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顧客価値は「向上」よりも「創造」を目指す【必要な視点、実現のポイントを事例とともに紹介】

顧客価値のヘッダー画像

CSについて考える際に重要な概念である「顧客価値」。CS推進に関わる方であれば、きっと耳にしたことがあるでしょう。しかし、その他に「ニーズ」「期待」など類似した概念があり、使い方について迷ってしまうかもしれません。また、実際に向上させるには、どのような取り組みが必要なのか、わからないという方もいるのでは? 実は、顧客価値は「向上」よりも「創造」に重きを置くことが重要なポイントなのです。そこで、本記事では「顧客価値」を考えるうえで必要な視点や「顧客価値の創造」を実現するポイントについて、事例を交えながら解説します。

今回のキーワード 顧客価値(カスタマーバリュー)

解説 日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

顧客価値(カスタマーバリュー)とは

 顧客価値(カスタマーバリュー)とは、「顧客にとっては自身が満足するために求めていることであり、企業にとっては顧客との関係を生み出し強めるために提供すべき要素」です。

 一般的には「製品やサービスの利用体験やそこから派生する体験を通じて顧客が得る、顧客にとっての良い作用、顧客にとって意義のあることの総称」と定義づけられています。

 注目いただきたいのは「利用体験やそこから派生する体験を通じて」という部分です。単に製品やサービスを提供して終わるのではなく、顧客にとっての価値は顧客自身が利用することで生み出し、さらには利用場面だけでなく、その前後の体験によりつくり上げられるという考え方です。この点は「サービス・ドミナント・ロジック」や「サービス化」という概念を通じて、今日的なCS(顧客満足度)やマーケティングの基盤になっています。

顧客価値を考えるうえで必要な視点

 では、具体的に顧客価値はどのような視点で考え、つくり上げていけば良いでしょうか。

視点1:機能的価値と情緒的価値

 モノであれサービスであれ、そこから生まれる体験であれ、価値には大きく分けて機能と情緒という側面があります。

 カメラの例で考えてみましょう。カメラには、言うまでもなく写真が撮れるという機能があります。オートフォーカス(自動的にピントを合わせてくれる)、連写、暗視・夜間撮影、手ぶれ防止、シーン別の自動設定なども機能と言えます。重さも「手に持って撮る」という観点からは機能の発揮度に関わります。つまり「写真を撮る」というモノとしての「はたらき」とその特長や程度が「機能的価値」なのです。

 では、カメラの価値はこれら機能的価値だけでしょうか。筆者は子供の頃、父が持っていたニコンのカメラを見て「かっこいいな、大人になったら欲しいな」と思ったものです。この「かっこいい」という気持ちも価値と呼べるのではないでしょうか。かっこいい、プロらしい、高級感など、これらはまさにモノが私たちの情緒に作用した結果として得られる価値だと言えます。

カメラの機能的価値と情緒的価値

 ニコンを例に挙げましたが、有名ブランドだからということで得られる「安心感」や、友人から「ニコンか!いいね!」と言われて感じた優越感なども情緒的価値と言うことができます。

 特に「高級」なモノやサービスは、機能的価値よりも情緒的価値が優れていることが多いものです。「空腹を満たす」という機能的価値を味わうだけなら安価なレストランで良いわけですが、大事な場面では「高級レストラン」が持つ優雅さや良い意味での緊張感などの情緒的な価値が重視されたりもします。このように、モノやサービスの価値を機能面と情緒面から考えることが非常に重要なのです。

視点2:価値のレベル

 機能と情緒という視点と並んで重要なのが「価値のレベル」です。先ほどのカメラの例で挙げたなかから「連写」という機能について考えてみましょう。

 たとえば、1分間に60回撮影できる「カメラa」と1分間に100回撮影できる「カメラb」があったとしてます。どちらも「連写」の機能を備えているという意味では、機能的価値は同じです。しかし、連写できる回数はそれぞれ異なり、レベルとしては「カメラb」の方が上だと言えます。

