キーワード解説

クレーム、苦情・コンプレインの違いとは? 的確な苦情対応を行うための3つのポイント

CS(顧客満足)担当者やマーケティング担当者が知っておきたい知識、キーワードをピックアップして紹介。それぞれの意味や仕組み、意義などについて、わかりやすく解説していきます。

今回のキーワード クレーム、苦情・コンプレイン
解説 日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

1.苦情とクレーム、コンプレインの違い

 クレーマーという言葉に代表されるように、従来から日本において「クレーム」とは、「お客さまから企業への不満や怒りを伴う、なんらかの要求や主張」を意味する単語の1つです。ただし、クレーム(claim)はもともとの英語としては、「請求」「要求」「主張」という意味なので、徐々に使われなくなってきているように思います。それに対して「苦情」は、「お客さまからの不満の表明」なので、まさに企業としてはお客さまとの関係、顧客満足(Customer Satisfaction=CS)を考えるうえで適した定義であろうと考えます。

 また、「コンプレイン(動詞:complain、名詞:complaint)」は、日本語で言う苦情と同義ですので、企業や業界によっては「苦情」のことを「コンプレイン」と呼ぶところも増えてきました。なお、「お客さまからの苦情については……」というように、お客さまに対して「苦情」と表現することがはばかられるため、苦情のことを「ご指摘」と呼んでいる企業も多くなっています。社内でも「苦情」とは表現せず「ご指摘」と表現することで、お客さま対応においてうっかり「苦情」と言ってしまわないようにしている面もあります。

 いずれにしても、本解説では苦情とコンプレインを同義として「苦情」と表現します。なお、書き方・表現はBtoCを念頭にしていますが、基本的な考え方はBtoBでも同じです。

2.苦情対応は「基本方針」の明確化が重要、考え方のポイント

 さて、貴社における「苦情対応方針」は、どのようなものでしょう。明文化されている・いないにかかわらず、おおむね「真摯に対応する」「ご理解をいただけるよう誠心誠意、組織として対応する」などではないでしょうか。そして、苦情対応の目指すべきゴールとしては、「また利用したいと思っていただける」ということを掲げている企業も多いのではないでしょうか。

 しかし、あるITサービスでの調べでは、「苦情を申し出たお客さまは、苦情対応を十分に実施しても、それ以外のお客さまよりも継続率が低い」という結果でした。これは、自社としては満点と言える対応をしたお客さまだけを抽出して追跡調査した結果ですので、「苦情対応により、また利用したいと思っていただける」というゴールがいかに難しいものかを表しています。

 また昨今、取り沙汰されるのが、「クレーマー」「モンスター○○」「暴走○○」など、強硬に苦情を申し立て、要求を通そうとする方々です。このような方々についても、「誠心誠意」や「また利用していただきたい……」という方針やゴールは妥当なのでしょうか。

 こういった「現場での“苦情対応の実際”」を踏まえて、苦情対応方針やマニュアルを見直したいという企業が増えている傾向があります。具体的な内容はさまざまですが、15年ほど前、あるヨーロッパの高級ブランド企業が日本での苦情対応方針や社内ルール・マニュアルを見直す際に、フランス人の社長からコンサルタントに示された「3つの条件」を例として紹介しましょう。

【1】良いお客さまからは、「さすが○○だ」と言われ
【2】悪いお客さまからは、「あそこは手ごわいから手を出すな」と言われ
【3】矢面に立つ従業員からは、「安心して苦情対応できる」と言われる

 これらが実現するような方針や仕組みを作ってください。

 これには、お客さまやその主張・要求には「良し悪し」があり、対応の仕方を分けようという考え方が明示されています。また従業員についても、苦情対応という業務が厳しいものであることを前提に、しっかりと会社として守るのだという意思が示されています。みなさんの会社の方針が、具体的にはどういうものになるかはさまざまですが、上記の3点は苦情対応の基本方針を考える際の共通項になるのではないかと考えます。

