マーケティングやCSの業務に携わっている方であれば、「バリューチェーン」というワードを聞いたことがあるのではないでしょうか。バリューチェーンは、SWOT、5Forces、3Cなど様々な戦略思考フレームと並び、極めてよく使われる「道具」です。自社の利益や顧客満足を高めることにおいても、検討内容を俯瞰的に考え、発想を広げるために大変役立ちます。しかし、マーケティング初心者にとっては、その概念や分析について、難しく感じるところがあるかもしれません。そこで本記事では、具体例や事例などを交えながら、バリューチェーンの定義や分析の手法、活用法などを解説します。
今回のキーワード バリューチェーン(価値連鎖)
解説 日本能率協会コンサルティング(外部リンク)
バリューチェーン(価値連鎖)とは?
バリューチェーン(価値連鎖)とは、商品やサービスが顧客に提供されるまでの一連の活動を価値の連鎖として捉えたもので、「事業活動を俯瞰して、顧客満足を生み出し利益を創出するにはどこに目を付けるべきか」という点を見いだすための思考フレームです。
言い換えれば、
●自社の製品やサービスはどのような活動を経てお客さまに届いているのか
●それらの活動はどのようなコストがかかり、どのようにお客さまに貢献する価値を生み出しているのか
●どの活動にコストを含めてどのようなリソースをどの程度投入することで利益が最大化するのか
ということを大局的に検討するための道具です。
このバリューチェーンという考え方は、ハーバード・ビジネススクール教授である、マイケル・ポーター氏が1980年代に提唱したとされています。以降、世界中の経営・戦略・マーケティングに関わる人たちの必須の思考ツールとして普及し、今も活用し続けられています。
理解を補うために「ペットボトル入りのお茶(PET緑茶)」を例にバリューチェーンを考えてみましょう。コンビニエンスストアで買えば130円〜150円ぐらいのPET緑茶ですが、スーパーなどでは80円〜100円で売られていることも多いものです。暑い夏の日に喉を潤したり、いろいろな食事に合う健康的な飲料を100円前後で利益が出るように提供できるバリューチェーンはどのようなものでしょう。以下の図を見てください。
PET緑茶を作り届けるには、まずはお茶の原料の調達です。お茶農家から摘み取られた茶葉を購入し、工場まで集めるという活動が必要です。日本や世界から茶葉を集める訳ですが、当然ながら数カ所、数十カ所では済まないと思われます。一般的にこの活動は「調達」と呼ばれます。調達だけ考えても、農家の方々、保管・運送業者など様々な人や機能が投入されています。
そして次は、調達した原料を工場でPET緑茶にする「製造」活動です。さらっと書きましたが、工場の設備を揃えたりペットボトルを用意したり、ペットボトルに巻き付けるフィルムとその印刷といった活動も含まれています。
また、工場は無人では動きませんから管理・作業する人も必要です。そういった高額な設備や優秀な人材の手を経てPET緑茶が生まれます。しかし、これではまだ我々の手元には届きません。
工場から各地の物流拠点までの運送、そして店舗(スーパーやコンビニ)や自販機への配送を行う必要があります。配送されたPET緑茶は、例えばスーパーであれば店頭に並べられ、お客さまが手に取り、会計されてやっと我々の手元に届くわけです。
工場を出てからの活動をバリューチェーンでは大きく「販売」活動と呼んだり、「出荷物流」と「販売」に分けてとらえています。このように、「無」の状態から手元に届くまでがPET緑茶のおおまかなバリューチェーンです。
バリューチェーンとサプライチェーンとの違い
このようなバリューチェーンですが似た言葉・概念に「サプライチェーン」があります。それぞれの特徴と違いを下の表で見てみましょう。
バリューチェーン |
サプライチェーン |
|
扱う範囲 |
製品やサービスをつくり消費者に届くまでの流れ |
バリューチェーンと同様 |
着眼点 |
モノやサービスにどのように価値が加わっているか |
モノやサービスがどのように供給されているか |
目的 |
活動(プロセス)毎のコスト配分や価値の生み出し方を見直す |
供給の観点から最適なプレイヤー・拠点・機能分担を描く |
洗い出すこと |
企業の事業活動と価値の連鎖 |
モノやサービスの流れとその担い方 |
どちらも、取り扱う範囲は製品やサービスが消費者に届くまでであり、その点では同じです。
根本的な違いは「目的」であり、サプライチェーンが「誰が何を(どの範囲を)どのように担うべきか」を焦点とするのに対して、バリューチェーンは「どこにコストをかけ、どこで価値を生み出すべきか」に焦点を当てている点です。
