3.【ポイント1】「べき」の境界線をコントロールすることで、ムダに怒らなくなる
――ということは、しょっちゅうイライラして怒ってばかりいる「おこりんぼ」な人たちは、それだけ物事への「〜であるべき」というこだわりが強く、むしろ理想が高い方々なのだ、ということなのでしょうか。
石井 そういう解釈も成立するのでしょうが、極端にいえば「ムダに怒ってばかり」な人たちだとも言えます(苦笑)。恥ずかしながら、かつては私自身もそのひとりでしたので…ほんと、疲れるんですよね……。あの時にアンガーマネジメントに出合っていたら、私の人生も変わっていたかもと思います(笑)。ムダに怒らなくなるために重要なのは、自分の「べき」とちょっとズレていても、許容範囲ならできるだけスルーすることを意識しつつ、ゆっくりとでも、その許容範囲を広げていくこと。これが「思考のコントロール」です。まず、手近な紙などに三重丸を描いてください。一番内側は、ご自分が完全に同調・許容できる物事。次のエリアは、自分とは少し違ってもまあ許せる物事。一番外側には、どうしても許せないことを分類します(下図参照)。外側に達した場合は、怒っていいと自分で規定する。「アンガーログ」での記録と、そこに記入されたスケールを当てはめながら、どんなことが許せるのか、どこからが許容範囲を超えてしまうのか、ここでも改めて可視化することができます。
――すごい、アンガーログはここでも役立つのですね。でも、たとえば同じような出来事でも、上司のAさんにされたことと、部下のBさんにされたこととでは、反応が違ってしまったりもします。
石井 それはいわゆる「人によって態度が変わるヤツ」と評されることにもつながりますから、注意が必要ですね(苦笑)。基本的には、この3つのゾーンのうち、特に一番外側については、これを超えたらアウトだということを機会があるごとに周囲に言明するなど表現しておき、相手によって適用の方法を変更しないことが望ましいんです。同じようなことに対し、場合によって怒ったり、スルーしたりといったことが何度も続くと、「ああこの人は単純に今、機嫌が悪いんだな」といった、まったく別のメッセージが伝わってしまいかねません。周囲の人たちにそのゾーニングがわかるように可視化しておいて、それを超えたら怒る。少なくとも、伝わるよう意識することが大事です。その上で、まんなかの「まあ許せるかな」ゾーンをなるべく広く保ち、それこそ相手によってコロコロ変えたりせず、できるだけ安定させていくことで、ムダな怒りも確実に減っていくはずです。
4.【ポイント2】天候と同様、過去と他人は「変えられない」と受け入れる
―― 一番外側の「許せない」ゾーンの出来事については、どのように対処すればいいのでしょうか。
石井 それが3つめのキーワード「行動のコントロール」です。ある出来事に対して、「これはもう怒るぞ」と決めたラインを越えた場合にどうするか。あらかじめ、ご自分の中に2つの基準軸を用意し、分類していきます。それによって、ふさわしい行動を制御できるようになっていきます。
――さらに怒りを細かく整理整頓していくのですね。正直、ちょっとややこしそうです……。
石井 分類のための軸は2つだけ。自分の努力で変えられることかどうか、自分にとって重要かどうか。それによって分類できる箱は結局4つしかありませんから、難しくはありません(下図参照)。
石井 まず、自分が変えられる、コントロールできる箱は、重要かそうでもないかの2種。自分では制御できない箱も、重要か否かの2種となります。たとえば、自分にばかりキツくあたる上司の言動は変えられるか。「変えられる/重要」箱に入れるなら、いつまでにどの程度まで変わったら自分は満足するのかを決め、行動プランを考え努力します。「変えられる/重要ではない」箱に入れたら、さほど緊急性はない。「変えられない/重要ではない」ものならスルーしておけばいいわけです。問題は「変えられない/重要」の箱に分類されたテーマ、ということになります。