機能的価値のレベル・カメラの例

 ここで極めて重要な点は、「レベルは企業側のモノサシで考えない」ということです。60連写でも100連写でもお客さまから見て「まあそんなもんだろうね」と認識されるとすれば、顧客価値という観点では差があるとは言えません。単なる性能の差が顧客価値の差ではないわけです。

 つまり、顧客価値について高い、低いといった「レベル」は、顧客がどう感じるかにより決まるということです。

 この顧客がどう感じるかという意味では、顧客満足の領域の世界的な草分けであり、著名な米国のコンサルタントであるカール・アルブレヒトが下記の4段階の考え方を提唱しています。

基本価値:モノやサービスの基本的な価値であり、お客さまから見て提供されて当然と思われること。提供されなければ苦情につながったり、再利用・再購入されなくなったりする。
期待価値:顧客が期待していること。提供されなければ苦情にこそならないかもしれないが、不満には思われてしまうこと。
願望価値:不可欠の期待ではないが、提供されれば高い評価につながること。提供されなくても不満にはならないであろうこと。
予想外価値(※未知価値):期待や予想を超えること。提供されれば満足を超える感動が得られること。

※原典の「見えざる真実」(カール・アルブレヒト著)では、予想外価値は「未知価値」とされています。

 これらは、繰り返しますが「お客さまがどう評価するか」が大事であり、企業として「ここまでやっておけば願望価値を満たすだろう」と独りよがりで考えることは避けたいものです。

 なお、実務上は上記の「期待価値」と「願望価値」を明確に仕分けて議論することはなかなか難しく、大事な議論ではあるものの意見や施策がまとまりにくい面があります。従って、日本能率協会コンサルティングでは、多くの企業とCSの取り組みをする際は、下記の3段階を用いています。

基盤価値:当たり前の価値であり提供できなければ不満になる。これだけでは満足には至らない。
満足価値:提供すれば満足いただける価値。
突出価値:想像を超える、もしくは期待を超える価値。

 このように3つのレベルにシンプル化することで、価値のレベルについての定義・仕分け議論ではなく、価値を具体的に描き実現することに注力いただくようにしています。

視点3:体験価値という考え方

 顧客価値を考える際の3つ目の視点が「体験」です。昨今、CX(Customer Xperience・Experience/カスタマーエクスペリエンス)というキーワードが頻繁に使われるようになりました。その背景は、冒頭でも述べたように、モノやサービスを提供して終わりではなく、顧客価値はお客さまが体験して生み出されるという考え方が主流になってきたからだと考えます。この「体験価値」という観点で考えると、製造業やサービス業で「何を提供しているか」という区分けがあまり意味を持たなくなってきます。

 この図のように、顧客と企業がモノやサービスを介して体験をつくり合うと考えると、製造業もサービス業もお客さまとの「価値共創業」と言えるのです。CS活動も「満足を提供する」という意味合いから「体験をともにつくる」と考えると、アプローチも変わってくるのではないでしょうか。

顧客価値の向上と価値創造の違い

首をかしげる男女のイラスト

顧客価値の向上とその結果

 では、次に顧客価値の「向上」について考えてみましょう。

 一例として、オフィス用の給茶機(お茶やコーヒーを自動的に作りカップに入れる機器)の顧客価値を思い浮かべてください。

 たとえば機能的価値は、お茶が自動的に作られてカップに注がれること、つまりお茶が提供されるということでしょうか。さらに、熱々の出来たてのお茶が飲める、濃さが自分好みに変えられる、お茶が切れたら知らせてくれるなどでしょうか。管理をする総務部門の方から見ると、設置のしやすさ、ゴミの捨てやすさ、電気代の安さなども機能的価値かもしれません。

