特集

CS向上に必要な「提供価値」をヌケモレなく整理するには?

連載「CS推進 一年生」 第13回「提供価値の分析」

CS(顧客満足)推進のプロセス・考え方をイチから解説する連載コラム「CS推進 一年生」。40年にわたり日本産業の成長を支援する総合コンサルティングファーム・日本能率協会コンサルティングに在籍するコンサルタントが、全15回にわたって顧客満足向上に向けた基礎を紹介します。“CS初心者=一年生”はもちろん、「改めてベースから振り返ろう」という方にも適していますので、ぜひご活用ください!
>連載「CS推進 一年生」記事まとめ

第13回目のテーマ
提供価値の分析
講師
日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

 顧客満足(以下、CS)を獲得するために提供すべき価値は、現状ベースではなく、本来あるべき視点で整理する必要があります。今回は、「提供価値」の分析手法についてお話ししたいと思います。

1.カスタマージャーニーマップの作成と合わせて行いたい提供価値分析

カスタマージャーニーマップと提供価値分析を合わせて行うことで、顧客満足の向上を目指すことができる

 CS向上の取り組みにおいて、必要な提供価値を洗い出すことは不可欠です。この際、よく試みるのが、「顧客接点における満足要素の洗い出し」です。

 顧客との接点や顧客行動を描く手法の1つに、第12回でもご紹介したカスタマージャーニーマップがあります。作成するポイントとしては、理想と現実の両方を描くことが重要だとお話ししました。しかし、カスタマージャーニーマップから提供価値を分析する方法は慣れないと現状ありきになりやすく、どうしてもヌケモレが出やすくなってしまいます。

 そこで、ご紹介したいのが「CS要件分析」です。カスタマージャーニーマップの作成と合わせてこの分析を行っていただくことで、提供価値の洗い出し・整理がヌケモレなくなると思います。なお、弊社では「CS要件分析」と呼んでいますが、ここではわかりやすく「提供価値(の)分析」と呼んでいきたいと思います。

2.提供価値の分析プロセス

駆け抜ける人

 提供価値の分析には、大きく2つのステップがあります。

(1)商品やサービスの事業特性を整理する

 まずは、その商品やサービスの「事業特性」を挙げていきましょう。考えていく主な事業特性は4つあります。

顧客特性
 自社の顧客の特性です。顧客層が違えば、提供すべき価値も異なります。ターゲット顧客をさらに具体的に考えるときにはペルソナを設計しますが、大まかな視点としては、「デモグラフィック」「ジオグラフィック」「サイコグラフィック」の3つが参考になります。

●デモグラフィック…人口統計学的属性。年代、性別、所得、職業など。
●ジオグラフィック…地理的属性。国や地域の特性、気候など。
●サイコグラフィック…心理学的な特性。価値観、ライフスタイル、趣味、嗜好など。

商品・サービス特性
 どんな機能やベネフィットがあるか、使い方や利用方法の特徴はどんなことか、価格設定や課金のされ方はどうなっているのか、といった、商品やサービスにかかわる特性です。

提供プロセス特性
 製品・サービスがどのように提供されるか、ということにおける特性です。たとえば、インターネットなのかリアル店舗なのか、メーカー直販なのか卸などの流通網を経由しているのか、といった「チャネル」が代表的な特性を見る視点です。

競合特性
 競合にスイッチされやすいのか、差別化しやすいのか、競合は多いのか、自社は何番手くらいなのか、といった競合他社との関係です。

 挙げていくときのポイントは、【1】当たり前のものを挙げてみること、そして、【2】可能なものは二次特性を挙げることです。自動車保険の事故対応を例に考えてみましょう(下図)。

