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鉄は熱いうちに打つ!顧客満足度調査の結果に基づく「課題・対策検討会」のススメ【CS推進 一年生 #6】

連載「CS推進 一年生」 第6回「CS調査結果を有効活用する『課題・対策検討会』のポイント」

CS(顧客満足)推進のプロセス・考え方をイチから解説する連載コラム「CS推進 一年生」。40年にわたり日本産業の成長を支援する総合コンサルティングファーム・日本能率協会コンサルティングに在籍するコンサルタントが、全15回にわたって顧客満足向上に向けた基礎を紹介します。“CS初心者=一年生”はもちろん、「改めてベースから振り返ろう」という方にも適していますので、ぜひご活用ください!
>連載「CS推進 一年生」記事まとめ

第6回目のテーマ
CS調査結果を有効活用する「課題・対策検討会」のポイント
講師
日本能率協会コンサルティング(外部リンク)

 連載6回目は、顧客満足度調査(CS調査)を「活かす」ための第一歩として、「課題・対策検討会」について取り上げます。前回の連載5回目「企画段階で成否が決まる!有効活用するための「顧客満足度調査」進め方のコツ」でもご紹介しましたが、CS調査は活用しなければ全く意味がありません。健康診断を受けても生活を改めなければ意味がない、ということと同じなのです。

1.何をしたら「CS調査結果の活用ができた」と言えるのか?

考える人のイラスト

 CS調査の活用とは、具体的には以下の5つの変革につなげることです。

(1)プロダクトやサービス

(2)プロセス

(3)(その企業で働く)1人ひとりのマインド

(4)顧客とのコミュニケーション

(5)顧客満足を維持・向上させる仕組み

 これらは、1つひとつを取り上げても一朝一夕に変革ができるわけではありませんし、それぞれに関連があるものですので、「誰か」が、もしくは「一部署」が取り組めば変革が実現できるわけでもありません。その意味では、CS調査の活用は組織的に継続的に取り組む必要があります。こういった変革の入口として多くの企業で実施されているCS調査ですが、コンサルタントとして多くの企業のCS向上の現場を見てきて感じるのは次のようなパターンです。

●CS調査自体は継続的に実施され、結果についてもトップ層をはじめ従業員たちが関心を持っている。

●CS調査をきっかけになんらかの課題を立案し、対策を実行しているケースも多い。

●しかしながら、その改善・改革は意欲ある部署や担当者に委ねられており、組織的な営みになりきれていないケースが多い。

●結果として取り上げられる課題・対策は、「各部署単位」の「できること」に収まってしまい、CS調査を通じてわかった顧客の期待には応え切れていないことが多い。

 つまり、ひと言で言うなら「せっかく調査をしたのにもったいない」ということなのです。もっと課題にするべきことがあるのではないか、もっと抜本的な対策が打てるのではないか、というケースが多いわけです。

 こういった状況を打破するために、委員会やテーマ別分科会といった「組織体」「会議体」を整えて、組織的に“課題”に取り組んでいくことは非常に重要です。しかし、多くのCS推進部門にとって、全社的な体制を整えたり、検討の仕組みを導入したりするのは、なかなか骨が折れるものです。こうした本格的な体制・仕組みの整備から取り組むのではなく、何か即効性があり、あまり社内的な調整を要さず実行できるCS活用策はないものでしょうか。

2.結果が出たらすぐに開催!「課題・対策検討会」のススメ

みんなで議論しているイラスト

 そこでオススメしたいのが、CS調査の結果が出てから“すぐ”に開催する「課題・対策検討会」の実施です。

 多くの企業では、CS調査結果のレポートやデータを社内のデータベースに格納し、各部門に「調査結果が出ました」と発信しているのではないでしょうか。上手に取り組んでいる企業では「報告会」を開いて、結果概要を共有するといったことも併せて実施しているでしょう。

 問題はその後です。

「前向きに」取り組もうとする部署や担当者は、「よし、それなら、ここを改善しよう・この部分を伸ばしていこう」と考えて行動するでしょう。しかし、そうした「前向き」な部署や担当者であっても 、「この問題はすぐに対策が打てないな」「この指摘は他部門との調整がいるな」というものについては、ついつい後回しにしてしまう傾向があるのです。ましてや、CS調査について「自分ごと」になっていない担当者などであれば、調査結果を理解はするものの、すぐに改善や改革といった動きにまでつながらないことも多いものです 。

