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顧客満足度とは?仕組みや概要、向上につながる考え方を解説

満足している人のイラスト

※2021-8-24更新

 昨今、商品やサービスにおいて、頻繁に聞かれるようになった「顧客満足度」や「CS」という言葉。実際に「どういう意味なのか」、「どういう調査が行われているか」など、いまいちわかっていないという人は少なくないはず。ここでは、「顧客満足(CS)」の概要や向上につながる考え方、企業の事例などについてご紹介します。

監修
鈴木秀男氏(慶應義塾大学 理工学部 管理工学科 教授)

  • 鈴木秀男氏 (慶應義塾大学 理工学部教授)

すずき・ひでお/研究分野は、応用統計解析、品質管理、マーケティング。同氏が率いる鈴木研究室では、統計的手法や機械学習法の開発、サービス品質評価や消費者行動分析などの応用研究、さらにTQM、CRM、スポーツ経営に関する調査研究など、データ解析をベースに幅広く研究している。著書に、『顧客満足度向上のための手法−サービス品質の獲得―』(日科技連出版社)、『サービス品質の構造を探る―プロ野球の事例から学ぶ―』(日本規格協会)など。2021年現在、オリコン顧客満足度(R)調査のテクニカルアドバイザーも務めている。

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1.「顧客満足」って何?

「顧客満足」とは、各企業が提供するサービスや商品によって、顧客に満足してもらうことを目的とした概念のこと。英語では「Customer Satisfaction(カスタマーサティスファクション)」といい、一般的には「CS」と呼ばれています。

「顧客がどれだけ満足したかどうか」は、本来漠然としており、個人の主観によるところですが、その満足の度合いをアンケートなどの調査によって数値化し、客観的に評価できる指標として可視化されたものを「顧客満足度」といいます。

 消費社会が高度化した現代においては、サービスや商品の品質、コストだけで差別化を図ることは難しくなってきています。 また、マスメディアを利用した広告宣伝だけで、購買につなげることも容易ではありません。そういった状況下で、消費者がどのサービスや商品を求めるのかを決める際に、新たな評価軸として注目されてきたのが顧客満足度と言えます。

顧客満足度の重要性を説く人

2.顧客満足はなぜ必要なの? その重要性と向上によるメリット

 “マネジメントの父”と称された経済学者のピーター・ファーディナンド・ドラッカーは、著書『現代の経営』(1954年)のなかで、「企業の目的は利益を追求することではなく、顧客を創造することである」と定義付け、企業には基本的な機能として「マーケティング」と「イノベーション」があると位置づけました。

「マーケティング」とは顧客の欲求を理解することであり、「イノベーション」とは今までになかった顧客の欲求を創出し、社会や市場を変容させるほどのインパクトをもたらすことを意味します。そして、顧客の欲求を満足させる商品やサービスを提供することが、“顧客創造”につながると説いています。つまり、企業経営において重要なのは、顧客創造であり、顧客満足という「顧客志向」といえます。

顧客創造の解説図(顧客の欲求を理解・創出することが顧客創造となる)

 では、顧客志向を徹底し、顧客満足を追求することは、企業活動においてどんなメリットをもたらすのでしょうか。

企業価値の向上につながる

 顧客志向というと、「お客様第一」「お客様は神様」といった思考になりがちですが、そればかりではありません。仮に利益追求型の企業活動があったとすれば、無理なコストダウンや販売行為などによって顧客の不満足をまねき、企業価値の損失につながると言えるでしょう。

 昨今では「企業の社会的責任=Corporate Social Responsibility」(以下、CSR)が求められており、環境対策や法令遵守(コンプライアンス)、社会貢献など、CSRに関わる活動が顧客満足に影響することも見逃せない視点となっています。そして、それらが企業価値を高め、結果的に企業利益を生むといっても過言ではありません。

顧客ロイヤルティが高まる

顧客満足の向上が顧客ロイヤルティを高め、企業の収益性を高めることにつながることを説明した解説図

 顧客が商品やサービスを提供する特定の企業に対して、愛着や忠誠心を抱くことを「顧客ロイヤルティ」と呼びます。顧客が商品やサービスに満足すれば、リピーターや常連客となる確率は高くなり、おのずと顧客と企業との結びつきも強固になっていき、顧客ロイヤルティは高まっていきます。