もちろん、この2つの分析は無関係ではなく、バリューチェーンの分析・検討をするためには、サプライチェーンの、特に担い手・プレイヤーやその活動を理解しなければなりません。相互に補い合いながら活用するという理解をしていただければ良いと考えます。
バリューチェーンは「主活動」と「支援活動」で構成される
では、バリューチェーンの中身を見てみましょう。一般的な製造業の例とサービス業の例を挙げてみました。サービス業については、事業・業態によってバリューチェーンが大きく異なりますので、例としてはスーパーマーケットなどの「小売業」を挙げています。
【一般的な製造業のバリューチェーン】
【サービス業(小売業)のバリューチェーン】
どちらのバリューチェーンにも主活動と支援活動があり、最終的には利益につながっているという点では同じです。
「主活動」というのは、製品やサービスを生み出して消費者に届けるために一瞬でも止めることができない、欠くことができない基本的な活動のことです。
一方の「支援活動」は、主活動を効果的・効率的に行うための活動です。例えば支援活動の「人事・労務管理」には、能力・意欲の高い人材を採用し育成するといった活動が含まれます。もしこれが実施されなくても、主活動が瞬時に停止してしまうことはありません。
しかし、能力や意欲の低い人材が増えてしまったり、労働時間が長くなりすぎてしまっては、中長期的には主活動もうまくいかなくなってしまいます。その意味では、支援活動も主活動を通じてバリューを生み出すために非常に重要だということがわかります。
バリューチェーンの分析によって得られるメリット
では、バリューチェーンを分析していく目的、メリットはなんでしょうか。これは以下の3点に集約されます。
(1)コストのかかり方を分析することで、利益を高めるための着眼点が得られる
(2)バリューがどこで生み出されたか付加されたかを分析することで、競争力を高めるための着眼点が得られる
(3)自社と他社のバリューチェーンを比較することで強み・弱みが把握できる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
メリット(1)コストのかかり方を分析し、利益を高める着眼点を得る
先ほどのPET緑茶のバリューチェーンを思い返してみましょう。様々な手間ひまかけて作られ届けられたPET緑茶が100円前後で手に入ること自体が相当驚くべきことですが、それだけではなくさらに「利益」が出る必要があるわけです。
メーカーの立場で、バリューチェーンのどの活動でどれだけのコストが使われ、利益が生み出されたのか考えてみましょう。メーカーに確認しないと正確なところはわかりませんが、利益はおよそ3〜4円と考えられます。となると、バリューチェーンのどの活動でどの程度のコストが費やされた(上乗せされた)のでしょう。
こちらもあくまで目安にはなりますが、原料がおよそ20円、PET容器が17円、販売に関わる人件費や物流費がおよそ40円、リサイクル費等が1円、小売側の利益が18〜19円という計算です。
このように薄利であるメーカーが利益を拡大しようと考える際、どの活動のコストを減らすことができるか、バリューチェーンを使って分析するわけです。
メリット(2)バリューの生じ方を分析し、競争力を高める着眼点を得る
メリットの2つ目は、その名の通り「バリュー」の分析です。単にコストをどこで減らすかだけでなく、どの活動がバリュー、すなわち「付加価値」を高めているか、どの活動でバリューを高めるかを考えることが非常に重要です。
たとえば、スターバックスコーヒーのバリューを考えてみましょう。コーヒーを主とするチェーン店や一般の喫茶店と比べて比較的商品単価が高めであることを考えると、バリューチェーンのどこかで価値を付加できているからこそ単価を高めても売れているのだと考えられます。
さて、スターバックスはバリューチェーンのどこで価値を高めているのでしょう。例えばコーヒーの原料かもしれません。他のチェーンより高品質な豆を仕入れているのかもしれません。もしくは、コーヒーの質は実は同じであるものの、「居心地」や「雰囲気」「イメージ」などを高めることで、高めの価格設定でも満足して利用されているのかもしれません。もし後者だとすると、スターバックスの強みは「居心地の良い店舗」ということになります。
このように、自社や自店はどこで価値を生み出し、どこで価値を高めているのかを考えてみることで、競争力を高めるための着眼点を得ることができます。
メリット(3)自社と他社のバリューチェーンを比較し、強み・弱みを見極める
