3.コロナ後に「幸せ格差」が生まれる?
――そうした幸せの基本条件そのものは、時代の状況や文化の差異などには大きく左右されないものだとしても、今回の新型コロナのパンデミックによって、私たちの「幸せ」の価値観にまで影響が及ぶことはないのでしょうか。
前野 身体的な安全、社会環境の安定というのは、人々にとって非・地位財型の幸福のベースになるものです。それが想定外の事態で揺らいでしまうと、不安になる方も多い。ですが現在、真っ只中にあるwithコロナ時代というのは、ワクチン開発や普及などを経て、数年かけてフェードアウトするでしょう。段々とアフターコロナの社会に移行する。その過程で、今回のことで戸惑い、立ちすくんでしまっていただけの方と、そうではなかった方との差が、明確になってしまうのかもしれない、とやや危惧しています。
――新型コロナによって、幸福な人と不幸な人の違いが拡大していくということでしょうか。
前野 幸せな人というのは、先ほども説明したように、楽観的で視野が広いわけです。視野が狭い人は、不幸せで悲観的になりやすい。今回、戸惑って右往左往し、政府や世の中の出来事にイライラして怒ってばかりという方々は、要するに全体の状況が見えていないのだと思うんです。幸福な人は、このコロナ禍すらも機会と捉えることができる。いろんな可能性を試すチャレンジ精神もあるし、会社や仕事以外でのつながりもある、だからなんとかなるとも思えています。
もちろん、医療関係者をはじめ、飲食・接客・エンターテインメントなど、多大な影響が出て、大変な思いをされている方が大勢いるのは承知しています。ですが、いわゆる普通の会社員として働けている人の間では、2極化が進むでしょう。世界中とリモートでつながって補完し、助け合うことのメリットを体験した人は、恐らくもう元の生活には戻らないでしょうし、適応力のある人は、どんどん新しいイノベーションを起こしていく。一方で、もともと企業の中で社会に閉塞感が……などと語っていたような人は、より閉塞感を自分自身で増幅させていく。少し大げさかもしれませんが、そういう新たな格差のようなものが生まれてしまうように思えて、ちょっと心配なんですよ。
――なるほど、そういう危惧ですか。
前野 東日本大震災の後にも、価値観が変わったと広く言われていましたが、多くの人は、それこそ揺り戻しのように元通りになりましたよね。でも、今回はそうもいかないのではないか。新しい生き方を模索する必要があるとき、寄与できる1つの考え方が「幸福学」の役割でもあります。(後編へ続く)
【インタビュー後編】
>withコロナ時代の顧客接点づくり、カギは「新視点」と「アップデート」