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CS活動がポジティブなものに!「大変満足」研究の進め方【CS推進 一年生 #10】

連載「CS推進 一年生」 第10回「『大変満足』研究のポイント」

CS(顧客満足)推進のプロセス・考え方をイチから解説する連載コラム「CS推進 一年生」。40年にわたり日本産業の成長を支援する総合コンサルティングファーム・日本能率協会コンサルティングに在籍するコンサルタントが、全15回にわたって顧客満足向上に向けた基礎を紹介します。“CS初心者=一年生”はもちろん、「改めてベースから振り返ろう」という方にも適していますので、ぜひご活用ください!
>連載「CS推進 一年生」記事まとめ

第10回目のテーマ
「大変満足」研究のポイント
講師
日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

 連載10回目は、顧客満足度(CS)調査の結果から「大変満足」と回答いただいたお客さまに着目し、CS向上につなげるアプローチをご紹介します。とかく「不満」に目が行きがちなCS調査ですが、「大変満足」に着目することで、よりポジティブな活動に転換することができるでしょう。

1.「満点主義」だけでなく、できていることに着目した「0点主義」も重要な思考

 自社のCS調査結果について、以下のようなグラフを見ると、みなさんはまずどこに目が行きますか?

【画像1】とあるCS調査の結果

「○○の満足度は○%ぐらいか、昨年より少し向上したな」など、「満足度合い」にまず目が向くと思われます。しかし、すぐに次には、「不満も依然として○%ある。となるとやはり課題は……」と、「不満」の数値に目が向くのではないでしょうか。また、グラフの「中間」にあたる「どちらとも言えない」の評価についても、「どうすれば満足と回答いただけるだろう」「何が足りなくて“満足”にならないのだろう」と問題点を探す思考になるのではないでしょうか。

 上記のような「問題点を探す」思考が優先される傾向は、多くの企業・組織、そして我々ビジネスパーソンに染みついた「改善マインド」によるものなのだと考えます。これはもしかすると、モノづくり大国(であった)日本に染みついた、「不良品を出さない」という思考かもしれません。できていることではなく、「満点」を基準として「できていない」ことに目が向く、「満点主義」の思考パターンは、モノづくり大国(であった)日本に染みついたものとも言えるでしょう。

 CSの取り組みの目的が「不満を減らすこと」だけなら満点主義で良いのですが、「満足しているお客さまを増やすこと」が目的として大きいのならば、「満足」に着目する思考が必要不可欠なはずです。つまり、満点主義ではなく、「0点」を基準として「できている」ことに着目し、分析をしていく思考です。

【画像2】「満点主義」と「0点主義」の見方の違い

 たとえるなら、100点満点のテストで50点だったわが子に「どうして50点しかとれなかったの?」と問う親は、満点主義の典型です。逆に同じくテストで50点だったわが子に、「50点もとれたね!どんな勉強をしたの?」と働きかける親は、0点主義の典型と言えます。

 CS調査についても、「評価が得られなかった=不満」に着目することも大切ですが、同様に、もしくはそれ以上に、0点主義の視点で「満足」に着目し、何をしたから満足いただけたのか? また、どういうお客さまから満足回答をいただいたのかを考えることが大切なのです。

2.「大変満足」と「満足」は混同せず、分けて分析する

「なぜ不満なのか」だけでなく、むしろ「なぜ満足なのか」に着目しようとする際にまず大事なのが、「大変満足」を分離して集計して捉えることです。多くのCS調査では、満足度合いを5段階や7段階で回答いただき、Top2ボックスと呼ばれる「評価が高い2つの選択肢(たとえば、「大変満足と満足」や、7段階評価の場合は「7と6」のこと)」を合算して満足と捉えています。

【画像3】回答の選択肢と典型的な「満足」の捉え方

 結果として、CS調査で「満足」の割合は50%前後からそれ以上になることが多くあります。この50%以上の満足について、なぜ満足いただけたのか?を考えることは、量的にもなかなか大変な作業です。逆に不満側は、「大変不満と不満」の合計が10%あるかないか程度がよくある水準のため、不満の要因などについて考えたり調べたりしやすく、こういった傾向もついつい不満側ばかりを注目してしまう一因になっています。

 そこで、満足に着目するためには、そのなかの「大変満足」の回答だけを抽出し、調査・分析する対象として限定することが重要です。多くのCS調査では、大変満足は5〜10%程度のことが多く、これなら不満同様に詳しく背景を調べることができるはずです。また、単なる満足を超えて「大変満足」と答えていただいている理由があるはずで、その点はぜひ考察し明らかにしていく必要があると考えます。

3.「大変満足」研究で明らかにできること、明らかにしたいこと

リサーチしている様子

 では、この「大変満足」研究によって、どのようなことが明らかにできるのでしょうか。導き出されることは、主に以下の2点です。

●お客さまに満足いただくために、わが社に求められること
●わが社の製品やサービスに共感いただいているコア顧客は、どのようなお客さまか

 たとえば、総合評価で「大変満足」としているお客さまがそのほかの設問でどのように回答いただいているか、などを探ることで、「満足いただくために大事な要素はこれだ!」ということが見えてくるかもしれません。また、「価格に満足いただくためには、高いか安いかよりもしっかり説明することが大事なようだ」というようなことがわかるかもしれません。もしくは、「この営業担当者のお客さまには、大変満足しているお客さまが多い」ということがわかり、「満足を生み出している、その営業担当者ならではの対応のコツ」が見えてくるかもしれません。

