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STP分析とは? 初心者が知っておくべきポイントと活用事例

STP分析のヘッダー画像

顧客に愛される商品・サービスを生み出すためには「誰に、何を売るか」を適切に見極めることが重要です。その際に役立つフレームワークの1つが「STP分析」。マーケティング戦略の立案においては初歩的な手法ではあるものの、「実務ではうまく使いこなせない」という方もいるのでは。そこで本記事では、STP分析を活用する際のポイントや注意点などを、具体例を交えながら初心者にもわかりやすく解説します。

今回のキーワード STP分析
解説 日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

STP分析とは? 概要とその重要性

STP分析とは

 STP分析は、マーケティングにおける代表的な分析・思考の枠組み(フレームワーク)の1つで、マーケティングの父とも呼ばれるコトラーが提唱した手法です。

 マーケティングは「誰に、何を、どのように売るか」が重要なテーマですが、STP分析はこのなかで「誰に」と「何を」に関わる重要な視点です。また、STPはSegmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の頭文字を取っており、以下の様にとらえると理解しやすいでしょう。

●Segmentation(セグメンテーション)=顧客や市場を分けてとらえ
●Targeting(ターゲティング)=そのなかで狙いを定め
●Positioning(ポジショニング)=他社との違いを明確にして訴求する

 よりイメージしやすいように、高級茶の例を用いて説明します。みなさんは750ml(ワインボトル)で数千円〜数十万円のお茶が売られていることをご存じでしょうか。一般的にスーパーで売られているペットボトルの緑茶は500mlで80円〜100円くらいですから、数十倍〜数千倍にもなる商品です。

 多くの方が「そんな商品を買う人がいるのか?」と思われたことでしょう。これについては、後ほど参考事例としても詳しく紹介しますが、少なくとも数千円から数十万円のお茶を買う顧客や市場が存在し(Segment)、そこに狙い(Target)を定めた企業があり、一般的なお茶と自社の高級な商品の違い(Position)を鮮明にして成功している例だと言えます。

 いきなり極端な例を挙げましたが、STP分析はさまざまな商品やサービスで適用することができ、かつマーケティングの本質に迫る重要な手法ですので、ぜひ理解を深めていただきたいと考えます。

 なお、STP分析は、位置づけとしては、3C分析、5フォース(5Forces)分析、PEST分析、SWOT分析などの内外環境を分析する手法と、出口すなわちマーケティング施策を考えるための4Pの中間にあたると言えます。

 さまざまな観点から「環境」すなわち「自社をとりまく要素」を理解し、そのなかでSTPを用い「自社が誰に、何を売っていくのか・訴求していくのか」を考え、そして、どのような4P(Product・Price・Place・Promotion)により売っていくのか。そういった意味では、STP分析は自社の「意図」が反映される手法です。

STP分析の要素

 STP分析の解説でよくあるケースとしては、S→T→Pの順番でその内容が紹介されていることが多いのですが、実はそこに陥りがちな「落とし穴」があるのです。

 特に要注意だと思われるのが、Segmentationです。「Segmentation=細分化、市場細分化」といった訳を当てはめていることが多いのですが、顧客や市場などを細分化、すなわち切り分ける視点は無数にあり、それを順番に当てはめていってもキリがないわけです。という注意点を念頭に置きつつ、各要素を見ていきましょう。

1:Segmentation(セグメンテーション)

 市場や顧客を漠然と全体としてとらえるのではなく、セグメントすなわち区分、部分、断片に分けてとらえるということです。分けてとらえる視点は一般的に下記の4つです。

■デモグラフィック(人口統計的変数)
 よくアンケートで年齢や性別を答える欄がありますが、これはセグメントを検討、確認する目的がある場合がほとんどです。年齢や性別のほかに、既婚・未婚、同居のお子さんの数や年齢、学歴や職業などが問われることも多いでしょう。デモグラフィック視点はこのように、人として(ほぼ)変わらない基本的な属性情報を指しています。

■ジオグラフィック(地理的変数)
 これは地理的な要因で区分する視点です。居住地について、北海道・東北・関東といったレベルから都道府県・市区町村、さらにはもっと細かい区分で分けることも可能でしょう。地理的な特性により、気候や風土(文化)、暮らし方も変わるため、これにより市場や顧客を分けようという視点です。

■サイコグラフィック(心理的変数)
 文字通り心理的な要素で区分する視点です。好き嫌い、善悪の判断、暮らし方(ライフスタイル)、思想などをとらえて人を分けるものです。サイコグラフィックとは、価値観・性格・ライフスタイル・購入動機、などといった個人の心理に基づく情報を使ったセグメント指標です。