 また、ほかの人に薦めたり、長く愛用したりすることで、結果的に企業の収益性にも大きく寄与します。つまり、顧客満足の向上が、顧客ロイヤルティを高め、企業の収益性を高めることにつながると言えます。

3.顧客の満足/不満足が生まれる仕組み

顧客の満足/不満足が生まれる仕組み

 顧客満足をもう少し深く見ていくと、商品やサービスに対して顧客が満足したかどうかは、「期待水準」と「知覚水準」がどれほど一致したかどうかによって決まると考えられています。

「期待水準」は顧客が事前にその商品やサービスから得られると期待していた水準のことを言い、「知覚水準」は実際に商品やサービスを体験して得られた水準のことを指します。

 つまり、「知覚水準」が「期待水準」を上回れば満足、逆ならば不満足となります。また、「知覚水準」には商品やサービスを主観的に評価することで表れる「知覚品質」とコストパフォーマンスを表す「知覚価値」があり、顧客がこれらを総合的に判断した結果、満足/不満足につながるのです。

 仮に顧客側が満足を得られると、友人や家族などにその商品やサービスを薦めたり、ブログやSNSなどで紹介したりするなど、いわゆる「口コミ」が発生します。この口コミによって、新たな顧客を生むことは多々あります。

 一方で、不満足を感じた場合には、口コミでネガティブな感想が大きく広まることも考えられます。場合によっては企業に対して「苦情」という形で伝わることもあります。顧客を失う恐れもありますが、ネガティブな意見を改善することができれば、「顧客満足」に変えることも可能となります。

4.顧客満足を向上させるには? 考え方と具体的な取り組み

はしごを登る人

 顧客満足という言葉があたり前になりつつある昨今、顧客の「期待水準」はますます上昇し、以前ならば満足してもらえた商品やサービスでも、「こんなものだろう」と満足感が薄れることも少なくありません。

 また、「期待水準」が高いからこそ、それに対する「知覚水準」が低かったとき、顧客不満足から失望感へとつながってしまうこともあります。企業におけるCS活動は、明快な答えが見えづらくなっているのも現状です。

 そうしたなかで、顧客満足を得るためのヒントがあるとすれば、客観的な顧客満足度データに基づき、商品やサービスが顧客からどう評価されているのかを知ることは重要です。

 そこから、ターゲットを絞った商品企画や開発、サービスのカスタマイズなど既存の「期待水準」に当てはまらない新たな価値を創りあげることが、顧客満足、その先の「顧客感動」につながると考えられています。

 また、以下のような取り組みを実践することも、顧客満足の向上において有効だと言えます。

●顧客満足度調査(CS調査)で顧客の声を知る
●サービスコンセプトを明確にする
●表層機能で差別化を図る
●オペレーションを最適化する
●従業員満足度を向上させる

顧客満足度調査(CS調査)で顧客の声を知る

 顧客満足の向上を実現するためには、まず顧客の声を知る必要があります。アンケートを中心に以下のような調査を実施し、顧客ニーズを可視化しましょう。

(1)自社の商品・サービスについて自社内で調査
(2)調査会社に依頼して調査
(3)第三者機関による公平・公正な調査

 なお、これらの調査には、それぞれにメリット・デメリットがあります。自社の目的に応じて、複数の調査を組み合わせるなどして、多角的に分析をすると良いでしょう。

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>顧客満足度調査(CS調査)の効果的な手法|指標やアンケート調査・分析のコツ

サービスコンセプトを明確にする

 顧客の期待値をマネジメントするためには、自社のサービスが「どのターゲット」に「どのような価値」を「どのように届ける」といった、サービスコンセプトを明確にしなければなりません。