3つ目のメリットは、1つ目の「コスト分析」と2つ目の「バリュー分析」の合わせ技とも言えます。つまり、自社と他社のバリューチェーンを比較することで、現状の自社の強みと弱みを的確に認識することに使うわけです。
「ドトールコーヒー」と「スターバックス」について、仮にドトールコーヒーの立場で考えてみましょう。ドトールコーヒーは、1杯あたりの単価がスターバックスより低いため、スターバックスよりも多くのお客さまに販売しなければ利益の額を増やせないと思われます。となると、集客を増やしつつ回転率を上げなければなりません。
たとえば、ランチタイムの混雑時でもお客さまを待たせることなく商品を提供できることが求められます。従って、ドトールコーヒーのバリューチェーンでは、主活動である「販売」において、短時間でコーヒーを抽出し提供するための機器、効率良く作業するためのオペレーション、作業に長けた人材を配置することなどにより「短時間で提供する」というバリューを生み出しているわけです。お客さまのニーズが「一定の品質のコーヒーを手軽に素早く入手する」である場合、これは大きな強みになります。
一方、スターバックスに代表されるシアトル系や、ブルーボトルコーヒーのようなサードウェーブ系は「居心地のよさ」を訴求し成功しています。従って、高単価の飲料でも買ってもらうために、バリューチェーンで言えば主活動の「店舗運営」面でセンスの良い内装や設備・什器類を用い、席間もゆったり取るなどしてバリューを生み出しているわけです。
ここまでは主活動の違いに着目しましたが、これらのバリューに関して、主活動を通じて発揮するためには「支援活動」も重要です。例えば「人事・労務管理」について、ドトールでは手際の良さを重視した人材育成がなされる必要があり、スターバックスでは手際もさることながら好印象の接客ができるような教育がなされる必要があります。主活動でどのようなバリューを生み出したいかにより、支援活動のあり方や重点が変わってくるわけです。
ここではバリュー面を取り上げましたが、同様にコスト面から自社と他社のバリューチェーンを比較することもできます。
バリューチェーンの真価
ここまで紹介・例示した内容は、バリューチェーンの極めて一部の側面です。バリューチェーンの主活動と支援活動をどのように細分化してとらえるか、その中身をどういう視点で分析するか、どのようなデータで分析するかなどにより、バリューチェーンという手法の真価はまだまだ高まる余地があります。
また、顧客満足(CS)という点では、利益をどう得るかという視点ではなく、出口を「満足」として置いてみることができます。自社はどの活動を通じて満足を得ているのか。どこにどれだけのコストをかけて、どのようなお客さまにどのような満足を提供しているのか。そして、それは競合他社と比べてどう違っているのか、満足提供のための強み・弱みはどこにあるのか。
そういった点についても、バリューチェーンという枠組みでとらえ検討していくことで、バリューチェーンの真価が発揮されるものと考えます。
バリューチェーン分析のステップとポイント【具体例を用いて解説】
ご紹介したバリューチェーン分析のメリットを得るためのステップとそのポイントを解説します。分析のステップは以下の通りです。
(1)主活動と支援活動の整理によるバリューチェーンの把握
(2)各活動(プロセス)のコストと利益の洗い出し
(3)各プロセスのバリュー抽出と強み・弱みの把握
これらのステップについて、「ある小売店」を例にステップごとに概要を紹介していきます。
【ステップ1】バリューチェーンの把握
まず自店の活動を全て洗い出します。とはいえ、いきなり書き出したりしないようにしましょう。
バリューチェーンの分析を毎日・毎週することはありません。そのため、なかなか経験が蓄積されず、どのぐらい具体的に書くのか、どういう表現が良いのかなど迷うことばかりです。
バリューチェーンの基本型については、この解説でも紹介していますが、小売店や製造業にかかわらずネットで検索してみるといろいろな事業・業態のバリューチェーンの例が出てきますので、どんどん参考にしましょう。
ただし、自社の実際のコストやバリューの生み出し方、強み弱みを分析するのですから、モデルを参考に、付箋などを使って、自社がやっている業務を書き並べ、バリューチェーンの1つ1つのステップに当てはめていきましょう。
それにより、一般的なモデルと異なる自社独特の活動が見つかったり、自社には欠けている活動が見つかったりするかもしれません。そして、その後のステップでの検討を通じて、積極的に書き直していきましょう。バリューチェーンを使う目的から見てちょうど良い細かさ・粗さ、分解の仕方、表現の仕方を考えて、腑に落ちるまでやってみることが大事です。
