CS(顧客満足)推進のプロセス・考え方をイチから解説する連載コラム「CS推進 一年生」。40年にわたり日本産業の成長を支援する総合コンサルティングファーム・日本能率協会コンサルティングに在籍するコンサルタントが、全15回にわたって顧客満足向上に向けた基礎を紹介します。“CS初心者=一年生”はもちろん、「改めてベースから振り返ろう」という方にも適していますので、ぜひご活用ください!
>連載「CS推進 一年生」記事まとめ
第8回目のテーマ
CS向上に向けた「課題の重点特定」の方法
講師
日本能率協会コンサルティング(外部リンク)
連載8回目は、顧客満足度(CS)調査の結果から「自社でCS向上を目指す場合、何から手を付ければ良いか」を見いだすアプローチをご紹介します。みなさんの会社・組織では、CS調査を実施した後「わが社の課題領域はここだ!」と、どのように見極めているでしょうか。
1.CS調査の結果からどのように取り組み、重点を見つけているか
CS調査が終了し結果が集計されたあと、みなさんの会社ではどのように「取り組む課題」を検討・決定しているでしょうか。以下の中のどれが当てはまりますか? いくつでも結構ですので、選んでみてください。
(1)質問項目の中で、評価の低いものや不満の度合いが高いものに着目している
(2)調査結果について、関係者で議論をして決めている
(3)自社の「強み」と認識している要素について、高い評価を得ているかどうか確認している
(4)他社との比較で劣っている要素を問題視している
(5)自社がすぐに着手できる要素を見つけ、対策を講じている
(6)昨年度の結果と比較して検討している
どれもそれなりに適切な考え方のように見えますが、この中で最も注意が必要なのが(1)の「評価が低いものや不満の度合いが高いものに着目すること」なのです。(2)〜(4)もどれか1つだけに取り組むのではバランスの悪い面がありますが、これらを組み合わせて取り組むならばバランスが取れてきます。しかし、ひとまず(1)についてだけ行っている場合は、「ちょっと待って!」と言いたいところです。
でも、なぜ「評価が低いもの、不満の度合いが高いものに着目すること」だけではいけないのでしょうか。たとえば、下の画像1はとある部品メーカーA社が行ったCS調査の結果です。
もしも、「評価が低い・不満の度合いが高い要素」に着目するなら、【価格】が真っ先に取り組むべき要素ということになります。となると、部品メーカーA社はCS向上のために「価格低減」を図るべきなのでしょうか? A社は部品メーカーという特性上、これまでにもコスト削減に努め、価格低減についてはとことん取り組んできたはずです。しかし、データを見るとお客さまはそれでも不満を抱いている様子。A社はさらにコストを削減し、価格低減を図るしかCS向上への道はないのでしょうか。
2.満足度の高低だけではなく、「総合満足」への影響度合いに着目すべき理由
では、同じA社のCS調査について、下記の画像2のような分析を加えたら捉え方はどう変化するでしょう?
この図は、【価格】や【営業担当者】【品質】【物流】【事務】【開発力】【企業理念】などの調査項目について、「満足度の高さ」(タテ軸)と、「総合満足への影響度合い」(ヨコ軸)で位置づけを行った分析図。いわゆる散布図と呼ばれる形式です。なお、この分析手法について、弊社では「CSポートフォリオ」と呼称していますが、一般名称ではないので、ここでは「CS向上のための重点特定」と呼んでいきたいと思います。総合満足への影響度合いの算出方法については後ほど触れますが、まずは以下の定義でご理解ください。
影響度が高い
=その項目(要素)に満足しているお客さまほど、総合満足でも満足と回答している傾向が強い。
影響度が低い
=その項目(要素)に不満があるお客さまほど、総合満足でも不満と回答している傾向が強い。
では、画像2について具体的に見ていきましょう。タテ軸の「満足度の高さ」で見ると、上側には【開発力】【物流】が位置づけられており、これらの要素の満足度が高いことがわかります。反対に、下側には【価格】や【事務】があり、これらの満足度が低いことがわかります。また、中間には【営業担当者】が位置づけられ、その満足度は低くはないものの決して「高くはない」ということも見えてきます。
次いで、ヨコ軸の「総合満足への影響度合い」で見ると、右側、すなわち総合満足への影響度合いが強い項目としては、【営業担当者】【開発力】【品質】【物流】であることがわかります。逆に、左側の総合満足への影響度合いが弱い項目としては、【価格】や【企業理念】、【事務】が位置づいています。
改めてこの画像2を見て、みなさんは「どこがA社が取り組むべき領域だ」と考えますか? やはり、価格の低減でしょうか。では、この分析結果から導き出される“答え”について具体的にご説明しましょう。ズバリ、以下のようなことが浮かび上がってくるのです。
●【価格】についての満足度は低いが、総合満足にはあまり影響していない
●【営業担当者】の評価は、総合満足に影響しているにもかかわらず満足度が高くはない
●【開発力】【物流】などの項目は評価が高く、かつ総合満足にも影響している
このように、「総合満足への影響度合い」について着目すると、満足度の高低だけで判断することは不適切で、総合満足に影響する要素から改善・向上に向けて取り組んでいくべきではないか、ということがわかっていただけるかと思います。
3.「CS向上のための重点特定」分析を行う際のポイント
ここで、「CS向上のための重点特定」分析を行う際のポイントを、いくつか紹介したいと思います。
4象限マトリクスで区切ると理解しやすい
「CS向上のための重点特定」分析の方法について画像2で解説しましたが、なかなか頭に入ってこない場合は、その内容を下記の画像3のように、4象限マトリクスで区切ってみるとわかりやすいはずです。各ゾーンについての解釈は、以下の通りです。
●維持ゾーン(左上/グレー色の部分)