提供価値の分析例:自動車保険の事故対応の事例

 たとえば、顧客特性で挙げた「普段から自動車に乗っている」や「事故を起こした」という例は、【1】に該当するもの。オーソドックスなものを挙げてみることで、基本的な提供価値を洗い出すことができ、状況の整理もできます。【2】は特性をブレイクダウンしていくことで、たとえば、「普段から自動車に乗っていて事故を起こした」という特性からは、「しばらく生活に不自由するだろうな」「精神的にも、場合によっては肉体的にも苦痛があるだろうな」といった要素が二次特性として想像されます。

 商品・サービスや顧客のことをよく考えて、4つの事業特性から洗い出しましょう。なお、ここで挙げた例はごく一部。数多く挙げることがヌケモレをなくすためには重要です。

(2)事業特性をもとに提供価値を発想する

(1)で洗い出した事業特性をもとに、提供価値を発想していきます。自動車保険の例でいえば、「事故によって突然サービスが開始される」という提供プロセス特性からは、「連絡のとりやすさが大切」という提供価値が考えられます。

3.「自社にとっての提供価値」を洗い出すためのポイント

 提供価値分析は、現状提供できているかどうかはさておき、本来提供すべき価値を洗い出すことができます。しかし、分析によって出てくるアウトプットは、競合他社も同じような要件になってしまうことがあります。したがって、「自社にとっての提供価値」を整理していく必要があります。その際、ポイントは2つあります。

自社に特長的な特性を考える

 当然のことですが、その事業の一般的な特性だけを挙げていては、競合他社も含めた「その事業における提供価値」になってしまいます。自社に特長的な内容を入れることで、「自社ならではの提供価値」が増えていきます。

提供価値をレベル分けする

 提供価値はレベル分けができます。たとえば、「感じの良いマナー・身だしなみで接客する」といったような提供価値は、「基盤レベル=できていて当たり前」です。このように提供価値にはレベルがあります。

提供価値にはレベルがある

 また、同じような要件であってもレベル分けをすることが可能です。たとえば、「顧客のニーズを踏まえた提案をする」と、「顧客のニーズを先取りして先行提案する」ではレベルが違います。このように、自社の目指す状態を明白にすることで、自社らしい提供価値を追求していくことができます。

4.使い方いろいろ! 提供価値の活用方法

 分析によって見えてきた提供価値は、CS向上に向けたさまざまな取り組みに活用できます。

顧客満足度調査の設問設計

「提供価値=自社が顧客満足獲得のために提供すべき価値」だとすれば、顧客満足度調査(以下、CS調査)はその価値が提供できているかどうかを確認することが目的といえます。現状、その価値が提供できていなければ、評価は把握できませんが、ニーズがあるかどうかを探ることはできます。つまり、提供価値をもとにCS調査やニーズ把握の設問設計に活用することができます。

サービス開発

 分析によって明らかになった提供価値に対して何もやっていないことがあれば、サービス開発をするヒントとなります。前述の自動車保険の事故対応の例では、「予定や見通しに関する多頻度の説明」という提供価値がありました。

 しかし、契約者とのコミュニケーションを分析した結果、多くが契約者から保険会社の担当者へ連絡していました。実は、「保険会社側は進捗があった時に連絡をする(つまり、進捗がなければ連絡しない)」という動きになっていました。しかし、契約者は、「進捗がないことも含めて知りたい」という心情があり、そこにギャップが生じていました。これをきっかけに、保険会社側からのコミュニケーションを増やしていくという改善につながったのです。

提供価値や施策、課題の具体化

 提供価値とカスタマージャーニーマップを組み合わせ、下図のようなフレームを作成・活用すると、提供価値や施策、課題が総点検できるとともに、具体化していくことが可能になります。

提供価値とカスタマージャーニーマップの組み合わせ例

 今回は、提供価値の分析についてお話ししてきました。提供価値は、事業や製品、ターゲット顧客が違えば異なりますので、その時々の目的に応じて分析しましょう。また、その事業に求められるような提供価値に加え、自社らしい提供価値とは何なのかを整理し、CS向上につなげていきましょう。

 次回、第14回目は、多くの担当者にとって悩みの1つとなっているであろう「CS推進による成果の測り方」について解説します。

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