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3.的確な苦情対応を行うための必須要素「3つの『ル』」

 基本方針に沿って的確に苦情対応を進めるために必要な要素は、「ルール」「ツール」「スキル」の3つです。末尾のルを取って、“3つの「ル」”と捉えるとわかりやすいのではないでしょうか(図1)。それぞれ、内容を確認しましょう。

●「ルール」
 ルールとは、まさに基本方針とその実現のための、体制や判断基準、対応のプロセスのことです。誰がどのような役割と責任を持ち、どのような手順で対応していくのか。これがバラバラでは、組織的な対応とは言えません。苦情に対して臨機応変に対応するという面もありますが、これらのルールが明文化されることで、お客さまへの合理的な対応の基盤を作るとともに、貴社のリスクを最小化することにもつながります。

●「ツール」
 ツールとは、苦情内容を記録したり、苦情への対応について「いつ、誰が、どのように」実施したかという経緯を残したりするためのものです。簡易なノートやパソコンソフトの活用から、専用のデータベース・ワークフローが構築される場合もあります。コールセンターなどでは、お客さまとのやりとりをすべて録音しているところも多いでしょう。

 ツールを用意する際に大切なのは、迅速さが求められる苦情対応において、お客さまに対応する人、支援する人、マネジャー等がタイミング良く記録したり閲覧したりできるものかどうか?という点です。また苦情対応は、こじれてしまうと「言った、言わない」に陥ったり、最悪の場合は裁判沙汰にもなりかねません。ただし、正確さを求めるあまり、煩雑な手順や時間のかかるシステムにしてしまっては効果半減です。

●「スキル」
 最後にスキルです。とかく苦情対応は、「場数」や「腕前」が語られることも多いものです。苦情対応には、「商品や業務の知識」「苦情対応のあり方(ルールなど)への理解」「接客的な用語・振る舞い」「毅然とした態度」など、さまざまな人的要素が高いレベルで求められます。ゆえに、苦情対応はお客さま対応の中でも最も難易度が高いとも言われます。しかし、苦情対応が「人のスキル(技)」だけに依存して、「人まかせ」であってはなりません。

 前出のブランド企業の社長が示した3つ目の条件である「矢面に立つ従業員からは、『安心して苦情対応できる』と言われる」という状態を作るためには、あくまでも「組織が対応する」という環境を作る必要があるのです。人のスキルに期待しつつ、そのスキルを組織的に育成すること。また、対応の第一線に立つ担当者と、支援する他部署のメンバー、そして責任を持つマネジャー、それぞれのスキルを高めていく必要があるのです。

4.大切なのは対応「後」、苦情の価値を高める3つの方法

 苦情対応というと、まずは「そのお客さまとの個別の対応」に焦点が当たりますし、もちろん大切な点ではあります。しかし、本来は対応「後」のほうが重要だと言っても過言ではありません。そして、苦情は次の3つの方向に活かすことで、価値が高まるのです(図2)。

【1】「最適対応の徹底」
 1つ目の「最適対応」の徹底とは、「苦情は起こるものだ」という認識がベースにあります。理想を追求しすぎると、「苦情発生→報告→原因究明→再発防止策の立案・実施→発生状況の管理…」という取り組みを徹底しがちです。しかし、どのような製品、サービス、人の対応にもミスはあり得ますし、お客さまの期待もさまざまです。ゆえに、すべての苦情を撲滅しようとしても無理があります。「この苦情はどう頑張っても、ある程度発生するだろう」という苦情まで、絶対に撲滅する!と、目標を掲げるのは合理的ではありません。

 きちんと原因を分析したうえで、「この苦情は起こっても仕方がない」と判断したものは、「発生したときのあるべき対応」を確立し、その共有を徹底することが正しいのです。謝罪の仕方・表現、代替策の内容、返品・返金の仕方などを明確に決め、粛々と対応する。これにより、苦情発生都度の判断をスピードアップし、対応担当者の物理的・心理的負荷を軽減することを狙うものです。

