キーワード解説

NPS(ネットプロモータースコア)とは? 計算方法や調査のコツ、活用方法を紹介

NPSのヘッダー画像

顧客満足度の向上が企業の至上命題となることがあるものの、その実、満足度が高い顧客が新たな顧客を連れてくるものなのかどうかは明確にはなっていません。そのようななか、顧客ロイヤルティの向上とより直接的に結びつく指標としてNPS(ネットプロモータースコア)が注目されています。シンプルで活用がしやすいとされるNPSについて、その基本と注意点、より発展的に活用する方法を紹介します。

今回のキーワード NPS(ネットプロモータースコア)

1.NPS(ネットプロモータースコア)とは?

 NPS(R)とは「Net Promoter Score(ネット・プロモーター・スコア)」の略で、顧客ロイヤルティを数値化して測る指標の1つです。「推奨者の正味比率」を意味し、「0〜10点で表すとして、この企業(あるいはサービス、商品)を友人や同僚に薦める可能性はありますか」という1つの質問を用いて、企業やブランドに対してどれくらい愛着や信頼があるのかをスコア化したものです。

 アメリカのコンサルティング会社、ベイン・アンド・カンパニー社のフレッド・ライクヘルド氏が2003年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌で発表し、その後『顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」』(HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS/2006年)として書籍化されてから世界中で注目されるようになりました。現在、欧米では公開企業の3分の1以上が活用しているとされ、日本においても導入する企業が増えています。

顧客満足度とNPSの違い

 顧客満足を測る指標として「顧客満足度」がありますが、NPSとの違いは大きく2つ考えられます。

 1つ目は、顧客満足度にはグローバルな基準が存在しないこと。NPSはベイン・アンド・カンパニーが積極的に推進し、世界共通の標準的な測定法としてルールが整備されています。どの産業、どの企業でも同じレーティングであるため、導入が容易で他社とも柔軟に比較ができます。

 2つ目は、再購買や他者推奨というロイヤルティ行動への直接的な質問による数値化であるため、顧客ロイヤルティとの相関性がより強い指標とされていること。ベイン・アンド・カンパニー社によれば、企業の業績・収益との相関関係も高いとされています。「満足」したからとはいえ、消費者が継続して利用してくれるのか、誰かに紹介してくれるのかはわからないため、必ずしも企業の収益と相関性を導くことができません。顧客満足度が事前期待と知覚価値のギャップを計測するものであるのに対し、NPSは徹底的に企業の収益向上に焦点を当てています。

 なお、顧客ロイヤルティ(Customer Loyalty)とは、顧客が企業やブランドに対して感じる継続的な愛着や信頼を指し、高い状態の顧客は「熱狂的なファン」とも言えます。よく「ロイヤリティ(royalty)」と誤用されますが、「ロイヤリティ」は著作権などに対し第三者が利用する際に支払う対価を指します。NPSのスコアが改善されるということは、推奨者の割合が増える、批判者の割合が減る、あるいはその両方となるため、利益増とコスト減につながると言えます。

2.NPSの計算方法

 計算にあたっては、まず顧客へのアンケートで「0〜10点で表すとして、この企業(あるいはサービスや商品)を友人や同僚に薦める可能性はありますか」という設問を用意し、回答を集めます。NPSでは、「0〜10」の11段階で評価した顧客の属性を「推奨者」、「中立者」、「批判者」の3つのタイプに分類して活用します。9〜10点を付けた顧客を「推奨者」、7〜8点を「中立者」、0〜6点を「批判者」と分類するのがルールです。

 計算方法はとてもシンプルで、以下のように、回答者全体で「推奨者」と呼ばれるグループの割合から「批判者」と呼ばれるグループの割合を差し引くことで算出されます。

推奨者の割合(%)−批判者の割合(%)=NPS

 したがってNPSスコアのレンジは、「−100%(批判者しかいないことを示す)」〜「100%(全員が推奨者)」ということになります。

<計算例>
 ある飲食店のNPSの分布が、推奨者10%、中立者70%、批判者20%だったとします。この場合、10%−20%となるため、NPSスコアは-10%となります。

