コラム

コロナ禍にも奏功?人事の「360度評価」導入プロセスを解説【武田哲男のCSお悩み相談室 #6】

連載「武田哲男のCSお悩み相談室」第6回

 CS(顧客満足)やES(従業員満足)に関する疑問・お悩みを解決していく連載コラム「武田哲男のCSお悩み相談室」。著書100冊以上、40年以上にわたり現場重視のCS(顧客満足)経営コンサルティングを手がけてきた武田哲男氏が、みなさんから寄せられた質問に答えていきます。
>連載「武田哲男のCSお悩み相談室」記事まとめ(全6回)

第6回のお悩み
アプリ開発などを行うスタートアップの企業で、人事まわりの担当をしている者です。現在、360度の人事評価の導入を検討しています。従業員数は100名程度なので、比較的取り組みやすいのかな?と思っていますが、取り組む際のポイントを教えていただきたいです。

投稿者データ

年齢

30代

業種

アプリケーションサービス業

職場での立場

主任(リーダーなど)

主な仕事内容

人事担当

職場のおおよその人数

100人

 こんにちは、武田哲男です。今回は、360度の人事評価の導入に関するご相談です。言うまでもなく、ビジネスの目的は売上・利益確保に集約され、なかでも業績に貢献するのは「社外顧客(購入顧客、取引先、地域社会、株主、行政など)」の満足です。そして、その成果達成を担っているのは、まぎれもなく「社内顧客」である従業員です。つまり、業績は従業員がもたらす顧客満足(Customer Satisfaction/以下、CS)次第ということになり、人事評価は従業員満足(Employee Satisfaction/以下、ES)に関連する非常に重要な取り組みです。今回は、360度評価が日本でも注目されるようになった背景とともに、実施する際のプロセスについてご紹介したいと思います。

360度評価が注目された背景と、従来型評価の問題点

360度の人事評価のイメージイラスト

 そもそも、360度の人事評価制度は、アメリカ由来のもの。アメリカでは、車、電気・電子機器、化学製品、飲食物、ファッション衣料等の製造・販売、建築・住宅分野、医薬・医療分野、銀行など、多岐にわたる業種・分野で導入の経過をたどってきました。日本で注目されはじめたのは、1990年頃から。私が初めて360度人事評価制度に取り組んだのは、世界各国に国ごとの本社がある半導体関連機器製造K社・日本本社のCS顧問に就任し、アメリカ・シリコンバレー総本社に訪問した1986〜1987年頃でした。その後、外資系企業が多かったのですが、数々の日本企業の360度人事評価のお手伝いもしてきました。

 でもなぜ、日本でも360度の人事評価を取り入れる動きができていったのでしょうか。背景の1つにあったのが、バブル経済崩壊を機に導入された「売上至上主義」「成果主義」の存在です。これらにより、従前のチーム活動による相互協力で成果をあげてきた体制が崩れはじめたのです。

 こういった、成果主義による特定個人偏重の発生こそが、人事制度の見直しや変更要請が増加した理由であり、その後の少子高齢化、人手不足、市場規模縮小などの進行により、日本でも360度の人事評価を導入する企業が増えていったのです。

テレワークでオンライン会議をする人

 昨今は、働き方改革や新型コロナウイルス感染拡大に伴う新しい生活様式の浸透などにより、さまざまな変化が急速に進んでいます。そのなかでもとくに、突如実施を余儀なくされた企業も多いリモートワークは、1人ひとりがそれぞれに付随する課題に取り組むことを前提として、モチベーションアップ、チャレンジ意欲、開発力などの適性・資質向上が大切な課題となっています。そんな時にも、企業が1人ひとりの長所・短所を分析・把握し、さらに本人にも伝えることで高みを目指していく取り組みである360度の人事評価は功を奏するのです。

人事の360度評価、導入プロセス

導入ステップのイメージイラスト

 初めてこの制度を導入する場合、次のようなステップが基本となります。

(1)導入目的を明確にする

●上辺だけではない、「顧客本意」「顧客第一」「顧客満足」の真の企業理念を再確認する。
●導入目的はどこにあるのか、組織の誰もが賛同できるくらいまで明確に。
●現実と導入後のあるべき姿・理想の姿とを詳細に比較する。

(2)従前の取り組みに関して長所・短所を明確化する

●製品(商品)・サービス・システム・人的要素の品質管理に関する長所・短所分析。
●組織・評価者の長所・短所分析。

(3)評価対象の範囲を決める

●企業によって、評価対象は異なりますが、私の顧問先では社長・全役員も360度評価の対象(360度評価制度によって評価される)となっています。

(4)評価の取り組み方法・セキュリティ対策を行う

●頻度や評価の実施時期、次の実施時期について。
●評価項目を設定する。
●評価者の回答方法を決める(紙ベースかオンラインか・配布・集計方法など)。
●保管等に関するセキュリティ対策の徹底。

(5)誰が評価するのかを決める

●360度評価の取り組みスタイルは、大きく「基本型」「応用型」に分けられます。
●「取引先」「他社(者)」評価には、外部取引先組織のスタッフや顧客による評価を入れるケースも。

