マーケティングの施策立案で用いられる4P分析。顧客ニーズに応じた商品やサービスを提供するうえで欠かせない視点だと言えます。そこで、本記事では、4P分析の理解を深め、より効果的な事業戦略を考えたい方に向けて、分析の手法やポイント、事例などを解説します。
今回のキーワード 4P分析
解説 日本能率協会コンサルティング(外部リンク)
4P分析とは?
4P分析とは、マーケティング施策を考える際に使用するフレームワークの1つで、1960年にマーケティング学者のエドモンド・ジェローム・マッカーシーが提唱しました。4Pとは、Product(製品・サービス)、Price(価格)、Place(販売場所・提供方法)、Promotion(販促活動)の頭文字を取ったもので、それぞれ以下のような視点で考えることが重要だとされています。
●Product:どのような製品・サービスを提供するのか
●Price:その製品・サービスをいくらで提供するのか、どのようなチャージ方法か
●Place(Channel):その製品・サービスをどのように提供するのか
●Promotion:その製品・サービスをどのように販促するのか
マーケティング戦略における4Pの位置づけと目的
一般的に、マーケティングのプロセスは以下のように「市場環境分析→マーケティング戦略立案→マーケティング施策立案」の流れで語られます。この中で、4P分析は施策立案の過程で用いられるフレームワークであり、STP分析などで立案した戦略を具体化する目的で使われます。
サービスマーケティングの7P
4Pのような古典的なマーケティングの考え方は、メーカーマーケティングの色合いが強く見られます。一方、経済学者のフィリップ・コトラーは3つ“P”を加えた7Pを提唱しており、これはサービス業にも適用しやすいフレームワークで、4Pに以下の3つのPを加えて考えます。
●People(Personal):人
人の関与をどうするのかという視点です。とくに、サービス業は人によるサービス提供が多いので、人が重要だと考えられます。また、サービス品質の要素の1つとして「顧客」があるので、顧客を含めるという考え方もあります。(たとえば、レストランの雰囲気の良さを演出している要素として、利用している顧客層が良いということがあります)。
●Process:提供プロセス
サービス業は提供プロセスも付加価値を生むという考え方があります。たとえば、レストランであれば、料理だけでなく調理の過程をオープンキッチンとしてみせることも付加価値の1つとして考えられます。また、大きな意味での提供プロセスとしては、CRM(顧客関係管理)や支払いなどの利用プロセスが対象となります。
●Physical Evidence(Physical Environment):物的証拠(物的環境)
サービス業は提供しているものが目に見えない、消えてなくなるといった特性があるので、物的証拠や環境が重要だという考え方です。たとえば、予備校の先生の指導力は目に見えません。品質を保証するために、合格者数をうたっているのもそのためです。
これらは無形のサービスだけでなく有形のモノにも適用できるので、7Pの考え方もおさえておきましょう。
4P分析の進め方とポイント
4P分析は、そのプロセスに沿って、(1)Product→(2)Price→(3)Place→(4)Promotionの順に考えてみましょう。
Product/製品・サービスのポイント
どのような製品・サービスを提供するかを考える重要な視点は、川上で検討したターゲット顧客や提供価値、差別化の視点であると言えます。したがって、ターゲット顧客のニーズ・ウォンツを満たすような製品・サービスを考えることが中心です。
加えて、もう1つの視点として、自社リソースを活用するということが挙げられます。SWOT分析で棚卸しするように、自社の強みと考えられるリソースを活用します。つまり、一般的には、「自社の強みであるリソースを活用してターゲット顧客のニーズ・ウォンツを満たすような製品・サービスを開発する」ということになります。
したがって、ターゲット顧客が違えば提供価値も違ってきます。たとえば、飲食店の場合、利便性を重視するような場合は、駅前や幹線沿いの立地が有利で、住宅街などは向かないことになります。しかし、住宅街に立地することによって、隠れ家的なお店としてサービス提供することも可能です。
また、チェーン店などで顧客ボリュームが必要な場合は、平均的で多くの人に好まれる味付けにするでしょう。しかし、顧客ボリュームが少なくてもよければ、個性的な味付けで勝負することもできます。
つまり、ターゲット顧客を洞察し、顧客のニーズ・ウォンツや課題を解決することを考えることが大事だと言えます。
Price/価格のポイント
価格は「利益」「需要」「競合」の3つの視点から考えてみましょう。
●利益
利益をどの程度確保するのか、という視点です。これは価格設定の基本的な考え方で「価格=コスト+利益」という捉え方です。
●需要
