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人が人に行う応対・接客は「状況判断による個別応対」が要【CS推進 一年生 #15】

連載「CS推進 一年生」 最終回「期待察知スキル」

CS(顧客満足)推進のプロセス・考え方をイチから解説する連載コラム「CS推進 一年生」。40年にわたり日本産業の成長を支援する総合コンサルティングファーム・日本能率協会コンサルティングに在籍するコンサルタントが、全15回にわたって顧客満足向上に向けた基礎を紹介します。“CS初心者=一年生”はもちろん、「改めてベースから振り返ろう」という方にも適していますので、ぜひご活用ください!
>連載「CS推進 一年生」記事まとめ

最終回のテーマ
期待察知スキル
講師
日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

 顧客接点における人的応対の評価は、顧客満足(以下、CS)に大きな影響を与えます。機械化・システム化された顧客接点が増えていくなか、人が行うべき応対は「状況を判断し、個別応対する」ことです。連載の最終回は、状況判断のコアスキルである「期待察知スキル」について取り上げます。

1.時代とともに、「人が応対しない」顧客接点が増えている

サービスの“機械化”のイメージイラスト

 今、私たちの周りを見渡すと、以前に比べて人的応対が減ってきているのではないでしょうか? たとえば、以下のような変化があります。

●機械化・自動化
 自動販売機のような従来からある機械によるサービス提供に加え、問い合わせメールの自動返信のような応対も増えてきました。

●バーチャル化
 いわゆるネットショッピングは、そこに店舗やアバターによる人が存在することがありますが、そこはもちろんバーチャルな空間です。こういった体験も普通のこととなってきました。

●セルフ化
 たとえば、スーパーなどでもセルフレジが増えてきました。レジ業務は店舗スタッフがやっていたことですが、セルフ化されてきています。

 こういった、人が人に対してサービスを提供しない顧客接点は、今後ますます増えていくと考えられます。人員削減ができることにより、企業側にはコストダウン的なメリットがあります。では、顧客にとってメリットはあるのでしょうか?

2.「人が応対しない」顧客接点は、企業と顧客にとってWin-Win

「人が応対しない顧客接点」は、顧客にとってもさまざまな良い点があります。主に、以下のようなメリットが挙げられます。

「人が応対しない顧客接点」による顧客側のメリット
●正確でスピーディ
 精算や情報提供など、機械やシステムのほうが正確でスピーディなことが多い。

●学習システムにより、顧客に合わせた提案が可能
 利用履歴によるリコメンドなど、システムのほうがサービス提供に関して個々にアプローチできることが多くある。

●サービス品質にバラツキがない
 人と違い、自動販売機やATMは機械によってサービスの品質に差がない。

●接客不満が少ない
「機械的な応対」とお叱りを受けるのは人。機械やシステムへの応対不満は少ない。

●お客さま主導になる
 24時間365日対応であれば、営業時間も休業日もない。企業の都合に関係なく、お客さま主導のサービス提供ができる。

●ロープライス(ローコスト)
 結果として価格が下がれば、顧客にとっては大きなメリットとなる。

顧客と企業のWin-Winについての解説画像

 このように、「人が応対しない顧客接点」にさまざまなメリットがあるなか、それでも人が応対する意義はどこにあるのでしょうか?

3.人が応対する意義は、「状況判断による個別応対」

 たしかに、機械やシステムによるサービス提供にはさまざまなメリットがありますが、「依頼されたことを正確・スピーディに遂行する」ことや、「過去の履歴や関連データに基づいて提案する」ことが中心。提供する商品やサービスによっては、機械化・システム化が向かないものもあるはずです。

 企業として機械化・システム化などで勝負しない方針なのであれば、顧客接点となるのは人。人でなければできない応対を心がけなければなりません。それは何かというと、私たちは「状況判断による個別応対」と考えます。文字通り、目の前の顧客の状況や心情を察して、それに応じて個別に応対することです。

 そもそも、接客応対に「正解」はあるのでしょうか? 年配のお客さま対応を例に考えてみましょう。耳が遠いかもしれないので、ゆっくりと大きめの声で話したとします。そうすると、「わかりやすい説明をありがとう」とお礼を言われることがあるでしょう。しかし、顧客応対が難しいのは、これが「いつもうまくいく」とは限らないということです。

「年寄り扱いして! バカにしないで!」と言われることもあります。ですが、One Best Wayがないのであれば、目の前の顧客に個別で最適解を提供する以外に人がやるべきことはないのです。従って、「聞かれたことに答える」「依頼されたことをやる」だけでは高い満足度を得られません。「聞く前に情報提供された」「依頼したことにプラスαがあった」という応対ができてこそ、高い満足度を獲得することができるのです。

 そういった状況に即した個別応対を実践するためには、「(1)状況を判断するスキル」と「(2)個別応対をするための応対のバリエーションを身につける」の2つがポイントになります。

4.顧客を知る手がかりをキャッチする「期待察知スキル」

ミーティングのイメージイラスト

 顧客の状況を判断するためには、さまざまな「手がかり」を見つけ、活用しなくてはなりません。対面であれば、服装や言動などから判断できることがあります。電話やリモートであっても、背景情報など顧客を知る手がかりはあります。

