ネット社会における消費者購買モデルとして認知されている、AISAS(アイサス)。古くから活用されてきたAIDMA(アイドマ)と同じく、マーケティング戦略を考える際に役立つフレームワークです。今回は、そんなAISASの本質を理解し、効果的な施策を実施できるように、具体例を用いながら概要やポイントを説明します。
今回のキーワード AISAS(アイサス)
解説 日本能率協会コンサルティング(外部リンク)
AISAS(アイサス)とは?
AISASは2004年に電通が提唱したマーケティング理論の1つで、消費者がなんらかの商品の購入・利用やサービスの選定・利用に至る行動について、ある一定のパターンとして整理したモデルです。
AISASはそれぞれ「Attention(注意)」、「Interest(関心)」、「Search(検索)」、「Action(行動)」、「Share(共有)」の5つの頭文字を取っており、消費者の以下のような行動を表しています。
Attention:なんらかの商品やサービスの存在を知り、注目する
Interest:自分にとって意味がある、役立つかもしれないと関心を持つ
Search:ネットで調べて、理解を深める
Action:購入、申し込みなどの行動を起こす
Share:商品やサービスについての利用体験や感想をSNSなどで発信、共有する
ほとんどのみなさんが、このAISASに沿った行動を知らず知らずのうちにとっているはずです。たとえば、テレビ番組やCMで見た商品をネットで買った場合、さらにその後、ショッピングサイトに評価を投稿したり、ご自身が利用しているSNSで「これ、良かったよ」などと発信したりしていれば、最後のS(Share)まで含めて、まさにAISASに沿った行動をしているというわけです。
なお、このような購買行動に関する行動モデルには、何十年にもわたって活用されてきたAIDMA(アイドマ)がありますが、AIDMAとAISASの違いについては後ほど紹介します。
身近な事例からAISASを理解する
さて、もっと身近な事例からAISASを活用するメリットや、そのポイントを理解してみましょう。みなさんは「ハリッサ」という調味料をご存じでしょうか。
テレビ朝日系のバラエティ番組『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』で、ある「調味料ツウの小学生」が紹介し、あっという間にネットでも店頭でも売り切れ・入荷待ちが続いた商品です。
このハリッサの例を「売り手が意図的に仕掛けたとすれば」という前提で、AISASの視点から表にまとめました。(実際にハリッサを扱っていたことで「カルディコーヒーファーム」が番組内で紹介されますが、筆者の印象では、カルディがマーケティング活動の一環で意図的に発信したわけではないと思います)
プロセス |
消費者の心理や行動 |
消費者にアプローチする際のポイント |
Attention(注意) |
テレビ番組を何気なく観ている。 |
調味料や食品を探す目的ではない視聴者ゆえ、「ツウな小学生」のユニークな点を象徴するモノとしてハリッサを位置づける。 |
Interest(関心) |
「餃子に合うのか!」「美味しそうだ」「試してみたい」という感情。「珍しい」だけでは関心を持つに至らないが、ハリッサが実は「餃子」に合うことなどが紹介され、「自分の生活」とリンクし関心に至る。 |
関心を持ってもらうためには、作ったことがない料理やハリッサの本場(チュニジア)での料理ではなく、日常的な料理に活かせることを提示。実際の番組では餃子のほか、焼きおにぎりなどが紹介されている。 |
Search(検索) |
番組を観ながら「どこで売っているのかな?」「ネットでも売っているのかな?」と調べてみる。 |
(意図的に発信している場合は)ハリッサの購入サイトを用意し、視聴者をスムーズに誘導できるよう準備しておく。 |
Action(行動) |
ネットでの注文やリアル店舗での購入。ネットではあっという間に売り切れたため、「明日店舗に行ってみよう」「店舗に取り寄せを頼んでみよう」といった積極的な行動につながった。 |
人気のテレビ番組での紹介による一時的な需要の高まりに備える。(ただし、一過性の需要になってしまう懸念もあるため、過剰在庫にならないような注意は必要) |
Share(共有) |
ハリッサを使った料理の感想や、「やっと買えた」体験をSNSにて紹介。 |
商品について好意的な発信を拡散(Twitterでのリツイート、Facebookでの体験談紹介など)することで、Shareから他者のAttentionを触発する工夫を行う。 |
AISASを活用する際の注意点
このように、AISASはネット社会前提の行動モデルとして非常に当てはまりが良く、活用イメージも湧きやすいのではないでしょうか。1点だけ注意すべき点を挙げるとするなら、表の末尾にも書いたように「ネガティブな体験・感想のShare」への対応でしょう。
ハリッサを例に挙げると、実際にはネガティブな内容はほとんど目に付きませんが、「思ったより美味しくない」「辛すぎる」といった感想もありうる訳です。こういったネガティブな感想は封じ込める必要はありませんし、そもそも封じ込めるのは不可能です。
