5.【ポイント3】行動次第で怒りと上手に付き合っていくことができる
――重要であっても、自分の行動ではその状況を変えられないと自覚しているわけですしね。上司にストレートに異議申し立てをしたところで、単純に自分の評価が下がってしまうだけだったりしそうです。とてもそんな勇気は出てきませんが、放置するのも…。
石井 上司は難しいとするなら、天候で考えましょうか。天気は自分では変えられない。でも台風なら台風、雷雨なら雷雨と、あらかじめ予報という名の情報を知っていたら、それなりに準備をしておくことは可能ですよね? 大切なのは、現実をまず受け入れること。変えられない箱に入れたら、その上で、悪天候に対して自分ができることを考えていくんです。雨が降りそうなら傘を持っていく。傘もダメそうならカッパを用意しておく。雷雨ならその時間帯の外出を避ける。要は自分でコントロールできる事案と、できない事案をきちんと分けて考える習慣をつけるということ。その際には、過去に起きてしまった出来事はそもそも変えられないし、他人を自分が望む方向に変えるのも基本的には非常に難しい作業だということは、あらかじめ意識しておきましょう。
――つまり、「諦める」のも1つのテクニックということですか?
石井 少し違いますね。「諦める」「我慢する」というのは、自分が介入することによる変化を期待できる場合に使う言葉で、それが期待できないなら「受容」したうえで、ストレスをできるだけ軽減する方法を考えたほうが良いわけです。単に諦めてしまうのではなく、どうすれば自分のダメージが最小化できるかを考える。何より、怒りの対象を細かく分類・整理すると、ムダにダラダラと怒り続けることをやめることが可能になり、どんどん自分が楽になっていきます。しかも、この4つの分類箱は、つまりはその時点でのあなたの「思い込み」ともいえる箱。先ほどの三重丸のゾーニングでもそうですが、場合によっては変更し、対処を変えても当然いいんです。これはどうも無理っぽいな、と思ったら、どんどん分類を変えていけばいい。正解、不正解はなく、そうした行動も、あなた次第なのです。
6.会社組織にとって優秀な人材でさえ、パワハラ行為者になってしまうことも
――自分の努力でコントロールできること、できないことを見極めれば、ムダなイライラが減る、ということですね。上司や部下、同僚、取引先など、いろいろな相手とのコミュニケーションで応用できそうです。
石井 コントロールできることに対しては、怒りを推進力に変えて努力する。できないことは、勇気を持って受け入れる。ここで大切なのは、客観的な事実と思い込みは分けて考えることです。たとえば、部下が大事な取引先との打ち合わせに連絡もせずに遅刻してきたら、それは叱らなければいけない。「皆さんをお待たせして、何やってんだ」くらいはその場でも表現したらいいと思います。ですが、そのケースでの客観的な事実は、遅刻で同席者に迷惑をかけた、ということ。そこに「べき」由来の怒りの感情が加算されると、「だからお前はダメなんだ」「いつもやらかしているだろう」「ぜんぜん使えないな」といった、その場とはほぼ関係のない人格否定にまで発展してしまいかねません。
――怒りのメッセージが誤って伝わってしまうのですね。
石井 客観的な事実に対して、大げさな表現や不正確な言い回しを避けて叱るよう心がけることが大切です。また、起きてしまったことは変えようがないので、この先の未来にどうしてほしいのかをリクエストすることに力点を置くと、意図はより相手に明確に伝わりやすくなります。特にパワーハラスメントでは、行為者になってしまうのは、実は会社組織にとって重要な、優秀な人材であるケースも多いんです。自分を基準にして他者を評価し、要求してしまうため、齟齬が生まれやすい。指摘されるその日まで、あくまで相手のために指導をしているつもりだった、というケースもよくあります。
――まず自分の「べき」を理解し、他人の「べき」と折り合いをつけていく作業を職場のみんなが実践していけば、会社の空気は変わっていきそうです。
石井 ご自分の「べき」を可視化して、怒るべきときにはしっかりコントロールしながら怒る。それを意識して習慣にしていくことが、結果的にはハラスメントを減らし、より良い働き方を実現することにもつながると思います。ちなみに、日本アンガーマネジメント協会で提供している「アンガーマネジメント診断」というものがあって、主に会社組織で問題になりがちな「怒り」である強度、持続性、頻度、攻撃性を軸に、どんな時に、どんなことに対して怒りを感じる傾向があるかを診断できます。無料診断もできますのでよかったら試してみてください。さらに詳しい自分自身の怒りの傾向を知るには、「総合診断」(有料)も有効ですよ。実際の研修等でも自己理解のツールとして大変人気が高いです。
――ひとまず、「無料アンガーマネジメント診断」を試してみたいと思います! ありがとうございました!
◆一般社団法人日本アンガーマネジメント協会HP(外部リンク)
⇒無料アンガーマネジメント診断(外部リンク)
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