CS(顧客満足)推進のプロセス・考え方をイチから解説する連載コラム「CS推進 一年生」。40年にわたり日本産業の成長を支援する総合コンサルティングファーム・日本能率協会コンサルティングに在籍するコンサルタントが、全15回にわたって顧客満足向上に向けた基礎を紹介します。“CS初心者=一年生”はもちろん、「改めてベースから振り返ろう」という方にも適していますので、ぜひご活用ください!
>連載「CS推進 一年生」記事まとめ
第12回目のテーマ
カスタマージャーニーマップの活用法
講師
日本能率協会コンサルティング(外部リンク)
連載12回目は、顧客の行動を「旅」と考え、その実態を捉えたり、新しい旅(=行動)を描いたりするために活用されているフレームワーク「カスタマージャーニーマップ」について取り上げます(カスタマージャーニーマップの詳細は、【テンプレート付き】カスタマージャーニーマップとは?即実践できる作り方をご参照ください)。左記の記事でもお話ししましたが、カスタマージャーニーマップは作成するだけではなく、しっかりと「活用」することに意味があります。今回は、その活用方法を中心に解説していきたいと思います。
1.カスタマージャーニーマップの基本
カスタマージャーニーマップの一般的なフレームワークは以下の通りです。ここでは、無農薬栽培によるフルーツのコンポート「オリこんぽーと」という架空の商品の直販サイトでの顧客体験(行動)をカスタマージャーニーマップにしてみました。
このように、誰が、どのような場面で、どう行動し、何を感じるのか?を整理したものがカスタマージャーニーマップです。そこから、さまざまな気付きを得て、顧客満足(CS)の向上に使っていくことができます。具体的な使い道については、次の章から紹介していきます。
2.顧客満足度調査(CS調査)の「設計」への活用
顧客満足の現状を捉え、結果をもとに改善・改革を行うためには、顧客満足度調査(CS調査)なども含めてお客さまの声や評価を的確に得ていく必要があります。カスタマージャーニーマップは、このCS調査の「設計」をする際にもぜひ使っていただきたいフレームワークです。
先ほど述べたように、カスタマージャーニーマップは、顧客について、誰が、どのような場面で、どう行動し、何を感じたのか?を整理しています。CS調査は、まさに誰が、何について、どう評価しているかを知るものであり、その質問内容を考えるためにカスタマージャーニーマップは非常に役立ちます。
カスタマージャーニーマップにおけるペルソナがあまりに限定的な場合は、CS調査で対象にしたい顧客像から外れたり、少数の顧客にしか当てはまらなかったりします。ですので、CS調査を行うにあたってカスタマージャーニーマップを作成する場合は、CS調査が想定している顧客をペルソナに設定して作ってみましょう。ただし、より詳細に顧客の期待に迫るためには、ペルソナも具体的に設定してマップを作成し、そこからの気付きを反映させることも組み合わせましょう。
前述した「オリこんぽーと」のマップでは、具体的なペルソナを設定しましたが、あくまでも自社にとって大事にしたい、満足していただきたい顧客像を設定する必要があります。「オリこんぽーと」で言えば、幼児向けに検討する親御さんが今後のターゲットとしても重要ならば、そのペルソナに沿ってカスタマージャーニーマップを作成し、そこから出てきた気付きに沿って設問を追加すると良いでしょう。
たとえば、前述したマップから得られた気付きからは、以下のような設問の追加が想定されます。
Q.弊社の商品を主に召し上がる方はどなたですか
追加設問:その方は商品に満足していただいていますか
Q.直販サイトでは気になる商品情報を知ることができましたか
追加設問:どのような情報が不足していましたか
Q.お召し上がりになって、ご友人に紹介したいと思いましたか
追加設問:その際に「オリこんぽーと」をどのような商品としてオススメいただけますか
なお、マップを見ると「FAXのみでの注文受付」に難色を示す様子が窺えますが、この追加設問には「注文受付の方法は、FAXではなくウェブ注文が良いと考えますか」という質問が入っていません。
なぜかというと、これはよほど高齢者の一部「のみ」をターゲットにしている場合以外は、お客さまに聞くまでもなく、すぐにウェブ化を進めることは当たり前だからです。
3.CS調査の「結果を活かす」ための活用
CS調査の企画・設問設計だけでなく、「CS調査の結果を活かす」ためにカスタマージャーニーマップを活用することもできます。
たとえば、CS調査の結果を報告書として取りまとめるのではなく、カスタマージャーニーマップに表現し(調査結果をマップ化)、全社で共有する方法もあります。CS調査の結果には、「数値」と「自由記述(文章)」があります。このどちらからも、「どんなお客さまが」「どのような場面で」「どう評価しているか」を読み取ることができ、そこから見える顧客像・行動・思いをもとにカスタマージャーニーマップを作成することができます。