顧客属性の分類
※「0〜10点で表すとして、この企業(あるいはサービスや商品)を友人や同僚に薦める可能性はありますか」と質問した場合

NPSの顧客セグメントと点数の関係

顧客属性ごとの特徴

顧客属性と点数

特徴

推奨者(プロモーター)
:9〜10点

推奨者とは、対象となるサービスなどに対してとても忠実であり、熱狂的なファンです。推奨者は、家族や友人、あるいは会社の同僚にそのサービスについて好意的に話をします。自らも再購買をします。
推奨者の8割が他者にクチコミをすると言われています。

中立者(パッシブ)
:7〜8点

中立者は、現状に満足はしており、自分が支払った対価に見合った見返りは得ているが、それ以上ではないというグループです。
中立者は、プロモーターと比べて熱心ではなく、同僚や友人に紹介することもほとんどありません。さらに、競合他社のプロモーションに触れることでスイッチングをする可能性があります。

批判者(デトラクター)
:0〜6点

批判者は、あなたの商品やサービスを利用して愉快とは思わなかった、あるいは失望すらした体験を抱えている不幸な顧客です。
同僚や友人に対して悪い評判を口にし、自身はいとも簡単に他社のサービスに切り替えます。批判者が長期利用せざるを得ない場合には、苦情を寄せて企業のコストを増やし、苦情を聞く社員のモチベーションを低下させる可能性まである存在です。

■望ましいサンプル数は?
 顧客調査は全数調査ができる(顧客全員に聞く)ことが最良ですが、現実的には困難です。そのため、なるべく多くの回答数を得るよう努力することが求められます。一般的な定量調査では、n≧400とされています。ただし、400という数が絶対ということではなく、統計学上、400の回答があれば、再度同じ母集団からサンプリングしたとしても集計結果の誤差は5%とされており、それ以上n数(サンプル数)を増やしても劇的にこの誤差が改善されるわけではないためです。母集団形成がしっかりしていれば、サンプル数が100でも十分、分析に活用されます。

3.NPS調査の効果的な手法

パソコンで調査をおこなっているイメージイラスト

 NPSを調査する上で効果的な手法を3つの視点から整理します。

(1)調査設計

 NPSは極力設問数を少なくすることが推奨されています。前述のとおり、NPSは「たった一つの究極の質問」があれば算出ができます。分析をするために追加設問を用意しますが、『ネット・プロモーター経営 顧客ロイヤルティ指標NPSで「利益ある成長」を実現する』(フレッド・ライクヘルド、ロブ・マーキー著/プレジデント社/2013年1月発売)では、2つ目の質問として「そのスコアをつけた主な理由はなんですか」や、「当社のことを推薦して頂くために、最も重要な改善すべき点は何でしょうか」というフリーコメントの設問が続くとよいとされています。フリーコメントは回答者が自由に記述するものであるため、想定していない回答がなされる可能性もありますので、そこは柔軟に、設問の中に「例えば○○など」という形で例示をしておくことも場合によっては採用します。

 多くの設問があると、結局のところ、多くあっても参考にならない可能性がある、回答者の時間をいたずらに消費する、分析または行動に移そうとする現場のメンバーの行動にはつながらない、などのデメリットが生じるため、注意しましょう。

 設問を追加する場合は、カスタマージャーニーで企業・製品・サービスが顧客と接するポイントを整理し、事前に「どのタッチポイントがロイヤルティに影響を与えるか」に焦点を当てて仮説を立てることが重要です。全体を通してなるべく顧客が考えすぎず、5分以内で回答できるように、設問の言葉などもシンプルにわかりやすくする工夫も必要です。

 なお、NPSの算出に必要な「たった一つの究極の質問」は、アンケートの1問目に配置します。詳細から入ってしまうとバイアスがかかるため、一般の満足度調査でもこのような調査設計が組まれます。

