トップの理由

満足度No.1の「ロボアド」を実現、ウェルスナビ独自の“ものづくり文化”に迫る/柴山和久CEOインタビュー【前編】

ウェルスナビ株式会社 代表取締役CEOの柴山和久氏

オリコン顧客満足度調査の各種ランキングで1位を獲得した企業のトップへのインタビュー企画【トップの理由】。今回は、初の調査となった「ロボアドバイザー」において、顧客満足度ランキング総合1位を獲得したウェルスナビ 代表取締役CEO・柴山和久さんのご登場です。前編では、世界的にもめずらしい「ものづくりする金融機関」としての特色について。後編では、日本における資産運用の現在地と課題などについて語っていただきました。
>ロボアドバイザーランキングの詳細はこちら(外部リンク)

 資産運用を自動化するサービス「ロボアドバイザー」の国内最大手・ウェルスナビ。2016年7月の本格リリースから5年足らずで、預かり資産4500億円(21年5月28日時点)、運用者数26.9万人を突破(21年3月末時点)した注目の企業です。20年12月には、東証マザーズに新規上場を果たし、より安定した経営基盤を確保しつつ、急速に存在感を増しています。

 顧客視点で質の高いサービスを生み出す最大の原動力は、従業員の約半数がエンジニア・デザイナーなどのクリエイターという「ものづくりする金融機関」であること。いち起業家としても注目される同社CEO・柴山和久さんに、そのこだわりを中心にうかがいました。

1.“自らの手”でサービスの原型をつくった経験を組織づくりに反映

――現在、100名近い従業員のうち、半分ほどがエンジニアやデザイナーだとお聞きしました。金融機関としては、かなり珍しい組織体制と言えるのではないでしょうか。
柴山さん 私たちは自動でおまかせの資産運用サービス「WealthNavi(ウェルスナビ)(外部リンク)」をオンラインで提供しています。ミッションは、「働く世代に豊かさを」。実際に、20〜50代の方々がお客さまの約9割を占めていて、豊かな老後に向けた資産形成のサポートをしています。

 メンバーの約半数がエンジニアやデザイナーといった組織は、とくに金融の分野に限れば、世界的にもユニークなものだと思います。2015年の創業当初から変わらず、エンジニアやデザイナーなど、サービス開発に直接携わるメンバーが従業員のほぼ半分を占めています。ビジョンとして「ものづくりする金融機関」を掲げていて、規制やルールを守りながら、あくまで自分たち自身の手で、テクノロジーを活かした新しい金融サービスをつくり、広げていくことを目指しています。

  • 自動でおまかせの資産運用サービス「WealthNavi(ウェルスナビ)」アプリのホーム画面

    自動でおまかせの資産運用サービス「WealthNavi(ウェルスナビ)」アプリのホーム画面 ※画面はイメージです

  • 自動でおまかせの資産運用サービス「WealthNavi(ウェルスナビ)」アプリのポートフォリオ

    世界約50ヶ国11000銘柄に自動で分散投資・リバランスを行い、最適なポートフォリオを保ち続ける ※画面はイメージです

――サービスの基本設計までは内部で考案し、具体的なシステム構築やプログラム開発などは、専門の別企業などに外注する、という選択肢もあったかと思うのですが。
柴山さん 自分たちで開発することの大きなメリットは、お客さまの声に沿ったサービスの改善を、スピード感をもって実行できること。お客さまと一緒になって、どんどんサービスを進化させることができます。新しくゼロからつくるサービスでは、お客さまからのフィードバックを受け取り、迅速に反映・改善することがとても重要です。

――その発想には、きっかけとなる何かがあったのでしょうか。
柴山さん 前職のマッキンゼーを退職して創業するにあたり、私自身が渋谷のプログラミング学校に通って、サービスのプロトタイプをつくったという経験があります。もちろん初心者ですから、プログラミング自体をゼロから勉強した。そのなかで、金融の世界とテクノロジーの世界は、価値観も仕事の進め方もかなり異なるということを肌で実感しました。金融機関ではスーツ姿が基本なのに対し、エンジニアのみなさんはジーンズにTシャツ姿で、まず服装からして違いました。