総合満足への影響度合いは低く、該当する項目の満足度はすでに高いので現状維持で良い。
●注意ゾーン(左下/クリーム色の部分)
該当する項目の評価は低いが、総合満足にはあまり影響しないので取り組む課題としての優先順位は低い。ただし、何かお客さまの期待が大きく変わり、影響度合いが高まる場合は注意が必要。
●強みゾーン(右上/オレンジ色の部分)
該当する項目の満足度は高く、総合満足への影響度合いも強い。自社の総合満足を高めることに貢献しているまさに「強み」であり、お客さまにもアピールしていきたい要素である。
●最重点ゾーン(右下/ピンク色の部分)
総合満足への影響が強いにもかかわらず、該当する項目の満足度は低く、この領域の満足度を高めることが自社の総合満足を高めることに直結する。このゾーンに位置づけられる項目が、「最も重点的に取り組むべき要素であり課題」である。
このような見方を当てはめると、A社が満足度向上のために最重点課題として取り組むべき要素は【営業担当者】に関することであり、早々に調査結果の詳細分析や社内での検討、課題・対策への取り組みを進めるべきだ、ということが明確に理解できると思います。
ここで「うーん、でも価格が総合満足に影響していないなどありえるの?」と思われた方も多いと思います。確かに、日頃からお客さまには「価格が高い」と言われることも多いわけで、この要素の影響度合いが低いという話はなかなか受け入れがたいかもしれません。しかし、実態としては、筆者が支援した数十社以上の調査のほとんどにおいても、【価格】については総合満足への影響度合いは高くないという結果が出ているのです。
すでに利用しているお客さまだからということも少なからずあると思われますが、「価格は各社おおむね横並びであまり差はなく、価格以外のなんらかの差が満足を左右している」という傾向なのだと理解しています。とくにBtoB事業では、ここで例に挙げた部品メーカーやシステムソリューションなど、さまざまな事業で同様の傾向が出ています。こういった日頃の実感と異なる傾向が確認できることも含めて、「CS向上のための重点特定」はぜひオススメしたい分析です。
「影響度合い」の簡便な算出方法と注意点
「CS向上のための重点特定」分析をする際に1つハードルがあるとすれば、「影響度合い」を算出することではないでしょうか。調査回答者数(サンプル数)にもよりますが、最も簡便な方法は「相関分析」です。相関分析にもさまざまな統計手法がありますが、今回はエクセルでできる方法をご紹介しましょう。
画像4は、部品メーカーA社の事例について、エクセルで行う簡便な相関分析の例です。エクセルシートに、それぞれ総合満足(B列)と【価格】(D列)、【営業担当者】(E列)の分析例を作ってみました。関数は「CORREL関数」を使います。相関分析はいわゆる「単相関」という手法で、統計学的にはいろいろな注釈をつけなければいけませんが、簡便であり、かつ本格的な統計手法から得られる示唆とあまり遜色がない方法なので、入門編としてオススメです。
やり方としては、まず(1)回答データ(ローデータ)を用意し、そこから(2)総合満足への回答(B列)と分析したい項目の回答(【価格(D列)】【営業担当者(E列)】)を並べ、(3)任意のセル(12行)にCORREL関数で総合満足と対象設問の回答範囲を指定するだけです。
結果として表示される、R値と呼ばれる値(各12行)が高ければ相関性が強く、低ければ弱いということになります。言い換えれば、R値が高い項目ほど総合満足との相関性が高いということがわかります。R値の高低の目安としては、0.5もしくは0.6以上だと高いと捉えてみてください。R値の小数点2位あたりの差にはあまりこだわらず、大局的に考えるようにしましょう。このR値と、【価格】や【営業担当者】などの評価項目の満足度データから画像3のような散布図を作るのです。
回答データについては、「無回答」がブランク(空白)になっているかどうかに注意しましょう。まれに無回答については、「0(ゼロ)」に置き換えて入力しているケースがありますが、ブランクにしておかないと数値として見なされ、R値をゆがめてしまいます。それらの点さえ注意しておけば、極めて簡単に「CS向上のための重点特定」分析にトライできます。
重点を見つけ出すためには、大前提として「設問体系」の工夫が必要
これは「CS向上のための重点特定」分析を行う際に限った話ではありませんが、何を重点とすべきか?を見いだそうとする場合、CS調査の設計、とくに「設問体系」については工夫が必要です。たとえば、設問体系が画像5のケースAのように「総合満足」がない状態だと、何を基準に評価すべきかが定まりません。したがって、画像5のケースBのように、基準となる設問として「総合満足」をしっかりと位置づける(設問として配置する)ことが大切です。
4.「6+1の視点」を用いて多方向から課題を見出そう
今回は、「CS向上のための重点特定」をご紹介しましたが、もちろんこの分析手法以外にもさまざまな観点から調査結果を分析し、課題を見いだすことが重要であることは間違いありません。画像6の「6+1の視点」を用いて、バランスの良い検討にトライしていきましょう。
次回、第9回目は、「顧客満足度調査結果の不満への即応」について解説します。
【次の記事】
>顧客満足度調査で可視化された不満は「すぐの対応」が効果的【CS推進 一年生 #9】
日本能率協会コンサルティングについて
日本能率協会コンサルティングは、1942年に設立された社団法人 日本能率協会の中核として70年以上、企業が抱えるさまざまな課題解決の実行支援を行っている。1991年には日本で初めて「CS経営」を提唱、数百社以上のCS向上支援を行っている。現場主義のコンサルティングスタイルであり、一過性の流行に流されない真の顧客起点での課題立案・対策推進を支援している。
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