キーワード解説

CS向上の最重要ワード、カスタマー・エクスペリエンス(CX)とは? “これから”の顧客体験づくりのポイント【キーワード解説#4】

CS(顧客満足)担当者やマーケティング担当者が知っておきたい知識、キーワードをピックアップして紹介。それぞれの意味や仕組み、意義などについて、わかりやすく解説していきます。

今回のキーワード カスタマー・エクスペリエンス
解説 日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

1.カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験、CX)とは?

 カスタマー・エクスペリエンスは、「顧客体験」を意味します。Customer Experienceを略しCXとも表現されます。狭義では「顧客が自社との接点で体験すること」と解釈されますが、より今日的な観点では、自社との接点での体験にとどまらず、関連する自社接点ではない場面での体験や、断続・連続する体験全体を捉えることに意味があると考えられています。ユーザー・エクスペリエンス(User Experience=UX)も類似した概念ですが、UXはWebサイトや自社製品の操作におけるインターフェイスでの体験について限定して表現する際に用いられることが多くあります。

2.カスタマー・エクスペリエンス(CX)が注目される理由

 では昨今、カスタマー・エクスペリエンス(CX)が注目されている理由はなんでしょうか。

 顧客満足(Customer Satisfaction=CS)を考える上では、当初から顧客の行動や体験が重視されてきました。1991年には、すでに弊社(日本能率協会コンサルティング)では「お客さま行動プロセス分析」として、顧客の行動とそれに対応する企業側の接点、その接点における顧客の期待を洗い出し満足向上のチャンスを見いだすという手法を確立していました。その後も、さまざまな企業が自社と顧客の接点、その場面での顧客の振る舞い方について注目し、満足向上のための改善につなげていきました。

 このように、「当たり前」とも言えるカスタマー・エクスペリエンス(CX)への着目ですが、特にここ数年注目度が高まっている背景には、以下の2つの理由があります。

【1】潮流としての「サービス・ドミナント・ロジック」の浸透
 いきなり、「サービス・ドミナント・ロジック」(Service Dominant Logic=SDL)と言っても、なんのことかと思われるかもしれません。詳しくはさまざまな書籍を参照いただくほうが良いのですが、単純に言うなら、以下の通りです。

●モノ(有形)であれ、サービス(無形)であれ、商品の価値は顧客が利用して初めて生まれるのであり、同じ商品でも顧客により異なる(使用価値、経験価値、体験価値などと呼ばれる)。

●モノを含みつつ、サービス全体として顧客と企業が体験をともに創る。モノの性能や機能、品質ではなく「それを使ってどういう体験をしたか」が焦点となる。

●対照になる考え方は、「グッズ・ドミナント・ロジック(Goods Dominant Logic=GDL)」であり、対価を支払いモノ(有形)を得ることで、価値が交換されて「消費される」という捉え方。

 このサービス・ドミナント・ロジックの登場・台頭により、顧客と企業が価値をともに創るという「価値共創」という概念がマーケティングの主軸となり、顧客が商品を利用する場面、すなわち「体験」を通じて価値共創がなされるというビジョンが定着したのです。

【図表1】サービス・ドミナント・ロジック(SDL)と「体験」の重要性

【2】他社と差をつけにくくなった
 また同時に、モノにおいて技術による差別化が難しくなってきたことも大きな背景でしょう。言い尽くされ、かつ古い例ですが、ソニーのWALKMANとiPodの違いが象徴的です。WALKMANは技術による小型化で強烈な差別化を実現しましたが、iPodは技術的には特段先進的・独創的ではなかったはずです。iPodの成功は「人々の生活の体験を激変させた」という点でしょう。みなさんも、近年画期的な成功を収めた製品やサービスを思い浮かべてみてください。メルカリ、Nintendo Switchから昨年の夏のブームであるハンディファン(携帯できる扇風機)、持ち運びに便利な極小の保温水筒など、どれも先端技術の勝利ではありません。近年のめざましい成功例の多くは、モノやサービスを通じて「体験を変えた」「体験を生み出した」ことによってもたらされたと考えられるのです。

3.購買行動モデルの変化

 そして、ネットの普及やSNSの台頭により10年ほど前からでしょうか、顧客の購買行動モデルとして定着していたAIDMA(消費者はまず、その製品の存在に注目し[Attention]、興味を持ち[Interest]、欲しいと思い[Desire]、商品を記憶し[Memory]、最終的に購買行動に至る[Action]というモデル)も主流ではなくなってきたという捉え方が出てきました。

 AIDMA同様、もしくはそれ以上に活用されてきたモデルが、AISAS(注目[Attention]→関心[Interest]→検索[Search]→行動[Action]→共有[Share]と働きかける、購買行動モデル)や、SIPS(共感[Sympathize]→確認[Identify]→参加[Participate]→共有[Share]と働きかける、購買行動モデル)ではないでしょうか。なお、AISAS、SIPSはどちらも電通グループが提唱している概念です。

 これらのモデルが注目され、活用されている理由は、顧客の行動変化を捉えている点が大きいでしょう。どれもネットで検索し、口コミを見るといった、ネット社会の象徴とも言える行動が組み込まれています。しかし、より着目すべきなのは、単に「購買」ではなく「参加」という概念や、「共有」という「体験」をしっかり位置づけて言える点です。モノを使って終わりではなく、自分が主体となって参加するという考え方や、その体験を共有することで新たな体験につながっていくという点。これらがまさに、顧客行動の質的な変化を見抜いているのだと考えます。このように、購買行動モデルの変化にも「体験」の重要性が表れているのです。

【図表2】購買行動の変化に表れる「体験」の重要性

4.「これから」の顧客体験づくりにおいて、意識すべきポイント

 このように、近年のCS、マーケティングは顧客体験、すなわちカスタマー・エクスペリエンス(CX)を軸に進化してきましたし、この傾向は今後の基軸として定着するものと考えています。モノ単体、サービス単体での差別化が困難な時代でも、「体験」に差をつけることは可能です。むしろ「体験」で差をつけられないモノやサービス、企業は生き残りが難しいとさえ言えるでしょう。

 特に、コロナ禍による“ニューノーマル”への転換を考えると、どの業界もどのような企業も「新しい顧客体験づくり」が急務であると言えます。その際に需要な視点は、「人でなければできないこと」です。もともと、ITやAIの台頭という素地もあり、「顧客との接点を人が担わなくなっている」傾向が加速しています。

 古くは駅の改札、高速道路のETCなどが典型例ですが、昨今も携帯電話ショップなどは「ほとんどのことがWebでできる」というアピールを強めています。Amazonや楽天、メルカリなどの台頭により、百貨店などの「人が対応する」業態は苦戦を強いられています。営業担当者は、顧客のもとに「足しげく通う」ことが価値だった時代から、「いかに訪問せずに商談するか」が重要になっています。コールセンターも、音声での会話からチャットへ、チャットからボットへ……。人が関わらない顧客接点はたくさんあります。

 だからこそ、「人が人に対応する」ことは、これからは非常に「リッチ」な体験になりうる可能性があるのではないでしょうか。機械化やIT化、AI化は、企業にも顧客にもメリットがあります。であればこそ、「あえて人が対応する」という接点をどう残すのか、残さないのか。人が対応する接点は、本当に人が対応することで「良い体験」を生み出しているのか。そういった観点で、「これから」のカスタマー・エクスペリエンス(CX)を考えていく必要があると考えます。

【図表3】“これから”のカスタマー・エクスペリエンス(CX)展開のイメージ