 たとえば、電話やリモート画面の向こうから赤ちゃんの泣き声が聞こえても聞こえなくても、同じ応対しかできないのであれば、それは人がやるべき応対ではありません。そして、もっとも重要な判断は「顧客の期待」を察知することです。

 以下の応対例を見てください。

ホームセンターにおける顧客と店員のやり取り

顧客 直径1cmくらいの磁石を10個くらい欲しいのですが…
店員 申し訳ございません。あいにく欠品しております。お時間いただければお取り寄せいたしますが、いかがでしょうか?
顧客 あっ、じゃーお願いします。
店員 かしこまりました。それでは…(以下、説明が続く)

 この応対は、いわゆる「モノ売り」レベルであり、期待察知が不足しています。この顧客は磁石が欲しいのでしょうか?おそらく、磁石を使って何かをくっつけるといったことが真の目的のはずです。その真の目的(=顧客の期待)を察知し、そこへ働きかけることが求められます。

 この例であれば、「お取り寄せもできますが、差し支えなければどのようなことにお使いでしょうか?」と確認し、「それでしたら、この瞬間接着剤でも…」と先取りで提案していくような流れが、人がやるべき応対と考えます。

 かといって、やみくもに顧客に問いかけることでもありません。「(このお客さまは)問いかけることを嫌がりそうにないか?」といったことも判断する必要があるのです。感じよく、依頼されたことに応えるだけでは不十分なのです。

5.期待察知スキルを高めるには、「ケーススタディ」が効果的

 期待察知スキルを高めるには、「ケーススタディ」が効果的です。ここでいうケーススタディとは、「実際にあったこと、ありそうなことを取り上げ、そのとき自分ならどうするか?を話し合う」というトレーニング方法です。ケーススタディの進め方は以下です。

ケーススタディの進め方

 店頭販売の接客を例に、具体的に解説しましょう。まず、朝礼のような場で「接客中に別のお客さまから『すみません…』と声をかけられました。あなたならどうしますか?」といった接客ケースを投げかけ、各自に意見を聞きます。その際、次のような意見が出てきたとします。

Aさん周りを見渡して、手の空いている人に応援を頼む。

Bさん今のお客さまの応対が終わり次第応対するので、少し待ってほしいと言う。

Cさん声をかけてきた人の用件を聞き、急ぎであれば応対する。

 こういった意見に対して、メンバーとやり取りをしながらさまざまな気付きを深めていくのです。

 たとえば、「そもそも、接客中なのに声をかけてくる人ってどういう人だと思う?」といった問いを重ねれば、急いでいる人、ちょっと聞きたいことがあるだけの人、図々しい人というように、人物像やその人が期待していることが見えてきます。こういった視点の共有が、期待察知スキルを高めていきます。

 また、A〜Cさんの意見に対しても、さらに気付きを深めていきます。

Aさんに対して
→全員手がふさがっていたらどうするか(ありそうな状況をさらに投げかける)。

Bさんに対して
→「簡単な用件なんだけど、急いでいるからなんとかならない?」と言われたらどうするか。

Cさんに対して
→用件を聞こうとしたら、「今は私の接客中なんだから、その人の対応は後にして」と言われたらどうするか。

 こういったやり取りにより、「顧客がどういう状況なのか?」「どういう期待を持っているのか?」というような期待察知スキルを磨き、同時に応対の引き出しも増やすことができます。毎日の朝礼など、ちょっとした時間を使って行うことも可能です。短時間×多頻度のトレーニングで、期待察知スキルや応対のバリエーションを高めていくことをオススメします。

 今回は、人がやるべき顧客応対として「状況に即した個別応対」を取り上げ、そのコアスキルとして「期待察知スキル」を見てきました。一方で、機械化・システム化されたサービスにも大きなメリットがあることをお話ししました。

 AIなどのテクノロジーはどんどん進化し、機械化・システム化されたサービスも、今後より一層、顧客の状況や期待に基づく情報提供などを進めてくるようになると考えられます。そうなると、人に求められる判断・期待察知スキルは、より高度になります。いわゆる、臨機応変な応対を目指していきましょう。

最後に…CS推進に正解はない。けれど、原理・原則やコツはある!

屋上で語り合い、前向きな姿勢を見せる社会人

 これまで、全15回にわたりお届けしてきた連載「CS推進一年生」ですが、今回が最終回となります。CS推進に正解はありません。しかし、原理・原則やコツはあります。それを、この連載ではお伝えしてきました。

 初めてCS推進部門に配属になり、何かヒントを求めて読んでいただいた方、CS推進に関わるなかで今一度、再確認のために読んでいただいた方など、さまざまな読者の方がいらっしゃったと思います。そんなみなさんに、何かしらお役に立っていれば、これほど嬉しいことはありません。「顧客起点」の経営をこれからも続けていってください。

>連載「CS推進 一年生」記事まとめ(全15回)

日本能率協会コンサルティングについて
 日本能率協会コンサルティングは、1942年に設立された社団法人 日本能率協会の中核として70年以上、企業が抱えるさまざまな課題解決の実行支援を行っている。1991年には日本で初めて「CS経営」を提唱、数百社以上のCS向上支援を行っている。現場主義のコンサルティングスタイルであり、一過性の流行に流されない真の顧客起点での課題立案・対策推進を支援している。
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