どんな商品も万人に合うわけではないため、当然ながらネガティブな反応はありうるわけです。ゆえに、企業側としてはそれを否定したり立ち向かう必要はないのです。ただし、「放置」すると商品の良さすら否定されかねないため、「こういう用途には合いません」であるとか「こういった方には別な提案があります」といった備えや情報発信をすることは、適宜タイミングを見て実施する必要があります。
SearchやShareといったネット環境の強みの対極には、「ネガティブな反応」というデメリットもありえますが、これらも「商品やサービスについての正しい理解」を促進し適切な選択につながるものだと考えれば対処は難しくないはずです。
AIDMAとの違いは「ネット時代の消費者像」にあり
AISASのほかに、何十年も前から活用されてきた消費者の購買・利用行動モデルとして、AIDMA(アイドマ)があります。この両者の違いはなんでしょうか。
ひとことで言うならば、AISASはAIDMAと異なり「ネット社会における購買とコミュニケーション体験をモデル化した」と言えます。AIDMAは「Attention」「Interest」まではAISASと同じですが、そこから先は「Desire:欲する」「Memory:記憶する・思い起こす」「Action:行動」と続きます。
AIDMAはネットがない時代の購買モデルなので、関心を持ってから「欲しいと思ってもらい」、さらに店舗に出向いて購入するまで「覚えている、店頭で思い起こす」という行動が組み込まれています。
一方のAISASモデルは、ネット社会の購買行動として「Search」「Share」という新しい行動を取り入れつつ、「Action」についてもネットでの購入や申し込みといった「ワンクリック」での手軽さを反映したモデルになっているわけです。
なかでも、「Share:共有」が加わることで、単に情報の受け手、商品の購入者としてではなく、情報を発信し理解を深め合う消費者像が表現されている点が今日的であると言えます。テレビCMなどの「マス広告」以外に、友人・知人やそれを超えた人と人のつながりのなかでの情報交流が重要になってきていることを反映しているからです。
AISASの進化系「Dual AISAS」
このように、ネット社会における人と人のコミュニケーションが重要な要素として位置づけられている点がAISASの特徴ですが、この点をさらに拡張・重要視したモデルとして「Dual AISAS」が提唱されています。
これは、アタラ合同会社の有園雄一氏により考案され、AISASを提唱した電通が有園氏とともに検討・改良を加えた、新たなモデルです。概要は電通のニュースサイト「ウェブ電通報(※)」にて発信されており、こちらの情報からDual AISASは以下のように理解できます。
まず、昨今ではSNSの普及もあり、消費にまつわるさまざまな種類の情報がネットワーク上に流通するようになりました。そうした背景から、従来のAISASだけでは、Attention(注意:商品やサービスの認知)を獲得することがなかなか難しくなってきました。
そこでAttentionを補完するために注目したのが、「コミュニケーションへの関心を持つ人びと」の存在です。この層は、商品やサービスの購入ではなく、SNSなどを通じたコミュニケーションそのものに対して興味・関心を持っています。そして、実際にSNSでシェアした後は、別の第三者によって受容・共鳴され、さらに拡散されていく…というループが起きます。
Dual AISASでは、これを従来のAttentionを補完するものとして位置づけており、前述の「コミュニケーション関心層」をいかに購入へと結びつく「商品関心層」に落とし込むかが鍵であると言えるでしょう。
※ウェブ電通報:広告業界の最新動向やトピックに加え、コミュニケーション領域に関連する電通グループの先進の知見やサービス、ソリューションなどを紹介するニュースサイト
※参考:ウェブ電通報「“Dual AISAS”で考える、もっと売るための戦略。」(外部リンク)
これらの理解について、先ほどから取り上げているハリッサを例に下記のように図解してみました。
テレビ番組を起点に友人が「ハリッサ」を知り(Attention)、料理に使ってみようと関心を持ち(Interest)、検索(Search)、購入(Action)し、料理してみた結果をSNSで発信(Share)しているとしましょう。
それを見たあなたは、友人の発信ですから親近感もあり、より関心が湧くのではないでしょうか。あなたも自分のアカウントで引用して紹介したり、自分なりに情報を付け加えて発信してみるかもしれません。また、共通の友人たちも関心を示してSNSで反応するかもしれません。
このように、関心を持ったことには「広めたい」という気持ちが働き、とくに、プライベートのつながりがある情報についてはより強く関心(Interest)を持ったり、受け入れたり(Accept)、より積極的に発信(拡散:Spread)しようとする力が働くわけです。
しかし、こういった「広めたい」における「+ISAS」だけでは「購買」にはつながらないため、マーケティング上の成果とは言えません。「広めたい」から「買いたい」という状態を起動・活性化(Activate)するにはどうすればよいでしょう?