 プログラムの簡単な動作を修正したいのに、何日かかっても直せない。でもうまく扱えば、複雑な作業が自動化できる。学校に通うなかで、さまざまな驚きと発見がありました。プログラムがうまく動いてくれた時の喜びや楽しさと同時に、焦りや苦しみ、大変さも感じた。だからこそ、ウェルスナビの起業にあたっては、価値観の対立をすり合わせる労力をかけてでも、金融の専門家とテクノロジーの専門家が1つのチームとしてサービスをつくっていこうと考えたのです。

2.ユニークな組織体におけるPDCAの回し方とは

ウェルスナビ株式会社 代表取締役CEOの柴山和久氏

ウェルスナビ株式会社 代表取締役CEOの柴山和久氏

――利用者からの声を反映し、より良質なサービスへと改善していくために、具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。
柴山さん まず、実際にお客さまからカスタマーサポート宛てにいただいた声を、開発チームへ毎朝シェアする仕組みがあります。お客さまの声に応えながら、平均して約2週間に一度のペースでサービスを改善し続けています。もちろん、至らぬ部分は常にどこかにあり、お客さまからご指摘を受けることもありますし、社会の変化やサービスの広がりなどからも、想定していなかったような新しい課題が日々、生まれてきます。そのたびに、サービス改善には終わりがないのだな、と感じます。

――金融の専門家とテクノロジーの専門家が1つのチームとしてサービスをつくり、運営していくというのは、言うは易しでかなりのご苦労もおありかと思います。
柴山さん お互いに協力し合う組織文化をつくり維持するために、他部署のメンバーや新しく入社したメンバーと交流する「シャッフルランチ」も実施しています。今はコロナ禍ですから制限を設けながらですが、チームの壁を越え、互いのバックグラウンドや価値観の違いなどを含め、まずはメンバー同士のことを知り合うことが大事。金曜日の夕方の「ハッピーアワー」というカジュアルな全社ミーティングでは、さまざまなチームのその週の活動をシェアしています。

 また週に一度、金融に関する勉強会も社内で行っています。これは金融機関の出身ではないメンバーに、金融の専門的な知識を身につけてもらうための取り組みです。これまで金融の知識を身につける機会の少なかった、つまりウェルスナビの多くのお客さまの近い悩みをもっているメンバーからは、サービスづくりのヒントにつながると同時に、金融についての社員自身の悩みも解決されることから「ウェルスナビの福利厚生」という声も上がるほど好評です。

3.お客さまの声だけでなく、「声にならない潜在ニーズ」を理解することが重要

――今年2月、日本で初めてNISA口座の非課税メリットを活用しながら自動でおまかせの資産運用ができる新機能「おまかせNISA」をリリースされました。そうした新たなサービス開発は、やはり利用者の声由来のものなのでしょうか。
柴山さん 多くのお客さまから「NISAに対応してほしい」というご要望をいただいていました。「おまかせNISA」は開発に1年ほどかかり、ようやくリリースできました。「どの商品を購入してよいかわからない」「投資の知識がないと難しそう」といった理由でこれまでNISAを利用できなかった方々を中心に、ご利用いただいています。一方で、お客さまの声に耳を傾け一緒に成長していくのと同じくらい、お客さまの想像を超え、イノベーションを興していくことも重要だと考えています。

今年2月にリリースした新機能「おまかせNISA」は、日本で初めてNISA口座の非課税メリットを活用しながら自動でおまかせの資産運用ができるというもの

今年2月にリリースした新機能「おまかせNISA」は、日本で初めてNISA口座の非課税メリットを活用しながら自動でおまかせの資産運用ができるというもの ※画面はイメージです

柴山さん たとえば、ウェルスナビのような自動でおまかせの資産運用というサービス自体、ひと昔前にはニーズもなかった。その頃にアンケートをとってみても、お客さまの声として挙がることがないサービスだったわけです。

 実際、16年7月に正式サービスインする前の半年ほどの期間に、「おまかせ」と「おまかせではない」サービスの両方をテストしてみたことがあります。事前アンケートでは「おまかせではない」、個人の裁量で自由度が高く使えるものがよいという声が多かった。しかし、テストをしてみると、実際は9割以上の方が「おまかせ」のサービスを選ばれました。

