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「顧客応対業務」の品質管理で持続的なCSを実現する【CS推進 一年生 #11】

連載「CS推進 一年生」 第11回「顧客対応業務の品質管理」

CS(顧客満足)推進のプロセス・考え方をイチから解説する連載コラム「CS推進 一年生」。40年にわたり日本産業の成長を支援する総合コンサルティングファーム・日本能率協会コンサルティングに在籍するコンサルタントが、全15回にわたって顧客満足向上に向けた基礎を紹介します。“CS初心者=一年生”はもちろん、「改めてベースから振り返ろう」という方にも適していますので、ぜひご活用ください!
>連載「CS推進 一年生」記事まとめ

第11回目のテーマ
顧客応対業務の品質管理
講師
日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

 一般的に、品質管理と聞くとメーカーの製品を対象としたものをイメージするのではないでしょうか。連載第11回目で取り上げるのは、「業務」に関する品質管理です。業務の品質管理とは何か?なぜ重要なのか?について、お話しします。

1.顧客応対業務の品質とは? その考え方と重要性

がんばろうと思い、頭にハチマキを巻く人のイラスト

 顧客満足(CS)を高めるうえで、顧客接点が重要なことは言うまでもありません。顧客に接しているのは、有形のモノや無形のサービスが代表的です。多くのモノ、つまり製品などは当然、品質管理されています。「QC7つ道具」や「シックスシグマ」といった品質管理の考え方や手法・ツールは、ご存じの方も多いことと思います。

 一方、無形のサービス、その中でもヒトが提供するサービスに関してはどうでしょうか? ヒトが提供するサービスは、通常「業務」と捉えることができます。営業、コールセンター、店舗スタッフ、アフターサービス担当といった顧客接点の担当者は、「業務」を通じてサービス提供をしています。こういった、とくにCSと関係が強い顧客応対業務品質について、「どのように管理をするか」がCSを高めるうえでは重要です。難しい面はあるものの、管理をしないわけにはいきません。

 たとえば、コールセンターのコミュニケーターの応対業務品質を管理していないとすれば、それは品質管理していない製品を提供していることと同じことになってしまいます。応対業務の品質管理がうまくできるかどうかがCSを左右するのです。

2.顧客応対業務の品質管理の方法

 顧客応対業務の品質は、以下のような方法で管理します。

(1) 目指す評価を決める
 まず、目指す評価を決めましょう。顧客応対業務には、「正確さ」「スピーディさ」「感じの良さ」「わかりやすさ」「先取り提案」「プラスαのアドバイス」など、さまざまな要素が求められます。すべての要素で高い満足度を目指してどっちつかずにならないよう、どの要素を最も重視するのか?どの要素は業界平均程度とするのか?といった、メリハリを決めることが重要です。

(2) 業務・サービス品質の基準を設定する
 自社の目指す評価に基づき、業務・サービス品質の基準を決めましょう。「ミスやエラーの件数・比率」「質問される数」「◯分以内といった時間数」「先取りして提案した件数」「1回で修理が完了した率」など、業務に近い指標を設定しましょう。そして、満足度指標と紐づけて整理しておきます。

(3) 業務品質を確認し、改善する
 月次などの単位で指標を測定し、達成度や課題を確認しましょう。確認する視点は2つあります。

●業務指標が達成できているか
 達成できていない場合、原因を分析して改善に取り組みましょう。徐々に良くなってきている場合、現状取り組んでいることがあれば、それを継続することがベースとなります。急激に落ち込んだ場合、特殊な要因などがないかを確認し、打ち手を講じましょう。

●満足度指標に変化が見られるか
 (2)で設定した業務指標の基準が達成できていなければ、満足度指標が上がっていないのは当然とも考えられます。しかし、業務指標の目標達成ができている、あるいは良くなってきているのに満足度指標に向上が見られない場合は、基準設定の再考の検討が必要です。考えられることは2つあります。1つは、顧客にすでに広く認知され、評価が変わるまでに時間がかかっている。もう1つは、満足度指標と関係が低い業務指標を設定しているのではないか、ということです。前者だと考えられる場合は、もう少し様子を見ることになります。後者の可能性がある場合は、重視する業務品質や水準の見直しを検討しましょう。

