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顧客満足を高めるため、飲食店でのスタッフ教育・採用にはどんな工夫ができる?【武田哲男のCSお悩み相談室 #1】

連載「武田哲男のCSお悩み相談室」第1回

CS(顧客満足)やES(従業員満足)に関する疑問・お悩みを解決していく連載コラム「武田哲男のCSお悩み相談室」。著書100冊以上、40年以上にわたり現場重視のCS(顧客満足)経営コンサルティングを手がけてきた武田哲男氏が、みなさんから寄せられた質問に答えていきます。
>連載「武田哲男のCSお悩み相談室」記事まとめ(全6回)

第1回目のお悩み
 お客さまへの接客は社長が大事に考えていて会社全体でマニュアルも作っていますが、優秀なアルバイトが抜けてしまうとまた採用から始まり、イチから教育しなければならず、それの繰り返しになってしまい進歩している感覚がまったくありません。採用もとても難しいです。

 正直なところ、表情よく元気があればお客さんのウケは良いですが、カウンターメインの小さなお店なので、1人スタッフが変わるだけでお店の雰囲気も変わってしまいます。(それによって)よく来るようになるお客さま、来られなくなるお客さまがハッキリします。それはお店としては望ましくありません。

 お客さま満足度を属人化したものではないように、どのお客さまにも楽しんでいただけるようにするために、教育や採用にはどのような工夫ができるのでしょうか。

投稿者データ

年齢

20代

業種

飲食業

職場での立場・仕事内容

3店舗ある飲食店の店長

職場の人数

6名(自分の店舗だけ)


飲食店をはじめ、過酷な状況下にある企業が“今”取り組むべき2つの課題

飲食店のイラスト

 お客さま(以下、顧客と表現)が不在で成り立つ会社は、世界に1社もありません。また、顧客の購入がゼロで成り立つ企業も世界に1社として存在していません。つまりビジネスは、顧客の購入による売上と利益を生まなければ成り立たないのです。

 一方、「CS(顧客満足)=礼儀作法」と解釈している企業を多く見ますが、それだけで業績向上を図ろうとすることはCSの本質ではありません。礼儀作法はいわば当たり前、当然、基本だからです。

 本来はCSM(CS Management=顧客満足・顧客の幸せ創造経営)により、業績向上を創造し続ける経営。すなわち、初購入顧客の開拓「顧客づくり」、顧客離脱防止の「顧客つなぎ」、末永くご縁が継続する「顧客つづき」による『女神のサイクル』が本質です。そして、そこにかかわるのが「気づき」「気くばり」「気づかい」の3つの“気”と、「臨機応変」「機転を利かす」の2つの“資質”。また、「丁寧・親切・思いやり・温もり感」が伴えばさらに充実します。

 さて現在は商品もサービスの時代であり、加えて設備・施設・環境・機械化・情報技術、システム化、そして人間力の向上など、いずれもがサービス・マネジメントの構成要素です。これらの諸要素を総合的に磨き続ける活動が大切です。

 ところで今、ビジネス社会はほとんどの業種が市場規模の縮小、供給過多、購入者減による業種衰退の危機に直面しています。飲食店はその渦中にあり、また中小企業が直面している環境は「収入の減少、支出の増大」、そのうえ「コロナ禍」の過酷な状況下にあります。

 従って企業の使命・全社目標に添って、取り組むべき現在の課題は以下の通りです。

指差しイラスト

●「顧客との良質で永いご縁の創造」(1人ひとりの顧客との関係性)
●「業績=顧客の支持率達成」(時が経つほど顧客の支持が増えて業績向上)

 スタッフの個人力だけでは達成できない課題です。

働き手を募集する際は、「個人の高能力」を採用条件にしないこと!

