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CS経営って何? 取り組む意味と考え方のポイント【CS推進 一年生 #1】

CS(顧客満足)推進のプロセス・考え方をイチから解説する連載コラム「CS推進 一年生」。40年にわたり日本産業の成長を支援する総合コンサルティングファーム・日本能率協会コンサルティングに在籍するコンサルタントが、全15回にわたって顧客満足向上に向けた基礎を紹介します。“CS初心者=一年生”はもちろん、「改めてベースから振り返ろう」という方にも適していますので、ぜひご活用ください!
>連載「CS推進 一年生」記事まとめ

第1回目のテーマ
CS経営って何?
講師
日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

―目次―
1.「CS経営」とは
2.CS経営に込められた「3つの意味」
3.CS経営を実現するための「5つの機能」
 3-1.事業戦略と直結しビジョンを示す機能
 3-2.顧客の声を組織に取り込む機能
 3-3.満足を実現し再利用・紹介につなげる機能
 3-4.CS実現人材を育成する機能
 3-5.取り組みを支える機能

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1.「CS経営」とは

CS経営のイメージイラスト

 みなさんはじめまして! この連載は、私たち「日本能率協会コンサルティング」が担当いたします。日本能率協会コンサルティング(略称JMAC・ジェイマック)は、1980年に社団法人日本能率協会から分社した総合コンサルティングファームです。CS経営については本文でも触れますが、「草分け」として多種・多数・多様な企業、組織のみなさんをご支援して参りました。CSについて深く知る私たちが、表面的ではなく本質的に、しかしながら、わかりやすく解説をして参りますのでどうぞご期待ください!

 さて、第1回目は「CS経営って何?」というテーマです。

 そもそも、顧客満足(CS=Customer Satisfaction)という考え方が、初めて日本に紹介されたのは1991年です。その際、その概念を整理し紹介した、日本能率協会グループ(外部リンク)が提唱した考え方が「CS経営」でした。日本には昔から「顧客第一」など顧客を大事にする商売の考え方が根付いていましたが、多くの企業では精神論に終わっていた面がありました。これに対して、CS経営は「目指す顧客の満足を組織的につくり続ける経営」との定義を掲げました。これには3つの大事な意味が含まれています。

2.CS経営に込められた「3つの意味」

スリーピース

 1点目は、「目指す顧客」です。最近はクレーマーに象徴されるように、「顧客」からの理不尽な要求への対処に追われるケースも出てきました。このような極端なケースは例外としても、多くの企業の中には「顧客の要望は絶対だ」という風潮は多かれ少なかれあるものです。これに対して、CS経営では「目指す顧客」とし、「自社にとって大事な顧客」「事業戦略上の重点顧客」に満足を提供しようという主張が明確に表現されています。

 2点目は、「組織的に」という点です。今も企業によっては「CSは顧客対応部門の考えること」「CSは顧客相談室の仕事」といった、極めて狭く間違った捉え方をしている方もいます。これに対して、CS経営は「組織的に」という考え方を示し、どこかの部門や誰か特定の職種の役割ではなく、会社全体が考えるべきことだと位置づけています。

 3点目は、「つくり続ける」という点です。CSによくある誤解の1つとして、CS向上は「CS調査をしてお客さまの不満を解消したり、要望をかなえたりする取り組みだ」というものがあります。CS調査は顧客の声を聞くために重要ですし、ぜひ実施していただきたいと考えます。しかし、「調査結果」や「言われたこと」に対応するだけで、果たしてCS向上ができるでしょうか。要望対応の受け身の企業が果たして顧客に支持され続けるはずはありません。

「つくり」という点は、今ある価値を守るだけでなく、顧客に新しい価値や体験を提供しようということを意味しています。また、「続ける」という点は、CS向上に終わりはないということを意味しています。時々、「今年度はCS向上運動に取り組む」というような言い方を聞くことがありますが、CSは一時期の運動だけで良いはずがありません。顧客も社会も変わり続けますし、競合も改善を続けるなかで、自社がある一時期だけCSに取り組むということはナンセンスです。

 みなさんの企業では、「CS経営」が実現されているでしょうか。もしくは、貴社のCSの取り組みは、CS経営を実現し続けようという認識で推進されているでしょうか。

CS経営の意味合いと大事なポイント

CS経営とは…
目指す顧客の満足を組織的につくり続ける経営

【ポイント1】目指す顧客
→どのような人や企業を大事するのか、重点化・戦略発想が必要

【ポイント2】組織的に
→CS推進部門や顧客接点部門(営業、コールセンター)ではなく、全社の取り組み

【ポイント3】つくり続ける
→「受け身」だけで終わらず、新しい価値を生み出し続けること

3.CS経営を実現するための「5つの機能」

 では、CS経営を実現し続けるためには、どのような取り組みが必要でしょうか。そのためには、組織の中に「5つの機能」を整備していく必要があります。

3-1.事業戦略と直結しビジョンを示す機能

 CS経営の意味合いでも触れましたが、CSは「すべての顧客に満足を」ではなく、「目指す顧客」が対象です。よく「戦略は選択と集中である」という言い方をします。まさにCSも「誰にどのような価値を提供することで勝ち抜こうとするのか」という意味では、極めて戦略と直結した取り組みなのです。CSを単なる精神論として捉えてしまうと、戦略にかかわらず「お客さまは大事」といった話に陥ってしまい、結果として現場はあらゆる顧客のあらゆる要求に対応を迫られることになります。