人事の360度評価「基本型」

人事の360度評価「基本型」

人事の360度評価「応用型」

人事の360度評価「応用型」

(6)どこが、そして誰が評価結果を分析するのか決める

●従前からの部門・部署で行う、もしくは新たに部門・部署・チームを設定する。
●社外の専門企業に依頼するケースも。
●社内の担当部門・部署と社外の専門企業とで、チーム編成を行う場合も。

(7)分析し、結果を有効活用する

●本人に伝達し、短所・長所の今後の在り方について面談等を行う。また、一定の期間が経った後に、長所がさらに伸びているか、短所がカバーできているかまでの評価を行う。

(8)360度評価制度を継続化するための体制づくりを行う

●社内に専門部署を設定する、もしくは社外の専門家に依頼する。
●社内外でチーム編成を行うケースも。

(9)分析結果の評価と昇給・昇進、ならびに教育・訓練・日常の相談業務

●(8)で整えた組織・体制で進める。
●ホラクラシー(上司・部下なし組織)の想定と対応を行う。
●ニューノーマルの想定と対応(昨今では、COVID-19・テレワーク等の働き方の変化など)を行う。

(10)企業の業績と人事評価との関係を確認する

全社を挙げて取り組んだ、人事の360度評価例

業績向上のイメージイラスト

ここからは、360度評価の導入により、組織の活性化に成功した企業の好例をご紹介したいと思います。

 ご紹介するのは、創業約90年、従業員数約800名の食品加工機器製造・販売のK社の例です。BtoBで、顧客は食品加工工場、大型食品スーパーや食品販売チェーン店などです。従業員は、機器設計開発、機器製造、営業・販売、物流、総務・経理に配属されますが、伝統的に成果主義が基盤のため、業績貢献度の高い機器設計開発と営業・販売部門が昇給・昇格につながる比率が高くなっていました。従って、それ以外の部門に配属されたときは、誰もが自身に対する会社の評価を低く感じ、心理的に意欲低下がうかがえたのがK社の風土でした。

 そうしたなか、3代目社長C氏就任のタイミングで、外部のCS専門家を加え、顧客満足を中核とした会社の見直しをプロジェクト化して行いました。もちろん、「誰もが意欲の湧く人事制度」の実現も議題の1つに挙がり、全従業員に対して実施した従業員満足度調査を経たのちに、360度の人事評価制度を導入。必ず社長も役員も全員参加型の360度評価にするという“自社なりの改善”を加えた方式でスタートさせ、同社は時を経ずして創造型・チャレンジ型・CS向上型の業績向上企業に変身したのです。

人事の360度評価制度の導入は、業績向上に直結する重要な企業の取り組みの1つ

 高度情報化社会、テクノロジー進化、市場成熟・飽和・縮小、業種衰退、コロナ禍といった社会・経済環境の変化は世界規模で企業に変革を迫り、ニューノーマル時代の企業と顧客の新たな関係構築が必然の環境にあります。つまり、「新・創・改・展(新装開店の語呂合わせですが、新たに、創造、改革、新展開することを示しています)」が必然の状況にあり、時代の先を行く経営が大切になっているのです。

 “顧客も企業も共に満足する”360度の人事評価制度の導入は、業績向上に直結する重要な企業の取り組みの1つとなるはず。投稿者の方は、時代の先端を行く業務に携わっていらっしゃり、変化のスピードも一弾と速いかと思いますが、360度評価の導入でぜひとも組織の活性化を実現させていただきたいと思います。

今回の武田式アドバイスのおさらい

●事業の成果達成を担っているのは、「社内顧客」である従業員。

●人事評価は、従業員満足に関連する非常に重要な取り組みの1つ。

●まずは、360評価の導入目的を明確にすること。

●360度評価は、大きく「基本型」「応用型」に分けられる。

●360度評価制度を継続させるための体制づくりも大切。

●企業が1人ひとりの長所・短所を分析・把握し、さらに本人にも伝えることで高みを目指していくことができる。

6回にわたりお届けしたきた本連載は、今回で最終回となります。お悩みをお寄せいただいたみなさま、ありがとうございました!

>連載「武田哲男のCSお悩み相談室」記事まとめ(全6回)

プロフィール

  • 武田哲男氏

武田哲男(たけだ・てつお)
武田マネジメントシステムス 代表取締役

 服部時計店(現・SEIKOホールディングス)入社後、銀座・和光で小売部門を経験。以来、サービス・CS分野のパイオニアとして、企業規模・業種・業態を問わず、多くの企業活動の実務に参加している。日本初のCS・CSM(CS Management)実務書『CS推進ここがポイント』(日本能率協会)をはじめ、『なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか? あなたがサービス・製品を選ぶ本当の理由』、『顧客「不満足」度のつかみ方・活かし方』(ともにPHP研究所)など、著書は100冊以上。CS・顧客サービス研究所、武田マネジメントシステムス代表取締役のほか、豊富なキャリアから一般社団法人エチケット・サービス向上協会 代表理事や、クレーム関係のセミナー・講師なども務める。

>武田マネジメントシステムス 公式ホームページ(外部リンク)