 お客さまの行動から見えてきたのは、意識化しきれない領域でのニーズです。新たな金融インフラを築いていくためには、そうした「声にならない声」を理解し形にする努力も非常に重要です。「お客さまの声」「声にならない声」の両方を汲み取って、事業を進化させていこうと考えています。経営陣がお客さまの声に目を通す集まりでは、お客さまのさまざまな声の背景に潜んでいる共通課題を発見し、対処することに重点を置いています。

4.老後資産に日米で10倍の差があったことの「身近な衝撃」から創業へ

ウェルスナビ株式会社 代表取締役CEOの柴山和久氏

――失礼ながら、あまりに華麗な柴山さんのご経歴(※下段のプロフィール参照)を拝見すると、挫折などなかったのではないかと感じます。
柴山さん 財務省を退職してMBAを取得後、就職活動をした時にはなかなか次の仕事が決まらず、大きな挫折を味わうことになりました。応募しても応募しても書類選考や面接に落ち、不採用の連絡が20社近くになる頃には、自分は世の中で必要とされていないと感じ、日々、悶々と過ごしていました。

 そんなある日、スターバックスで一杯のコーヒーを妻と分け合って飲んでいたら、私たち夫婦の目の前で、老婦人に連れられた飼い犬が、マンゴー味のフラペチーノを食べさせてもらっていました。世の中に必要とされていない自分の価値は、犬以下なのではないかと打ちのめされました。社会との絆を失う精神的なダメージは想像以上に大きいものでした。

 仕事がみつからない時期が半年近く続き、スーパーで野菜の値段が少し上がっただけでも身体が反応するようになり、夫婦の貯金が8万円を切った頃、マッキンゼーから内定をもらいました。このような挫折をきっかけに、精神的に少し強くなったと思います。

――マッキンゼーで約5年働いた後、起業されました。
柴山さん マッキンゼー時代には、資産10兆円規模の機関投資家をサポートしました。その頃、身近で衝撃を受けたことの1つが、ウェルスナビ創業の大きなきっかけの1つになっています。私の妻の両親はアメリカ人なのですが、日本の私の両親と比べると、リタイア後の金融資産に約10倍もの差があることがわかったのです。

――それは、奥さまのご実家がもともと由緒ある名家だったとか、そういう事情ではなかったのですか。
柴山さん いいえ。私の両親と妻の両親は、日本とアメリカという違いはあっても、同じような年齢と学歴、職歴でした。むしろ、妻の両親は若い頃は採用面接に行くスーツを買うために借金をしていたそうです。ただ、若いうちから「長期・積立・分散」の資産運用を20年以上続けた結果、リタイアするときには数億円の資産を形成していたのです。いったいこの差はどういうことだろう、と考えざるを得ませんでした。

 私の両親は、退職金と年金に頼れる世代です。かつての日本の終身雇用をベースにした社会では、きちんと定年まで勤め上げ、退職金と年金を受け取りながら、ある程度は豊かに暮らしていけました。いわば国と会社が老後の面倒を見てくれる社会だったわけです。働きながら資産運用をする必要もありませんでした。ですが、そうした社会構造は、すでに大きく変化しています。 (インタビュー・文/及川望)

【インタビュー後編】
>“金融のプロ”がとらえる、日本における「資産運用」の現在と未来
>「トップの理由」インタビュー 一覧

>オリコン顧客満足度 ロボアドバイザーランキングの詳細はこちら(外部リンク)

プロフィール

ウェルスナビ株式会社 代表取締役CEOの柴山和久氏

柴山和久(ウェルスナビ株式会社 代表取締役CEO)
しばやま・かずひさ●東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD(MBA)修了。ニューヨーク州弁護士。日英の財務省で合計9年間、予算、税制、金融、国際交渉などに参画。INSEADへのMBA留学後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてウォール街に本拠を置く機関投資家をサポートし、10兆円規模のリスク管理と資産運用に携わる。2015年4月にウェルスナビ株式会社を創業。Forbes JAPAN「起業家ランキング2021」では、TOP3に選出。著書に『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いた これからの投資の思考法』(ダイヤモンド社/2018年)がある。