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【Book Review#5】カスタマーサクセスの基礎を学ぶなら、まず手にしたい“青本”と“赤本”

ビジネス感度を高めるブックレビューコーナー。顧客満足、従業員満足、働き方の向上や、それぞれの知識・理解を深める作品を中心に、考え方や明日の行動を刺激する1冊を紹介していきます。

今回の「推しの1冊」

紹介する本
『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』
著者:ニック・メータ、ダン・スタインマン、リンカーン・マーフィー
訳者:バーチャレクス・コンサルティング株式会社
発売日:2018年6月
出版社:英治出版

『カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』
著者:弘子ラザヴィ
発売日:2019年7月
出版社:英治出版

紹介する人
株式会社oricon ME CS事業本部 本部長
庄司 知

<本書のキーワード>
#カスタマーサクセス #CS #顧客の成功 #カスタマーサポート #チャーン

カスタマーサクセス初心者にオススメの2冊

 少し前から、「カスタマーサクセス」という言葉が盛んに取り上げられ、バズワードとなっています。なんだか言葉の響きがカッコ良く、思わず口にしてみたくなる力がありますね。直訳すると「顧客の成功」。その意味もカッコ良い。

 中身を見てみると、関連する言葉には「チャーン」「アップセル」「クロスセル」「リテンション」「オンボーディング」など、キラキラとした横文字が並びます。というか難しそう……。

 こうしたワードを含め、「カスタマーサクセス」についての基本を教えてくれるのが、この2つの本。カスタマーサクセスの“青い本”と“赤い本”です。似たようなタイトルなので、カスタマーサクセスについて勉強しようとすると、まずどちらを買うかで迷います。

 私の結論としては、どちらを買ってもいいし、はたまた2冊とも置いてあってもいいと思いますが、青い本のほうを手元に残しておきたいです。

“青い本”は本格的に取り組みたい人向け、“赤い本”は日本人にとってより理解しやすい内容

 青い本の『カスタマーサクセス〜』は、原書はアメリカのカスタマーサクセスソフトウェアである「Gainsight(ゲインサイト)」のCEOとCOOが書いたものです。こちらは原理原則をまとめた、“カスタマーサクセスのガイドブック”。カスタマーサクセスこそ企業にとって緊急の課題だと問題提起し、これから本格的にこの問題に取り組みたいと思っている人が手に取るとよいと思います。

 赤い本の『カスタマーサクセスとは何か〜』は、カスタマーサクセスに取り組む日本企業を支援する会社・サクセスラボの代表を務める、弘子ラザヴィ氏が執筆した本です。日本企業にとってカスタマーサクセスがなぜ必要なのか、デジタル時代の勝ちモデルを知りたいというビジネスマン向けに書かれています。事例も日本の企業が掲載されていたり、ビジネス書をよく読まれる方にとっては概念として聞いた言葉も多く登場したりしていますので、青い本よりも読みやすい印象です。より広く、日本人にとってわかりやすく解説されているのが、赤い本だと思っていただければよいかと思います。

 赤い本では、「カスタマーサクセスとは何か」という本題の答えに、「サザエさんの三河屋の三平さん(ただし、現代版という注意書きあり)」とあります。三平さんはサザエさんのお宅に、「〇○を買ってから2週間空いたので、そろそろなくなるかと思って〜」と、ひょっこり来て提案をしてくれますよね。つまり、一度モノを買っただけではなくて、買った後にさらに継続しての購入を促してくれます。

 ただ、現代ではテクノロジーが進化し、三平さんがいなくてもAmazonなら定期的に届けてくれるし、サザエさんはいつ解約してもいい。届けるのはモノではなく、サザエさんにとっての成功(たとえば、買い物に行く時間を減らすなど)であり、Amazonは野菜も日用品も宅配可能。どちらがサザエさんにとってなくてはならない存在でしょうか。

「能動的」なカスタマーサクセス、対するカスタマーサポートは「受動的」

 このように、カスタマーサクセスは積極的に顧客の成功のために伴走する考え方を持っています。よく対比されるのはカスタマーサポートで、こちらは顧客対応という表現のほうが近いでしょうか。カスタマーサポートは、多くの場合コストセンターとして見られます。消費者からの問い合わせや、意見に対応する「受動的」な組織です。カスタマーサクセスは「能動的」で、顧客の成功のために積極的に攻めます。リテンション(顧客の維持)モデルを実現し、プロフィット(利益)を創出する組織なんです。ITツールなんかは、販売会社がよく無料でセミナーを開催して、最新の事例や知識を共有してくれますよね。それもカスタマーサクセスの活動の1つと言えます。

 さきほど、ちらっと出した「チャーン」というのは、既存顧客の離脱率と置き換えられるのですが、カスタマーサクセスはとにもかくにも、このチャーンを徹底的に減らすことが大事。なぜなら、月間の解約率が8%だったとしたら、1年続けば顧客がほぼ丸ごといなくなるのと同じだからです。これがもし、半分に抑えられたとしたら、新規顧客を獲得する以上に自社に利益が生まれますよね。青い本も赤い本も、口酸っぱくチャーンを連呼していますので、それだけでいかに重要な要素だということが伝わるのではないでしょうか。

 この環境を生み出すためには原理原則、たとえば、その商品を適切な顧客に販売する(もし適切でなかったら顧客の成功はあり得ない)、顧客がどんな指標をもって成功と判断しようとしているのかを知る(知っていれば適切な伴走ができる)などがあり、それは青い本にまとめられています。

 でもこれって、よく考えればどのビジネスでも大事なことです。売ってしまってそれで終わりではなく、次も更新してもらえるかどうかが本当の提供価値なはず。カスタマーサクセスは、サブスクリプションサービスで語られがちなものです。「うちには関係ない!」なんて思わずに、自社の製品や顧客だったらどう原理原則が当てはまるのかを想像してみたら、意外な発見があるかもしれません。