 では、情緒的価値はなんでしょうか。お茶を飲んで「ほっと」する気持ちなどは情緒的価値でしょう。しかし、高級感・優越感はオフィス内ですから重要ではないかもしれません。ほかには、季節ごとに提供する飲み物を変更することで「季節感を感じる」という情緒的価値があっても良いかもしれません。

 これらは給茶機について一般的に想像され提供もされている「既知の」顧客価値と言えます。この既知の顧客価値について、そのレベルを上げていこうというアプローチが「顧客価値の向上」です。

 たとえば、

 基盤価値「お茶の提供」
 ↓
 期待価値「出来たての香り高いお茶」
 ↓
 突出価値「季節に応じた飲み物の変化」

 というように、機器やお茶の原料の質的向上・変更を図るというアプローチです。

 これは言い換えれば、「既知のモノサシ」で測れる価値のレベルアップだと言えます。この既知のモノサシでのレベルアップはまさにわかりやすい「競争」であり、他社もそのモノサシはわかっているわけですから、同じ土俵での競争に陥ります。となると、その先に待っているのは「価格」の競争しかありません。

 このように既知のモノサシ、既知の顧客価値での競争は極めてわかりやすい反面、極めて不毛な競争に陥りやすく、お客さまにとっても最初は「突出価値」だったとしても、徐々に当たり前になっていき満足度が低下していくという宿命を持っています。

 ではこの不毛な状態を脱し、お客さまに満足を感じ続けてもらうにはどういうアプローチがあるべきでしょうか。その1つの答えが「顧客価値の創造」です。

顧客価値の創造

「顧客価値の創造」は、言い換えれば既知のモノサシではなく、新しいモノサシを創るというアプローチです。

 先ほど例として取り上げた「給茶機」を考えてみましょう。皆さんは「ネスカフェ アンバサダー」をご存じでしょうか。テレビのCMなどでご存じの方やオフィスで利用しているという方もいらっしゃるでしょう。

 ネスレ日本が「ネスカフェ」のコーヒーマシンを無料で貸し出し、専用のコーヒーカートリッジの定期購入と代金回収は「ネスカフェ アンバサダー」と呼ばれる職場の代表者が行うサービスです。この「ネスカフェ アンバサダー」のキャッチコピーは、ネスレの紹介ホームページによると、2020年10月現在、「マシンをきっかけに自然とコミュニケーションが生まれ、あなたの職場に笑顔が広がります♪」とあります。

ネスカフェアンバサダーの価値のポイント

ネスカフェアンバサダーのイメージ画像

画像提供:ネスレ日本

 さて、この「ネスカフェ アンバサダー」を通じたコーヒーマシン・飲料サービスの顧客価値は何でしょうか。

 さきほど「顧客価値の向上」で紹介したような機器としての機能はもちろんあるでしょう。また、バラエティ豊富なカフェメニューの提供による目新しさといった情緒的価値もあるでしょう。しかし、「ネスカフェ アンバサダー」の顧客価値の軸はそれらの「既知のモノサシ」ではないのです。

 キャッチコピーである「マシンをきっかけに自然とコミュニケーションが生まれる」こと。そして結果的に「職場に笑顔が広がる」ことが顧客価値なのです。コーヒーマシンとしての機能的価値、情緒的価値を高めるだけではなく、「突出価値(想像を超える、もしくは期待を超える価値)」を描き、提案しているわけです。

 このように、既知のモノサシと異なる新しい顧客価値を創造することは、CSへの取り組みの理想像であるとも言えます。また魅力ある事業戦略論として有名な「ブルーオーシャン戦略」にも合致していると考えます。既知のモノサシでの競争は「レッドオーシャン」、すなわち血みどろの戦いを生みますが、自社独自の価値を提供できれば競争のない広々とした海をエンジョイすることができるわけです。