ハリッサの場合は、やはり「自分でも手軽に使える」ということや「まさに自分が求めているものだ」という思いを持ってもらうことでしょう。そのためには「レシピ」の情報が必要かもしれませんし、「料理の初心者がやってみた」という情報が有効かもしれません。
ハリッサの場合は、「餃子に付けて食べる」「おにぎりに塗って焼いてみる」といった簡単な使い方が紹介されていましたので、Activateは容易だったのだと思われます。
自社の商品やサービスについて「広めたい」から「買いたい」につなげるために、どんな情報を発信していくべきか。そこがDual AISASの大事な点であると言えます。
AISASを活用した企業事例
AISASを活用して優れた戦略を展開している商品やサービスの事例を、ポイントとともに2つほど紹介しましょう。
事例1:コストコの体験への関心喚起
1つ目の事例は、アメリカ発祥のディスカウントストア「コストコ」です。利用されたことがある方も多いと思いますが、きっかけはどのようなことだったでしょうか。
日本に上陸してきた際は「倉庫店」としての広さ、陳列のダイナミックさ、アメリカ「らしい」商品の大きさなど「ハード」面が脚光を浴びていました。最近ではそれらに加えて、「コストコの商品で生活をどう楽しむか」「生活の中でコストコをどう利用するか」といった「体験」が紹介されることが多いと考えます。
このコストコについて、AISASの観点で整理してみました。
Attention(注意) |
知名度自体は高いコストコだが、日常に密着したスーパーマーケットのような業態ではないため、コストコを想起する機会を増やしたい。そのため、テレビの情報番組などを活かして定期的に情報発信の機会を得ている。 |
Interest(関心) |
生活の中に取り入れる「体験」を紹介することで、「大きい」「広い」だけでなく、「自分にとっても役に立つ」「自分たちの生活にもよい刺激がありそう」といった関心を持たせている。 |
Search(検索) |
コストコはネット通販も始めたが、やはりその本質は「倉庫店」。ゆえに、「検索」はネットショッピングという意味ではなく、いかにリアル店舗に誘導するかという点が重要。 |
Action(行動) |
店舗に来店し、買い物を楽しむ。 |
Share(共有) |
コストコ「ならでは」の商品を利用する体験には、いわゆる「映える」点が多く、Shareしやすい、Shareしたくなる特徴がある。 |
事例2:YOASOBI「夜に駆ける」
2つ目は2020年のNHK紅白歌合戦への出演も話題になったYOASOBIの成功です。YOASOBIはボカロPである「Ayase」さんをコンポーザーとし、「ikura」さんがボーカルを担う音楽ユニットです。筆者は音楽には詳しくありませんが、2020年に大ヒットした「夜に駆ける」は何度も耳にしましたし、頭の中に残ってもいます。
音楽関連の解説サイトやテレビ番組でも、その成功要因がさまざまな角度から語られていますが、ここではAISASの観点から下表のように整理してみました。
Attention(注意) |
Tik Tok、YouTubeでの発信、さらに「歌ってみた」「演奏してみた」による拡散を介して一気に注目を集めた。 |
Interest(関心) |
「歌ってみたい」「演奏してみたい」と思える特徴(※)で、まさに「自分にとって有用」というInterestを持ちやすい。 |
Search(検索) |
検索については、人気のサブスクサービスですぐに見つかるため容易である。 |
Action(行動) |
サブスクサービスで聴けるほか、購入もネットから容易である。 |
Share(共有) |
単なる「紹介」や「推奨」ではなく、自身が「歌う」「演奏する」という活動を通じて、プライベートなコミュニケーションを超えて拡散された。 |
この事例でご注目いただきたいのは、Attentionの多様化です。過去、音楽業界においてはテレビやラジオといったマスメディアでの発信量がヒットを生み出す大前提であったと言えます。
もちろん、CDショップ巡りやネットを使った発信がうまくいくこともありましたが、極めてまれな現象でした。しかし、昨今のSNSの普及、動画配信の活性化と、Spotifyなどのサブスクサービスとそのなかでの推奨プレイリストの利用促進が相まって、マスでの発信がなくとも多くの人々の目に触れ、Attentionを引き出すことができるようになったのです。
みなさんの会社の商品やサービスも「認知」をどう促進するかという点で、従来の方法にこだわらずトライしてみてはいかがでしょうか。
>YOASOBIのプロフィールや関連記事はこちらをチェック(外部リンク)
その他の購買行動モデル
その他に以下のような行動モデルも活用されていますので、簡単に紹介します。
AIDA(アイダ)
