ありがとうございます。いつもごひいきにしてもらっているから、ちょっとおまけしときますね。

 このやり取りができるのは、奥さまの顔、家族構成、好み、利用履歴を把握しているからであり、さらにそれを活かして、好みにあった個別提案や常連客対応としての値引きといったことにつなげています。これがCRMの実践です。

2.CRMに関連する考え方

 CRMを理解するとき、いくつかの関連する考え方を押さえておくと理解しやすくなります。

CS(顧客満足)

 顧客満足(Customer Satisfaction=CS)を経営の中心の価値観に据える考え方で、長期・安定的な継続的取引によって持続・安定成長を目指します。CRMも顧客との関係強化によって収益性を高めることが狙いなので、目指すところはCSと同じです。CRMはCS経営の具体的なアプローチの1つと言えます。

ロイヤルティ・マネジメント

 ロイヤルティ・マネジメントは、顧客が満足することで企業へのロイヤルティ(忠誠心・愛着)を高め、企業の収益性を高めるという考え方です。CRMも個別対応によって顧客の満足度やロイヤルティを高めることを狙っています。CRMはロイヤルティ・マネジメントの1つと言えます。

FFP・FSP

 アメリカン航空が始めたマイレージプログラムや各種ポイントカードのように、利用に応じて顧客に何かしらの還元をする施策のことを指します。これらは、「高頻度利用客の囲い込み」といったロイヤルティ・マネジメントの具体策の1つであることから、CRMにとっても具体策の1つと言えます。これらの施策を、航空業界ではFFP(Frequent Flyer Program/読み:フリークエント・フライヤー・プログラム)、小売業ではFSP(Frequent Shoppers Program/読み:フリークエント・ショッパーズ・プログラム)と呼びます。

One to Oneマーケティング

 顧客1人ひとりの利用履歴や好みなどに応じてアプローチするマーケティング手法。マス・マーケティングやセグメント・マーケティングに対して、個別にアプローチするところが特徴的です。CRMは個別のアプローチをすることが含まれますので、One to Oneマーケティングの1つと言えます。

 これらの関連する考え方を踏まえて、今一度CRMの狙いや施策を整理すると、以下のように整理できます。

 CRMとは、「利用履歴などの顧客データに基づいて顧客を識別し、顧客別の対応や優良顧客との関係強化策を実施する。その結果、顧客の満足度や企業へのロイヤルティが高まり、その企業を継続利用することで企業は収益性を高めることが可能になる」ということを目指す取り組みである。

3.CRMを実践する際の3つのポイント

(1)顧客データ

 CRMを実践していくには、(1)顧客データ(2)セグメンテーション(3)関係強化策の3つが主なポイントとなってきます。

 前述した商店街の例のように、小規模であれば人間の記憶力レベルでも顧客を識別したアプローチは可能ですが、顧客数が増えてくると限界があります。したがって顧客数が増えてきた場合、何かしらの顧客データ管理ツールが必要になります。そして、重要なことは管理ツールだけではなく、どのような顧客情報を取得・管理するかということです。一般的には、以下のような情報を取得していきます。

●属性データ:居住地、年齢、性別、職業
●利用データ:利用日、利用内容、利用金額、利用点数

 これ以外にも目的や事業内容によって取得したい情報がありますし、BtoBであれば、取引先企業の属性や取引内容といった情報が必要になってきます。

 BtoCの場合、どのように顧客情報を取得するか?という問題があります。そのために、一般的にはカードやアプリなどを使って顧客登録をし、情報収集することが1つの方法です。ポイントカードやアプリなどは、利用に応じて顧客に還元するという目的と同時に、顧客情報を収集するためのツールと言えます。

(2)セグメンテーション

 データに基づいて顧客を区分することをセグメンテーションと言います。主なセグメンテーションの考え方として以下の3つがあります。

●デモグラフィック:年齢、性別、職業といった属性的な視点
●ジオグラフィック:エリアや気候条件といった地理的な視点
●サイコグラフィック:趣味やライフスタイルといった価値観的な視点

 CRMの分析では、これらの視点ももちろん使いますが、もう1つ重要なセグメント視点として、ロイヤルティ的な視点があります。これは、利用金額や利用頻度・期間といった業績貢献度合いに応じたセグメントです。CRMの狙いの1つは、優良顧客(ロイヤルカスタマー)比率の向上があります。したがって、誰が優良顧客か、その予備軍は誰かといったことを、セグメンテーションで明確にする必要があります。たとえば、「優良顧客=長期利用×高額利用」とすると、下図のようなセグメンテーションになります。