 このように顧客価値を「創造」した例としては、ほかに以下の様な例があります。

従来のポータブルオーディオ vs iPod・iTunes

iPod

 iPodとiTunesは組み合わさることで、コンパクトさや音質の良さ、容量の大きさといった既知のモノサシでの競争から抜け出した好例です。具体的には「CDショップに行く、パソコンを使って機器に取り込む」という手間をなくし、「パソコンで音楽を直接入手しダイレクトに機器に取り込む」ことで「音楽を身近に」という顧客価値を創造したのです。

 また、従来のようなCDというモノを介さないことで省スペース性という価値も生み出しました。さらには、iPod Shuffleによる自分が持っている音楽ライブラリからランダムに再生される機能を通じて「知っているはずの楽曲から新しい発見を得る」という、まったく新しい体験を生み出したことも特筆すべき点です。

 続いて、蛍光ペンの事例を見ていきましょう。

派手な色の蛍光ペン vs マイルドライナー

全25色展開しているマイルドライナー(画像提供:ゼブラ)

全25色展開しているマイルドライナー(画像提供:ゼブラ)

 マイルドライナーとは、文具メーカーのゼブラが提供している全25色からなる優しい色の蛍光ペンのことです。従来の蛍光ペンの顧客価値は「目立つ線が引ける」ことでした。従って、各社の蛍光ペンにはその点ではほとんど差はなく、大抵、黄色系・青系・赤系・緑系の4色でほとんど色あいの差もありませんでした。

 しかし、マイルドライナーは「目立つ」ではなく「やさしい」「やわらかい」まさに「マイルド」な線が引けるという新しい価値を提供しているのです。では、どんな顧客がどのような利用を通じて、その価値を評価しているのでしょうか。

 皆さんはインスタグラムの「勉強垢」(※垢はアカウントの意味)と呼ばれる投稿群をご存じでしょうか。中高生が自身の勉強・学習の状況を共有したり、勉強法やノートの取り方を紹介しているアカウントがあるのです。そのなかで、ちょっとした流行になったのがマイルドライナーです。そこで紹介されているのは、ノートや参考書に引かれた「きれいな」「センスの良い」ライン(線)です。言い換えれば、マイルドライナーを使って、見た目も良く、わかりやすさもアップした「アガる」ノートや参考書がたくさん紹介されているのです。

マイルドライナーを使用して作成したスタディプランナー(画像提供:ゼブラ)

マイルドライナーを使用して作成したスタディプランナー(画像提供:ゼブラ)

 従来の蛍光ペンの顧客価値が「とにかくハデで目立つこと」であったのに対して、「センスの良いノートができる」という全く新しいモノサシを生み出したことは非常に驚くべきことだと考えます。

 文房具には機能の面だけでなくデザインを含めた情緒の面が重要であることは、当たり前ではありますが、それにしても「成熟」しきっていると思われた蛍光ペン領域で新しい価値を生み出せたことは、CSやマーケティングの限界を感じさせない好例と言えます。

価値創造における「体験」の重要性

 ここまで顧客価値の概要、顧客価値の向上よりも「創造」が重要であることを解説してきました。顧客価値の創造において1つ大変重要なポイントがありますので、触れておきましょう。

 それは[顧客価値を考える視点]でも紹介した「体験」が重要だということです。

 従来のモノやサービスの「提供」という範囲での顧客価値を考えるのであれば、QCD(Quality、Cost、Delivery)が焦点であり、企業側は「約束通り提供すれば終わり」で良かったわけです。しかし、前述の「ネスカフェ アンバサダー」や「マイルドライナー」が創造した顧客価値はモノ+「体験」により価値が生み出されています。

 つまり、顧客価値を創造しようとするならば、モノやサービスのスペックを検討するのではなく、“それによりどのような体験が生み出されるだろうか”という点を考え抜く必要があるのです。