ポイント
●いきなりゼロから考えずに、類似のバリューチェーン(モデル)がないか探す
●モデルを元に、自社が実施している「活動」を当てはめて抜け漏れをなくす
●完成・固定させずに、検討・分析を進めながら作り変えていく
【ステップ2】各活動(プロセス)のコストと利益の洗い出し
一旦バリューチェーンを作成したら、次にそれぞれの活動(プロセス)ごとに、どこで誰がどのようなコストをかけているかを整理します。利益についても、各活動の段階で算出できるものは算出しても構いません。ただし、コストは最終的な売価と最終的なコストの総和から算出されることがほとんどですので、原則としては、コストを洗い出すことに集中しましょう。
上図のように活動(プロセス)ごとに担当している部署や人を挙げて、それぞれが投じているコストを可視化し算出する方法が一般的です。
1つの活動を1つの部署だけが担っていることはほとんどありません。「うちは仕入れ活動のコストが大きい」と考える場合にも、商品の仕入れ代金だけでなく、仕入れ先との交渉は本部の購買部門、仕入れ先からの配送は物流部門といった分担があるはずです。
また各部門の担当者1人ひとりは、1つの業務だけではなく複数の業務を担っていますので、1人分の人件費をどの活動にいくら使っているかを分けて計算する必要もあります。この点については、厳密に何時間費やしているかを元に計算するのがなかなか困難ですので、一定の考え方を決めて按分(比例配分)することになるでしょう。
コスト分析により削減を検討する場合は、更にコストの内訳にさかのぼって詳細に見直しを行いますが、まずは全体およびバリューの観点(ステップ3)から、「この活動に対するコストとして妥当か」という大きな観点での着眼を得ることが重要です。
ポイント
●活動ごとに担っている・関わっている部署や人を全て挙げる
●利益については活動ごとには追わなくて構わない
●細かいコストの内訳ではなく、活動単位でのバリューの観点から大局的に着眼点を見いだす
【ステップ3】各プロセスのバリュー抽出と強み・弱みの把握
ステップ2と合わせて各活動(プロセス)で生み出されているバリューを、顧客満足につながるか、また売価・利益の引き上げなどにつながるかといった観点で分析します。
先ほどのコスト分析の表を活かして、それぞれのコストと並べてどのようなバリューを生み出しているかを挙げていきましょう。
小売店の例で言えば、バリューの観点としては、「商品の品揃え」「鮮度(食品)や旬を感じるか」「価格」「店舗の魅力」「接客力」やそもそもの「立地」、店舗の「ブランドイメージ」などがありえるでしょう。実際の自店の検討では、それぞれについてより具体的に挙げていくことが重要です。
たとえば「品揃え」については「産地の品揃え」なのか「サイズや量目」なのか、「ブランドイメージ」については「輸入食材による高級感」なのか「地域密着の親しみやすさ」なのかでも、ずいぶんバリューの捉え方が変わります。また、これらのバリューについてどの活動(プロセス)をどう強化すべきか、コストの観点と合わせて良い検討ができるはずです。
ポイント
●バリューの観点は顧客満足と売価・利益への貢献
●抽象的な表現ではなく、具体的なバリューを表現する
●コストと同じ枠組みで考えることでバランスのよい検討ができる
バリューチェーンを活用した事例
バリューチェーンという観点で優れた戦略・マーケティングを実現している例を2つほどご紹介しましょう。(いずれも公開情報を元に筆者が解釈した例であることをご承知おきください)
事例1. 伊藤園
1つ目はこの解説でも取り上げたPET緑茶で有名な「伊藤園」です。世界で初めて缶入りの緑茶を世に出して以来、PET緑茶の領域でも業界をけん引しています。この領域の草分けであり、かつ自らが生み出した緑茶飲料市場で、様々な大手飲料メーカーとの激しい競争を繰り広げつつ、伊藤園はどのようなバリューチェーンで勝ち抜いているのでしょうか。
改めて伊藤園のバリューチェーンを描いてみても、実は一般的な製造業のモデルと同じになってしまいます。伊藤園のユニークさはバリューチェーンの姿や形ではなく、その中身にあるのです。
下図を見てください。
伊藤園のバリューチェーンに潜む大きな強みの1つは「産地開発」であると言えます。他社もある程度同様の取り組みを行っているものと思われますが、伊藤園は他社に先駆けてお茶の産地との関係を強化することで、高品質の原料を安定的に、かつ鮮度よく調達することができています。
産地からすれば、缶入り煎茶の開発を皮切りに、緑茶市場を盛り上げてくれた功労者である伊藤園への信頼は厚いものと考えられます。そういった「見えざる資産」をしっかりとバリューチェーンの中に織り込むことで、競争力を高めていると考えられるのです。
