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『IDRユーザフォーラム 2020』に参加!得られた知見とは

『IDRユーザフォーラム2020』レポート記事のヘッダー画像

 オリコン顧客満足度調査を展開するoricon MEでは、2019年6月より国立情報学研究所(外部リンク)(National Institute of Informatics=NII)のデータセット共同利用事業「情報学研究データリポジトリ」(外部リンク)(Informatics Research Data Repository=IDR)を通して、顧客満足度のデータを学術利用目的で無償提供しています。

>データ提供の目的など詳細はこちら

 そのIDRでは、データの提供者(企業)と利用者が一堂に会するイベント『IDRユーザフォーラム』を2016年度より年に一度開催。今年は11月24日に、初のオンライン形式で執り行われ、当社も昨年に続きイベントに参加させていただきました。ここでは、当日の様子に加え、オリコン顧客満足度の調査データからどのような研究が行われ、そこからどのような発見が得られたのか、ご紹介していきたいと思います。

今年は初のオンライン開催! 『IDRユーザフォーラム 2020』には全12企業、約200名が参加

情報学研究データリポジトリのロゴマーク

 ビッグデータ時代と言われる今、民間企業が事業を通して得た膨大なデータを積極的に開示していくことで、より良い社会創りにつなげていこうとする動きが加速しています。NIIのデータセット共同利用研究開発センターでは、IDRを運営することで、大量のデータを保有している大学、産業界と、それらのデータを使いたいアカデミアの研究者の橋渡しを行い、かねてから情報学の研究促進に寄与。

 民間企業としてはオリコンのほか、ヤフー、楽天、ドワンゴ、リクルートテクノロジーズ、クックパッド、LIFULL、Insight Tech、Sansan、インテージ、T.M.Community、弁護士ドットコムと、全12社から提供を受けたデータセットを無償で提供しています。これまで研究室単位での提供データで延べ1044研究室、個人単位での提供データで延べ3030名の方に活用されています(すべて2020年9月末時点の数字)。

『IDRユーザフォーラム』は、民間企業と研究者が直接意見交換できる場を設けることで、研究コミュニティをより一層発展させていくことを目的に旗揚げされ、毎年活発な議論が交わされています。例年なら、参加者同士が直接顔を突き合わせて意見を重ねていきますが、コロナ禍の今年はオンラインツールの「Zoom」、「GatherTown」を活用してのオンライン開催(今回から、日本データベース学会のDBSJ Data Challengeと一体開催)。

画像は「GatherTown」での会場の様子。参加者たちは今年は“バーチャル空間”でやり取りを行いました。

画像は「GatherTown」での会場の様子。参加者たちは今年は“バーチャル空間”でやり取りを行いました。

 初の試みとなりましたが、企業・研究者合わせて約200名が参加。データセット利用者からは、全33件(ポスター発表、スタートアップ発表を含む)の成果発表があり、約8時間にわたって熱量の高い意見交換会となりました。

「定額制動画配信」の調査データを活用した、千葉工業大学の研究成果

 イベントの中でも目玉となるのが、前述したデータセット利用者による成果発表です。データを提供する側の民間企業は、研究結果から思いも寄らない気づきを得ることができたり、その研究から生まれたアイデアが実業務やサービスに活かされたりするケースもあるのだとか。

 2020年12月現在、190の満足度ランキングを展開するオリコン顧客満足度調査では、延べ250万人に行った調査のうち「保険」「通信」「トラベル」「住宅」「美容」など、全11ジャンル88業種(67万回答)の調査データを提供していますが、今回の『IDRユーザフォーラム 2020』では、「定額制動画配信」の調査データを活用いただいた、千葉工業大学の手島虎太郎さん、高荷良太さん、齊藤史哲さんによる研究結果「NPS(R)を用いたサブスク市場における顧客の評価要因抽出 〜動画配信サービスを例にして〜」の発表がありました。以下、研究結果について簡単にご紹介します。

NPS…顧客ロイヤルティを数値化して測る指標の1つ。各サービスの利用者に「そのサービスを親しい人に薦める可能性」を0点〜10点で回答してもらうもので、付けられた点数によって顧客を「推奨者」「中立者」「批判者」と、3つの特徴別グループに分けることができる。なお、NPSはベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標。

【推奨者(9〜10点)】サービスのファンで、親しい人にも好意的な話をする。
【中立者(7〜8点)】サービスについて満足はしているが、親しい人に紹介することはほとんどない。
【批判者(0〜6点)】サービスについて不満があり、親しい人にも悪い評判を口にする。

>NPSのさらに詳しい解説はこちら

千葉工業大学の手島虎太郎さん、高荷良太さん、齊藤史哲さんによる研究結果「NPSを用いたサブスク市場における顧客の評価要因抽出 〜動画配信サービスを例にして〜」の発表資料

千葉工業大学の手島虎太郎さん、高荷良太さん、齊藤史哲さんによる研究結果「NPSを用いたサブスク市場における顧客の評価要因抽出 〜動画配信サービスを例にして〜」の発表資料