 たとえば、「ネスカフェ アンバサダー」の顧客価値「職場に笑顔が広がる」ということは「体験」をしないと最終的には実感されません。従って「してほしい体験」について、CMなどを通じて映像や言葉で発信することにより、事前に擬似的に体験していただいているのです。それにより他のコーヒーマシンや給茶機ではなく、ネスレ日本のコーヒーマシンが選ばれる。そして、マシンが届いた時点で「“職場に笑顔が広がる”という体験を自分たちはするのだな」というお客さま側の準備が整っているわけです。たんにマシンを届けて「あとはどうぞ」ではなく、「してほしい体験」に明確に導く。そういった仕掛けや働きかけを意図的に組み合わせてこそ、顧客価値の創造が完了するのです。

意図して体験を実現する

 体験を伴う新しい顧客価値が生まれた事例でも、もしかしたら多くのケースでは「お客さまが自発的に用途や場面を変えて使ってくれたため、偶然素晴らしい体験が生まれた」ということもあるでしょう。しかし、それではあまりに他力本願です。CSを考えCSに取り組む者としては、「はじめからどのような体験をしていただきたいのか」を描き、そのためにモノやサービスの提供の仕方、付随して提供すべき情報やサポートを用意する必要があります。

 サービス・ドミナント・ロジックにおいても、モノやサービスに加えてさまざまな角度から刺激を与え、目指す体験、目指す顧客価値を生み出すというアプローチが主張されています。そして、世界の多くの国々で「サービスデザイナー」というプロが活躍し、企業と顧客が新たな体験を通じて顧客価値を創造することを設計・支援しているのです。

 ぜひ「体験」の重要性を理解し、CS向上につなげるとともに、さらに顧客価値のレベルを上げ、新しく創造するというチャレンジをしていただきたいと考えます。

価値創造のフレームワーク

 さて、このような顧客価値の向上、顧客価値の創造はどのように進めていくのでしょうか。ひと言で言うならば、「組織として全員が考え続けトライし続ける」以外に道はありません。自社に、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏や日本のリゾートに新風を吹き込み続ける星野リゾートの代表・星野佳路氏のような「天才」が出現するのを待つわけにはいかないのです。

 トライをするにしても、闇雲にやり続けることは得策ではありません。かといって、顧客価値を創造するための「方程式」があるわけでもありません。ただし、成功確率を高めるためのポイントは挙げることができます。その1つが発想の視点です。

 CS向上やマーケティング、新サービス開発に取り組む実務者が基本としているのが、下記の4つの視点です。

(1)戦略・ビジョン
 自社がCS上目指す顧客や、新しく関係を生み出したい顧客・市場はどこか、といった戦略の根本。また企業としての理念も含めて実現したい姿。そういった戦略やビジョンが1つ目の視点です。意外に多くの企業がこのあたりを曖昧にしたままCSや顧客価値の議論をしているケースがありますが、ここはまさに経営トップが決めて示す必要があります。

(2)リソース
 2つ目の視点はリソースです。自社が価値を提供するために活用可能なものは全てリソースです。まずは人、モノ、カネ、情報あたりが思い浮かぶでしょうか。しかし、経営資源(リソース)を人・モノ・カネ・情報あたりでとどめてしまうのは、昨今のネットワーク化された社会・システムの中では視野が狭すぎると言えます。図で示すような、さまざまなリソースをフル活用し、組み合わせることで新しい顧客価値が見いだせないか考え抜く必要があります。

(3)顧客洞察
 3つ目の視点はまさにCSの根幹とも言える顧客を深く知るということです。単に顧客の声や要望を聞くだけでなく、観察も含めていかに「共感」を深めるかがカギです。

 この領域だけでも、さまざまな出版物が出ている訳ですから、非常に奥が深い領域です。多くの企業が「顧客視点は大事だ」と思いながら、結局(2)のリソース発想に陥り、失敗を続けています。頭でわかっていることでも、いざ顧客洞察を「やりきれるか」はまた別な話です。