一般的に、「これはいくらぐらい」という感覚がマーケットにはあります。たとえば、もしも1杯1万円のコーヒーを売り出そうとするなら、その価格に納得できる価値が求められます。もちろん、その製品・サービスがどういったものかによりますが、価格設定の視点として需要の視点があります。これを重視した場合、先に価格を設定し、そこから製品・サービス開発をすることもあります。
●競合
競合の価格を参考にすることもよく使われる視点です。価格で勝負するのか、価格以外で勝負するのか、といったことを考えます。
顧客心理を考えた価格設定
顧客の心理面から価格設定を考えることも必要です。皆さんもよく体験する価格設定として、以下のようなものがあります。
●松竹梅
真ん中の価格帯が売れやすいので、売れ筋を真ん中に置く、逆に売りたいものの上と下に価格差をつけるなどの方法がよく使われます。
●セット
単品か組み合わせか、こちらのメリット、お客さまのメリットを考え、双方がWin-Winになるようにします。
●バスケット
単品で利益をとるのではなく、ある単位で利益をとることを考えます。たとえば、ファミリーレストランであれば、家族1人ひとりから利益をとるのではなく、ファミリー全体で利益がでるように考え、値ごろ感と利益を同時実現する、という考え方です。
●端数
980円などの端数で安く見せます。
●サブスクリプションモデル
利用量ではなく利用期間に対してチャージするような方法です。
その他の価格戦略
新商品の場合、スキミングプライス(=高価格設定による利益獲得)か、ペネトレーションプライス(=低価格設定によるシェア獲得)か、といった視点や、価格の弾力性がどうなのか、利用者がコスト負担するのか広告収入にするのかなど、さまざまな検討視点があります。
Place(Channel)/販売場所・提供方法のポイント
チャネル戦略には、以下の3つがあります。
(1)開放的チャネル
取引先を限定せずに商品を流通させます。販売量や販売エリア拡大が期待できますが、販売管理がしづらいというデメリットがあります。また、流通業者間の競争で価格やブランド力の低下を招く可能性があります。
(2)選択的チャネル
自社商品の取引先を限定していきます。販売量や販売エリア拡大はやや鈍るものの、販売管理はしやすくなります。販売力や協力度合いなどで選択していきます。
(3)排他的チャネル
代理店などで販売できる会社を限定します。販売量や販売エリア拡大は代理店数にもよりますが、販売管理はしやすいです。また、インセンティブなどで代理店間競争を促すことができます。インターネットなどによるメーカー直販も可能です。
これらは、顧客へのアプローチのしやすさと販売のコントロールの視点から検討することになります。
チャネル戦略を考える視点
チャネル戦略は、以下のような視点から総合的に検討します。
●販売量や販売エリア
販売量やエリア拡大、シェアをどの程度まで目指すのかによって、限定度合いが変わりますが、種類が多く、販売量が必要な商品は多くの卸や小売りを介することになります。
●販売管理
価格やブランドをどの程度コントロールしたいのか、販売量やエリアとの関係含めて考えます。
●カスタマイズ
顧客とのやりとりが必要な商品は、チャネルを短くする必要があります。
●商品の耐久性・鮮度
食品のような鮮度を求められるものは、チャネルを短くしなくてはなりません。
●自社の販売能力
能力が高ければ直販含め、チャネルは短くすることも可能になりますが、流通への投資資金との関係を考えます。
●流通コスト
自社の資金力等を踏まえ、流通チャネルにどの程度コストをかけるのかを考えます。
Promotion/販促活動のポイント
プロモーションは、マーケティングプロセスの川上で検討した「自社の強み・ターゲットへの訴求・ポジショニングの訴求」といった3つの視点から考えてみましょう。
訴求する内容としては、自社の強みや他社との違い、差別化が中心です。さらに「顧客のどんな課題を解決するのか」が伝わるようにすることがポイントです。
たとえば、掃除機をPRする場合は、吸引力や軽さなどの性能だけでなく、「だから掃除が早く終わり、他のことに時間が使えます」といった内容を訴求することが重要なのです。
また、媒体はターゲットに届きやすいものを選びましょう。たとえば、若者向けの訴求を新聞広告で行っても効果はあまり期待できません。そして、AIDMA(アイドマ)といった視点を使いながら、コストや目的に応じて使い分けをしましょう。
分析時は4Pを統合して考える
重要なことは、4Pが統合して考えられているかどうかです。マーケティングミックスという言い方もしますが、4つのPがそれぞれバラバラでは効果を発揮しません。
製品・サービスはもちろん、価格、提供方法、販促活動のすべてが連動している必要があります。プレミアム感を出したいのに値崩れしていたり、割引販売がされている、シニア層がメインの商品なのにSNSやWEBサイトの活用が必要になっている、リピート重視なのに新規顧客のほうが安く買える、などといったことがないように整合性がとれているかを確認します。
統合して考えられない原因としては、4Pそれぞれを考える部署や人が異なっていることが挙げられます。大規模の企業ではとくにその傾向があると言えます。そのため、コンセプトをいかに共有し続けるかが重要なのです。
