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もう上司の問いに怯えない!「CS推進による成果」の示し方【CS推進 一年生 #14】

連載「CS推進 一年生」 第14回「CS推進による成果の測り方」

CS(顧客満足)推進のプロセス・考え方をイチから解説する連載コラム「CS推進 一年生」。40年にわたり日本産業の成長を支援する総合コンサルティングファーム・日本能率協会コンサルティングに在籍するコンサルタントが、全15回にわたって顧客満足向上に向けた基礎を紹介します。“CS初心者=一年生”はもちろん、「改めてベースから振り返ろう」という方にも適していますので、ぜひご活用ください!
>連載「CS推進 一年生」記事まとめ

第14回目のテーマ
CS推進による成果の測り方
講師
日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

 連載14回目は、顧客満足(以下、CS)向上に向けた取り組みの「成果」を考えます。

 提供するサービスや商品のジャンルを問わず、お客さまの満足について「必要ない」「大事ではない」という企業・人はいないでしょう。しかし、時間をかけてCS向上に向けた取り組みを進めていると、「顧客満足度調査(以下、CS調査)をやっているが成果はあったのか」「顧客の不満は減ったようだが継続率などに表れているか」といった、成果を問う声が上がってくるものです。

 CS推進の担当者としては、「これだけの成果がありました!」と明快に示したいところですよね。そこで今回は、みなさんが自信を持ってCS推進に取り組んでいけるよう、CSの手応え、すなわち成果のとらえ方をご紹介します。

1.「CSが向上すると儲かるの?」 企業からよく聞かれる疑問

うなだれる人のイラスト

 筆者は、ある社長から「CSが向上したとしても、儲かるにおいがしない」と言われ、一瞬、唖然としたことがあります。まさか経営者が、「顧客の満足が経営にとって重要ではない」と思うはずがありません。では、この社長の発言にはどういう背景と意図があるのでしょう。この社長に問い直したところ、以下のような状況が見えてきました。

●CSは大事だが、満足度が上がることで売上も上がるものなのか、誰も答えを示してくれない
●CS調査の結果は毎年報告され、満足度が上がったり下がったりしているが、「だから何?」が見えない
●CSが重要なのはわかっているが、成果も見えるようにしてくれないか

 これらの状況は、「CSは重要」という考え中心で、とにかく・とりあえずCS調査を始めました、という企業ではありがちなものだと考えます。CSが重要だということに関しては誰も異論を唱えないので、取り組みはスタートするものの、1年、2年と経過するうちに、これらの疑問が出てくるのでしょう。みなさんの企業ではいかがでしょう。「CS向上に向けた取り組みの成果」を問われて、なんと答えているでしょうか?

2.CS推進の成果は、「3つの視点・指標」でとらえる

3つの視点でものごとを見ている人

 迷わず答えることができるCS推進による成果は、満足度です。お客さまの満足を高める取り組みなのですから、これは当然です。推進部門としても「今年度の満足度は○%です」と数値で示すことができるため、この点については疑問もお困りもないだろうと考えます。しかし、この満足度指標だけでは、「満足度が上がると経営にどういうメリットがあるのか?」という問いに答えるには不十分です。

 となると、やはり2つ目の視点として「CS推進による成果は業績向上です」と言いたくなるのではないでしょうか。しかし、売上高や利益といった業績そのものは、全社としての満足度とは「一見」無関係に上がったり下がったりするものです。これは当然のことで、売上高のような総合的な指標は、満足度のほかにも経営企画や競合の動向、自社の新製品やプロモーションの良し悪しなど、多様な要素により変化します。満足度が上がると売上が増える、という単純なものではないのです。

 では、CSと業績の関係は示せないのでしょうか。答えとしては、業績貢献なら示せるが適切だと考えます。CS推進は、満足したお客さまを増やす取り組みです。結果として変わるのは、「満足したお客さまの行動」です。したがって、満足したお客さまが増えることで業績に貢献する何が変わるのか?を考えることが、CSの成果における2つ目の視点なのです。

 満足したお客さまの行動とCS推進の成果を関連付ける典型例は、以下の通りです。

●再利用・・・満足したのでまた利用する
●客単価・・・満足したのでほかの商品も利用する、より高額な商品を選ぶ
●他者への推奨・他者紹介・・・口コミにより新規顧客が増える

 こういった売上や利益の手前にある指標を成果とすることができれば、「儲かるにおい」がしてくるはずです。

 ただし、こういった指標も、満足以外の要素の影響を大きく受けるものです。したがって、いかに「満足したお客さまの行動」にフォーカスを当てて、CS推進の成果をより的確に示すかにはひと工夫が必要です。このあたりは次項で解説します。