■ビヘイビアル(行動変数)
 これは、背景にどのような好みや価値観があるかはさておき、その人たちの行動に着目して区分する視点です。たとえば、「週に何回買い物をするか」「主にどこで買うか」といった購買行動や「休暇の過ごし方」「誰と行くか」など、さまざまな行動に着目して区分しようとするものです。

 このほかに、ソシオグラフィック(社会的変数)という区分・表現をすることもあります。これは、社会や組織、地域、グループのなかでの位置づけに着目したものです。たとえば、年収、地位、社会階層などが当てはまります。デモグラフィックやビヘイビアルでも説明できるのですが、「つながり」のなかでどういう特性を持っているかという視点を強調して区分を検討する際に用いられることがあります。

2:Targeting(ターゲティング)

スマホでリサーチする男性

 ターゲティング、つまり「狙いを定める」ということは、顧客や市場をセグメント分けしたなかで、「どこを自社が狙い、顧客化し、関係強化していくか」を決めることです。

 ある航空会社の方に「御社のターゲット顧客は誰ですか?」とお聞きした際、「うちはとにかく飛行機をご利用いただける方すべてです。慣れていない方も、よく出張などでご利用されるビジネスパーソンの方も、ご高齢の方も、インバウンドの外国の方も…」といった回答がありました。

 本当に「誰もかれもが重要」ならば、ターゲットは「ない」もしくは「全顧客」ということになってしまいます。そこで私は、「最新の飛行機、優秀なパイロットやCAはどこの路線に優先的に配置するのですか?」と聞き直してみました。すると、「〇〇発着の〇〇方面路線です」と即答されました。「では、その逆はどこなんですか?」と問うと「△△路線ですね。古い機材(飛行機)はそちらに回します」と即答されました。つまり、これがターゲティングされている状態な訳です。

 公共交通機関である航空会社ですから、ターゲット路線以外は運航しないというレベルでのターゲティングは困難ですが、一方で、明確にこの市場、この顧客を重点的に獲得したいというセグメントがあるわけです。では、このようにターゲットを決めるための要素はなんでしょう。代表的な3つの要素は以下の通りです。

■規模
 狙うからにはある程度の規模(人数、金額)がなければ意味がありません。先ほどの航空会社の例でも、ターゲット路線はビジネス客が多く高い運賃でも利用いただけ、かつ定員をほぼ満たせる程度の需要があるからこそターゲットにしている訳です。

■リーチ(到達・接触)
 規模から見て魅力的なセグメントでも、その顧客群や市場に自社の存在を知ってもらわないことには、買ってもらうチャンスはありません。たとえば、冒頭紹介した高級緑茶のターゲットを「お茶が好きな富裕層」としたとしても、そのターゲットに商品とその魅力を発信できなければ、売れるチャンスはありません。

■競争優位
 もう1つの要素が「勝てるのか」という視点です。ターゲットを定めてリーチもできる、自社の商品を広告やSNSを活用してアピールすることもできる、ということだけでターゲティングしても、競合もそのターゲットを狙っていて、かつ競合のほうがよい商品だったとすれば勝つことはできません。

 自社がターゲットにしたぐらいですから、魅力あるセグメントなのであり、それは競合にとってもよいターゲットである確率が高いわけです。したがって、「そこで自社は勝てるのか・選ばれるのか」を吟味する必要があります。

3:Positioning(ポジショニング)

さまざまなカレールー

「勝てるのか・選ばれるのか」という点は、まさにポジショニング、すなわち自社の位置づけ、違いを明確にすることと結びついています。他社より魅力がなければ負け戦、他社同等なら価格競争に陥ってしまいます。

 イメージしやすいように、カレーのルーを題材に考えてみましょう。

 一般的なスーパーの売場には各社が販売する10種類前後のカレールーが並んでいます。もし各社のカレールーに特徴がなかったり、特徴はあってもうまく伝わっていなければ、我々は価値が同じなのだからと安いものを選ぶことになり、結果として、売場にはほぼ1つか2つの商品しか並んでいないはずです。

 10種類ものカレールーが存在し続けているということは、それぞれに特徴や違いがあり、それによって選ばれ続けているということです。カレールーで言えば和風・欧風・インド風、辛さ、家庭的・プロの味、スパイスの多様性、ベースのうまみの違いなどさまざまな違いがあります。これがまさにポジショニングの違いなのです。

