キーワード解説

CSV(共通価値創造)とは? “withコロナ”時代にCSV経営を意識すべき理由【キーワード解説#2】

CS(顧客満足)担当者やマーケティング担当者が知っておきたい知識、キーワードをピックアップして紹介。それぞれの意味や仕組み、意義などについて、わかりやすく解説していきます。

今回のキーワード CSV(共通価値創造)
解説 日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

1.CSV(共通価値創造)とは?

 CSVとは「Creating Shared Value」の略であり、アメリカの経済学者であるマイケル・ポーター氏が2011年に論文『共通価値の戦略』で提唱した概念です。「企業が事業を営む地域社会の経済条件や社会状況を改善しながら、みずからの競争力を高める方針とその実行」と定義づけられています。その後、さまざまな議論・実践検討がなされ、企業が自身の利益だけを追求するのではなく、社会の問題解決に貢献することを本業としよう、という考え方・主張であるとの理解が浸透しています。

 注目すべきは、「Sharing(シェアリング)」ではなく「Shared(シェアード)」である点で、企業が稼いだ利益を社会に分け与えようという意味ではなく、共有されうる価値を生み出そうという考え方であることです。この点がCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)との決定的な違いであり、さまざまな企業の中で自社のあり方を見直すきっかけになりました。

 ただし、論文の中で紹介された事例(インテル、IBM、ゼネラル・エレクトリック、ウォルマートなど)は規模が大きかったり、日本とは情勢の異なる地域でのストーリーであったりしたこともあり、なかなか理解が進まず、わが国では実践につながったケースはあまり多くないかもしれません。しかし、ポーター氏が提唱している「共通価値を創造する」方法は以下の3つであり、事業のあり方の根本であるとも言えるのです。

2.マイケル・ポーターが提唱する、共通価値を創造する3つの方法

【1】製品と市場を見直す

【2】バリューチェーンの生産性を再定義する

【3】企業が拠点を置く地域を支援する産業クラスターをつくる

2.顧客満足(CS)とCSVの関係

 CSVの詳細は、上記論文や関連書籍などで理解を深めていただくとして、ここでは「顧客満足(CS)とどう関係するのか」について考えてみましょう。前述の3つの方法のうち、特に「製品と市場を見直す」という観点で、CSとCSVは非常に相性が良いと考えます。なぜなら、CSはそもそも「自社の利益を追求するだけでは、長期的成功が得られない」という考え方を前提にしており、CSVが提唱する「社会と共有できる価値こそが競争力を高める」という考えと、相通じるものがあるのです。

 CSの取り組みでは、「市場、すなわち顧客は誰か?」「そのニーズ、すなわち解決すべき問題は何か?」を考え抜くことが求められます。そして、CSVが提唱される以前からCSに取り組む企業の中では、「Customer’s Customer」という考え方が十数年ほど前から取り入れられてきました。これは顧客からの直接的な要望に応えるだけでなく、その要望や期待の根源を重視するという考え方です。

 たとえば、自社が自動車部品メーカーだとすると、「自社の顧客である自動車メーカーの顧客、すなわち車を買う人、さらには車に乗る人の期待を深く考えよう」という発想です。もう1つ、家庭に置き換えてたとえるならば、「自動車を主に運転する人、そしてどの車を買うか決めるという意味でのお客さまは夫ですが、その自動車に乗る妻や子どもたちやペットなどの期待に応えよう」ということ。そう考えると、顧客のその奥=Customer’s Customerはまさに奥が深いわけです。このように、CSに取り組む企業の中には直接的な顧客だけでなく、その奥の関係者、さらには地域や社会にまで踏み込んで考察しうることが重要だと気づいて取り組んでいる企業も多いのです。

 CSVの概念は、この考え方を後押しするものであり、さらに拡張するものとして、実は多くの企業で活用が可能であると考えます。また、同じくポーター氏が提唱する「バリューチェーン」も顧客とその先、その奥の一部であり、競合も含めてエコシステムとして捉え、総合的な改革を図ろうという考え方も生まれています。それらの拡張の結果として、なんらかの産業クラスターを生み出していくというわけです。ポーター氏は、CSVとは外圧によるものではなく、内発によるものだと論じています。まさにCSは、自社のリソースをフルに活用し、自発的に顧客の満足を高めようとする営みであり、その点でもCSVとの相性が良いと考えます。

3.CSVの活かし方、具体的な取り組み方

 では、CS向上の取り組みにCSVの視点を活かすには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。

「調査」を変える
 まずは、調査のあり方を見直してみましょう。CS向上にとってCS調査は重要ですし、目の前の顧客からの評価が重要であることに変わりはありません。CSVの視点を活かすという意味で、従来からのアンケート調査の中身や結果の掘り下げ方を、次のように変えてみることも有効ではないかと考えます。

【1】顧客の評価(満足・不満)の背景を確認する質問を加える
不満の背景も重要ですが、「大変満足」といった評価の背景にどのような実体験があったのか記述いただくなど。

【2】気になる評価については、追加でインタビューを行い掘り下げる
B to B向けのサービスなどの場合、日々の営業活動を通じて顧客の社内での出来事や関係部門の実態などを教えていただくなど。

「開発」を変える
 共通価値を作る方法の1つとして「製品と市場を見直す」を紹介しましたが、製造業であれば製品、サービス業であればサービスそのものを見直してみましょう。具体的には、以下の視点での検討を充実させることが重要です。

【1】「洞察力」を高める
 CSは顧客視点、CSVは社会視点と言うこともできます。どちらにも共通するのは、対象を深く理解すること、すなわち「洞察」が重要だということです。CS向上の取り組みのなかで言えば、前述の「調査」のあり方も含めて事業活動の随所で「なぜ」「何が起こっているのか」「何が背景にあるのか」を具体的に考え抜く習慣と仕組みを作り上げる必要があります。