また、伊藤園のユニークな点は「販売」にも潜んでいます。ここでちょっと普段のテレビ広告の印象を思い出してみてください。直感的で恐縮ですが、伊藤園の競合である綾鷹(日本コカ・コーラ)や伊右衛門(サントリー)ほどには伊藤園のテレビ広告を見かけないとは思いませんか。伊藤園はテレビ広告も行っていますが、それ以外に、他社にはない強みを持っているのです。それは販売活動に現れています。
他社は製造したあとの「販売」については、中間流通としての卸や食品商社等を通じて小売に提供しています。しかし、伊藤園は製造から販売の一部すなわち小売への営業活動や納品までを、原則として自社営業が担っているのです。これにより「約3,500名の営業員が行うマーケティング戦略」(伊藤園ホームページ(外部リンク)より引用)を実現し、広告の大量投下に依存しない販売活動ができている訳です。
伊藤園にはこの他にも独特な強みがありますが、このように、バリューチェーンの分析は姿・形ではなく、その中身を掘り下げて捉えることが必要不可欠です。
事例2. メルカリ
続いて、2つ目の例を紹介しましょう。取り上げたのはフリマアプリの「メルカリ」です。
メルカリのバリューチェーンは、先ほど紹介したような一般的な小売とは異なっています。しかしながら、競合のオークションサイトやフリマアプリと極端な違いがある訳でもありません。メルカリのバリューチェーンのすごみは、徹底的に「参加者を主役にした」ことだと考えられます。
売り手と買い手がそれぞれのニーズを元に、面倒なことを排除して、とことん手軽にかつ安心な取引ができる。そのバリューをしっかりとバリューチェーンとして作り上げたことが、一気に業績を拡大したポイントであると考えます。
下図を見てみましょう。
特にコストの低減につながり、かつバリューを生み出している活動が「受発注機能の運営」です。オークションやフリマアプリでは当然ですが、受発注は、一般的な小売の場合、自社が行いますが、メルカリでは「参加者」すなわちお客さまが商品を提供し、商談し、発注まで至る仕組みです。メルカリはそのプラットフォームを構築し、まさに運営しているだけと言えます。
かつ、メルカリはオークションサイトやフリマアプリにありがちな、不安要素となる「個人情報」の公開を廃して売り買いができる仕組みも導入しています。(※配送方法の設定によります)
また、「商品配送」についても自社が商品を梱包・発送せず、ここでも「参加者」自らがその作業を行っているわけです。それだけであれば従来のオークションサイトと同じですが、メルカリのバリューチェーンのすごさは、宅配会社と共同で「参加者双方が匿名で売り買い・発送・受領ができる」仕組みを開発したことだと考えます。
このように、バリューチェーンを描き、その中身を見ていくことで優れた事業のポイントが見いだせるものです。自社についてもバリューチェーンを活用し、顧客満足と利益の拡大を図るための着眼点を見いだしてみましょう。
【初心者におすすめ】バリューチェーンの理解が深まる本
バリューチェーンについて理解を深めるためには、以下の書籍がおすすめです。
バリューチェーンの生みの親であり、競争戦略についての世界的な権威であるポーターの書です。バリューチェーンを含めてポーターの競争戦略のエッセンスが詰まっています。
目新しさを求めるのなら世には様々な戦略論・書籍が溢れていますが、結局のところ「源流」はここにあるという印象です。ポーターの戦略論を概説、要約した書籍も出ているので迷いますが、やはり戦略はバリューチェーンも含めて全体として統合されてこそ意味がありますので、「要所要所だけ」紹介するスタイルの書籍ではなく原典をおすすめします。
なお、2018年に新版として出版されており、現代的な解釈、内容に仕上がっています。
難しくはないが奥深い「バリューチェーン」とその活用
戦略に限らずマーケティングやCSを考える際に必ず触れるバリューチェーンですが、表面的に作成されたり、形式的な検討で済まされてしまっているケースも多いものです。今回の解説でも紹介した内容は、バリューチェーンの真価のごくごく一部ですし、個々の企業・事業に応じた検討やその他の手法と組み合わせて統合的に活用いただくことが重要だと考えます。
その際に必須なのが「試行錯誤」です。バリューチェーンは手順を追えば、意味ある分析ができるわけではありません。描いてみて、検討してみて、何度も書き直して、分析して…を繰り返して、活用につなげていきましょう。
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