優良顧客を明確にするためのセグメンテーション例
(「優良顧客=長期利用×高額利用」と設定した場合)

優良顧客を明確にするためのセグメンテーション例

 ねらい(1)としては、現状の優良顧客を明確にし、関係強化策を打って囲い込むことです。よく言われるパレートの法則(イタリアの経済学者、ビルフレッド・パレート氏が見出した法則)のように、上位2割の顧客が売上の8割を担っているというのはよくあることなので、優良顧客は収益性を高めるうえで重要です。

 次に、優良顧客比率を高めるために、次なる優良顧客づくりを目指します。この図の例で言えば、利用期間の延長(=離反防止)や利用金額の増加(=クロスセルやアップセルのための施策実施)をすることです。

 ロイヤルティのセグメンテーションで重要なことは、どこで区分するかという基準です。みなさんは、自社の優良顧客の定義を聞かれて答えられるでしょうか? 同様にリピート顧客とはどういう条件を満たす人か、明確になっているでしょうか? ここは自社のポリシーで決める部分です。ここの定義が明確になっていないと、優良顧客を大切にする、リピーターを増やそう、といったことがスローガンのまま終わってしまいます。

(3)関係強化策

 顧客データやセグメンテーションによって顧客が識別できるようになったとすると、あとはどのように関係強化をしていくか、ということになります。

 たとえば、離反しないで長くご利用いただくための代表的な施策として、FFPやFSPの話をしました。これは、利用に応じてメリットがあるので、「これまでの利用に対して還元する」というコストのかけ方です。一方で、スーパーの特売は、「特売日に買い物ができる人に対して還元する」というコストのかけ方なので、FFPやFSPとはちょっと違う目的になります。過去の取引内容からリコメンドするといった、利便性の高め方も離反防止につながるでしょう。顧客をゴールド、シルバー、ブロンズといったステイタスに分け、サービスレベルを分けるといった施策もよく見られます。

 利用金額は、顧客の予算もあることから限界もありますが、バスケット分析(バスケット=買い物カゴを意味し、“どんな商品が一緒に買われやすいか”を探る分析手法)などに基づき「これを購入した人はこれも購入しています」といったメッセージでクロスセル(自社の商品を利用する顧客や、商品が気になっているという顧客に対し、関連商品を併せて提案することで売上向上につなげること)を促進するといったことなどが考えられます。

 データによって顧客を区分・識別し、よりレスポンスが期待される施策を効果的に打ち、期待するレスポンスがあったかを検証して次につなげることが重要です。これらによって施策のヒット率が高まっていきます。

4.時代とともにアプローチも変化、これからのCRMの要点

 マス・マーケティングの限界、顧客情報管理の技術的進化、昨今のサブスクリプション型のような新しい事業形態の出現といった背景から、CRMの考え方は普及してきました。しかし、昨今ではCRMの取り組みを各社が行うようになり、たとえばFFPやFSPも一般化するなかで差別化の要素とはなりにくくなっています。また、企業側のコスト負担も大きくなっています。今後へ向けて、どのような検討が必要なのでしょうか。

(1)より深い顧客理解
 利用金額や利用内容は結果を表していますが、理由や背景はデータからはわかりません。CX(顧客体験)の重要性が高まるなか、CRMの実践においても顧客のバックグラウンドを掴み取るような深い顧客洞察に基づく打ち手が求められます。

(2)システムと人的サービスとの融合
 システム活用による、人間ではなかなかできないサービスも提供できるようになっています。一方で、人間でなければならないようなハイタッチ(個別に行われるフレキシブルな対応)のサービスは何が求められるのかを突き詰めていく必要があります。システム上は優良顧客であっても店舗に行ったら一見扱い……これでは、優良顧客の気持ちを掴むことはできません。投資コストのメリハリも含め、どのようなサービスを提供するのかというデザインが求められます。

(3)顧客の選択と集中
 自社らしさに共感してくれる顧客など、ターゲット顧客を明確にして関係強化していくことで効率的になります。CRMの目的を明確にして進めていくことが、より一層重要となってきます。

 企業が顧客との関係強化をすることは不変の経営目的です。それをどう実現していくか、そこの知恵と工夫と努力が求められます。

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