(2)調査実施の手順

 アンケートの実施前に、目的を明確にし、適切な顧客からの回答が得られるよう準備しておくことが重要です。自社内での比較(時系列、製品・ブランドごと)であれば、自社が抱える会員や顧客に対して、メール配信や来店時の対応の最後にアンケートを依頼するなどの方法が考えられます。

 他社との比較をすることが目的であれば、外部調査を活用します。競合他社の顧客は自社内では把握しようがないため、外部のリサーチ機関を通じて回答を集めます。

 内部と外部でどちらがよいということはなく、昨今多くの企業では、自社内での顧客調査と、外部委託による顧客調査によって比較を行い、回答者の偏りやスコアのギャップがないかを確認し、その原因を追究して次の調査で改善していきます。

こちらもチェック
>顧客満足度調査の効果的な手法|指標やアンケート調査・分析のコツ

4.NPSの分析で注意すべきポイント

分析データのイメージイラスト

(1)日本におけるNPSのスコア

 日本人の傾向として、NPSを含む点数を回答させるアンケートでは、グローバルに比べて中央の5点を中心に偏る傾向にあります。NPSでの5点は批判者となるため、基準が厳しすぎるのではないかという声もあります。しかし、ベイン&カンパニー社の調査によれば、日本人の5点の中には不満を持っているケースが多いようです。

 NPSのスコアの計算方法は日本には合わないのではないかとも言われますが、10点、9点といった高得点を付けないということは、「人に薦める」行為をとる確率が少ないということに他なりません。より踏み込んだ施策を採用する必要があるというだけです。

 上記のようなことから、日本のNPSスコアはマイナスになることが多いものの、グローバルで比較する意味はなく、戦っている市場の競合他社との相対比較で見ることが望ましい活用方法です。

(2)回答しなかった顧客の存在

 アンケートに回答しなかった顧客というのも重要な存在です。アンケートに回答する顧客はある程度の能動的な顧客と言えます。サイレントマジョリティーという言葉がある通り、回答者の割合が全体の顧客に対して著しく少ない場合、偏った回答をもとに誤解を招くような分析結果を出してしまう恐れがあります。

(3)法人向け調査での工夫

 法人向け(BtoB)のアンケートは、顧客からの回答数が十分に集まらない可能性があります。回答が得られたとしても、適切な回答者かどうかは精査する必要があります。たとえば、あなたの会社が業務移管システムを開発し企業へ導入した際にNPS調査を実施するとして、本当に回答してもらいたい人が「意思決定者」なのか「利用者」なのかは調査前に考慮しておく必要があります。

 法人向けの調査はほとんどの場合、利用者を特定できますので、5分程度の短いアンケートに協力できないような関係性であれば、日頃からのコミュニケーションに課題があるとも言えます。

5.NPS向上につながる活用方法

ガッツポーズをするビジネスマンのイラスト

 NPSを活用し、実際に向上させるために知っておくべきポイントを紹介します。

(1)トップのコミットメントが重要

 NPSは小さなチームでも実践可能ですが、NPSを用いた顧客ロイヤルティの改善を「取り組むべき優先事項」として、全社を挙げて取り組むことが重要です。利益につながるのかどうかが判然としないまま従業員がNPS改善に取り組むよりも、経営者が経営的にやる必要があると認識した状態で従業員に説明し、動機付けができるほうが効果的であることは明白です。

(2)社内に定着させるための仕組みを作る

 NPSは「学びと改善」のループによって改善していきます。組織運営のなかでのPDCAサイクルにNPSによる顧客のフィードバックを組み入れ、次のアクションを検討して意思決定ができる仕組みが存在しなければ、一過性のもので終わってしまいます。

(3)「批判者」が適切な顧客か見定める

 批判者の存在は余計なコストを発生させる要因になりますので、企業は批判者の割合を減らす努力をする必要があります。しかし、批判者を推奨者に変えるように改善を図る必要があるかどうかは、しっかりと見定めなければなりません。批判者に合わせて改善することが、推奨者には改悪と捉えられる可能性もあります。