【2】「再発防止」
 2つ目の「再発防止」は、文字通り「同じ苦情が再び起こらないようにする」ものです。1つ目とは異なり、「発生を許容しない」ものであり、苦情につながる原因を叩いていく活動です。自社のみならず、お客さまにとっても大きな影響があるような苦情は再発防止に努めましょう。

【3】「未然防止」
 3つ目の「未然防止」までを的確に実施できている企業は、少ないと思われます。ひと言で言うなら、「類似の苦情」を「発生していなくても防ぐ」という活動です。たとえば、「A製品の説明を間違えてしまった」という苦情の原因が「知識不足」だった場合、「B製品、C製品についても起こりえないか」を見極め、知識習得の対象をA製品以外にも広げるといった取り組みです。お客さま目線で言うと、「先日はA製品についてだったが、B製品もか!」という状態を防ぐということです。言われたことだけに取り組むのではなく、1つの苦情からさまざまに学び対処する組織を目指しましょう。

5.「悪質・不当要求」は苦情とは分けて考える

 ここまで苦情への対応を考えてきましたが、みなさんの企業・現場では「こんな理不尽なお客さまがいる」や「いくらお客さまでもこんな主張はおかしい!」というケースはないでしょうか。そういった主張や要求の主は、「クレーマー」と呼ばれたりすることもあるでしょう。こういった「おかしい」「理不尽な」主張・要求も苦情として捉えて、苦情対応の方針やルールを適用すべきでしょうか。これらを「悪質・不当」な要求と呼ぶとすれば、やはり苦情とは一線を画してキッパリと断るべきだと思われるのではないでしょうか。

 では「悪質・不当」とは、どういう基準で判断されるべきでしょう。企業のみなさんに「悪質な苦情」「悪質なお客さま」とはどういうものですか?と問うと、大抵の場合「悪意がある」や「金品を要求する」といった要素が挙げられます。

 しかし、お客さまの主張や要求の背景に悪意があるかどうかなど、我々にはわかりようがありません。お客さまからすれば自分が正しい(善)、または、こんな会社にはお灸を据えてやろうというような正義感があるだけで、「悪意」ではないかもしれません。また、買って3日で壊れてしまったスマートフォンについて、「お客さまの使い方が悪い」という説明を受けたら、「お金を返せ」とか「新しいものに交換してくれ」とも思うでしょう。悪意や金品の要求は、「悪質・不当」の判断基準にはなりえないのです。

 結論としては、「企業の誠意の限界を超える主張や要求が、悪質・不当要求である」と考えます(図3)。企業の誠意は、まさに各社が決める問題なのです(対応担当者の誠意の限界ではない点にご注意ください)。

 たとえば、「初期不良で故障した」ことが自社も確認できて、交換・返金を申し出たとしましょう。その際に、お客さまから「そんなことでは誠意が足りない。土下座しろ!」と言われたとき、多くの場合、土下座は誠意の範囲外でしょうから、お断りすることがほとんどのはずです。それでお客さまが引き下がってくれれば、通常の苦情対応の範囲ですが、店頭に1時間居座り「土下座しろ!」と繰り返されたらどうでしょうか。さすがに自社の誠意の範囲を超えたと判断するのではないでしょうか。

 このように悪質・不当であるか否かは、あくまでも自社が決めるべき問題なのです。そして悪質・不当と判断したら、対応を例外なく打ち切る。そのように対応することで、お客さまと企業の関係が健全に保たれ、矢面に立つ従業員も安心して苦情対応ができるわけです。

 2010年前後までの多くの企業の苦情対応方針・マニュアルは、おおむね「お客さま第一」寄りでした。しかし、現在では多くの企業が苦情とどう向き合うべきか、悪質・不当要求をきちんと見分けて「ブレずに断る」という方向で仕組みやマニュアルを整備し教育を行っています。ぜひ貴社の仕組みを見直してみましょう!