(4)飛躍
 ここまでの(1)(2)(3)は比較的ロジカルで「思考」することが大事な視点でした。しかし、世の中の新しい顧客価値は、ロジックだけでは生まれていません。もしロジックだけで考えているなら、最後の答えは「1つ」になってしまいます。実際のビジネスにおいて答えは無数に出てきていますし、同じ業界の同じ規模の会社でも、それぞれの顧客価値は異なっているものです (もし同じなら、本当に価格競争に陥り悲惨な結果になるでしょう)。

 この「飛躍」という視点はロジックに対して「アート(Art)」と呼ばれる面があり、アイディア発想の世界でもあります。ゆえに、悪く言えば「思いつき」とも捉えられたりしますが、実はアイディア発想についても実にさまざまな手法があり、実務で使われているのです。

企業における取り組み

 これらの視点をもとに、企業内では、さまざまな取り組み方が考えられます。

●半年程度のプロジェクトチームによる新しい顧客価値の検討と新製品・新サービス開発
●メーカーであれば技術者をマーケターとして育成するための教育
 (マーケターとして自社技術を活かした顧客価値を発想してほしいというアプローチ)
●顧客の声をもとにその背景を洞察し改良レベル(顧客価値向上)を超えた価値創造のためのプロセスづくり
●経営トップ向けの「デザイン思考」のインプット(ワークショップ等) など…

 これらの取り組みは「我が社でもやったことがある」という方が多いのではないでしょうか。しかし、「あまりうまくいかなかった」「勉強にはなったが、新しい価値は生み出せなかった」というケースが多いのではないでしょうか。日本能率協会コンサルティングの実態調査でも低いということがわかっています。失敗しやすいポイント、すなわち「これを解消できるかが勝負どころ」という点を以下に挙げてみます。

(1)時間的制限
 改良レベルの「顧客価値の向上」であれば何をすべきかが明確です。しかし、顧客価値を創造しようとするなら、時間制限を設けてはいけません。

 経営者の多くは「時間が最も大事な経営リソースだ」ということを熟知しています。しかし(だからこそ)、顧客価値を「創造」するなら時間的制限を設けるべきではありません。制限時間のなかで創造レベルの価値を生み出すなど、「運」に頼る以外のなにものでもないからです。

(2)手法の使いこなしが不十分
 実務者としてのコンサルタントの経験から言うならば、顧客価値の創造に活用される手法に精通していて使いこなせるという方は、今の日本企業にはほんの一握りです。知識と違って手法は使いこなせるかが全てです。知っていても本当にその手法の真価を引き出すには、素質以外にやはり経験の数、多様な経験をすることが避けて通れないのです。にもかかわらず、「わかったつもり」で手法を「いじり」、その結果凡庸なアウトプットに終始してしまう。明らかに失敗すべくして失敗している残念なケースが多いのです。

(3)成果主義
 新しい価値と思われるものを社内で立案し、トップに提案したことがあるでしょうか。その際に多くのトップから発せられる残念な質問が「うまくいくんだろうね?」です。

 新しい顧客価値は顧客にとっても未知の体験を伴います。もちろん、顧客洞察を深めて、重ねての確認も怠るものではありません。しかし常に、新しい価値へのトライがうまくいくかは「わからない」としか言いようがないのです。経営者は一定の投資をするということを決めてやり続けていただく必要があります。

 たとえば、売上高のなかから常に一定の割合の金額を新しい価値づくりに投資する、と決めている企業もあります。「うまくいくか?」という問いかけをやめて、投資し続けるという選択をおすすめします。

顧客価値の「向上」だけでなく、「創造」を目指してチャレンジする

 さて、最後はやや挑発的な表現になってしまったかもしれません。意図としては「顧客価値を考え、向上させ、それにとどまらず創造することは簡単ではないチャレンジだ」ということです。しかし、難しいことであるがゆえに、実現できたら素晴らしいことでもあります。CSという取り組みの多くは顧客価値の「向上」が中心ですが、既知のモノサシでの価値向上を続けていても競争激化からは逃れられません。ぜひ「顧客価値の創造」を目指し、チャレンジを続けていただきたいと考えます。