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withコロナ時代の顧客接点づくり、カギは「新視点」と「アップデート」/幸福学研究・前野隆司教授インタビュー【後編】

3.人々の生活はさらに多様化の時代へ

リモートでインタビューに応じてくれた、前野隆司教授(C)oricon ME inc.

リモートでインタビューに応じてくれた、前野隆司教授(C)oricon ME inc.

――では、今回のコロナの影響で、留意しなければならない顧客の変化について、何かお気づきになっていることはありますか。
前野 たとえば、外出自粛でテレビに触れる時間が増えたことで、井戸端会議的なワイドショーを観るより、YouTubeやネット配信などの新しいコンテンツでみんながつながって楽しむほうが良いね、という人が増えた印象があります。これは今回、コロナで加速した現象ですが、やはり人々の生活はさらに多様化していくのではないかと思います。

 高品質路線はともかく、中途半端な質のものは、たとえ大きな資本によるトップダウン型のものであっても、淘汰されていく流れができつつあるのではないでしょうか。ですから、アフターコロナに向けて、単に従来の路線に戻るのではなく、新たな視点を導入してアップデートしておく努力は大事になってくると思います。

4.不安定だからこそ、イノベーションが起きやすい

――アフターコロナで大切なのは、どのような心構えなのでしょうか。

前野 まずは、withコロナの感覚を引きずらないこと。国家への権力集中や、自国第一主義のような、世界秩序の不安定化といえる流れも一気に加速してしまっているので、それに慣れてしまわないことが大切です。本来は、情報化の進んだ現代だからこそ、弱い紐帯であってもみんなが連帯・協調して、全体の最適を目指すことも可能なはずなんです。ワクチン作りにしても、医療体制の整備にしても、できることはたくさんある。自分さえよければ…という人たちに不幸せな傾向があるように、国家においても孤立化は対立を生み、対立は紛争につながりかねません。ですが、一方では世の中が不安定化しているからこそ、各業界でイノベーションがどんどん生まれている状況でもあります。

――企業と顧客の接点づくりという面で、新しい動きはありそうでしょうか。
前野 たとえば、3密を避けるために営業できないから休みにする、という会社と、オンラインで営業していますという会社では、すでにノウハウの蓄積という点でどんどん差が開いています(もちろん、さまざまな理由で営業できないというケースもありますが)。やってみると、すごく便利なこともたくさんあると気づけるんですね。今まで接点がなかったような人にも、従来の経路に加えて、新たなオンラインでのつながり方が提案できるようになったり。課題となるのは、高齢者などにどうアプローチするか、といった点になってくるでしょう。そういう意味では、デジタルデバイド(情報格差)で困っている人へのケアなどのセーフティネット(安心を提供するための仕組み)を整えたり、やるべきことはたくさんありそうです。いずれにしても、企業であれコミュニティであれ、それぞれができることを見つけ、基本的には力を合わせ協調しながら、やってみるしかありません。

――視野を広く持ち、楽観的に。
前野 うまくやれている人は、放っておいたっていいんですよ。取り残されてしまったと感じて、立ちすくんでいる人たちをどうケアするか。今回の騒動で、儀式的な要らない会議が一気に削減できたという企業も多くあるようです。ならば、その時間でポジティブなアイデアを練るためのブレインストーミング(複数人で意見を出し合い、アイデアを生み出すことを目的とした会議)をより活性化することもできる。混乱と不安定さにばかりフォーカスするのではなく、イノベーションを生み出せる大きなチャンスでもある、と視点を切り替えていくことがますます肝要になってくるのだと思います。

【インタビュー前編】
>コロナ後に「幸せ格差」が生まれる? 回避するために意識すべきポイント