特集

顧客満足度調査で可視化された不満は「すぐの対応」が効果的

連載「CS推進 一年生」 第9回「顧客満足度調査結果の不満への即応」

CS(顧客満足)推進のプロセス・考え方をイチから解説する連載コラム「CS推進 一年生」。40年にわたり日本産業の成長を支援する総合コンサルティングファーム・日本能率協会コンサルティングに在籍するコンサルタントが、全15回にわたって顧客満足向上に向けた基礎を紹介します。“CS初心者=一年生”はもちろん、「改めてベースから振り返ろう」という方にも適していますので、ぜひご活用ください!
>連載「CS推進 一年生」記事まとめ

第9回目のテーマ
顧客満足度調査結果の不満への即応
講師
日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

 今や多くの企業が顧客満足度(CS)調査を実施しています。そして、CS調査を実施すれば、残念ながら「不満」という評価やコメントが出ることがあります。みなさんの会社では、この不満評価やコメントに対して、どのように対応されているでしょうか。多くの企業では、集計・分析が終わるのを待ち、報告書などを見てからとるべきアクションを考えていらっしゃると思いますが、場合によってそれでは遅すぎることもあります。なぜでしょうか。連載第9回目は、「顧客満足度調査結果の不満への即応」をテーマにポイントを解説します。

1.CS調査によって、不満を増長させないように注意する

不満を増長させないようにする人

 CS調査は、BtoBやBtoC、あるいはメーカーやサービス業といった違いによって、実施頻度(年1回、月1回など)や手法(製品にアンケートハガキを同梱する、テーブルにアンケート用紙やQRコードを置いておくなど)は異なるかもしれません。ですが、いずれにしてもその実施フローの中で、不満の評価・コメントへの対応がどのように設計されているかが重要なのです。

 よくある失敗事例を見てみましょう。

あるホテルのケース
 このホテルでは、「支配人行きアンケート」と称して客室に調査票を置き、満足度調査を実施していました。回収は、清掃スタッフおよびフロントで日々行われています。そして、回収されたアンケートは1ヶ月に一度、会議のタイミングに合わせて集計・回覧されていました。

 ある時、1週間ほど前に宿泊されたお客さまから電話があり、「アンケート用紙に(私が記入した)質問に回答するように書いたのに、いつになったら回答するつもりなんだ!」とお叱りを受けてしまいました。慌ててアンケートを見てみると、食事に対するクレームと質問が書かれており、回答を求めている内容でした。

 本来であれば、すぐに回答すべきであり、もしもアンケート用紙をフロントで渡していただくような導線を作っていれば、そこでお客さまと会話をすることにより、その不満はチェックアウトの時点で解決できていたかもしれません。「対応の遅さ」がさらなる不満を呼んでしまったのです。

ある部品メーカーのケース
 この部品メーカーでは、年に1回CS調査を実施していました。集計・分析は外部の調査会社に委託し、報告会の場で関係者が課題検討会を行っていました。検討された課題は、次年度の計画に反映するという、しっかりとした活用のサイクルができていました。

 しかし、ある年のCS調査の実施期間中に営業が顧客を訪問すると、「2週間くらい前にアンケートに回答しましたよ。ちょっと品質対応の不満を書いたけど、あの件どうかな?」と、先方の部長から聞かれました。調査結果を共有されていなかった営業は、「すみません、至急社内で確認します」と言ったものの、「内容知らないんじゃない?それじゃ、アンケートをやっても意味がないよね」と言われてしまいました。

 結果から課題を設定するといった、CS調査の活用はしっかりできていたものの、リアルタイムで調査結果の社内共有ができていなかったために、顧客に不信感を抱かせてしまったケースです。

 これらはいずれも不満に関する回答を素早く共有し、対応しなかったことが原因で、不満や不信感を増長させてしまったケースです。

2.CS調査の実施フローに「不満への即応」のアクションを入れる

アクションをかける

 こういった失敗をおかさないためには、CS調査の実施フローの中に「不満への即応」のアクションを入れることが重要です。

 もちろん、本格的な課題立案や対策実施については、調査結果の集計・分析、課題検討会を経なければ取りかかることは困難です。しかし、アンケートに回答してくれたお客さまは、「こういう回答をしたら何かアクションがあるだろうな」と期待します。

 したがって、「不満回答をすぐに抽出」し、「なんらかの回答・対応を返す」とともに、活用の第一歩を踏み出すことがとても大切なのです。「不満即応」の実施フローについては、以下の図を参考にしてみてください。即応のスピード感としては、BtoBであれば、アンケートに答えてもらってから大体1〜2週間以内、前述のホテルのようなサービス業であれば、状況によってはその場で返答・対応することも含めて、目安にしてみてください。