 CSはそういった精神論ではなく、「事業戦略を実現し継続的に成長していくための手段」と捉えるほうが今日的ですし、的確です。その意味でこの機能(1)は、我々はどのような顧客を大事にするのか、そのためにどのような提供価値で勝負するのかを明確にするものです。そして、戦略実現の手段である以上、CS上の目標は何かを明確に設定する必要があります。たとえば、誰の何に対する満足度が高まると、事業上どのような成果につながるのかを示すことが必要です。CSはCS、事業成果は事業成果という取り組みでは意味がなく、戦略と直結して何をどう目指すのか、というビジョンを示す機能が真っ先に必要なのです。

3-2.顧客の声を組織に取り込む機能

 戦略と直結したビジョンを踏まえると、次に求められるのが「目指す顧客」の声を聞くことであり、それが組織の中に取り込まれるようにする機能です。貴社でもなんらかのCS調査(顧客満足度調査)を実施しているのではないでしょうか。こういったCS調査も、顧客の声を聞く機能の代表例です。それ以外にも、コールセンターに寄せられる声、営業担当者が直に聞き取った声など、大事な顧客の期待や自社への評価を知ることはCS経営にとって必要不可欠です。

 さらに大事な点は、顧客の声を組織内に供給する機能です。先日、ある会社にてCS調査結果にもとづく課題検討会を一緒に行ったのですが、「これまで(過去)は、CS調査の結果は共有されたものの、何をやるかについては各部門で考えてねという感じだった」と言われました。非常にもったいないことですが、よくあるケースだと思います。せっかく顧客の声を調査で聞いたり、営業が聞いたりしても、「組織として聞く」ことができていなければ意味がありません。顧客の声を集めるだけでなく、問題発見につなげられるように共有することが必要です。

3-3.満足を実現し再利用・紹介につなげる機能

 次の機能は、組織に取り込んだ顧客の声をもとに具体的な課題と対策につなげ、実行しきる機能です。「なるほど、顧客の期待はよくわかった」で終わらぬよう、「どの部門、人が、何をいつまでにやるのか」という組織としての決定を行う必要があります。また、決めたことが計画通りできているのか「仕組み」として回していく必要があります。この機能についてはCSにかかわらず、組織の「問題解決能力」そのものが問われる面があります。CSに限らずさまざまな改善や改革がなかなかできない、長年の懸案がいつまでも解消されない、といった組織においては、よほど本腰を入れて問題解決の「仕組み」を作っていく必要があります。

 また、「再利用・紹介につなげる」という意味では、満足顧客が購買行動や紹介のアクションをとってもらえるようどのように働きかけていくか、というマーケティング施策も重要です。利用し続けてくれること(取り引きし続けてくれること)、新たな顧客の紹介をしてくれること、これらを引き出すためにさまざまな部署の連携が必要です。

3-4.CS実現人材を育成する機能

 こういった声を聞き、取り込み、問題を解決するのは組織ですが、1つひとつの活動は「人」が担っています。こういった人材育成もCS推進の課題です。短絡的に捉えると「どういう研修をすべきか…」と考えがちですが、研修だけが人材育成ではありません。一番有効な人材育成の手段は、どんなテーマでも実務であり、具体的な行動です。CS経営における人材育成も同じです。研修も大事ですが、何より顧客の期待を考え、実現に取り組むこと自体が最も大事です。従って、CS推進の役割としては、さまざまな改善・改革活動を、さまざまな部署の担当者やマネジャーを巻き込んで実践を促進していくことが最も重要であると言えます。

 CS推進は考え方の啓発や浸透、CS調査の実施など、さまざまな役割を担いますが、改善・改革の推進とそれを通じた人材育成も極めて重要な役割だと言えます。

3-5.取り組みを支える機能

 最後の機能は、その他の機能が働き続けるよう組織として支える機能です。たとえば、(1)のビジョンについては、トップが明確に自社の戦略を描き・発信することが必要です。そういったCSの方向性を左右するトップの意思を引き出し、共有する仕掛けもCS経営推進には求められます。また、(3)の改善・改革を進める際には、部門の垣根を越えた取り組みも必要であり、活動を進める「場」を作ることも求められます。そういったさまざまな仕組み・仕掛け・場作りも、CS経営においては重要な機能なのです。

 さて、第1回目は「CS経営」を紹介しましたが、「CS推進というのは、なかなか幅広い活動だなぁ」と思われたのではないでしょうか。その認識は正しいですし、だからこそCS推進は自社にとって極めて重要であり、かつやりがいがあると思うのです。もちろん、孤軍奮闘する必要はありません。繰り返しますが、CS推進は「組織」で行うもの。いかに組織の力を引き出し、活かすか。そんな考え方で取り組みを進めていきましょう。

 次回、第2回目は「担当者の活動スケジュール」について解説します。

【次の記事】
>CS推進担当の主な活動スケジュールとは? 事例とともに紹介【CS推進 一年生 #2】

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日本能率協会コンサルティングについて
 日本能率協会コンサルティングは、1942年に設立された社団法人 日本能率協会の中核として70年以上、企業が抱えるさまざまな課題解決の実行支援を行っている。1991年には日本で初めて「CS経営」を提唱、数百社以上のCS向上支援を行っている。現場主義のコンサルティングスタイルであり、一過性の流行に流されない真の顧客起点での課題立案・対策推進を支援している。
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