 そして、カレーは「国民食」と言われるほど家庭に浸透しているため、さまざまなセグメントが成立し、そのなかで各社・各商品がさまざまなターゲットを設定し、そのターゲットに向けて特徴的なポジショニングの商品を作り出している訳です。

 カレールーの例で「和風・欧風…」「辛さ」といった視点を挙げましたが、ポジショニングを的確に行うためには、こういった「軸」が必要不可欠です。

 この軸については、「顧客に意味がある差として認知されること」「自社の強みが説明しやすいこと」という2つの条件が重要だと言えます。これは、ターゲット顧客・市場によっても、商品やサービスによってもまったく変わりますし、自社がポジショニングとして打ち出したい強みによっても変わってきます。

【具体例で解説】STP分析のステップとポイント

指をさす女性

 以上がSTPの基本的な考え方ですが、続いて実務的な進め方とポイントを紹介しましょう。

 まずご理解いただきたい点は、先ほど「落とし穴」という表現をしましたが、S→T→Pの順番にこだわらない、という点です。

 ここまでの解説を読んでいただいてお気づきかもしれませんが、STPは逆に見ると「自社の強みを」→「その点に価値を感じるターゲット顧客に」→「市場全体のなかから選び出して」お届けしようという発想でもあります。

 まったくのゼロから商品を開発する場合であれば、PEST分析で自社を取り巻く世の中の環境を調べ、3Cや5フォースで現在の市場環境を理解し、STPのSegmentation(セグメンテーション)をさまざまな角度から実施し、T→Pと進むということもあるでしょう。

 しかし、多くの企業には既存の商品やその種としての技術や人材、施設といったリソースがある訳です。そのため、STPはS→T→Pよりも「P」、つまり「自社の強み」から発想するということが実務的には多いですし、S・T・Pを行ったり来たりして分析・検討することも重要になってくるわけです。

セグメンテーションとターゲティングのポイント

 最初に「S」を実施するか否かも目的や状況によりますし、実務的にはSとTは同時に、もしくは往復しながら考えることが重要であるため、この2つの視点は同時に考えていきましょう。セグメンテーションとターゲティングで重要な点は以下の3つです。

(1)顧客の「ニーズや行動が変わる」切り口を見いだす
 デモグラフィックであれ、サイコグラフィックであれ、セグメント自体は無数に作ることができます。性別×年代×居住地などを組み合わせるだけであっという間に数十のセグメントができてしまいます。

 しかし、それによってニーズやその結果としての行動が変わらないのであれば、セグメントを分けてそこからターゲットを決めたとしても、何を訴求するかも変わらないため、意味がありません。

 前述のカレールーの例で言えば、性別と年齢でセグメントを分け、そのなかからターゲットとして「女性・30代」を取り上げた場合、年齢や性別によって、カレーの好みや買い方、作り方などが変わるでしょうか。

 そうではなく、家族構成でセグメントを行い、「小学生のいる家庭」をターゲットにしたほうが、たとえば「辛くないルーを選ぶ」といったニーズや行動に影響があるかもしれません。このように、ニーズや行動が変わる切り口でセグメントを行い、ターゲットを決めていく必要があるわけです。

(2)ターゲットとして「見いだせること、手が届く」こと
 加えて、ニーズや高度が大きく異なるセグメントを決めることができても、そのセグメントがどこにいるのかわからなかったり、そのセグメントに向けて情報発信できなければ、ターゲットにできないため意味がありません。

 カレールーの場合は、顧客がスーパーなどの売場に出向いて自ら商品を見て選んでくれるため、この問題は起こりません。よくセグメントに使っている年齢・性別・年収などでセグメントし、たとえば「年収1000万円〜1500万円の女性」をターゲットにした場合で考えてみましょう。我々はこのターゲットに情報を届けることができるでしょうか。

 ネットを使ってもダイレクトにこのセグメントだけ抽出して情報発信することはなかなか困難です。したがって、「この切り口で分けたときに、それぞれの区分に我々は手が届くのか」という点を考えなければならないのです。

(3)「経験主義」に陥らないこと
 企業にも人にも必ず過去の経験があり、これに縛られてしまうことがあります。たとえば、従来は家庭の主婦層をターゲットに成功してきた商品でも、家庭のなかの構成や役割分担が変わり、家事や育児の担い手が変われば、今まで有効であったセグメントとそこから決めたターゲットの魅力が低下してしまう懸念もあります。

 従来のターゲットのほかに、新しいターゲットを加えてアプローチしていく必要も出てくるかもしれません。少々古い例ですが、牛丼チェーンは従来男性客がターゲットでしたが、昨今では女性客向けのメニュー開発や食器の提供をするなど、女性層もターゲットに加えているチェーンが多いようです。