 なお、アンケートで寄せられた不満だけでなく、各部門が察知・発見した「急ぎ対応すべき事案」についても、同様のプロセスで対応していく必要があります。また、企業の規模が大きくなると、内容の確認・判断・方針決定などに時間がかかることがあります。「即応」が重要なので、バイパスとなるような対応ルートやフローを用意しておくことも効果的です。

3.即応だが組織的な対応が求められる

電話でクイックにレスポンスをする人

 不満に即応することは重要ですが、注意しておきたいことは、「クイックレスポンスを重視するあまり、対応を担当者個々の判断に委ねてしまわないこと」です。「不満に対応する=苦情・クレーム対応」と考えられるので、急いでいたとしても会社の方針や判断基準をもとに組織的に対応することが求められます。組織的に即応していくために、以下の点を整理しておきましょう。

●不満のエビデンス
 不良品や問題となった応対の映像など、誰が(どの部署が)、どのように分析するのか

●不満のレベル判断
 どの程度の不満かということを、誰が(どの部署が)、どのように判断するのか

●初期対応
 誰が(どの部署が)、どのように対応するのか

●原因分析と報告
 問題の原因の追究とその報告は、誰が(どの部署が)行うのか

●再発防止
 再発防止について、誰が(どの部署が)担当するのか

 より理解を深めていただくために、組織的に不満への即応に取り組んだ事例をご紹介します。

ある鉄道会社のケース
 この鉄道会社では、列車遅延や駅係員の応対など、日々さまざまな不満が寄せられており、そういった評価はCS調査の結果にも表れていました。そこで、調査の不満への即応の方法を見直すことにしました。

<見直したポイント>
●年1回のCS調査の実施期間中、CS推進部が毎日、回収内容をチェックする。
●内容によって、エビデンスがあるかどうか、CS推進部が当該部署に確認する。
●収集した情報の範囲でCS推進部が不満レベルを判定する。
●不満レベルにより、対応者(部署)を指定する。
●対応結果をCS推進部宛てに報告するようにし、対応履歴と再発防止への取り組みをする。

 さて、こうした見直しを行うにあたり、最も社内をざわつかせたのが、「駅に関わる不満については、駅長がお客さまと面談し対応する」という方針でした。もちろん、お客さまが望まなければ文書等での回答にしますが、毎日のように駅をご利用されるお客さまも多く、直接お話をするという企画を考えました。駅長からは、「不満と言っているお客さまに会うのは…」という反応が強く見られました。しかし、実際に取り組んでみたところ、以下のような効果がありました。

●駅長が対応してくれるということで、不満と評価したお客さまがファンになってくれた。
●駅長自身が、お客さまと直接話ができて得るものが多かった。

 このように、不満に即応するということは、それ以上不満を増長させないと同時に、不満顧客の評価を改善することにもつながる場合があります。

4.CS調査を顧客とのコミュニケーションツールと位置付ける

 上記の鉄道会社のケースもそうですが、CS調査は「企業と顧客との双方向のコミュニケーションツール」と位置付けることをオススメします。もちろん、今回の不満への即応も顧客とのコミュニケーションの一環ですし、「これまでの改善結果をお知らせして期待値を高める」「結果をもとに改善することを宣言する」「調査後に追加でインタビューを行い、ご意見・ご要望を深く聞き取る」など、双方向の活用をすると、CS調査がより有意義なものになり、CSの向上効果が高まります。

 コミュニケーションツールとして活用していくためには、社員1人ひとりが顧客に対して関心を持つことが必要です。「今回のCS調査の評価はどうかな?」と全員が気にしていれば、さまざまな感度の良いレスポンスが行われるはずです。こういった組織風土を作っていくことは同時に、CS向上を目指すうえで重要なことでもあります。

 次回、第10回目は、CS調査の結果から「大変満足」と回答いただいたお客さまに着目した、大変満足研究のポイントついて解説します。

【次の記事】
>CS活動がポジティブなものに!「大変満足」研究の進め方【CS推進 一年生 #10】

日本能率協会コンサルティングについて
 日本能率協会コンサルティングは、1942年に設立された社団法人 日本能率協会の中核として70年以上、企業が抱えるさまざまな課題解決の実行支援を行っている。1991年には日本で初めて「CS経営」を提唱、数百社以上のCS向上支援を行っている。現場主義のコンサルティングスタイルであり、一過性の流行に流されない真の顧客起点での課題立案・対策推進を支援している。
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