 よりイメージしやすいように、アパレル業界で高い顧客満足度を実現している、西松屋(外部リンク)というベビー用品・子供服を販売する小売店を例に考えてみましょう。

 郊外に立地する店内はベビーカーでもすれ違うことができる広さをとり、並べられた多様なデザインの服は、畳まれた状態ではなく、すぐ手に取って確認しやすいハンガー掛けになっています。また、スタッフが過剰に接客をしないスタイルをとっているため、ベビーカーで訪れる顧客も手を煩わせることがなく、じっくり店内を見ることができます。さらに、西松屋のスタッフも最小限の顧客対応で済ませることができる仕組みになっています。

 これにより、「サービス品質を高めながらコストを抑制する」という高収益化と高い顧客満足度を実現しているのです。逆にサービスコンセプトに適さない顧客を無理に得ようとすると、結果として満足度は低くなります。

表層機能で差別化を図る

 サービスコンセプトを明確にする際のヒントとなる考え方が、「本質機能」と「表層機能」です。「本質機能」とはそのサービスを享受することで当たり前に得られると認識している価値を指し、「表層機能」とは当たり前ではないが、あると嬉しい付加価値になるもの指します。

 本屋を例にとってみましょう。本屋の本質機能はシンプルです。最新刊や話題の本が置いてあり、レジで購入することができますが、その表層機能はさまざまです。

 たとえば、「蔦屋書店(外部リンク)」には、多くの場合スターバックス コーヒーが併設されており、買いたい本を試し読みできます。顧客はスターバックスのサードプレイスとしての体験価値を得ながら過ごすことができるのです。

 また、六本木にある「文喫(外部リンク)」という書店は、書店でありながら入場料金を徴収しています。これにより、顧客はコーヒーなどのドリンクをおかわり自由で飲むことができ、落ち着いた空間で好きな本を選んで読むこともできます。

 高い顧客満足度を実現するためには、そのサービスから得られる最低水準の便益を満たしつつ、表層機能において、いかに突出するかが重要になります。

オペレーションを最適化する

 サービスコンセプトのなかでも、企業側の努力によって改善できる余地が大きいポイントが「どのように届けるか」という業務オペレーションです。

 質の高いサービスを提供しようとすると、過度に分業化して人件費が増えてしまうということになりがちです。たとえば、帝国ホテル(外部リンク)のようなラグジュアリーホテルであれば、ドアマン、受付、案内など、それぞれのポジションで人員を配置しており、顧客はそれに見合う対価を支払っていますが、ビジネスホテルで同じことをすれば経営が成り立ちません。また、顧客もビジネスホテルにはそうした対応を求めてはいないはずです。提供するサービスに適したオペレーションの「最適化」が必要だといえます。

 また、オリコン顧客満足度調査のハウスウエディングランキングで、高い評価を得ているブラス(外部リンク)が行っている施策の1つに、「オープンキッチンスタイル」というものがあります。披露宴会場から調理パフォーマンスが見えるため、演出の一部になるほかに、厨房からシェフがお客さまの様子を見ることができ、最適なタイミングで調理をすることができます。

 身近なところでは、ラーメン店や牛丼チェーン店の券売機の導入、回転寿司店で皿ごとに異なる価格を自動で計算してくれるシステムへの投資も、「顧客が求めていない価値」を簡略化する試みです。従業員の負荷も軽減され、後述する従業員満足度の向上にもつながります。

従業員満足度を向上させる

一致団結している人たち

 顧客満足を実現している企業や組織は、「従業員満足=Employee Satisfaction」(ES)を実現しているところも多いようです。従業員が適材適所で働き、労働に見合った報酬を得ることで、商品やサービスの品質が保たれます。さらに、それによって顧客の満足につながり、顧客ロイヤルティが高まることで収益性も上がり、従業員もさらに満足する。こういった好循環が続くことは、企業としての理想型と言えるでしょう。

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>従業員満足度(ES)とは? 向上によるメリットや具体的な取り組み、企業の成功事例を紹介

5. 顧客満足の向上を実現している企業の事例

 oricon MEでは、第三者の立場で顧客満足度調査を実施していますが、同調査で高い評価を得ている企業の事例を紹介します。

「人間力」を武器に高い満足度を実現する【住友林業ホームサービス】

 マンション売買等の不動産仲介業を手掛ける、住友林業ホームサービスは、「仲介品質を上げる」という視点で顧客と向き合い、社員1人ひとりの「人間力」を高めることで、大手企業をしのぐ満足度の高さを実現しています。