4P・7P分析の視点でみる事例
4Pや7Pの視点で、身近な商品やサービスを分析してみました。(筆者の分析であり、実際とは異なる可能性があります)
事例1:カゴメ『毎日飲む野菜』
事例の1つ目は、飲料・食品メーカーのカゴメが提供する野菜ジュース『毎日飲む野菜』です。通販のみで提供されており、同社の商品『野菜生活100』よりも高価格に設定されています。こちらの商品を4P分析で考えると以下のようになります。
Product(製品・サービス) |
●7種の緑黄色野菜などからつくられる野菜ジュースで血圧を下げる機能性表示食品。食生活で摂りづらい緑黄色野菜を、毎日飽きずにおいしく摂れる。 |
Price(価格) |
●30本で4600円(※2021年1月現在)とスーパー・コンビニで売られる野菜ジュースよりは高め。しかし、定期コースでは割引があり、継続利用を促している。 |
Place(販売場所・提供方法) |
●通販のみの販売でプレミアム感のある商品の値崩れを防いでいると考えられる。 |
Promotion(販促活動) |
●販売当初はターゲットと思われる中高年を意識して新聞広告で展開 |
※参考サイト:【カゴメの通販】カゴメ健康直送便・商品ラインナップ『毎日飲む野菜』(外部リンク)
事例2:Uber Eats
事例の2つ目は、近年急速に拡大しているフードデリバリーサービス「Uber Eats」です。こちらはPeople(人)、Process(提供プロセス)、Physical Evidence(物的証拠)を加えた7Pの視点で分析します。
Product(製品・サービス) |
●これまで自前で出前を行っていた飲食店が出前をアウトソーシングできるようになる。 |
Price(価格) |
●加盟店・利用者・配達パートナーから手数料をとる仕組み。手数料は少額のため、3者から少しずつ徴収するモデルだと考えられる。 |
Place(販売場所・提供方法) |
●一定の人口密度エリアで展開しており、配達効率を高めるためと思われる。 |
Promotion(販促活動) |
●加盟店への掲示や飲食店のポスティングへの掲載など「普段利用している店で使える」という認知度を高めていると思われる。 |
People(人) |
●配達パートナー・加盟店の相互評価システムによって、利用者に安心を提供。 |
Process(提供プロセス) |
●現金でやりとりをしなくても、利用者・配達パートナーともスマホで完結できるような仕組み。 |
Physical Evidence(物的証拠) |
●ロゴの入った配達バッグは機能性を高めており、配達品質管理をイメージさせることにつながっていると思われる。 |
4P分析と4C分析の違い
4P分析と類似したフレームワークに4C分析があります。これは、ロバート・ローターボーンが提唱した手法で、4P分析が「企業視点に立った考え方」、4C分析は「顧客視点に立った考え方」と言われています。また、それぞれ以下のように対比の関係になっています。
●Product ⇔ Customer value(=顧客にとっての価値)
●Price ⇔ Customer Cost(=顧客にとってのコスト)
●Place ⇔ Convenience(=顧客にとっての利便性)
●Promotion ⇔ Communication(=顧客とのコミュニケーション)
背景には、マーケティングの変遷があります。マーケティングの大きな潮流は、以下の(1)→(3)の変遷をたどっており、現在は(3)の顧客志向の時代と言えます。
(1)生産志向…つくれば売れる時代のマーケティング。プロダクトアウトの発想
(2)販売志向…モノ余りで顧客は刺激しないと何も買わないというハードセリングの発想
(3)顧客志向…顧客満足を中心としたマーケティング
この考え方をふまえると、4Pよりも4Cのほうがフィットしていると言えるのでしょう。
たとえば、スマートフォンを考えた時に、誰もがハイエンドの機種を求めているわけではありません。「高機能=複雑でわかりづらい」のであれば、ハイスペックを追求するのはメーカー側の自己満足になりかねません。
また、他社との競争の中で複雑になっていく料金体系も顧客本位ではないと言えます。その他、コストを抑えるために顧客対応窓口を十分に用意しない場合も利便性が下がると考えられます。こういった顧客視点を重視するための視点が4Cだといえます。
顧客志向のマーケティングを徹底する
4P、7P、4Cと様々な考え方はあるものの、重要なことは、いかに顧客のニーズ・ウォンツを満たすか、課題解決をするか、という点です。マーケティングが目指すのは、「自然と利用される」状態です。顧客のニーズ・ウォンツを満たすものであれば、押し売りをしなくても自然と利用されると考えられます。そういう意味で、マーケティング活動はCSを求めることに他ならないと言えるでしょう。
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