3.顧客応対業務の特性から見た、品質管理の難しさ

手を組み、品質管理を徹底することの難しさを感じている人のイラスト

 顧客応対業務は、その業務の特性から管理が難しい品質とも言えます。たとえば、コールセンターのコミュニケーターの応対品質を管理する場合、品質の良し悪しをどう判断するのかは、難しい面があります。短時間であればいいのか?聞かれたことに答えるだけでいいのか?、早く電話を終えたそうな相手に、自分たちのクロージングのセリフを言わなければいけないのか?、そもそもコミュニケーターが10人いたとしたら、その10人に応対品質の優劣をつけることができるのか?……こういった点が悩ましいと思います。

 顧客応対業務の品質管理を難しくしているものとして、以下のような特性が考えられます。

●ヒトに依存する
 ヒトが提供する応対業務やサービス提供は、機械やシステムと違い、どうしてもバラツキが出ます。一方で、応対のセリフや行動を標準化すると「マニュアルっぽい」と揶揄されかねません。バラツキも標準化もうまくいかない可能性があります。

●周辺環境の影響を受けやすい
 たとえば、顧客数が多いとバタバタして応対品質が落ちる可能性があります。このように、周りの状況が品質に影響を及ぼしやすいという特性があります。

●目に見えず、消えてなくなる
 応対業務の結果として生み出されるサービスは、「アドバイス」のように目には見えず、提供した途端に消えてなくなるものも多くあります。見えないものや消えてなくなるものの品質管理は難しくなります。「言った・言わない」というクレームも、その時の応対が消えてなくなり、再現が難しい場合にこじれることが多くなります。

●事前検品しづらい
 モノであれば、検品して在庫として倉庫に保管しておくことが可能なものも多くあります。しかし、顧客応対業務は顧客の要望にその場で応えていくことが多く、事前にその応対品質を検品することが難しくなります。

 では、このような特性を持つ顧客対応業務の品質を、どのように管理していけば良いのでしょうか。

4.顧客応対業務の品質向上ポイント

ポイント

 顧客応対業務の品質は、以下のポイントを押さえて維持・向上に取り組んでみてください。

(1)技術やスキルをチェックする仕組みをつくる
「営業の提案スキル」「コールセンタースタッフのコミュニケーションスキル」「販売員の接客スキル」「アドバイザーのコンサルティングスキル」「アフターサービス担当者の技術力」といったことは目に見えません。技術・スキルの要件を可視化し、普段からチェックする仕組みを持ち、事前検品のように点検することが必要です。

(2)状況判断力・個別対応力を高める
 顧客応対業務に正解はありません。相手のタイプや場の状況によって「良い応対」という品質が変わってきます。慣れている人には必要最小限の案内。親しみやすさを重視するのであれば、敬語・丁寧語を少し崩した言葉遣いをする。また、聞かれたことに答える、依頼されたことをやるだけでなく、こちらが察して先取りやプラスαの応対をする、といった臨機応変さが求められます。正解がないとすれば、判断力を高めることが重要です。判断力を高めるトレーニングとして、「ケーススタディ」が有効です。

 この場合のケーススタディとは、実際に起こった臨機応変さを求められるケースを取り上げ、「自分ならどうするか」を考え、話し合うことです。考え方だけでなく、実際のアクションまで共有すると、応対の引き出しを増やすことにもつながり、個別対応力も高まります。

(3)状況とセットで評価する
 相手や周辺環境の影響を受けるうえ、正解もないため、品質評価には注意が必要です。なぜなら、顧客応対品質は、その状況とセットでなければ評価しづらいものがあるからです。指標によって管理していくために、ある程度全体感を数値で見ていくとしても、個々の達成状況や課題感は、状況を合わせて見ていくことで改善が進みます。

 今回は、顧客応対業務の品質管理について取り上げました。モノづくりを得意としてきた日本は、製品の品質管理において世界に誇るべき水準にあります。しかし、多くの企業はモノ+サービス、事業によってはサービスのみを顧客に提供しており、モノの品質管理だけでは不十分です。「顧客応対業務品質=サービス品質」と考え、CS向上のためにその品質管理に取り組んでください。

 次回、第12回目は、CS向上に向けた「カスタマージャーニーマップの活用法」について解説します。

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>調査設計など用途さまざま、カスタマージャーニーマップの活用方法【CS推進 一年生 #12】

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