 となると、これからの牛丼チェーンにおいて、セグメントの切り口として「性別」は有効なのでしょうか。もっと違う切り口を見いだし、ターゲットを鮮明にしていかなければ競争には勝てないかもしれません。

 このように、過去にうまく機能したセグメント、過去の成功を支えてくれたターゲットにこだわらず、新しい切り口を考えていく必要があるのです。

ポジショニングのポイント

 ターゲットに選んでいただくためには自社の魅力を訴求しなければなりませんが、この自社の魅力について、どのような軸や角度からとらえて表現し、発信していけばよいでしょうか。そのポイントは先ほども挙げましたが、以下の2点です。

(1)ターゲットにとって意味があり認知されること
 カレールーの例を挙げましたが、もしもターゲットが家庭の主婦の場合、自社商品の特徴として「デザインの良さ」という観点を打ち出したとしたら、ターゲットに「うける」でしょうか。主婦が日々の料理をする際に「デザイン」が重要な基準になるとは思えません。これは極端な例ですが、自社の強みやこだわりがターゲットに響かないのならば、有効なポジショニングとは言えない訳です。

 では、同じカレールーで「北アフリカ風」という特徴はよいポジショニングになるでしょうか。「味の違い」という意味では重要な視点かもしれませんが、「北アフリカ風」という特徴がターゲットから見て「北アフリカ風なら食べてみたい!」と思ってもらえるなら意味があります。しかし、「なんだかよくわからないね」と思われてしまったら、無意味なポジショニングです。

 ほかにもスマートフォンを例に挙げると、ターゲットを「不慣れな高齢者」と置いた場合では、「簡単な操作」はターゲットに認知される可能性が高いと考えますが、「先進的な機能と拡張性」はターゲットに対しては意味を持ちにくいため、不適切なポジショニングになってしまいます。

(2)自社の強みが説明しやすく伝わりやすいこと
 前述の例は、裏を返すと自社の強みがターゲットに説明しにくいケースであるとも言えます。もしくは自社の強みがターゲットにとって意味がないのかもしれません。もし意味がないのだとすると、ターゲットの選定自体が不適切だとも言えます。このように、ポジショニングとターゲットも「往復」しながら考えることが重要です。

 また、ポジショニング自体は適切な場合でも、「表現」が下手である場合もあります。同じく「不慣れな高齢者」をターゲットとしたスマートフォンについて、「AIを使った高度なアルゴリズムでユーザーをサポート」と表現するとどうでしょう。自社のスマートフォンの強みは「簡単な操作」でありポジショニング自体も適切かもしれませんが、説明としての「表現」が不適切だと言えます。

 世の中には「よい商品なのに、うまく伝わっていないなぁ」という商品も多いのではないでしょうか。「表現」の問題はポジショニングそのものとは異なりますが、ポジショニングがうまくできないことの背景に、「ターゲットにとって本当に何が大事か」をとらえきれていないというケースもよくあります。

 ターゲットが何を求めているか、それに対して我が社の商品・サービスがどう当てはまるのか。ポジショニングについては「説明しやすいか」「伝わりやすいか」という観点から考え抜くことでヒントが得られることも多いものです。

STP分析を活用した企業の事例

PCで分析する男性

 それでは、STPが巧みに設計されている事例を2社ほど紹介しましょう(いずれも筆者が公開情報を元に考察した内容です)。

事例1:ライフネット生命

 1つ目の事例はネットを活用して成功している生命保険会社「ライフネット生命」です。従来、国内の生命保険会社は、営業職員が顧客先、いわゆる「職域」と呼ばれる企業のオフィスや職場に出向いて営業活動を行うことで契約件数を伸ばしてきました。これに対して、ライフネット生命はネットでの販売に特化し、コストダウンを図り、保険料の安さを魅力に大きく成長しています。STPの視点から見ると以下のような特徴があります。

Segmentation
(セグメンテーション)

●ライフステージによる区分であり、特に既婚・未婚×末子年齢などにより「家族」のタイプによる区分
●ライフステージにより保険へのニーズが変わることを反映している
●年齢によりネットの活用度やネットによる契約・購買への心理的な壁の有無も考慮している

Targeting
(ターゲティング)

ターゲット:若い夫婦でお子様はまだ未就学児か今後予定がある人たち
●保険自体の必要性を感じ始めているが、昨今はオフィス「内」に営業職員が入れないため、従来のように「職域」で積極的な提案を受けられない
●ネットでの契約や購入には慣れており、リテラシーも高い
●むしろ、対面での「強い」売り込みは敬遠している