CS調査のレポートを読むには時間がかかり、ともすれば顧客について詳しく理解しようという社員は少ないかもしれません。しかし、カスタマージャーニーマップは顧客の「旅=行動」を表しているため、とてもわかりやすく「読みやすい」フレームになっています。CS調査からさまざまな顧客像を抽出し、カスタマージャーニーマップのスタイルで報告・共有することで、全社的に顧客の理解が進むかもしれません。
このほかにも、以下のような活用も考えられます。
●マップ上で顧客の思いが高まっている場面を取り出し、成功事例として共有・評価する
●マップはストーリーなので、ある場面で湧いたマイナスの感情の原因がどの場面にあったのか?など、関係を突き止めて手を打つ
●複数のペルソナに共通の行動・思いを見いだし、重点的にCS向上課題を立案し実行する
4.「従業員教育」への活用
カスタマージャーニーマップは、具体的な顧客像、場面、行動・思いが表れているため、実際にお客さまと接する従業員の教育にも使いやすい内容です。たとえば、「オリこんぽーと」の例で、メーカー直販サイトに関するお問い合わせ担当者の教育を想定してみましょう(ウェブだけでなく、電話での問い合わせ窓口も設置していると想定してください)。
先ほどのマップにあったように、3歳児向けに商品購入を検討している親御さんの思いを知らない担当者だと、「ある商品の添加物を聞かれる」→「答える、違う商品の添加物を聞かれる」→「答える、また違う商品の…」と繰り返す可能性があります。
しかし、先ほどのマップを理解していると、途中で「もしかすると、お子さま向けに購入を検討しているのかな?」といった想像が働きます。すると途中で、こちらから「お客さま、お召し上がりになる方はどなたでしょうか? もしかすると、お子さまですか?」と問いかけることができるはずです。その結果、「3歳児向け」だとわかれば、「添加物フリーで、かつ大人向けの味付けではないシンプルな商品」のご提案ができる可能性があります。
このように、カスタマージャーニーマップは、「お客さまを思い浮かべて、問われていないことを想定しながら、お客さまの問題解決を手伝う」ことに役立つわけです。まさに、「お客さまの旅のお手伝い」と捉えることもできます。
とはいっても、マップで描かれているペルソナ以外には想像が働かないのでは?という疑問があるかもしれませんが、「聞かれたことに答える」役割を超えて、「お客さまが言葉にしていない期待を探る」役割を自覚できれば、お客さま対応の力は飛躍的に向上します。マップに描かれていないペルソナやお客さまの思いについて想像しようとする意識を持たせることが最大の利点なのです。
このように「期待を察知する」ことに焦点を当てたアプローチを紹介します。
カスタマージャーニーマップをもとに「誰のどのような期待・背景か」は伏せて、上イラストのような「期待察知ケーススタディ」シートを複数用意し、それぞれのケースに対して「自分だったらどのように対応するか?」を朝礼などにおいて職場メンバー同士で発表し合ってみると良いでしょう。
ポイントは、「どういうお客さまだろう」「どんな思いが隠れているのだろう」と想像することです。唯一の答えなどは存在しません。模範解答もありません。顧客の「旅=行動」を想像すること自体が学びにつながります。
5.新たな「CS・顧客価値創造」をするための活用
最後はCS向上というよりは、文字通り「新しい」満足やそのための価値を生み出すという発想です。カスタマージャーニーマップは一般的に顧客の「現状」と「理想」を描くために使われることが多いでしょう。しかし、それだけではなく「未来」の旅(=行動)を考えるという使い方もあります。
典型例が「新サービス開発」「新規事業開発」です。「新製品開発にお客さまの声を活かしています」という企業がありますが、実務のなかでは「お客さまの声は改良には役立つものの、新しい発見にはつながりにくい」という実感を語る方が多いものです。
そこで、現状のカスタマージャーニーマップを眺めて考え込むのではなく、たとえば「30年後の姿は?」「今まで自社製品とはまったく縁がない人に使ってもらうには?」というような問いをもとにカスタマージャーニーマップを作成。そこから大胆な発想を取り入れて、新しい価値創造、事業創造に取り組むこともできるのです。
以上のように、カスタマージャーニーマップはいろいろと応用が効きますので、ぜひ作成・議論し、有効活用を進めましょう!
次回、第13回目は、CS向上に必要な「提供価値の分析」をテーマに解説します。
この連載の筆者・日本能率協会コンサルティング作成
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日本能率協会コンサルティングについて
日本能率協会コンサルティングは、1942年に設立された社団法人 日本能率協会の中核として70年以上、企業が抱えるさまざまな課題解決の実行支援を行っている。1991年には日本で初めて「CS経営」を提唱、数百社以上のCS向上支援を行っている。現場主義のコンサルティングスタイルであり、一過性の流行に流されない真の顧客起点での課題立案・対策推進を支援している。
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