 また、「大変満足しているお客さまは、60代以上に集中している」ことなどがわかれば、わが社の製品やサービスがフィットしているお客さま像がわかってきます。もしも、自社のターゲットが20代・30代だったとすると、ミスマッチが起こっているということもわかるでしょう。さらに、「大変満足しているお客さまの多くは、半年以内にDMを送っているお客さまだ」などがわかれば、どのような方法・頻度でコミュニケーションを図るべきかというヒントが見えてくるはずです。

4.「大変満足」の理由・背景を探る対象者の絞り込み方と分析視点

調査データから何かを導き出そうとしている人

「大変満足」研究の重要性について理解が深まってきたところで、大変満足の回答者から引き出したい要素・分析する際の視点について考えてみましょう。「大変満足」研究の対象者は原則として、総合をはじめさまざまな要素別の評価で「大変満足」と回答した方です。たとえば、店舗におけるCS調査では、「総合満足」「立地」「店舗の清掃状況・清潔さ」「店員の対応」「品揃え」……など、主要な要素について満足度を問うていることでしょう。これらすべての要素について「大変満足」の回答者を抽出し、その理由・背景を探っていきましょう。

 分析していく際に注視したいポイントは、主に以下の通りです。

(1)「大変満足」回答者の属性や傾向
└BtoC事業では、デモグラフィック、ソシオグラフィック、サイコグラフィックなど、さまざまな観点から見て、どのようなお客さまが大変満足しているか、全体の分布とどのような違いがあるか ……など
└BtoB事業では、どんな業界・規模の企業か。また、回答者の部署・職位などに傾向はあるか ……など

(2)「大変満足」回答者のほかの設問での回答傾向
└総合評価で「大変満足」と回答している人が、ほかの主要な要素別の設問でどのような評価をしている傾向があるか …など
└要素別の評価で「大変満足」と回答している人が、その要素の詳細設問ではどのような評価をしている傾向があるか …など

(3)自社の対応部門・担当者の傾向
└どのエリア、どの部門が担当しているお客さまに「大変満足」回答が多いか …など
└どの担当者のお客さまか …など

(4)「大変満足」回答者の「体験」の傾向
└どのような利用履歴のあるお客さまが多いか、どのような手続きをしたお客さまが多いか ……など

 これらの視点で大変満足の背景や理由を探るわけですが、とくに以下の項目についてはぜひ分析をしてみましょう。

●総合満足
 自社の製品や対応などの総合満足の評価は、今後の利用継続意向や他者推奨意向に影響を与えますので、必ず「大変満足」回答を取り出して研究しましょう。

●総合満足と相関の強い要素別の項目
 連載第8回でご紹介した「CS向上のための重点特定(CSポートフォリオ分析」にて、総合満足と相関が強いとわかった要素別の項目についてもぜひ研究対象としてください。

●全体的に総合・要素別満足が低い、もしくは不満度が高い項目における「大変満足」回答
 ほかのお客さま、多くのお客さまから評価が低いにもかかわらず大変満足しているお客さまは「特殊」であり、まさに研究する意義があると考えます。

【画像4】「大変満足」研究の例

5.「大変満足」研究でCS活動をポジティブなものにしていくことで、働きがいの向上にもつながる

従業員満足度の向上

 このように、「大変満足」の背景や理由を探ることは、自社のCS向上を目指していくうえで大きなヒントを見いだすチャンスとなるはずです。CS調査の結果については「不満」に目が行きがちですが、そもそもCSという取り組みは「お客さまに喜ばれる」ことで自社や提供する製品やサービスをさらに磨いていこうという、極めて前向きな取り組みのはずです。もちろん、不満を減らしていくことは必要ですが、それ同様もしくはそれ以上に、満足を増やすことこそが大切な目的ではないでしょうか。

 少々横道にそれますが、CSの向上は「従業員満足」や「働きがい」の向上にもつながる面があります。多くの企業での働きがい実態調査からわかったことのなかに、「顧客貢献実感がある従業員ほど、働きがいを強く感じている」という結果があります。CS調査の不満にばかり着目するのではなく、「大変満足」に着目していくことで「自分(たち)はお客さまのお役に立っている」という実感が強まり、ひいては、働きがいの向上にもつながっていくのです。

「大変満足」を研究することでCS向上への取り組み自体をポジティブなものにし、積極的に活動していく組織を作っていきましょう。

 次回、第11回目は、「顧客応対業務の品質管理」をテーマにお話します。

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 日本能率協会コンサルティングは、1942年に設立された社団法人 日本能率協会の中核として70年以上、企業が抱えるさまざまな課題解決の実行支援を行っている。1991年には日本で初めて「CS経営」を提唱、数百社以上のCS向上支援を行っている。現場主義のコンサルティングスタイルであり、一過性の流行に流されない真の顧客起点での課題立案・対策推進を支援している。
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