Positioning
(ポジショニング)

「シンプル×安価」で差別化
●必要な範囲を自分で選択しネットで完結する。したがって、人件費を抑制した結果としての安価な保険を提供している
●従来の保険は、営業職員による詳しい説明や、1人ひとりに合わせることを意図した提案がメインであった
●ライフネット生命は、ネットに特化することでシンプルを極め、ターゲットのニーズにマッチすることができた

事例2:ロイヤルブルーティー

 冒頭でも紹介した「そんな商品を買う人がいるのか?」と思われるかもしれない、数千円〜数十万円もする高級茶の事例です。こちらは「ロイヤルブルーティージャパン」が提供している商品で、筆者が初めて接したのは、都内の少し高級なフレンチレストランにて、同僚たちとあるお祝いの場を設けた時でした。

 メンバーのなかにはお酒がまったく飲めない同僚もいます。その飲めない同僚にレストランが勧めた「お茶」は比較的値段が高いワインと同等の金額でした。その同僚は遠慮して注文しないつもりのようでしたが、お酒を飲む我々は「待てよ、お酒が飲めないからといって、水や普通のお茶でなければならない理由はないな」と思ったのです。

「酒飲み」の私たちはフレンチレストランで雰囲気も含めて高めのワインを楽しめるのに、お酒が飲めない同僚は普段と同じお茶やソーダ水でよいのか、という訳です。そこで試しに、その高級茶を注文したのですが、結果として大正解でした。

 酒が飲めない同僚もワイングラスでそのお茶を飲み、まさにフレンチレストランの雰囲気も含めて楽しめたのでした。「飲める」我々も普段の宴席では、飲めない同僚に気兼ねする面がありましたが、そのお茶があったことで、みな楽しく過ごすことができました。

 少し長くなりましたが、結論として「そんな商品を買う人」はいるのです。喉の渇きを癒やすためでも健康のためでもなく、おそらく筆者の体験のように、「お互いの贅沢な時間」のために買っている人が多いのではないでしょうか。

 ここで、STP分析に話を戻しましょう。この商品は、セグメントにより「そんな商品を買う人」を見いだし、そして「この値段」でも買う人たちをターゲットに据え、ターゲットの期待を裏切らない商品と売り方、提供の仕方をセットにして成功しているのです。整理すると以下のようになります。

Segmentation
(セグメンテーション)

●「高くてもおいしく価値のあるお茶に関心がある人」が見いだせるセグメントの仕方もあり得る。しかし、この商品については、「贅沢な時間」「特別な相手との特別なコミュニケーション」に価値を感じる人を見いだせるセグメントが適切
●切り口としては「年収」「食事する場所」「食事する相手との関係性」「食事にかける費用、時間」など

Targeting
(ターゲティング)

●年収〇千万円以上もしくは特別な場での飲食における支出が〇万円以上の人といった設定。ただしリーチ、すなわち、そういったターゲットに情報発信できることを合わせて考えると、「客単価〇万円以上のレストラン」を利用する人といった設定が実務的・現実的(※)

Positioning
(ポジショニング)

●産地、希少性、味や香りや色といった飲料そのものの魅力はもちろん、ボトルのデザインを含めて、「贅沢なひととき」にふさわしい孤高の存在
●シンプルに2軸で表現するなら、お茶としての質×価格もしくは、飲料としての価値×ストーリー性といった枠組みでポジショニング可能

※筆者の体験にも当てはまるだけでなく、ロイヤルブルーティージャパンのホームページ(外部リンク)でも、商品が提供されるレストランのリストが掲示されている。

顧客・市場をどう「見る」か

 STP分析は顧客や市場をどういう角度から見て、どこを狙うか、そして何を訴求するかを見極める手法であることがご理解いただけたと考えます。改めて大事な点を1つに絞るとすれば、「顧客・市場をどう見るか」ということになるでしょう。

 ポジショニングだけ考えれば「自社の強み」を考える面があるものの、マーケティングやCS(顧客満足)という意味では、やはり「誰に」が重要だからです。自社のリソース(商品や人や技術など)を活かすことは必要ですが、近年のヒット商品は、「いかに顧客に迫ったか」、その前提として「顧客をどうとらえたか」が素晴らしいケースがほとんどであると感じています。自社の商品を押し出すのではなく、顧客や市場をとことん理解する。そのためにも、STPの枠組みを活用いただければ幸いです。

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