Attention(注意・注目)
Interest(関心)
Desire(欲求)
Action(行動)
日本では前述のとおり、AIDMAが非常に有名ですが、米国のビジネスパーソンやコンサルタントの話ではAIDA(アイダ)もAIDMA同様に活用されているようです。AIDMAよりも前に提唱されたとのことで、消費者の購買行動モデルとしては原点と言えると考えます。
後述するAIDEES(アイデス) やAISCEAS(アイシーズ、アイセアス)は、AIDMAと並んでこのAIDAの派生形と言われることもあります。「原点」でありシンプルであることから、時代を超えてさまざまな商品やサービスに適用可能なモデルですので、その他のモデルでの検討に先立ち、予備的に使用してみるといった使い方もよいのではないでしょうか。
AIDEES(アイデス)
Attention(注意、認知)
Interest(関心)
Desire(欲求)
Experience(体験)
Enthusiasm(熱中、熱狂)
Share(共有)
このモデルのユニークな点は、Action(購入)ではなく、Experience(体験)としたこと、そして、Enthusiasm(熱中、熱狂)という点です。筆者が所属するコンサルティング会社(JMAC・日本能率協会コンサルティング)による実態調査では、「体験」を通じて「その企業らしさ」が認識され、ファンになりやすいという結果があります。
体験を通じて強い共感が生じたり、熱狂的なファンが生まれることで、確かにShareから次なるAttentionへの展開も働きやすいのではないでしょうか。たとえば、一時期のApple社のマッキントッシュ(パソコン)のように、ファンの熱狂度合いが有名な製品などはAIDEESで捉えると何かその秘訣が見えてくるのではないでしょうか。
AISCEAS(アイシーズ、アイセアス)
Attention(注意)
Interest(関心)
Search(検索)
Comparison(比較)
Examination(検討)
Action(行動)
Share(共有)
AISCEAS(アイシーズ、アイセアス)は、AISASの検索(Search)から購買行動(Action)の間に比較(Comparison)と検討(Examination)を加えたモデルです。
比較、検討は、具体的な比較項目が明確な場合に重要な行動であり、機能的な面が数値に表れていたり、価格対機能・性能などの検討が可能な商品やモデルに役立つものと考えられます。
SIPS
Sympathize(共感)
Identify(確認)
Participate(参加)
Share&Spread(共有・拡散)
ネットとSNS時代のモデルと言えばSIPS(シップス)も欠かせません。
SNS全盛の今、すべての入り口が「共感」だとする考え方です。SNS上では共感されない情報は広がっていかないため、共感されるための情報内容、発信者などが重要だと言えます。
共感を元に、単に検索するだけでなく「これは本当に自分に合うか、有益か」をIdentify(確認)することにつながります。共感していても口コミを確認したり、主要な機能を再確認したり、場合によっては情報源を確認したりという行動がとられるわけです。
また、SIPSの鋭い点は次のステップを購入と表現せず、Participate(参加)とした点だと考えます。購入しなくても、情報の広がりに参加する、他者のSNSでのコメントに反応するといった関わり方を表現し重要な行動だと位置づけているわけです。
そして、自身が参加した体験をShareするだけでなく、積極的に広めようとするSpreadを加えています。SNS社会の中でのマーケティングを考える際にはぜひ視点に加えていただきたいと考えます。
消費者・生活者の体験を描き実現する
さて、今回は消費者の購買モデルとしてAISASを紹介しました。AISASはネット、SNS時代を代表するモデルとして活用範囲が広いと考えます。また、その他のモデルも含め、共通のポイントとして挙げられるのは以下の通りです。
(1)消費者・お客さまのリアルな行動を想起する
(2)消費者の認識や行動が変わるきっかけや情報を明確に捉える
(3)体験の持つ意味とその広がりを意図的に設計する
つまり、どのような行動モデルも「自動的に」そのような行動をとってくれるというわけではないので、いかにリアルにお客さま像を描き、体験を意図的に仕組み、共有してもらうためのアイデアを凝らすか、といった点を考えていく必要があります。その意味では、自社の製品を「消費する人」と捉えるのではなく、お客さまはトータルの生活の中で「体験を積み重ねる人」、すなわち「生活者」と捉えて行動を描くことが必要不可欠であると言えます。
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