使用したデータ

オリコン顧客満足度「定額制動画配信」調査(2018年)の全社データ
調査期間:2018年7月25日〜31日/サンプル数:2614/質問項目数:1687)

研究目的

 近年、さまざまなジャンルでサブスクリプション(以下、サブスク) が新しいビジネスモデルとして注目されている。月単位など、一定期間ごとに利用料が発生するサブスクモデルでは、顧客との長期的な関係性が重要になってくるため、いかに顧客ロイヤルティ(顧客の満足)を高め、継続的にサービスを利用してもらえるかがカギとなる。

 そこで、継続利用にかかわるNPS(R)※という指標に対して、影響を与える要因を多数の質問項目から絞り込み、評価。これにより、顧客の維持や満足度向上のための施策策定への貢献が期待できる。今回はサブスクサービスの中でも、とくに急成長を見せている「定額制動画配信」の調査データを利用した。

研究・分析方法

 NPSに影響を与える質問について、機械学習を使って抽出。機械学習のなかでもBorutaという、「Kaggle」(世界中のデータサイエンティストたちがデータを投稿し、最適モデルを競い合うプラットフォーム)でも注目されている特徴量選択手法を用いた。

分析結果

その1
 批判者、中立者、推奨者において、3者ともに平均満足感がマイナスになった要素は「コストパフォーマンス」だった。なお、「批判者」であるほどその度合いは大きく、「推奨者」であるほど度合いは小さくなる。

その2
特徴量を大まかに12個のグループに分け、順位を得点としてそれぞれのグループの平均でランク付けをした。その中でも、定額制動画配信においてとくに重要度が高いと言われる「オリジナルコンテンツ」への魅力度に注目した結果、批判者、中立者、推奨者の順にオリジナルコンテンツに対して魅力を感じる人の割合が高いことがわかった。

考察

 NPSに影響を与える要因と現在の満足感を比較することで、批判者から中立者、中立者から推奨者になってもらうための戦略を考えることができる。たとえば、中立者から推奨者になってもらうには作品数とジャンルの充実さという項目で中立者の満足感が負の値をとっているのに対して、推奨者は正の値をとっており、重要度のランクでも3番目に来ていることから、この項目は優先的に改善すべきポイントであると思われる。抽出された要因の順番とグループ別オリジナルコンテンツへの魅力度から、オリジナルコンテンツに対するアプローチが必要であると考えられる。

高まる研究意欲「ほかのサブスクサービスでも、この内容が応用できるのか実験してみたい」

 研究発表いただいた千葉工業大学の手島さんは、元々マーケティング分野のデータ分析に興味があったそう。調べていくなかでNPSという指標について、またNPSと顧客満足度に密接なつながりがあることを知り、これらはサブスクサービスの分析において相性が良いのでは?と思いつき、このような研究をしてくださったといいます。

 今回は定額制動画配信サービスにおける分析でしたが、今後は「ほかのサブスクサービスでも、この研究内容が応用できるのか実験してみたい」と手島さん。ちなみに、大規模なデータを扱うことは、手島さんにとって今回が初体験だったそうですが、オリコン顧客満足度の調査データについては「とても扱いやすいデータだったと思いました」とコメントをいただきました。

 本イベントに実行委員会メンバーとして参加させていただいたオリコン顧客満足度調査 事業本部長の庄司知も、千葉工業大学さまの研究結果を興味深く拝見させていただき、次のように感想を語っています。

「サブスクリプションサービスは、カスタマーサクセスが重要な取り組みであることから、顧客満足度(CS)やNPSを指標化することにより、顧客マネジメントがしやすくなります。マーケティングの新潮流に着目されて取り組まれたことは素晴らしいと思います。また、今回は定額制動画配信サービス全体での分析でしたが、それぞれのサービスごとに分解したり、複数年のデータを用いたりすることで、動画視聴に対する消費動向のトレンドが見えてくると、なお面白いのではないかと思います」(庄司)

 なお、『IDRユーザフォーラム 2020』では、ほかにも「Yahoo!知恵袋を利用した貪欲な情報探索を促す問いかけの発見」(静岡大学)や「Knowledge Graph Attention Networkに基づく購買行動分析モデルに関する一考察」(早稲田大学)、「LIFULL HOME’Sデータセットの外観画像と属性情報を用いた建物構造・築年代推定モデルの構築」(東京大学)など、「そのデータからこんな切り口で分析ができるのか!」と、目からウロコな研究成果の発表が多数あり、いち参加者としても非常に学びの多い1日となりました。

 当社では、引き続きNIIさまにご協力いただき、学術向けにデータを無償提供してまいります。オリコン顧客満足度の調査データが、少しでも新たな技術やビジネスの創出、文化・技術の発展につながれば幸いです。なお、ビジネス向けには調査データの販売も行っておりますので、一般企業の方は当社まで直接お問い合わせください。