 筆者は、経営コンサルタントとしてCS調査とその活用まで支援していますが、ときに「CS調査」だけを引き受けることがあります。そういった場合には、「報告」までは専門家・第三者としてしっかり行いますが、その後については口出しできないものです。

 そういった場合でも、ありがたいことに翌年にもCS調査を実施するということになり、また呼んでいただけるわけですが、その際に「昨年度のCS調査からの気付き、指摘に対して、どう取り組みましたか?」と問いかけてガッカリすることが多々ありました。具体的には、CS推進部門から「いや、各部が真摯に受け止めて対応策を考えているはずですが、明確にこれといった成果は出ていないですね…」というような返答があるケースが多いのです。

 こういったCS調査の結果が活かされにくい状況を打破するために、筆者(日本能率協会コンサルティング)はCS調査「だけ」を引き受ける場合でも、必ず「最低1回は、課題・対策検討会を実施しましょう」と提案しています。

 しかし、そういった提案をしてもなお、ご予算の関係からか「検討会ナシで見積りを…」と言われることがあり、結局また活用がおろそかに…という悪循環に陥ることがありました。そこで今度は、「検討会をやらなくても、コンサルフィー (コンサル費用)は同じです」と提案してみることにしたところ、多くの企業で「では、せっかくだからやりましょう」と言っていただけるケースが多くなりました。

 少々、私の苦労話っぽくなりましたが、お伝えしたいのは「それほど課題・対策検討会は大事であり、効果がある」ということ。長年この仕事に従事する者としては、ぜひ検討会を開催してほしいと思うわけです。調査後、できるだけ速やかに検討会を実施することができれば、明らかに課題・対策の実行度とその課題・対策の質が高くなります。では、具体的にどのような検討会を企画・実施すれば良いのでしょう。

3.課題・対策検討会を企画・実施する際の流れとポイント

Goodしている人のイラスト

「検討会を開催する!」というと身構えてしまうかもしれませんが、要領をつかめば取り組みやすくなります 。課題・対策検討会を実施する際に大切なポイント、オススメする開催パターンは次の通りです。

(1)調査結果の報告・共有後、できるだけ早く実施する。

(2)各部門の実務層・責任者層に参加してもらう。

(3)各部門固有の課題・対策だけでなく、部門間連携や全社連携の課題・対策を検討する。

(4)初回は短時間のほうが良い。ただし、課題と主たる担当部門・責任者まで決める。

(5)トップへの報告の場を計画的に組み込む。

課題・対策検討会のおすすめパターン

 とくに重要な点は、「(1)調査結果の報告・共有後、できるだけ早く実施すること」です 。ただし、結果を見て・聞いてすぐに検討するのではなく、「宿題」として事前に「問題視」したい点を抜き出してもらう時間をとることが大切です。たとえば、報告会の実施から2週間ほど後に検討会を開くよう計画し、開催までの2週間で「宿題」に取り組んでいただく、などが適切だと考えます。

 報告と同じ日に検討会を実施するケースもありますが、その場合は検討会と言いながら「感想」を述べ合うだけに終わってしまう傾向があります。検討会の前に調査結果をしっかり読み込み、自部門・自身として「ここが問題だ」「ここは伸ばすべき強みだ」という点を明確にしてきていただき、その“気づき”を簡単なメモ書きにしてそれぞれ検討会に持参してもらう。そのひと工夫をするだけで、検討会の充実度は格段に高まります。

 なお、宿題のポイントとしては、各部門の課題よりも「他部門と連携する課題」や「他部門に提案したい課題」についても積極的に挙げてきてもらうことです。「うちの部門でやれることをやる」という姿勢は良いのですが、あくまでもCS調査ですから「お客さま視点」が重要です。お客さまは「その部門でできること」に関心はありません。お客さまの期待を満たすためには、部門を超えて取り組む必要があるのです。従って「自部門の」よりも「他部門との連携」が重要なのです。