 特に「開発」の場面では、この洞察が必要不可欠なのです。よく、「ウォンツ(足りないものを補う手段)ではなくニーズ(足りない部分を補う目的)が大事だ」という言い方をします。しかし、企業の実態を見ると、ニーズと呼んでいるものは結局、「こうしてほしい」「もっとここを改良して」といった目先の「ウォンツ」であるというケースが多いのです。製品やサービスの「改良」「改善」であれば、ウォンツ重視も良いでしょう。ですが、製品・サービスの「開発」においては、徹底してニーズにこだわり、そしてその先・その奥の背景や体験の洞察が欠かせないはずです。

 CSという視点、さらにはCSVという観点で「何が求められているか」だけでなく、「どのような問題を解決すべきか」という広い視野で開発を進めていくことが求められます。先ほどは、「調査を変える」ことを推奨しましたが、場合によっては社内に顧客・市場・社会を洞察するための専門部署を作る必要があるかもしれません。

【2】製造業はリソース発想・技術発想への偏りを捨てる
 製造業の経営者のみなさまから、「なかなか、ハッとするような新製品が生み出せていない」「ここ20年新しい価値につながる製品が生み出せていない」という声を聞くことが多々あります。そういったケースを掘り下げてみると、「うちの技術は素晴らしい」「わが社の○○技術を起点に新しい製品を作った」ということがほとんどです。顧客視点はあるにはあるものの、あくまで技術先行での「後付け顧客視点」と言わざるを得ないケースが多いと見ています。

 あえて刺激的に言うならば、開発の重点は技術1割 : 顧客9割にすべきと主張したいのです。それぐらい大胆に、顧客視点、そしてCSVが求める社会価値・共通価値視点に立たなければ「ハッとする製品」は生まれないのではないでしょうか。iPad、ルンバといった製品は「技術」そのものにずば抜けた卓越性があったわけではなく、人の生活への深い洞察と共感があったとされています。CSそしてCSVの観点から開発すること、それが製造業の競争力向上につながると考えます。

【3】サービス業はリソースを徹底活用する
 製造業とは反対に、サービス業では「人依存」が起こっていると考えます。よく気づく人、お客さま受けの良い担当者など、フロントラインの高スキル担当者に依存している面が強いと懸念されるのです。サービス業は、むしろ人「以外」のリソースに目を向け、われわれが使えるものは何か、それらを総動員したら顧客とその先・その奥にどう役立てることができるのかを考え抜く必要があります。活用すべきリソースは、非常に幅広く存在しています。自社内部だけでなく、外部も含めて使えるリソースを洗い出し、組み合わせ、社会価値・共通価値を発想していく。それがサービス業の競争力向上につながると考えます。

「コミュニケーション」を変える
「調査」と「開発」を変革すべきと述べてきましたが、自社・自組織がCS向上の取り組みを広げて社会価値・共通価値の創出を実現するためには、社内外のコミュニケーションを変革することも非常に重要です。

 社内コミュニケーションという意味では、まず「理念」を見返してみましょう。多くの企業がその企業理念の中で「社会への貢献」を目指しているはずです。元来企業とはそのようなものなのだ、と改めて気づかされることでしょう。そして、自社の理念について日々の社内コミュニケーションでもっともっと触れていくことがCS、そしてCSVへのつながりを生み出すための第一歩だと考えます。

 営業上の判断を下す際、製品の方向性を検討する際、日々の互いの行動について指摘する際など、さまざまな場面で「うちの理念から言えば……」という発言を増やしていきましょう。「きれいごと」「それはそれ」という雰囲気が出てくる可能性もありますが、これは地道に排除していく必要があります。結局のところCSもCSVも、顧客と社会に認められるための取り組みであり、どのように認められたいかはすでに理念で明示されているはずだからです。

 社内コミュニケーションで特に重要な鍵を握っているのは、やはり経営トップです。トップは、常に理念を意識し、諸施策と関連づけて説明し、一貫して、発信し続ける必要があります。

4.“withコロナ”時代におけるCSとCSV

 2020年5月現在、日本は新型コロナウイルス防疫のため、いまだ行動の自粛を意識した生活を求められる状況下にあります。「withコロナ」「New Normal」が唱えられるなか、CSそしてCSVをどう捉えるべきでしょうか。

 ありきたりではありますが、「本物は受け入れられ続ける」ということだと考えます。本物には主に2つの意味を乗せています。1つは、「顧客や社会に“自社ならではの”価値を提供できる」ということです。低成長期・成熟期の日本に限らず、新型コロナは人々の生活の中の「不要不急」をあぶり出してしまいました。不要不急のものを捨てた1ヶ月以上の生活は、われわれに「本当に必要なもの」を厳選する習慣を残すことになるでしょう。その際、「どこにでもある価値」や「ほかでも得られる価値」であれば淘汰されていく可能性があり、その意味から「自社ならでは」が重要になってくると考えるのです。

 もう1つは「変化し続ける」ということです。たとえば、営業活動は対面からパソコン画面を通じたコミュニケーションに大きく変わることでしょう。飲食店も対面での接客を伴う各種サービスも、変化なくして存続しえないと思われます。一方で、フィカル・ディスタンシングは新たな商機を生むはずです。ここで大切なのが、この流れ乗って儲けようということではなく、新しい社会価値・共通価値をどう作れるか、そして、そのために我が社はどう変化すべきかという発想です。

 これらの観点から、CSもCSVもますます重要な経営の観点になってくるものと考えます。