 自社商品の無い不動産仲介業においては、顧客への対応力が経営資源であると言っても過言ではありません。そこで同社では、“人財(人材)”を基盤とした体制づくりを徹底。

 トップ営業マンの成功事例や新入社員の悩みごとなどを掲載した冊子等を作成し、全社員に共有することで、スキルアップや社員間のコミュニケーションを促進しています。

 また、「お客さまのためになっているか」ということを考えられるように、気軽に上司などに質問や相談ができる職場環境づくりに注力。顧客満足度と密接な関わりを持つ、従業員満足度の向上にも目を向け、業界内で初となるフレックス制度の採用、育児休暇や評価制度の変更などを実施しました。

 営業成績を最優先に考えるのではなく、社員1人ひとりの人間力を高め、お客さまにきめ細かなサービスを提供している点が、高い満足度につながっていると言えます。

>関連記事:カギは「人間力」に “売上高14位”の住友林業ホームサービス、顧客満足度No.1の舞台裏

独自のスタイルで“最高の結婚式”をプロデュースする【ブラス】

 続いて前項でも例に挙げた、ハウスウエディング事業を展開する株式会社ブラスの取り組みについて紹介します。

 同社は、代表取締役社長の河合達明氏が、ウエディング業界で司会を務めていた1990年代当時、時間や効率を重視した、画一的なスタイルの結婚式に疑問を感じたことから、ハウスウエディング事業をスタートしました。

 そのような経緯もあり、創業以来、「それぞれの新郎新婦にとって最高の結婚式を創る。」をポリシーに、顧客のニーズに向き合った独自のサービスを展開。

「完全貸切型のゲストハウス」や、ご案内から結婚式当日まで1人のプランナーが担当する「ウエディングプランナー一貫制」、披露宴会場から調理パフォーマンスが見える「オープンキッチンスタイル」など、こだわりのスタイルで顧客のニーズに向き合っています。

 さらに同社では、現場で直接サービスを提供するアルバイトスタッフも、外注ではなく直接雇用で契約。親しみを込めて“プリティージョブ=PJ”という愛称で呼び、ゼロから育てることで、ブラスでの仕事に情熱を持ってもらえるような仕組みを整えているのです。

 このような徹底した顧客視点と、社員やアルバイトスタッフによる、オンリーワンのチームづくりが、満足度の高いサービスにつながっていると言えます。

>関連記事:ブラス・河合達明社長が語る「最高の結婚式」の原点 司会者時代の“違和感”がNo.1サービスを生む契機に

6.オリコンの顧客満足度調査データはどういったもの?

 さまざまなサービスの満足を情報化することが目的のオリコン顧客満足度では、実際に各商品やサービスを利用したユーザーのアンケートから多項目にわたる満足度を調査し、収集したデータの分析および提供を独自に実施しています。調査結果は、「オリコン顧客満足度ランキング」として公表し、消費者に還元することで、社会全体の暮らしの満足度向上に貢献することを目指しています。

 また、長年にわたって音楽ランキングをリードしてきたアイデンティティを基に、第三者の中立的な立場で、精度の高い顧客満足度指標を作成しています。 さらに、全サービスの調査データは、さまざまな形でレポートとして提供可能です。各社の強み・弱みを顧客満足度の評価項目別に分析したうえで、オリジナルの分析レポートを作成。企業別に、評価項目の分析検証、比較検討した競合の俯瞰、重視項目の比較、情報源の分析、他社推奨分析、フリーコメントの総括を行い、競合比較をわかりやすくまとめます。

 調査データを活用することで、自社と競合を分析し、差別化・訴求ポイントを明らかにすることができます。

>オリコン顧客満足度が調査を行っている業界・ジャンルについて

>【活用事例】パナソニック ホームズや東京海上日動キャリアサービスなど、調査データの活用企業インタビュー