 さて、ここまで満足度業績貢献という2つの視点をご紹介してきましたが、この2つでCS推進による成果がすべて表されているでしょうか。いじわるな人なら、「満足度が上がったのは競合が手抜きをしたからかも?」「紹介が増えたのはCS向上に向けた取り組みではなく、紹介キャンペーンの成果だ」などと、主張するかもしれません。となると、CS推進が業績に貢献したと明確にすることが求められます。つまり、「このように取り組んだから、“この満足度(要素)”が高まり、その結果として業績に貢献した」ということが示せれば良いはずです。これが3つ目の視点となる手段指標です。

 CS調査やお客さまの声をもとに何かを変革したことで、なんらかの満足度が高まり、結果として満足したお客さまが業績に貢献する行動をとってくれた。この手段としての「何かを変革した」ことの度合いを指標として示せれば、CS向上に向けた取り組みが満足を生み出し、その結果として業績貢献行動が増えたと示すことができます。

3.自社の実態をふまえ、3つの視点・指標から成果を示す「CS指標体系」

 これら3つの視点からなる指標を、自社のCS推進の実態をふまえて整理したものがCS指標体系です。わかりやすい例として、ある部品メーカーの体系例を見てみましょう。

ある部品メーカーのCS指標体系例

 部品メーカーにとって、顧客から「こんな部品はないか、作れないか提案してほしい」と言われることが増えることは、売上アップのチャンスです。したがって、業績貢献指標としては提案要求件数を置いています。そして、「提案してくれないか?」という要求を引き出すためには、「わが社はこんなことができます!」という情報発信に満足いただく必要があるのではないかと考え、満足度指標には情報提供満足度を置いています。

 そして、情報提供に満足いただくためには、発信の「量」と「質」を高める必要があるだろうということで、手段指標としては「発信頻度」「社内フィードバック(による発信内容向上)」を置いています。そのほかにも、提案採用率を高めるためには提案満足度を高めることが大切。そのための手段として、「提案勉強会の開催」を例に挙げています。

 このように、業績に貢献するためにはどのような満足度を高めるべきか?その満足度を高めるための手段は何か?を整理したものが、CS指標体系です。この体系の中身は事業によって、会社によって、その時々の方針や戦略によって変わってきます。とくに、手段指標はさまざまでしょう。大切なのは、業績貢献に向けて一貫して「筋が通った」指標が設定されているかどうか、という点です。

 また、ある部品メーカーの体系例の表の中では、「取り組み対象顧客において」や「取り組み対象部門において」と記載していますが、このようにどのお客さまの行動変革を意図したのか?自社のどういった活動(手段)の結果なのか?を特定しておくことも重要です。体系ですから、ロジックとしてつながっていることが必要不可欠なのです。

4.「CS指標体系」の活用で、CS調査のあり方・顧客情報や社内情報の取り方が変わる

 CS指標体系の概要は以上ですが、誰のどういう行動が変わったか?また、自社でどういう取り組みを行ったか?が指標として測定できなければ、指標体系は絵に描いた餅になってしまいます。社内に成果を示し、CS推進を活性化させていくためには、CS調査を含めて顧客のどういった情報を取っていくのか、社内の活動をどう記録していくのか、という点も重要になってきます。

 たとえば、以下のような点は、的確にCS指標体系を作り活用するために重要です。

・CS調査では、どういう顧客区分で集計できるようにしておけばいいか
・CS調査では、何についての満足を分けて問う必要があるか
・顧客の行動について、どういう場面で記録(カウント)しておく必要があるか
・社内のCS推進の具体的な内容を、どの程度収集し、記録しておくか

 CS指標体系を上手に活用していくために、これらの点からも検討・実践していきましょう。

 参考までに、CS調査の項目と指標体系の関連例を掲載します。自社にとって必要な指標と調査設計の関連を見直してみましょう。

CS調査と指標体系の関連(例)

 CS指標体系について、いろいろと解説をしてきましたが、最後におさらいです。CS指標体系は、CS推進の「目的」ではありません。ですが、CS推進の継続とレベルアップのためには非常に重要な道具です。(1)CS推進の成果を社内に示すことで、取り組み意欲を高める(2)CS推進の成果を満足度と業績貢献から検証し、施策の見直しを図るという、大きく2つの意義があります。これらの点から、ぜひ自社流のCS指標体系を作り、活用していきましょう。

 次回は、いよいよ最終回。第15回目のテーマは、「期待察知スキル」です。

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 日本能率協会コンサルティングは、1942年に設立された社団法人 日本能率協会の中核として70年以上、企業が抱えるさまざまな課題解決の実行支援を行っている。1991年には日本で初めて「CS経営」を提唱、数百社以上のCS向上支援を行っている。現場主義のコンサルティングスタイルであり、一過性の流行に流されない真の顧客起点での課題立案・対策推進を支援している。
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