 まずは、ネガティブなイメージを持っているターゲット層が、企業が価値を届けようとしているターゲット層なのかを確認します。ターゲット層と異なっているのであれば、商品やサービスを誤った顧客に提供しているとも考えられ、そのような顧客が誤って購入に至らないようにすることも1つの方法です。

(4)後継商品を開発する際のフィードバックとしてデータを活用

 NPSの付随質問で「なぜその得点を付けたのか」という回答には、改善、解決できないこともあります。しかし、その回答にはまだ企業が気付いていないような顧客の課題が眠っている可能性があるのも事実です。NPS調査をした対象の製品・サービスへの改善に限らず、後継の商品や新商品開発への気づきとして、顧客からのフィードバックを活用することも考えられます。

(5)戦っている業界においてNPSを比較することで、自社のポジションを確認する

 NPSは戦っている市場・業界での比較が最も適しています。たとえば、日本でのみシェア争いをしているケーブルテレビなどの業界が、アメリカのケーブルテレビのNPSと比較をしてもほとんど意味を成しません。NPSの業界平均はどうなのか、競合他社と比べてどうなのかという点に目を向けることが大切です。

こちらもチェック
>保険・通信・小売など、業界ごとのNPS平均を公開中|オリコン顧客満足度調査

6.NPS活用の事例

 『ネット・プロモーター経営 顧客ロイヤルティ指標NPSで「利益ある成長」を実現する』には、日本においてNPSと売上成長率の強い企業の事例が掲載されています。

 静岡県沼津市に本社を構える平成建設は、工業化の弊害として大工や職人の質が低下してきている懸念を持っていました。この解決方法として、元請けと下請けという構造が基本にある建設業界のなかで、職人を正社員化し複数の工程を担える多能工として育成する取り組みを行いました。その結果、アフターフォローの丁寧さなどが評判を呼び、同社を指名する顧客が増えたそうです。

 また、同書では、アメリカン・エキスプレス(日本)について取り上げられており、NPS導入、計測、実践までが徹底されていること、NPSとは何か、何のために必要かを経営陣が語れるようになる社内研修の実施、トップの強いコミットメントがあること、推奨者の増大に向けて徹底して施策ごとにNPSの目標を設定してフィードバックループをし続けていることなどが列記され、日本におけるNPSの活用が業績につながった成功事例として挙げられています。

7.複数の指標を組み合わせて、顧客体験を改善

 NPSは「たった一つの究極の質問」で測る非常にインパクトのある指数ですが、必ずしもNPSだけで解決できないこともあります。たとえば、サービスによっては他者に薦めることに関して気が引ける場合もありますし、心の底から満足していて他の人には知られたくないというものも存在するでしょう。そのため、NPSだけに頼るのではなく、「他者推奨」に至る前の、以下のような複数の指標と組み合わせることで、NPSでは見えない領域をカバーすると良いでしょう。

(1)GCR(カスタマー・コンプレッション・レート)
 Goal Completion Rateの頭文字を取ったもので、「目標達成率」と訳されます。顧客が抱える課題を達成することができたのかを測る指標です。
(2)CES(カスタマー・エフォート・スコア)
 Customer Effort Scoreの頭文字を取ったもので、「顧客努力指標」と訳されます。顧客が製品やサービスを利用する際にどのくらい努力を要したかの「使いやすさ」に着目した指標です。
(3)CSAT(カスタマーサティスファクションスコア)
 Customer Satisfaction Scoreの頭文字を取ったもので、一般で言う「顧客満足度」のことです。製品やサービスを利用して満足したのかどうかを測る指標です。

オリコン顧客満足度でもNPSを聴取

 第三者の立場で顧客満足度調査を行うオリコンでは、各調査で多様な業種・企業の「NPS」も聴取・データのご提供を行っています。聴取しているジャンルや企業については、以下データ販売サイトからご確認いただけます。業界ごとのNPS平均値など、無償でご提供しているデータもございますので、ぜひご参照ください。

>オリコン顧客満足度 データ販売サイトはこちら

※NPS(R)は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

>CS・マーケ担当者必見!「キーワード解説」記事一覧