「宿題」については、下図のようなフォーマットで取り組んできていただくようにしましょう。

CS調査をもとに「課題・対策検討会」を行う前には、各自事前に問題点を挙げてきてもらうことが重要。“宿題”のフォーマット例

 そして、「(5)トップへの報告の場を計画的に組み込むこと」も極めて重要です。トップ層は調査結果の全体を細かく理解する時間や、余裕がないことも多いものです。具体的な検討は各部門メンバーが行い、「要するに我々は何を課題として対策に取り組むのか」という点をトップに報告するほうが、トップからの理解・支援が得られやすくなります。

 また、「報告したからには実施しなければ!」というけん制効果もあるため、トップへの報告は短時間でも必須であると言えます。その意味では、検討会後にトップへの報告をするだけではなく、「次回は3ヶ月後に進捗を報告します」という仕立てにしておくことで、さらに実行度が高まりますので、ぜひ組み込んでみましょう。

4.検討会当日のプログラムとタイムスケジュール

時間のイラスト

 続いて、検討会当日の具体的な中身(議題)やスケジュール感について解説します。2〜2.5時間程度の検討会であれば、おおよそ下図のようなプログラムが良いでしょう。

課題・対策検討会のプログラム例(2〜2.5時間)

時間

内容

検討単位

5分

趣旨の確認

→ゴールについて明示する

全体

30分

(1)「宿題」の共有と重点化

→各グループにて各自が「検討すべき」と考える調査結果を発表
→「解決すべき問題」「伸ばすべき強み」の重点化

部門別のグループにて検討を進める

<例>
●事業部門別
●営業/開発/生産などの機能別
●場合によっては上記に加え、「経営トップ」のグループを作っても良い

50分

(2)課題の洗い出し

→自部門で取り組むべき課題
→他部門との連携を要する課題
→他部門・全社に提案したい課題

30分

(3)「自部門で取り組むべき課題」についての対策方向と体制の想定

20分

(4)各グループの検討結果の共有

→自部門課題の簡単な紹介
→他部門との連携・提案課題の紹介

全体

15分

(5)課題と取り組み体制+次回予定の合意

 上記は一例ですが、検討会当日の大切なポイントとしては、はじめに「ゴール」について明確に共有してから検討会をスタートすることです。端的に言うと、検討会では「(1)個々の課題についてどの部門・誰が責任を持って進めるかまでを決める」「(2)次回はいつ実施するかを決める」ということです。

 課題や対策の中身を具体的かつ詳細に検討するとなると、2.5時間どころか1日がかりでも難しいでしょう。検討会の狙いはあくまでも“鉄は熱いうちに打つ”こと。検討会を通じて主要な課題が漏れなく挙げられ、「誰」が責任を負うのか。また、「次」を決めることで必ず実行するという意図を明確にすることが大事なのです。

5.大きな負荷をかけず、まずは取り組みを前進させることが重要

 以上のように、今回は課題・対策検討会の重要性とポイントを解説しました。検討会はちょっとした手間をかけることで、CS調査の活用に大きな弾みをつける効果があります。調査結果を社内のメンバーに公表・共有するだけでなく、検討会を加えることで、CS推進部門としての手応えも大きく変わるはずです。

 繰り返しますが、課題・対策検討の結果は必ずトップへの報告を行い、できれば進捗報告についてもトップに約束するようにしましょう。そうすることで、組織的な取り組みを着実に前に進めていただきたいと考えます。

 次回、第7回目は、さらに「顧客の声の収集・活用時のポイント」について解説していきます。

【次の記事】
>これで失敗しない!「顧客の声」を活用し、成果につなげる方法【CS推進 一年生 #7】

日本能率協会コンサルティングについて
 日本能率協会コンサルティングは、1942年に設立された社団法人 日本能率協会の中核として70年以上、企業が抱えるさまざまな課題解決の実行支援を行っている。1991年には日本で初めて「CS経営」を提唱、数百社以上のCS向上支援を行っている。現場主義のコンサルティングスタイルであり、一過性の流行に流されない真の顧客起点での課題立案・対策推進を支援している。
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