 ステークホルダーという表現があります。消費者・生活者、社員・従業員、お取引先(納入業者等)、地域社会、経営者・株主・行政などを顧客とする考え方です。

 貴店で言えば、ご来店顧客と同時に、社員・従業員(パート・アルバイト・派遣社員等を含む)も大切な顧客、ということです。働き手の満足・幸せ創造が得られれば、来店顧客にも満足・幸せ感が伝わります。通常ES(働き手の満足・従業員満足)と表現しますが、その主旨は「仕事の充実感・働きがい・夢中で楽しく仕事に取り組む喜び、働き手自身の成長と自覚、多能工(分業・モジュール化の限界によるいくつもの仕事が出来る能力養成)、働く時間の短縮、収入上昇、人生の充実感」などを意味します(枝葉末節になりますが、パートもアルバイトも含め、働く人たちは常に自店の料理を試食し、味を知っておくことも大切です)。

 私がお手伝い(コンサルティング)したなかに、人手不足で顧客もどんどん去っていく衰退サービス業がありましたが上記の取り組みにより入社希望者が増え、退職者がほとんど出ないため、会社が継続発展という好循環を生んでいる例がいくつもあります。少人数でも、大勢のスタッフが存在する組織でも、1人ひとりの働き手の満足がチームワークを生み、それが顧客に喜ばれ、顧客の満足・幸せを創造するのです。

イキイキとした人々

従業員1人ひとりの満足がチームワークを生み、それが顧客に喜ばれ、顧客の満足・幸せを創造する

 逆に働き手1人ひとりの資質や個性のみに依存する限り、そしてその担当者に顧客のファンがつく限り、個人が退職すると顧客も共に去って行ってしまいがちです。これでは個人に付随する顧客であり、会社や店の顧客ではないのです。

 つまり本来は1人ひとりの資質を高めつつ、その力をコミュニケーションで結び、さらに面にすることにより「チーム力」「組織力」「システム力」を発揮し、「相乗効果」を生み「高付加価値」を創造する総合力が会社の発展を促すのです。

 働き手の募集・採用に際しては、こうした企業理念と実践的な取り組みを応募者に伝えることが大切です。だからこそ、スタッフ採用は人物の「素直さ」に的をあて、個人の高能力を採用条件にはしないことです。それでこそチームワークが生まれ、結果として見た場合、素直な人が成長し、店に貢献し、店も繁盛するのです。

顧客は単に空腹を満たすためだけに来店するのではない

 まずは、店としてどのような課題に取り組むかですが、調査により課題を把握する方法、顧客を基にして自分たちで課題を設定するなどの方法があります。しかし、その前に簡単に出来る方法として挙げられるのは、スタッフが日々活動するなかで、お客さまが何気なくおっしゃった気になるひと言、スタッフ1人ひとりの気づきなどを日々メモにして、一定の函に入れ、1週間に一度、函を開けてメモに記された内容・主旨をみなで理解し、課題として知恵を出し合って解決方法を考えるという取り組みが効果を上げています。

スタッフが誰でも投稿できる“意見BOX”を設置するのも効果的

スタッフが誰でも投稿できる“意見BOX”を設置するのも効果的

「どのような商品を作れば売れるか」「どうやって売ろうか」の発想は、顧客不在の自分たち発想でCSではありません。「なぜ顧客は来店しないのか」「なぜ顧客はこの料理を注文しないのか」「なぜ顧客は黙って去っていくのか」などが、CSの取り組み課題として有効です。また、「店に対して気になること、困ること、不満、ご要望など」を記すアンケートを各テーブルに置き、ご記入いただいた内容を活動の課題にする方法もあります。

 社員に対しては接客態度や礼儀作法のみを求めるのではなく、働く全員が店の運営に参加することにより成果が生まれると、達成感や充実感を味わいESが向上するのです。この活動が進むと、来店顧客も店の雰囲気や働く人たち全員に満足するようになります。

 顧客は単に空腹を満たすためだけに来店するのではなく、仕事が上手く進むため、商談が成功するため、デートの喜びが得られるため、一家団らんで家族の幸せ感に浸るため、健康を保つためなどの目的で食事にいらっしゃるのだと理解してください。

 みなさまは「不満製造業」「ストレス生産業」ではなく、「満足提供業」「幸せプレゼント業」という素敵な仕事に取り組んでいるのだと自覚し、喜び、充実感をみなで体感してください。それが働き手、会社、顧客、地域社会等の満足を創造し、繁盛店を創造するのです。最後に、私がお手伝いした企業の中で、貴店とは異なる分野の成功事例をご紹介します。なぜ業種や規模が異なる企業の事例をご紹介するかというと、ご同業のケースより、むしろ他業界や企業規模の違った事例に多くのヒントが存在するためです。

事例紹介
 これは、ある地方都市のS食品スーパーの話です。地域密着の小さな八百屋さんからスタートし、300坪ほどに成長した同店ですが、1km範囲に総合大型スーパー(GMS)が出現したために大幅に業績が落ち、閉店直前にまで追い込まれてしまいました。

 相談を受けた私は、まずヒアリングを行うように発案。Sスーパー社長と店長と共に数日間かけ、徒歩で商圏特性を調べ、また地域在住の方々のSスーパーに関する意見を聞いて歩きました。合わせて自店のパート・アルバイト・スタッフおよび取引先納入業者さまに、率直に自店の問題点を挙げてもらうヒアリングを行いました。その結果、多くの驚くべきことがわかったのですが、なかでもショックだったのはSスーパーで働いている人たちが自店ではほとんど買い物をしていなかったことです。すべてに共通する最大の問題点は、“心から”顧客を大切(CS・ES)にしていないことでした。課題を整理したうえで、次のような取り組みをはじめました。

<取り組みの一部>
●スタッフの「ひと言情報メモ活動」の実施(全員参加型で、自分の担当以外のことに関しても気づいたことがあればメモにして投函できるようにし、週に1回開ける)。その指摘・意見については、みなで前向きに話し合う。
●毎月1回、全店ミーティングで次月の部門単位の目標を発表。他部門の目標に自部門の商品・サービスと結びつける連携を図り、相乗効果を生む。
●手書きのショーカード(商品の説明)やPOP(目を引く魅力づくり)などの書き方をスタッフが共有する。
●季節に添った旬の野菜と魚、肉の惣菜を発売するキャンペーンを実施。その数日後、評判の良かった料理メニューの「料理教室」を開催した。
●高齢者のために、重たい買い物はご自宅まで宅配する仕組みを作った。

 上記は取り組みの一部ですが、全社的な各部門との連携・融合で組織が活性化することによって、高付加価値創造を図る活動が行われ、多能工(マルチスキルを持つ人材)が増えていきました。そうなることで従業員の働きがいが向上し、従業員の満足意識が顧客に伝わり、入社の応募者が増え、特別な事情以外は退職者が発生しなくなりました。また、高効率化などによるコストダウンが実現して利益率が向上し、同店の業績は上昇機運に乗ることができました。

今回の武田式アドバイスのおさらい

●“今”取り組むべき課題は、「顧客との良質で永いご縁の創造」「業績=顧客の支持率達成」の2つ。

●スタッフの満足・幸せ創造が得られれば、来店顧客にも満足・幸せ感が伝わります。

●採用募集をする際は、人物の「素直さ」に的をあて「個人の高能力」は条件にしない。

●スタッフ1人ひとりの気づきを共有する“意見箱”の設置がオススメ。

●顧客が要望や不満を記入できるアンケートを、テーブルごとに設置するのも効果的。

プロフィール

  • 武田哲男氏

武田哲男(たけだ・てつお)
武田マネジメントシステムス 代表取締役

 服部時計店(現・SEIKOホールディングス)入社後、銀座・和光で小売部門を経験。以来、サービス・CS分野のパイオニアとして、企業規模・業種・業態を問わず、多くの企業活動の実務に参加している。日本初のCS・CSM(CS Management)実務書『CS推進ここがポイント』(日本能率協会)をはじめ、『なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか? あなたがサービス・製品を選ぶ本当の理由』、『顧客「不満足」度のつかみ方・活かし方』(ともにPHP研究所)など、著書は100冊以上。CS・顧客サービス研究所、武田マネジメントシステムス代表取締役のほか、豊富なキャリアから一般社団法人エチケット・サービス向上協会 代表理事や、クレーム関係のセミナー・講師なども務める。

>武田マネジメントシステムス 公式ホームページ(外部リンク)